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第14話 騎士団長

 

 昨晩、暴れるベルを何とか自宅へと押し込むことに成功した。

 しばらくベルは中でも騒いでいたようだがある時を境に静かになった。たぶんベルのお母さんの仕業だろう。


 そして朝になり、出かける支度を済ませた私は響也が泊まっている宿屋を目指して出発した。

 私が宿屋の重たいドアを開けて中に入ると――


「あ、フィー! こっちこっち。ここ空いてるですよ!」


 なぜか食事中のベルが空いている席をパンパンと叩いて手招きをしていた。


「え、なんでベルがここにいるの?」


「私だけ仲間はずれにしないで欲しいのですよ。と言うことで私も騎士団長様のところへついて行くのです!」


 なにが『と言うこと』なのかはわからないがもう来てしまっていることだし、仕方ないと諦めて一緒に行くことにした。


「もぐもぐ、フィーは食べないの?」


「私はウチでちゃんと食べてきたから平気。しかしベルはよく食べるよね」


 ベルは私の倍の以上食べる。

 その割に太らない、が身長も伸びない。むしろ一部分にだけ栄養がいっている、ような気がする。

 ベルの栄養が偏っていると思われる部分を注視する。実に羨ましい。


「どうしたんですの、フィー?」


「これが格差、社会か……」


 ベルのと自分のを見比べてガックリと項垂れていると宿泊エリアの方からなんだか眠そうな響也がやって来た。


「うーす。フィリスにベル。早いな、もう約束していた時間なのか?」


「ううん、私達が早く来すぎただけだから平気よ。朝食食べちゃって」


「はあはあ、昨日の夕食に続いて朝食まで響也様と一緒。あぁぁぁ、し、あ、わ、せ」


「はいはい、わかったからベルも早く食べてよ」


 ベルが居てくれるといろいろと助かるけど、食事やなにかある度にこうなることを考えて少しだけ後悔した。


 ~~


「で、ここが騎士団とやらがいる駐屯地か。何となく騒がしくねぇか?」


 朝食を終えて、今日の目的である騎士団の駐屯地へとやって来た。

 響也が感じているように何だか陣地内が騒がしい。

 なにかあったのだろうか?


「あの、私はフィリス・リンブルと言います。騎士団長にお目にかかりたいのですが」


 一番近くに居て他の団員よりも暇そうにしていた団員に尋ねる。


「あぁ、聞いているよ。案内しよう。ついてきなさい」


 そういって奥にある一回り大きい天幕へと案内された。


「団長、フィリス・リンブルが到着しました」


 案内してくれた人が大きな声で天幕内へと声をかける。


「おお、フィリスか。入ってくるがよい」


 天幕の中から低く野太い声が聞こえた。


「失礼します。お久しぶりです、フレグスタ騎士団長」


 天幕の中は思っていたよりも広く会議机や黒板が見える。私が入ってきた入り口から一番遠くの席に騎士団長が座っており、手前に見たことのある赤髪の人物が後ろを向いて座っていた。


「うむ、久しいなフィリスよ。サイラスの時は力になれなくてすまなかった」


「いえ、騎士団長には父母の時にも色々ご尽力いただいたようで。その節はありがとうございました。それよりもこの度はこの村のために迅速にご対応いただきありがとうございました」


「ははは、フィリスよ、そう謙遜するな。我々は大したことはしておらんよ。せいぜい倒された魔物や倒し損ねた魔物の後始末をしたくらいだ。ハウザーの奴からも会って早々に『来るのが遅い』と皮肉を言われたよ」


 騎士団長は額に手を当てて苦笑いを浮かべる。


「ところで騎士団長、そちらの方は――って、え!?」


「よー、フィリス。なんだか大怪我をしていたって聞いたよ? 大丈夫だったかい?」


 座っていた赤髪の人物がくるりと振り返るとなんと死んだと思っていたアグネスだった!


「え? アグネス? 本物? ゾンビとかじゃなくて? 生きてるの?」


「人のことを勝手に殺すんじゃないよ! ほれ、このとーりちゃんと生きてるよ」


「アグネス、生きてたんだ! 良かったぁ。ほら、ベル! アグネスだよ! 生きてたんだよ!?」


 あの時、意気消沈していたベルのことだアグネスが生きていると分かってさぞかし喜んでいるだろうと思って振り返ると……


「え? あぁ、アグネスね。生きてるのは知ってたですよ。あれ? フィー、もしかして知らなかったですか?」


 ……なん、だと!?


 この間の夜、私が響也に連れてこられて目を覚まし時、ベル凄い悲しそうだったじゃない!?


 私が驚きつつも困惑していると、


「私も最初、アグネスが死んじゃったと思っていたのですが、騎士団の集中治療を受けていたから驚いたのです」


「二人ともあたいのことで心配させて悪かったね。油断してフレイムオーガの一撃をまともにもらっちまってね。虫の息で倒れていたんだよ。だけど何とか自分で【ファイアライフ】かけてね。生と死の狭間で彷徨っているところを騎士団の人に拾ってもらったって治療を受けてたわけさ」


「そっかぁ、生きていて良かったよ、アグネスぅ」


 私よりも頭一つ背が高いアグネスに抱きついてめそめそしているとアグネスは私の背中を優しくポンポンと叩いてくれた。


「心配かけたね、フィリス。で、そっちのあんちゃんが村を救ってくれたっていう英雄なのかい? ありがとうよ」


 アグネスが天幕内の入り口付近に立っていた響也に向かって声をかけた。


「はっ、よしてくれ。俺は自分がしたかったことをしただけだ。村が助かったのは結果でしかねえ。気にすんな」


「それでも、なのだよ、スズシゲ殿」


 振り返ると騎士団長が響也の前に進み出る。


「貴殿のおかげで我が領民の被害が軽微で済んだ。ヤークフ領円環騎士団 団長 ラルフ・フレグスタ、改めてスズシゲ殿に感謝を述べさせていただく」


 片膝をついた騎士流の礼を響也に対して示している騎士団長を見て、ベルとアグネスは信じられないと驚きの表情で固まっていた。


 フレグスタ騎士団長は貴族。

 それもこのヤークフ領を治める領主ロダン・ヤークフ・フレグスタ侯爵の弟、この領内のNo.2なのだ。

 一般的に貴族は気位が高い、平民なんかにはせいぜい口頭で形だけの感謝を述べる程度で済ませる。

 にも関わらず、大貴族といっても差し支えないほどの人物が得体の知れない人物に礼を示したのだ、驚かない方がおかしい。


 しかし私は騎士団長に会ったことも何回かあったし、性格を父さんから聞いて知っていたのでさほど驚きはしなかったけど。


「スズシゲ殿には領主に報告した後、改めて何かしらの礼をさせてもらうつもりなのでしばらく時間を貰いたい」


 立ち上がった騎士団長は改めて響也に向き直るとそう告げる。


「いらねえよ、って言っても持ってくんだろ? なら、勝手にしてくれ」


「ふっ、ならばそうさせてもらおう。さて次はフィリス、君だ」


 騎士団長が響也から私の方に向き直る。


「は、はいっ!」


 そう言えば、私も騎士団長に呼ばれていたんだっけ。アグネスの事ですっかり忘れてた。


「サイラス、君の父から顔を会わせる度に君の話を聞いていた。お陰で君の事は自分の息子と同じくらい詳しくなってしまってな。君の事を勝手ながら本当の娘のように思わせてもらっている。今回の一件も正直な話、君のことが心配だったので討伐を自ら買って出たのだ」


「騎士団長……」


 騎士団長が私の目の前まで歩み寄り、私の両肩に手を乗せる。


「これまでの辛い境遇の中、これまでよくがんばってきたな。きっとサイラスも君の事を誇りに思っている事だろう。……昨夜の事は村長であるハウザーから()()報告を受けている。彼とはサイラス同様、国立士官養成学校時代からの親友だ。君の事は私だけに留めて領主に報告しておくので安心しなさい」


 そう言うと騎士団長は一旦私から離れ、天幕の奥にある荷物箱の中から一振りの剣を取り出して来た。


「これはサイラスが副騎士団長時代に使っていた剣だ。本来であれば、騎士団に返納されるべき剣だがサイラスの願いもあって領主に許可を取り、私が保管していた」


 フレグスタ騎士団長が鞘から引き抜き、私にその刀身を見せる。


「この剣を父さんが……」


「騎士団長に許されている特具(エクストラ)と違って普通の鋼の剣だがね。サイラスに最後に会った時、『フィリスが前に進む決意をした時に渡して欲しい』と頼まれていた。ハウザーからの話を聞く限り、今の君にはその剣を受けとる資格がある、と私は思っている」


 再び鞘に納められた剣を私に向かって突き出される。

 私は恐る恐る両手で剣を受けとると


「謹んで頂戴致します、フレグスタ騎士団長。……ありがとう、ござ、います、……ぐずっ」


 両手で受け取った剣を胸に抱き締める。


 旅立つとは決めたものの内心不安で一杯だった。

 でも父さんが一緒に来てくれる。

 母さんの形見(母さん)と一緒に父さんも傍にいてくれる。


 そんな気がして、嬉しくて、心強くて、懐かしくて涙が自然に溢れて頬を伝った。


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