第42話 譲れない者同士の戦い
今回はせっちゃんなど計三人のアーティファクトが判明します。
書いていて新しいアーティファクトが出てくるととても楽しみです。
side千歳
病院でおじ様に再会したその直後、マスターが病院と交渉して入院中のおじ様をハワード邸に移すことにした。
出来ることなら最期の時間を思い出のあるハワード邸で過ごしたいと言うおじ様の希望もあっての事だ。
既にハワード邸のおじ様の部屋には医療機材や人工呼吸器などを用意してあるので、その日の内におじ様を病院からハワード邸に移した。
私と再会したことで元気が出たのかおじ様はいつもより調子が良いと言ってみんなで部屋に集まって話をしている。
私の日本での学園生活やれいちゃんのくノ一の話を楽しそうにおじ様は聞いていてくれる。
するとおじ様は棚にある小さな木箱をおば様に持ってきてもらい、そこから細長い赤色のパイプを取り出した。
それは今ではあまりほとんど見かけることのない日本の喫煙具……煙管だった。
どうしてアメリカ人のおじ様が日本の煙管を持っているのか疑問に思っているとおじ様が懐かしそうに眺めながら説明してくれた。
「これはわしを助けてくれた恩人の物だ。キセルと言って日本の煙草なのだが、わしは煙草を吸わないし、何より使い方が分からなくてな。手に持ったり、口に咥えるだけだがな」
おじ様は昔から体を大切にしており、体を悪くするタバコは吸ったことが無いし、お酒も極力控えて控えている。
そのお陰でかなりの高年齢でも将軍として現役バリバリで動くことができていた。
「おじ様、その煙管は誰から貰ったんですか?」
「顔は歳のせいかうっすらしか覚えていないが、名前だけはきちんと覚えておる……『オリネ』。彼女はそう名乗っていた」
「オリネ……?」
あれ?その名前、どこかで聞いたことのあるような……。
おじ様の持つ煙管をよく見ると頭部に小さな蓮の紋が刻まれていた。
「蓮の紋……オリネ……?」
もしかしておじ様を助けたオリネさんはまさか!
「おじ様、もしかしてそのオリネって人はーー」
ドォオオオオオン!!
突然外から爆発音が鳴り、私達は驚いて窓から外を見る。
「え!?な、何!?」
「侵入者か!?ブリュンヒルデ!!」
マスターの呼び声にブリュンヒルデが隣に現れる。
『フェイト……彼らが来たようです。私のルーンの魔法壁が破られました』
「まさかここまで来るとは……行動力があるね。ブリュンヒルデ、戦闘準備だ!」
ええっ!?
マ、マスターが戦闘!?
これは弟子として私も一緒に戦ってみたい!
「マスター!私も行きます!」
「いや、チトセはパパとママの側にいて。弟子の手を煩わせるわけにはいかない!」
マスターは部屋の壁を軽く叩くとそこには赤い丸の隠しボタンがあった。
そのボタンを思いっきり叩くと屋敷中にブザーが鳴り響いた。
ガシャン!ガシャン!!ガシャン!!!
大きな音と共に窓に侵入防止の鉄格子が設置された。
え!?ハワード邸ってこんな装置が組み込まれていたの!?
「て、鉄格子!?」
「こんな広いお屋敷に絡繰が!?」
『流石金持ち……やることが半端ない』
ハワード邸の秘密装置に驚いているとマスターはヘアゴムを取り出してポニーテールに纏めて部屋を出ると鍵を掛けた音が鳴った。
どうやらあのボタンでこの部屋の外から鍵が掛けられたようだ。
でも誰がこのハワード邸に侵入したんだろう……方法が分かれば良いんだけど。
『……千歳、遠くてはっきりと確認出来ないがいつも慣れ親しんだ力を感じる』
「えっ……?」
銀羅の言葉に私は呆然としてしまい、窓の鉄格子越しに外を見つめた。
☆
side天音
ハワード邸に向けて歩いていくと少しずつその大きさが目に映り、驚きを隠せないでいる。
「凄いな……幾らお金をかけたんだ?」
『これ、どこからどこまでお家なの?』
「日本じゃあまり考えられないごうていでござるな……」
「張り合うつもりは無いけど、蓮宮も結構広いしお金持ってるわよ?当主たちがあまり必要最低限以外のをあまり使ってないからだけど」
そんな話をしていくとハワード邸の周囲を巡回しながら警備していたアメリカ軍の兵士が俺たちを見つけた。
「何だ貴様達は!ここを何処だとーーごふっ!?」
「しばらく眠るでござる」
一瞬で間合いに入ったせっちゃんの拳が兵士の腹部にめり込み、そのまま崩れ落ちて倒れる。
速い……!
日々厳しい訓練を受けているアメリカ軍の兵士がこうもあっさり倒れるなんて……これがせっちゃんの、天影忍者としての真の実力か。
「何だ今の音は!?」
「なっ!?おい、どうした!何があった!?」
「誰だ!ここはお前達のような子供が来るところではない!すぐに立ち去れ!」
兵士達が次々と出て来てマシンガンなどを構えて俺たちを脅そうとし、咄嗟に蓮煌の鯉口を切ろうとするが……。
「お館様」
せっちゃんに呼ばれ、先ほど言われた言葉を思い出して蓮煌から手を離す。
「ふっ……そうだったな」
兵士は全てせっちゃんが倒す、そう約束したからには俺はそれを信じて待つだけだ。
すると銀牙が走り出してせっちゃんの隣に立ち、せっちゃんは両手で印を結んだ。
「銀牙、参るでござるよ!」
『久しぶりの契約だな……体は鈍ってないか?』
「そんなことはないでござるよ!契約執行!銀牙!!」
『ワォオオオオオーン!!!』
銀牙の遠吠えと共に体が光の粒子となり、せっちゃんの愛用している忍者刀……ではなく、体を覆う忍装束に入り込んだ。
夜の闇と同化するために染められた漆黒の忍装束が美しい銀色に輝き、その姿を現した。
「アーティファクト!!銀狼月華!!!」
初めてその目にするせっちゃんと銀牙のアーティファクトは今まで見たことない姿のものだった。
まるでせっちゃんが銀牙の毛皮をその身に纏っているかのような姿になっていた。
銀牙の毛は元々銀色に輝いて綺麗だったが、アーティファクトになって更にその美しさが増し、まるで夜の闇に輝く銀色の月のようだった。
そして、せっちゃんと銀牙のアーティファクト……銀狼月華は俺たちが契約しているものと全くの別の存在だった。
「神衣型のアーティファクト……!?」
アーティファクトには大きく分けて二つの型があると言われる。
一つは俺の蓮煌を使った鳳凰剣零式のような契約者の愛着のある道具を契約媒体にして発動し、契約聖獣の力を手にして振るう『神器型』。
世界中で行われているアーティファクトの契約の大半はこの神器型で、もう一つは今せっちゃんと銀牙が行った契約者の身につけている衣服を契約媒体にして発動し、聖獣の力をその身に纏う『神衣型』と言う。
しかし、神衣型は神器型に比べて扱いが難しいらしく、シンクロ率が低いと纏っているアーティファクトが身体に重くのしかかり、上手く動く事ができない。
それなので比較的安定に使う事ができる神器型の方が昨今のアーティファクトの契約の主流となっているので神衣型を使う人は珍しいと言われている。
「更に!忍法・影分身の術!」
忍者の代名詞とも言える実体のある自分の分身を生み出す影分身の術。
一度見せてもらった事があるがとても霊操術では再現できない程の完成度のある実体があり、同時に動いて行動を移す事ができる。
「ワァオ!?ニ、ニンジャ!?」
「あれは伝説のブンシンノジュツ!?」
「アンビリーバボ!本物のニンジャ!?」
そして、目の前の忍者の存在に兵士達は驚愕し、敵だということを忘れてる目を輝かしている。
アメリカ人は本当に忍者が好きなんだな……そう感じているとリーダー格のような人間が正気に戻って指示を出していた。
「貴様ら!何をしている!いいから早く撃て!」
兵士達は急いで聖獣アーティファクトの力を封じる弾丸を込めたマシンガンを撃ち始める。
「「「行くでござるよ!」」」
しかし、せっちゃんはそれを忍者刀で斬り落としながら華麗に避けていく。
なるほど、忍者刀はアーティファクトになってないから弾丸を斬り落とす事ができるのか。
仮に神器型で弾丸を防いでいたら中にいる聖獣にダメージが与えられてしまうが、それ以外のものだとただの弾丸に過ぎない。
といっても当たれば致命傷になる弾丸を避けて斬り落とすその実力も流石としか言いようが無い。
せっちゃんは忍者刀を右手の逆手で構え、銀狼月華を翻しながら体勢を低くして左手を地面に着き、狼のような格好をして足に力を込める。
さあ、その銀狼月華の真の力を見せてくれ!
「一気に終わらせるでござる……月光瞬華!」
銀狼月華の月の光が更に強くなった瞬間、せっちゃんの姿が消えてしまった。
そして……数秒にも満たない短い時間でその場にいた数十人の兵士達を一度に全て倒してしまった。
「さっきよりスピードが更に上がった……!?」
『刹那すご〜い!』
「神眼でも見えるかどうか不安なほどの超速だね……」
下手したら霊煌弐式の強化と二十七番の俊足を同時に使って俺自身のスピードを上げたとしても銀狼月華のスピードには遠く及ばないかもしれない。
元々せっちゃんは体格の問題から体が軽く、足の速さからスピードタイプの戦闘を行う。
それが体に纏わせる神衣型という事もあって小細工なしのスピードに特化した超速戦闘向けのアーティファクトと言うことか。
「さあ、このまま突入でござる!」
その後、あらかた兵士を片付けるとせっちゃんは先陣を切ってハワード邸に乗り込もうとすると、門に入る前に不思議な力によって弾かれてしまった。
「は、弾かれたでござる!」
「これは……結界か?せっちゃん下がれ!」
「はっ!」
せっちゃんはすぐに俺の元に戻ると隣にいた花音姉ちゃんが前に出る。
「なるほど、ブリュンヒルデが張ったルーンの結界ね。天音、刹那君、ここは私達に任せて。やるわよ、流星!」
『ヒヒーン!!』
花音姉ちゃんは巫女装束を少しはだけさせると何故か胸の谷間に刻んでいる顕現陣から世界最大の長弓……和弓を取り出す。
その和弓は蓮宮神器の一つで蓮の刻印が刻まれ、蓮宮神社の御神木から作られたとされる神弓の『蓮月』を取り出す。
「契約執行!流星!!」
流星は脚を大きく地面を踏み込み、蹄の音を響かせながら体が光の粒子となり、花音姉ちゃんの蓮月の中に入り込む。
「アーティファクト!『蒼穹麒麟弓』!!」
和弓が雅な装飾や麒麟の飾りが施された美しい黄金の弓となった。
弦を引くと金色の矢がつがえられ、そこに花音姉ちゃんの霊力が注ぎ込まれる。
「赤き炎よ、天地を駆けて爆ぜよ!蓮宮流神霊術、炎駒紅蓮衝!!」
指を弦から離し、蒼穹麒麟弓から放たれた矢は炎を纏いながら飛んだ。
放たれた炎の矢は瞬く間にその姿を変えた。
矢は麒麟の姿へと変化し、それは炎を纏う流星そのものだった。
麒麟は黄金以外にも四種類の色の個体が存在すると言われている。
姉ちゃんはその五色を元に考えた蒼穹麒麟弓の技を繰り出す事が出来る。
その一つが赤色の麒麟、炎駒の神霊術・炎駒紅蓮衝だ。
ドォオオオオオン!
炎の流星は地面を駆けながら結界に突撃し、大爆発を起こして結界を破壊した。
「ありがとう、花音姉ちゃん」
「ええ。それじゃあ堂々と正面から乗り込むわよ」
兵士達と結界を破り、豪勢な大きな門を開いて中に入っていく。
その間も続々と現れる兵士をせっちゃんが倒していき、歩みを止めることなく一直線に屋敷に向かうことが出来る。
目を閉じて意識を集中していくと近くに千歳の霊力や銀羅の妖力が微かに感じられる。
千歳と銀羅と麗奈がここにいるのは間違いないな。
もうすぐ千歳に会える!
そう思って歩む足を早めようとしたその時だった。
バァン!!
足元に銃弾が撃たれ、ビクッと止まってしまう。
そして、その銃弾を放った人……俺にこの戦いの最大の壁が正面玄関にいた。
「やはりあなたが出てきましたね……フェイトさん!!!」
正面玄関を開いて出てきたのは黒いライダースーツに身を包み、両手に千歳のと同じ形のリボルバーとオートマチックの二丁拳銃を持っていたフェイトさんだった。
「アマネ……まさかここまで来るとは思わなかったよ。チトセを連れ戻しに来たのね?」
「ええ。でもそれだけじゃ……」
「帰れとは言わないが、父の最後の願いを叶える為にチトセを日本に帰らせる訳にはいかない!!」
俺の言葉を聞くまでもなくフェイトさんは二丁拳銃を手の中で回し、そこにブリュンヒルデさんが背中に翼を生やし、聖なる光を纏いながら現れた。
「契約執行、ブリュンヒルデ!」
ブリュンヒルデが光の粒子となり、フェイトさんの二丁拳銃の中に入り込んだ。
そして、周囲に光の翼を散らせながら戦乙女と二丁拳銃と言う不思議な組み合わせのアーティファクトが現れる。
「アーティファクト!!『ブレイカー・オブ・フェイト』!!!」
黒色の二丁拳銃が純白に輝き、更に翼を模した飾りや刻印が施されていた。
自分の名前を付けたアーティファクト……『運命の破壊者』か。
なるほど、アメリカで千歳の運命を変えたフェイトさんの生き様を表しているな。
「チトセを取り戻したかったら私を倒せ!アマネよ!!」
フェイトさんはブレイカー・オブ・フェイトの銃口を俺に向けながら強い声で叫んだ。
どうやらフェイトさんは感情が高ぶって俺の言葉が届かないようだ。
大切なものを強く想っている人は他人の話を聞かないんだよね。
まあ俺も人のことを言えないか。
蓮煌を鞘から抜き、炎のように揺らめく真紅の刃を煌めかせながら天に掲げる。
「行くぞ、白蓮!契約執行!」
『うん!』
白蓮は翼を羽ばたかせて俺の周りを飛びながら光の粒子となり、蓮煌の中に入り込んで炎を吹き出しながら片刃の大剣となる。
「アーティファクト、鳳凰剣零式!!!」
いつものように鳳凰剣零式を肩に担ぎ、せっちゃんと花音姉ちゃんはその場から離れる。
そして……俺とフェイトさんの戦いが始まる!
「蓮宮十三代目当主!蓮宮天音、参る!!」
「It's Show Time!!!」
ブレイカー・オブ・フェイトから純白の弾丸が放たれ、俺は鳳凰剣零式を振るい炎の斬撃を放つ。
弾丸と斬撃が激突し、小さな爆発が起きる。
今……極東の守護者と運命の破壊者の戦いが始まる。
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次回は久々の本格的なバトルを書いていきます。
どんな展開になるかはお楽しみに。




