第12話 陰と陽が出会う時
今回は天音は謎の少女と出会います。
学園長の許可を貰って学園内にある閉鎖された喫茶店を復活させる事になり、ここ連日は放課後に喫茶店の掃除や食器や機材などの買い出しをしていた。
「ふにぃ〜、疲れたぁ〜」
『私もだ……』
特に働いてくれた千歳と銀羅ばぐったりとしており、シャワーを浴びたらすぐにベッドにダイブした。
「お疲れ様。俺はやる事があるから先に寝てて」
俺は度が入っていない赤縁の伊達眼鏡を装着して机に座る。
「天音は寝ないの?」
「俺は必要書類を作成して、今日買った物を帳簿に記録しないといけないからもう少し起きているよ」
筆箱からボールペンを取り出して、喫茶店のオープンに必要な書類に記入をしていく。
「天音……」
「ん?何?」
「どうして伊達眼鏡をしているの?授業の時とかつけているし……」
「別に深い意味はないけど、これを付けてると集中出来るんだよね。まあ、形から入るってやつかな?似合ってないか?」
「とんでもない。とっても似合っているし、すっごく知的なお姉さんみたいに見えるからね」
今は女体化しているからあまり喜べないが、今更気にする必要は無い。
「あはは、知的って言っても国語は得意だけど英語はからっきしダメだけどね」
俺は国語全般は得意中の得意で、テストはいつもほぼ満点だが英語だけはどうやっても出来ない。
中学の時はそのせいでいつもテストは赤点で補習を沢山受けさせられていた。
まあ、俺の家は神社で昔の文献を見るための古典や漢文、後は金銭勘定のための数学さえ出来ていれば問題ないので親からは特に怒られなかったが。
「英語なら私が教えてあげるよ。十年近くもアメリカに住んでいたからね」
「流石はアメリカの帰国子女……テスト前は是非ともよろしくお願いします」
「OK!My honey!Turn towards me!」
「……ちーちゃん、今なんて言いました?」
「マイハニー、私に任せてって言ったのよ」
アメリカ仕込みの弾むような発音や滑らかな口調の英語に本物の外国人が喋ったのかと思った。
本当にアメリカに住んでいたんだなと改めて実感する。
「ふぁあっ……そろそろ寝よう。天音、お休みなさい……」
「ああ、お休み。良い夢を」
千歳は銀羅を優しく抱き締めてそのまま眠りについた。
「よし、頑張りますか……」
『むぅ……何が書かれているのかわからないな……』
白蓮は雛の姿で俺が書いた帳簿などのノートに首を傾げて見ていた。
流石に鳳凰に帳簿の内容を理解するのは難しいか。
「仕方ないよ。これを理解するのには少し勉強しなくちゃいけないからね」
『そっか……なんか考えただけでも眠くなってきた』
「あはは、白蓮らしいね。さ、お前ももう寝なさい」
『はーい……』
白蓮を優しく両手で持ち上げて寝床であるバスケットのベッドに寝かせる。
『お休みなさい……』
「お休み、良い夢を」
白蓮の頭を指で軽く撫で、俺はもう一度机に向かってペンを手の中で回す。
「さてと、やりますか」
回転させたペンを握り、左手で計算機を操って計算しながら帳簿に書いていく。
三十分くらい時間をかけ、帳簿に計算した数字を書き終えるとペンを筆箱にしまうと、両手を上に上げて伸ばす。
「んーっ。終わった終わった……俺もそろそろ寝るか」
伊達眼鏡を外して机に置き、電気を消してみんなを起こさないように静かにベッドに横になる。
目を閉じて明日は何をしようかなと考えながらゆっくり眠りについた。
☆
ふと目を覚ますとそこは学生寮の部屋とは違う、見覚えのある場所だった。
「ここは……?」
大きな池に赤や白の二色が冴え渡る大量の蓮の花が咲き誇り、沢山の木々が生えてその奥には赤い社……。
「蓮宮神社……?」
そこは俺の生家であり、守護者である蓮宮の総本部である蓮宮神社だった。
ふと自分の体を見ると女体化からいつもの男の体に戻っていて少しホッとしながら周りを見渡す。
十五年も長い間ずっと住んでいた家でもあるが、俺はすぐにその違いに気付いた。
「蓮宮の守護結界陣がない……」
それは蓮宮神社の全体を覆う悪しき力を通らせない強力な守りの壁で、普通なら目に見えないが生まれつき霊力の高い蓮宮の人間にはその壁が見えている。
守護結界陣は霊煌陸式の結界から生まれた力で、六代目が数年の歳月をかけて作り出した陣だ。
この陣の中にいる蓮宮の人間が生まれてから少しずつ放出して入り霊力の欠片を吸収し、それを数百年も溜め込みながら陣を維持すると同時にその力を高めており、六代目渾身の霊操術と言われている。
その陣が無いとすると……。
「ああ、そうか……これは夢か」
ホームシックなのだろうか、故郷を焦がれて夢に出てきてしまったのか、俺もまだまだ子供だな……。
「ここは夢じゃないよ、天音」
突如、おっとりとした高い声が池の方から聞こえ、その声の主の正体を目にしようとしたその時、俺は目を見開いて固まった。
「何で……夜の俺が……?」
そこにいたのは夜になると変化する女体化した俺だった。
その身には蓮宮の紋章が刺繍された俺の母さんや妹が着ている巫女装束を身に纏っていた。
「あら?狐に化かされたみたいな顔をしてどうしたの?」
その少女は池の上を静かに歩いて俺に近づいてきた。
蓮の花や葉を踏まずに優雅に歩み、足の先が池の水に触れるたびに綺麗な波紋が池全体に広がっていく。
あの足の綺麗な運び……蓮宮の神楽舞を思い出す。
「ここは夢じゃないってどう言うことだ?」
「そうねぇ……確かにここは夢に近いところではあるけど、あなたが眠りについた時の世界じゃない。あなたの知らない内側の世界よ」
「意味が……分からない」
「別に理解しなくていいよ。ただ言える事はここは私が蓮宮神社に似せて作った世界で、この世界は思いの力で何でもできる」
少女は指をパチンと鳴らしてフィンガースナップをすると二人が座れるぐらいの長椅子が現れてそのままそこに座る。
「後は……お菓子とお茶♪」
もう一度鳴らすと和菓子と抹茶が二人分椅子の上に現れる。
「ほら、天音も座って召し上がれ」
「……食べる前に聞いておきたい事がある」
「ん?何かな?」
「あなたの名前は……?」
いつまでも『あなた』と呼ぶのに違和感を大きな感じる。
どんな名前なのか気になると……。
「名前?無いよ」
「はぁ?」
名前が無いってどういう事だ?
「だって、私はお父さんとお母さんから名付けてもらってないからね……何なら『お前』でも『女』でも良いよ?」
「いや、そういう訳には……」
「だったら、天音が付けてよ、私の名前?」
「俺が……?」
「うん!良い名前をつけてね!」
突然俺に名前を付けろと言われ、頭にたくさんの疑問符を浮かべる。
まさか鳳凰の白蓮の次に謎の少女に名前をつける事になるとは思わなかった。
どんな名前がいいだろうと茶碗を持ちながら考えると、少女はリラックスした表情で空を見上げていた。
「あなた……空が好きなのか?」
「うん……好きだよ。空は色々な顔を見せるからね」
「顔……?」
少女は湯呑み茶碗を椅子に置くと手を空に向けて伸ばして太陽にかざした。
「うん!空はいつも青いけど、夕暮れになれば青い空が茜色に染まり、そして夜になれば真っ暗になって数多の星が綺麗に輝く」
少女の思いに反応したのか青空が僅か数秒で茜色から黒色に染まり、無数の星が輝く星空となった。
「だけど、いつもそうじゃない。雲がかかれば色々な形をした不思議な模様になるし、雨になれば空が涙を流したように私達の心も沈んでいく……」
空に雲がかかり、やがて雨雲になって一瞬だけ雨が降った。
「でも、最後にはまた晴れた綺麗な青空が広がっていく。まるで、心みたいだよね……?」
雲が一気に晴れて再び綺麗な青空が広がる。
「空が心か……確かにそうかもな」
少女の言う通り、空の変化によって人の心情が変わる事はよくある。
空か……そうだ、単純だけどこの少女が気に入りそうな名前を思いついた。
「『空音』……」
呟くように言ったその名前に少女は首を傾げて俺の方を向いた。
「え?」
「空に音で空音……あなたの名前は空音でどうだ?」
空音……それはまるで俺自身の名前・天音と似ているものだった。
「空音か……あはは、蓮宮の人間の名前みたいだね。良いの?そんな名前をつけて」
「空音はまるで他人のように思えない。何でだろうな……」
少女……空音はまるで兄妹のように昔から一緒にように不思議な感じだった。
「もう呼び捨て……まあ、気に入ったから良いけど。でも、あまり女の子と仲良くすると千歳ちゃんに怒られちゃうよ?」
「えっ!?千歳の事も知ってるの!?」
「知ってるもなにも、あなたの嫁でしょ……」
「嫁って何!?まだ結婚すらしてないけど!?」
おいおい、そんな発言を万が一に千歳が聞いたら……やばい、色々と暴走する可能性がある。
「あんな可愛い子と許婚になって何を言ってるのよ……いらないなら私が奪うわよ?」
「奪……えっ!?千歳を奪うってどう言う事だ!!?」
「だって……千歳ちゃんは健気で可愛いし、顔や体型も申し分なしだし……私の好みだから♪」
ちょっと待てぇぃ!?
まさか……空音はそっち方面の人間か!?
どうやって千歳を奪うのか知らないが、このままだと千歳の貞操の危機!?
俺は咄嗟に椅子から立ち上がり、空音から離れる。
「空音……千歳に手を出すな!!」
目をカッと見開き、右手に力を込めると空間が一瞬揺らめいで鳳凰剣零式が現れる。
やはりな……空音はこの世界は思いの力でなんでも出来ると言った。
白蓮と蓮煌は無いけど、俺の記憶かは生み出された鳳凰剣零式をこうして呼び出す事ができた。
空想の鳳凰剣零式を右手で持ち、肩に担いで構える。
「ふふふ……やっぱりなんだかんだで大切なんじゃない。そうこなくっちゃね」
お茶を一気に飲み干して椅子から立ち上がった空音は左手に俺と同じように武器を現すが、その武器に目を疑った。
「刀型の鳳凰剣零式……!?」
それはクラス代表戦で雷花さんと戦った時に発現した刀型の鳳凰剣零式だった。
空音の持つ鳳凰剣零式を見て脳裏にあの時の言葉が思い浮かぶ。
『うふふ……天音。少しだけ、力を貸してあげるよ』
雷花さんと戦った時のあの声……あの声の主は空音だったのか!?
「さあ……行くわよ」
蓮煌の鞘を出して刀の鳳凰剣零式の鞘に収めて左腰に持っていく。
あれは抜刀術の構え!?
「蓮宮流抜刀術……」
空音は俺の得意な抜刀術と同じ構えや癖をしている。
あれは間違いなく静凛白蓮……まさか俺の技を使うなんて……ますます空音に対して謎が深まっていく。
「蓮宮流剣術……」
抜刀術の速さの剣ならば俺は豪剣の重さの剣で対抗するしかなく、鳳凰剣零式を肩に担いで両手で柄を強く握る。
互いに技を繰り出す準備を終えるとそのまま鋭い眼差しで相手を睨みつける。
空音は鞘に収められた鳳凰剣零式を一気に引き抜き、俺は前に飛びながら肩に担いだ鳳凰剣零式を思いっきり振り下ろした。
「静凛白蓮!!!」
「紅蓮裂刃!!!」
解き放たれた白刃と振り下ろされた紅刃が十字に交差した瞬間、俺と空音は大きな衝撃波に吹き飛ばされた。
目の前がいきなり真っ白になり、俺の意識が薄れて消えていった。
そして、空音は意識が消える直前に言葉を残していた。
「千歳を大切にしなさいよ。あなたの運命の人だからね……」
千歳が俺の運命の人……?
おいおい勘弁してくれよ、千歳が聞いたら発狂してしまうような事を言わないでくれ。
下手したら俺の貞操が危ないから……。
「それから……天音が危機に陥った時、私はいつでも『陰の力』を貸すから……」
「空音……?」
最後に俺の瞳に映った空音の顔はとても優しい笑顔を見せていた……。
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謎の少女……空音。
天音にとってどのような存在なのか、それはまだ先なので楽しみに待っていてください。




