第三十四話 宇宙の再起動と『初期化後の世界(Post-Launch World)』
視界を埋め尽くしていた0と1の奔流が、一瞬の静寂と共に収束していく。佐藤太郎が目を開けると、そこには「以前と変わらない」浄化の森が広がっていた。しかし、その本質は似て非なるものへと書き換わっていた。
魔法使いマーリン
「……終わったのか? 何も変わっていないように見えるが。世界が消滅したような衝撃も、魂が引き抜かれるような痛みも、何一つ感じなかったぞ。」
佐藤太郎
「それが『無停止移行』の真髄です。俺たちは今、新しくデプロイされた『グリーン環境』の宇宙にいます。……マーリンさん、空を見てください。」
マーリンが言われるままに空を仰ぐと、そこには驚くべき光景が広がっていた。空の彼方から、無数の淡い光の粒子が雪のように静かに降り注いでいる。それはかつての女神が放った凶兆の金色の血ではなく、浄化され、最適化された「35億の魂」の帰還であった。
佐藤太郎
「修羅道に囚われていた魂たちは、新宇宙の生成と同時に個別の仮想コンテナ内で『人格の再構築』を終えました。今、彼らは自分たちが地獄にいた記憶を『長い悪夢』として処理し、現世に用意された新しい肉体へとインポートされています。……現世の人口密度、魔力リソースの分配、食糧生産サイクル。全て計算済みです。」
太郎が手元のコンソールを操作すると、地上の各地の映像がウィンドウとして浮かび上がった。ある町では、数百年前に死んだはずの息子と再会し、涙を流して抱き合う老夫婦がいる。またある場所では、歴史から消された英雄たちが、困惑しながらも新しい時代の光を浴びていた。
魔法使いマーリン
「……不可能を可能にしたか。神々が『奇跡』と呼んで誤魔化してきた不合理を、お前は『仕様』として再定義してしまったのだな。」
佐藤太郎
「奇跡なんて不確定なものに、人類の運命を預けるべきじゃない。……さて、これで俺の『タスクリスト』の大きな項目は一つ片付きました。ですが、まだ消えていない『警告灯』があります。」
佐藤太郎の視線の先――そこには、先ほどまで「女神」だった人形のようなアバターが、エラーを吐き出すように激しく点滅していた。
女神
『警告……未定義のプロセスを検知……。新宇宙の管理者権限が……未承認のユーザーに紐付けられています……。マスターキーを……返還してください……。さもなくば……セキュリティ・プロトコル……「終焉」を起動します……。』
魔法使いマーリン
「何だと!? 女神のエゴは削除したはずだろう! なぜまだシステムが抵抗してくるのだ!」
佐藤太郎
「……ハードウェア側の防衛本能ですね。女神というOSを消しても、基盤に焼き付けられた『初期設定の防衛プログラム』が動いている。そして、そのプログラムが眠る『真のアーキテクト(創造主)』を叩き起こそうとしています。」
浄化の森の地面が、地鳴りのような音を立てて振動し始めた。新宇宙のローンチを「不正な乗っ取り」と判断したシステムが、その真の所有者である「眠れるプログラマー」を強制覚醒させようとしているのだ。
佐藤太郎
「面白い。……神話の作者が目を覚ますというなら、歓迎しましょう。俺はこの新宇宙を、あんな不完全な設計図のまま放置した先代に返すつもりはありません。」
佐藤太郎はコンソールを閉じ、自身の内側から溢れ出す「病魔」を遂にコントロール出来る様になり、「世界の法則を書き換える銀色の力」を拳に集めた。
佐藤太郎
「これはもはやハッキングじゃない。……『経営権の委譲』を迫る、株主総会(最終決戦)だ。」
空が割れ、漆黒のプロンプトから一人の男の影がゆっくりと這い出してくる。神(の人格)殺しを終えたニートの前に現れたのは、この不条理な世界をコードした「究極の理不尽」そのものだった。




