第13話 千歳の愛情
今回は短めで千歳の重い愛が少し語られます(笑)
「……天音!起きて天音!!天音ったら!!!」
「……はっ!?」
再び眼を覚ますとそこは慣れてきた学生寮の自室の天井と心配そうに見つめる千歳だった。
「千歳……?どうしたんだ……?」
千歳は俺の肩を掴みながら起こしていたようだった。
「どうしたって……うなされていたから起こしたんだよ。何か嫌な夢でも見たの?」
『天音、大丈夫か?』
『退魔の人間が悪夢を見たんだ……何かあったのか?』
白蓮と銀羅も心配してくれたけど、あれは悪夢じゃなくて俺の内側の世界……なんだよな?
説明が難しいし、とりあえず悪夢ということにしよう。
「心配しなくていいよ。ちょっと、昔の仕事で怖い思いをしたからその事を思い出しただけだから」
「怖い思い……?蓮宮の仕事って危ないの?」
そう言えば蓮宮の仕事の事を話した事がなかったな。
どのみち千歳には話さなければならなかったし丁度良いか。
「まあね。蓮宮は守護者としての仕事は昔からあって、主に悪しき力を滅する事なんだ。例えば……悪霊の除霊に、邪悪な力に侵された聖獣を浄化したり……後は呪いを解いたりしたな」
「そ、そんな事をしていたの……?それじゃあ命の危機も……」
「そうだね……十歳の頃から師匠や璃音兄ちゃんと一緒に仕事をしていたけど、色々怪我を負ったよ。でも、霊煌参式で治してもらったから傷跡は無いよ」
「霊煌参式?」
「霊煌参式治癒。あらゆる傷を癒す力を持っているんだ」
霊煌紋に霊力を込め、右手に淡く白い光を放つ。
霊煌参式治癒は三代目当主が生み出した霊操術で、全ての霊操術の中で最も優しい力だと言われている。
切り傷から骨折、派手には切断された体も元に戻ると言われている。
流石に切断された体を治したことはないが……。
「最近はアーティファクトのお陰で蓮宮の力を使わなくても平気な人たちが増えてきたけど……特に力の強い場合は依頼がくるんだ」
「そう、だったんだ……」
「それと……これからたまに依頼が来て学園から出て行くときは度々あるかもしれないけど、気にしないで……」
「気にするよ!!!」
「おうっ!?」
突然千歳は大声で叫び出し、俺を押し倒した。
えっ?ちょっと待ってよちーちゃん!
まさか今ここでやる気なのか!?
ダメだってばそんな事は!まだ俺たちは高校生だし、清く正しいお付き合いをしなくちゃならないのに!
「天音が危険な目に合うのを気にしない訳、無いじゃない……」
「千歳……?」
「蓮宮の家に生まれて、蓮宮の人間として生きてきた天音にとってそれは当たり前なのかもしれない、避けられない運命なのかもしれない……」
千歳の言う通り俺は蓮宮の人間として生まれてきて、今まで修行してきた。
それは初代当主が掲げた絶対の信条……『助けを求める人と聖獣の為に戦う』。
もし俺じゃない誰かがこの運命を背負い、普通の家庭とは違うこの生活を嫌がる人はいるかもしれない。
全てを投げ出して戦う事を恐れるかもしれない。
でも俺は一度も蓮宮の家に生まれた事を呪ったことも怨んだこともない。
守護者として戦う先代と兄弟子の璃音兄ちゃんの背中を見て育って来た俺はいつか二人に認められて肩を並べて戦える存在になりたかった。
「だけど、そんなあなたを私は愛している。だから……せめて一緒に背負わせて」
「背負わせてって、何をだよ?」
千歳は左手で自分の胸に手を当てると、右手で俺の胸に手を置いた。
「天音が誰かの為に戦うなら私も戦う。天音が誰かを守るなら、私が天音を守るから!!」
真剣な眼差しで俺を見つめてそう宣言した。
守護者の俺を守るか……まさかそんな言葉をかけられるとは思いもよらなかった。
「俺を守る……でも、無茶はするなよ?お前が死んだら俺はどうなるかわからないからな」
幼い頃から思い続けた幼馴染みが死んだらどうなるか本当に分からない。
「それなら大丈夫!私は天音とおばあちゃんとおじいちゃんになるまで長生きをして、天音が静かに息を引き取ったらすぐに私も一緒に逝くから!!」
「おいおい、何十年後かもわからない恐ろしいことを言わないでよ……ってか、俺の魂は霊煌紋の中に入るからあの世には行けないぞ?」
霊煌紋の中には先代の師匠を除く十一人の歴代当主の魂が宿ると言われている。
当主の霊力を次の当主に継がせる為に自らの魂と霊力を霊煌紋の中に宿らせるのだ。
「だったら天音と一緒に霊煌紋の中に入る!!そしたら魂でもずっとずっと一緒だね!!!」
「え、ええっ……?」
まさか死んだ後の魂の状態でもずっと一緒と言われて流石に少し引いた。
そもそもそんなことが可能なのかどうか分からないが、でも千歳らしいと言えば千歳らしい答えで俺は苦笑いを浮かべながら起き上がり、千歳の頭に手を乗せて撫でる。
「死後もずっと一緒か……なら、勝手に死なないで、ずっと俺の側にいろよ」
「うん!!!あ、これってプロポーズ?」
「はぁ……もう好きに解釈しろ」
これ以上何を言っても千歳の爆弾発言が連続投下されるのが目に見えているので好きに解釈させる。
『あのー、お二人さん』
「「えっ?」」
俺と千歳は隣のベッドに座っている銀羅に話しかけられた。
『そろそろ準備しないと……』
『学校遅れるよ?』
銀羅と白蓮に言われ、二人が指差す時計に目線を向けるともう登校時間の十五分前だった。
「……うわぁあああああっ!?遅刻間近じゃないか!千歳、早く準備するぞ!」
「えー?いっそのこと、このまま二人でさぼっちゃう?」
「何言ってるんだ阿呆!!急いで支度しろ!!」
「ぶぅー。天音は真面目さんなんだからぁー」
「いいから早く行くぞ!明日の買い出しで好きなところを連れて行ってやるから!!」
喫茶店のオープンに必要な物を買いに学園から少し離れた都心の街に行く予定だ。
「本当に!?じゃあ、新しく出来た雑貨屋さんに行こう!」
「分かった分かった、一緒に行ってやるから早くしろ!」
「うん、分かった!!」
千歳は結構現金なところがあるのでたまにこうして買い物に連れて行ったりしてご機嫌を保っている。
買い物ばかりだとお金が足りなくなりそうだが、幸いにも蓮宮の仕事で俺の貯金は学生が持つのに不釣り合いなかなりの額を持っているので特に問題無い。
すぐに制服に着替え、朝食の代わりに作ってあるクッキーを鞄に入れて部屋を出る。
「朝食を食べる時間は無いから俺のクッキーでいいな?」
「いいよー!あ、途中でジュース買おう!」
「分かった、早めにな」
学生寮の入り口にある自動販売機でジュースを買い、鞄に入れると俺は千歳をお姫様抱っこで抱き上げた。
「えっ?天音?もしかして……霊操術でこのまま私を運ぶの?」
「あんまり使いたく無いけど、仕方ないからな……霊煌弐式強化!!」
霊煌弐式の強化で身体能力を飛躍的に向上させて、両足に力を込める。
「ちゃんと掴まってろよ?」
「うん!じゃあ、銀羅と白蓮ちゃん、行ってくるね!」
『行ってらっしゃ〜い』
『放課後に喫茶店でな〜』
白蓮と銀羅の見送りを背に、俺は千歳を抱き上げながら全速力で走り出して校舎に向かった。
途中で走りながら霊煌漆式の天翔で空を飛びながら校舎までの道をショートカットしながらなんとか無事に登校時間ギリギリに教室へ入ることができた。
朝食は学食で食べられなかったのでクッキーとジュースで腹を満たし、午前の授業はそれでなんとかなった。
それにしても……。
「朝、ずっと俺を心配してて学食に行かなかったのか?」
「だって、うなされている天音を放っておけないじゃない」
「そうか。ありがとう、悪かったな。夕飯……何か作ってやろうか?」
「本当に!?じゃあ……スパゲッティ・ウィズ・ミートボール!」
日本食じゃないアメリカ料理に一瞬キョトンとなったが、前にテレビでその料理を見たことがあるので記憶を頼りに思い出す。
「えっと……アメリカ料理のミートボール付きミートソーススパゲッティだよな?オッケー、任せてくれ」
千歳は十年もアメリカで育ったので特にアメリカ料理を好んでいる。
もちろん、日本の料理も好きだが、ハンバーガーとかピザなどカロリーの高い物を好んでいるのだが、スタイルが良くて太って無いのがあまりにも不思議だった。
ジャンクフードの大量のカロリーは体のどこに行っているのか……。
「うん、楽しみに待ってるよ!」
千歳は満面の笑みを浮かべ、俺は携帯端末のネットでスパゲッティ・ウィズ・ミートボールのレシピを調べる。
.
千歳の愛は結構重めで下手すればヤンデレ予備軍かもしれません(笑)
死後もずっと一緒はなかなか言える台詞じゃありませんからね。
次回は模擬戦で天音と恭弥を予定しています。
あと、そろそろ璃音と花音を出したいところです。




