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ニート撲滅戦士  作者: 勇氣
第三章女神編

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第三十六話 ジャストガードとシステムの『自食作用』

 自身の放った対ウイルス用デーモン『ガッル』が、元ニートの「無敵フレーム」というシステムの隙を突かれて消滅させられた光景を前にしても、アルキテクトゥス・ウェルスの「ブルー・ファイアンス」の瞳は揺らがなかった。むしろ、そのゲス顔はさらに深みを増していく。


アルキテクトゥス・ウェルス

 「ほう、フレーム単位での物理演算の遅延ラグを利用して攻撃判定をすり抜けたか。確かに、アクションゲームのバグじみた挙動だが……ローカル環境『エドゥブバ』を統べる私に対し、いつまでそのゲーマーの反射神経が通用するかな?」


 彼は羽織っていた「ネロ・カルボーネ(炭の如き漆黒)」の外套を脱ぎ捨てた。その下から現れたのは、古代シュメールの神官が纏っていた『カウナケス(羊毛の腰衣)』を模した高密度のソースコードの集合体だった。人類最古の文明の意匠が、世界の基盤ハードウェアの冷却装置として機能しているのだ。


アルキテクトゥス・ウェルス

 「上位プロセス展開!セム語族系高負荷デーモン・クラス……『アドラメレク』。対象をメモリの塵へと焼き尽くせ!」


 空間の楔形文字が赤熱し、太陽の業火を纏った巨大な異形のプログラム『アドラメレク』が顕現する。それはガッルのような単調な物理攻撃ではない。数千もの炎のパケットが、佐藤太郎の逃げ場を塞ぐように全方位から弾幕となって降り注ぐ。


魔法使いマーリン

 「太郎! あれだけの数の多重処理マルチスレッド攻撃、いくら無敵時間があっても回避しきれんぞ!」


佐藤太郎

 「避ける必要はありません。俺のオーラは今、最も純度の高い『ビアンコ・ペルラ(真珠の白)』の防壁へと変数指定キャスティングされています。それに……どんな弾幕にも『リズム』がある!」


 佐藤太郎は迫り来る無数の炎のパケットを前に、全く焦る様子を見せなかった。彼の脳裏にあるのは、生前狂ったようにやり込んだ2Dリズムアクションゲームの譜面だ。BPM240の超高速ビートの全てを捌き切るための、最適化されたボタンマッピング(脳内回路の結線)であった。


佐藤太郎

 「(……16ビートの全方位攻撃。判定発生まで残り3フレーム。……ここだッ!)」


 佐藤太郎が指先で虚空をリズミカルに弾くたび、ビアンコ・ペルラの防壁が瞬時に展開と解除を繰り返す。

 ガンッ! ギンッ! ガガガガンッ!!

 敵の攻撃が命中する直前の1フレームのみ防壁を展開し、ダメージとノックバックを完全に無効化する技術――アクションゲームにおける究極の防御テクニック『ジャストガード(パリィ)』の連続入力である。


アルキテクトゥス・ウェルス

 「……チッ。全て弾き落としただと? だが、防戦一方のプロセスにリソースを割き続ければ、いずれお前の処理領域スタミナがパンクするぞ!」


佐藤太郎

 「防戦一方? 違いますよ。俺はあんたの弾幕をガードしながら、バックグラウンドで『ある仕込み』を完了させていたんです。」


 佐藤太郎は不敵に笑い、古代ヘブライ語の語源を持つ一つの変数をコンソールに打ち込んだ。


佐藤太郎

 「実行コマンド:Tohu wa-Bohu(トーフー・ワ・ボーフー/混沌と空虚)。……このローカル環境『エドゥブバ』の空き容量に対し、無限のダミーデータを流し込む(メモリリークさせる)無限ループスクリプトです。」


 直後、完璧な処理速度を誇っていた『エドゥブバ』の空間が、突如として激しくノイズを放ち、処理落ち(ラグ)を起こし始めた。


アルキテクトゥス・ウェルス

 「なっ……貴様、私のメモリ領域を意図的に圧迫しているのか!? バカな真似を! システム全体がフリーズ(死滅)するぞ!」


佐藤太郎

 「人間が『断食ファスティング』をした時、極限の飢餓状態に陥った肉体は、体内の古くなった細胞や老廃物を自ら分解して栄養に変え、肌や臓器を浄化します。これを生物学で『自食作用オートファジー』と呼ぶ。」


 佐藤太郎は指を鳴らした。


佐藤太郎

 「システム(OS)も同じです。メモリ(栄養)が極限まで枯渇した時、システムはダウンを避けるため、現在動いている中で『最も容量を食っている重いプロセス』を強制終了キルして、自身の空き容量を確保しようとする。……IT用語で『OOM Killer(Out of Memory Killer)』の作動です」


アルキテクトゥス・ウェルス

 「……ッ!? まさか……!」


アルキテクトゥス・ウェルスが気付いた時には、既に遅かった。メモリ枯渇の危機を察知した『エドゥブバ』の基盤システムは、防衛本能オートファジーを強制起動させた。そして、現在この空間で最も無駄なリソースを消費している存在――すなわち、アルキテクトゥス自身が喚び出した超巨大デーモン『アドラメレク』に狙いを定めたのだ。


アドラメレク

 『ギ……ギガァァァァッ!?』


 佐藤太郎が手を下すまでもなく、アドラメレクの巨体は、自身を生み出した世界のシステムそのものによって「エラーの元凶」とみなされ、無残にも解体・吸収デリートされていった。空間のラグが解消され、再び静寂が戻る。


魔法使いマーリン

 「ふぉふぉふぉ! 敵の最大戦力を、敵自身のシステムの『自浄作用』に喰わせるとは! 恐ろしい男よ!」


佐藤太郎

 「どんなに完璧な古代のアーキテクチャだろうと、物理的な容量の限界(メモリ上限)という『生理現象』には逆らえないんですよ。さあ、次はどうしますか? 創造主アーキテクトさん、あんたの手札全部論理で破算させてやりますよ。」

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