第四十六話 暗黒領域(アンマップド)と旧支配者たちのスタック・トレース
ブロックチェーンのトリレンマを克服し、常時「60FPS」の流動性を手に入れた電脳都市ウルクは黄金の光に満ちたその城壁の向こう側に、いまだシステムログの監視が及ばない漆黒の原生林――『暗黒領域』が広がっていた。ジッグラトの最上階にいる佐藤太郎は虚空に透過ディスプレイを展開し、世界地図のレンダリング状況を確認していた。
佐藤太郎
「……やはり、物理層(レイヤー0)の再構築が追いついていない区画がある。この世界の『オープンソース化』に反発し、自分たちだけの閉鎖的なローカルサーバーに閉じこもっている連中がいますね。」
魔法使いマーリン
「太郎、あの森の奥から感じる禍々しい気配はなんじゃ? 創造主がいなくなったというのに、まるでもっと古い、ドロドロとした『悪意の残滓』が渦巻いているようだが……」
マーリンの指差す先、暗黒領域の空には、バグったプログラムのような幾何学的な稲妻が走り、空間そのものが「メモリリーク」を起こしたように崩れかけていた。
佐藤太郎
「あれは、創造主アルキテクトゥス・ウェルスが作り出した現行OS(現世界)の影に隠れていた、旧バージョンの『破棄されたコード』……いわば、神話の時代にデリートされ損ねた旧支配者たちの残骸ですよ。」
佐藤太郎は葦のペンを動かし、その暗黒領域の深部へと「Ping」を打ち込んだ。
佐藤太郎
「解析開始。……スタック・トレースを実行します。彼らは世界のオープンソース化を拒み、情報の非対称性を利用して再び独裁的な『プロプライエタリ・サーバー』を立ち上げようとしている……おっと、向こうからレスポンス(反撃)が来ましたよ。」
ドォォォォォォォォン!!
地平線の彼方、暗黒領域から巨大な「触手」のような黒いノイズが噴出し、ウルクの空を覆わんばかりの勢いで伸びてきた。それは物質ではなく、周囲の法則を書き換え、強制的にシステムをシャットダウンさせる「カーネル・パニック」の波動だった。
アドラメレク(魔界の宰相/現・首席ロードバランサー)
『ぐっ、貴様! この処理負荷は何だ!? 60の議会すべてに、未知のプロトコルによる不正なパケットが殺到しているぞ! 帳簿の整合性が取れん!』
佐藤太郎
「慌てるな。アドラメレク、そのパケットを捨てる(Drop)必要はない。むしろ、その『古い文法』を利用して、奴らの居場所を逆探知しろ。」
佐藤太郎は、狂ったようにスクロールするエラーログの中に、ある特定のパターンを見出した。
佐藤太郎
「なるほど、奴らの正体は、数千年前のデバッグ作業で切り捨てられた『原始の混沌』のバックアップデータか……マーリンさん、これからの戦いは、魔法の撃ち合いじゃありません。いかに効率よく奴らの『メモリ』を解放(Free)してやるかの勝負になります。」
魔法使いマーリン
「メモリを解放だと? 奴らを消滅させるという意味か?」
佐藤太郎
「いいえ、奴らという『無駄なプロセス』を強制終了させ、その膨大な演算資源(魔力)を、ウルクの共有リソースにマージ(統合)するんです……これぞ、新世界流の『事業譲渡(M&A)』ですよ。」
佐藤太郎は不敵な笑みを浮かべ、葦のペンを暗黒領域の核心へと向けた。彼の手元で、黄金の楔形文字が「ガベージコレクション(不要メモリ自動回収)」の論理式へと組み替わっていく。
佐藤太郎
「第四フェーズ……『未開領域のクリーンアップ』を開始する……さあ、レガシー・システム共、最新の『オープンソース』の洗礼を受けさせてやるよ。」
かつてのニート佐藤太郎は、今や世界の「最適化」という狂気に似た情熱を持って、未知のバグ(神話)へと立ち向かう。ウルクの城壁が開き、佐藤太郎とマーリン、そして社畜と化した魔神たちの軍勢が、漆黒の未踏マップへと進軍を開始した。
世界の最適化を進める佐藤太郎。
しかし、その前には創造主以前の「旧支配者」という名のレガシー・システムが立ちはだかります。技術的負債を清算し、未開領域をマージするための、史上最も賢い「システム移行」の戦いが始まります。




