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ニート撲滅戦士  作者: 勇氣
第三章女神編

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第三十二話 カーネルパニックと『特権昇格(エクスプロイト)』

 コンソール画面を埋め尽くす、血のように赤いエラーログの奥底から浮かび上がってきたのは、脈打つような光を放つ、人類の歴史のどこにも存在しないはずの「古代言語」だった。


魔法使いマーリン

 「こ、これは……『神代の原初魔法ルーン』! 伝承にすら残っていない、世界が創世された瞬間にただ一度だけ使われたという『始まりの言葉』だぞ!」


佐藤太郎

 「マーリンさんにはそう見えるんですね。俺の目には、これが世界のハードウェアを直接叩くための『機械語(マシン語)』、あるいは極めて低水準な『アセンブリ言語』に見えます。……なるほど、あの女神の魔法が高水準言語(人間や神が扱いやすいように抽象化されたコード)だったとすれば、修羅道の底で眠るこのアーキテクトは、世界の物理法則を0と1で直接定義している存在だ。」


 佐藤太郎はキーボードを叩く手を止め、深く息を吐いた。不用意な操作は、取り返しのつかない事態を招く。彼のITエンジニアとしての直感が、かつてないほどの警鐘を鳴らしていた。


魔法使いマーリン

 「太郎よ。女神のシステムを乗っ取ったお前の力で、そのブロックを破壊ハッキングできないのか?」


佐藤太郎

 「絶対にダメです。相手は世界のOSの核たる『カーネル層(Ring-0)』。もし俺が無理やり外部から攻撃を仕掛けたり、干渉して処理をバグらせたりすれば、防衛本能でシステム全体が強制停止します。いわゆる『カーネルパニック』……つまり、この宇宙そのものがクラッシュして、消滅する。」


 その言葉に、マーリンは思わず息を呑んだ。35億の魂を救うどころか、現世も天界も、全てが文字通り「無」に帰すというのだ。


魔法使いマーリン

 「ならば、どうする? 魂の移行マイグレーションを諦め、彼らを永遠に修羅道に放置するしかないのか?」


佐藤太郎

 「いいえ。正面突破が無理なら、『正規の要求』を装って相手に扉を開かせ、内部から権限をかすめ取る手法を使います。……名付けて『特権昇格エクスプロイト』です。マーリンさん、その神代のルーンの文法、少しでも解読できますか?」


魔法使いマーリン

 「完全な意味は分からんが、法則性なら見出せる。この文字列は『生命』『質量』『時間』の変数を定義しているようだ。」


佐藤太郎

 「上等です。では、マーリンさんの魔力論理を使って、この古代言語を俺のコンソール上で『コンパイル(翻訳)』可能なライブラリにしてください。俺はそれを使って、アーキテクトに対する『システムコール(神託要請)』を記述します。」


 二人の史上最高峰の頭脳が、世界の深淵を前に共鳴する。マーリンが杖から紡ぎ出す古代魔法の法則性を、太郎が次々とアルゴリズムへと変換し、即席の翻訳パッチを当てていく。


佐藤太郎

 「……よし、パスが通った。アーキテクトは修羅道を『不要データのゴミ箱(/dev/null)』として管理している。俺はこのゴミ箱の容量が限界を超え、システム全体に深刻な遅延ラグをもたらしているという『偽のシステム警告(割り込み処理)』を送信します。解決策として、『仮想煉獄コンテナへのデータ退避』を提案する形にしよう。」


魔法使いマーリン

 「なるほど! 攻撃するのではなく、世界の保守点検を装って、向こうからマイグレーションの承認を引き出すというわけか!」


佐藤太郎

 「相手が論理で動くプログラムなら、最も効率的な提案を拒否する理由はないはずです。……行きます。要求パケット、送信エンター!」


 佐藤太郎がリターンキーを叩き込んだ瞬間、虚空のコンソールから赤いエラーの警告色がスッと消え失せた。浄化の森を包んでいた風が止み、絶対的な静寂が訪れる。隣でサーバーとして稼働していた女神のアバターが、ピクリと不気味に震えた。


――次の瞬間。

 佐藤太郎の目の前の空間が「漆黒」に塗りつぶされた。それはただの暗闇ではない。光さえも吸い込む、純粋な「コマンドプロンプト」の画面に、チカチカと白いアンダーバーが点滅し、一行の文字列が浮かび上がった。


 『SYS_CALL_ACCEPTED. AWAITING_INPUT_FROM_NEW_ADMIN:』

 (システムコールを受理。新管理者からの入力を待機中)


佐藤太郎

 「……ビンゴ。アーキテクトは俺を『世界の新しい管理者』として認識した。これでカーネル層の機能に、合法的にアクセスできます。」


魔法使いマーリン

 「見事だ……! これでようやく、修羅道の魂たちを引き上げられるのだな!」


佐藤太郎

 「ええ。ですが、この漆黒のコンソールを開いたことで、一つだけ確信したことがあります。」


 佐藤太郎は、チカチカと点滅するプロンプトを見つめながら、ゾッとするような冷たい笑みを浮かべた。


佐藤太郎

 「……マーリンさん!この世界を創った『真のアーキテクト』の正体……どうやら、俺たちと同じ『人間プログラマー』のようです。」


 元ニート佐藤太郎は力任せの破壊ではなく、「世界の法則をプログラムとして捉え、その脆弱性を突く」という、元ゲーマー・元ニートらしい極めて論理的かつ技術的なハッキングの手順で女神をシステム・フォーマット(人格の削除)し、女神の人格殺しを終えた。神話のさらに奥底に隠された、世界の「本当の設計図」に指をかけた。修羅道の解放というタスクは、より巨大な「宇宙の真理」へと繋がる単なるチュートリアルに過ぎなかったのである。

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