第二十七話反逆の特異点
女神レヴァット・マーレーの放った重力魔法により、佐藤太郎と魔法使いマーリンは虚空へと吹き飛ばされた。圧倒的な神の力の前に、二人は為す術なく地に叩きつけられる――かに見えた。
魔法使いマーリン
「太郎! 慌てるな! 重力とは即ち時空間の歪みだ! 私の『空間浄化魔法』の術式を反転させ、我々に掛かる落下ベクトルを『推進力』へと再定義する!」
マーリンが杖を振るうと、二人の身体を縛っていた重力場が相殺され、空中でピタリと静止した。
女神レヴァット・マーレー
「小賢しい真似を! だが所詮は延命措置よ。私の重力結界に捕らわれた時点で、貴方達の運命は詰んでいるのよ!」
女神が指を鳴らすと、二人を囲む空間の重力がさらに数十倍へと圧縮され始めた。
しかし、マーリンの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
魔法使いマーリン
「太郎、よく聞け。あの自称女神は、今、極めて致命的な『論理的矛盾』を犯した。」
佐藤太郎
「論理的矛盾……?」
魔法使いマーリン
「奴は言ったな。『私のチート能力がたかがニートに制御出来ると思うな』と。それは即ち、お前の体内から溢れる病魔の瘴気は、お前の意志ではなく『女神のシステム(管理者権限)』に直接紐付いて自動実行されているという証明だ。」
佐藤太郎
「それがどうしたんです! 俺が制御できないなら、どうしようも――」
魔法使いマーリン
「違う! 制御する必要など最初からないのだ! あの女神がなぜお前の瘴気で死なないか分かるか? 神のオーラという『ファイアウォール』で外部からの瘴気を弾いているからだ。……だが今、奴は自ら我々に重力魔法を撃ち込んだ。これは『神のコア』から我々の座標へ至る、直通の魔力パス(経路)を自ら開通させたことを意味する!」
佐藤太郎の脳内に、閃きが走った。
佐藤太郎
(そうか……! 俺が外に向かって瘴気を放つから防がれる。なら、女神が俺達を縛り付けているこの『重力の糸』を逆流させれば……!)
魔法使いマーリン
「その通りだ! お前は力を抑え込もうとするな。むしろ完全に手放せ! そして私が、お前から溢れる無限の瘴気を、奴の重力魔法のベクトルに沿って『逆流』させる!」
佐藤太郎
「俺はアンタのコマなんかじゃない……。俺は、アンタのシステムを破壊する極大のバグだッ!」
佐藤太郎は、これまで必死に抑え込もうとしていた罪悪感と瘴気の制御を完全に放棄した。
爆発的に膨れ上がった高濃度の病魔の瘴気を、マーリンの空間魔法が極限まで圧縮し、女神が繋いだ重力魔法のパスへと流し込んだ。
女神レヴァット・マーレー
「なっ……!? 重力場が……逆流している!? ば、馬鹿な! 神の絶対結界を人間がすり抜けられる筈が――ガハッ!?」
女神が血を吐き、その神々しい肌が黒く変色し始めた。
外部からの攻撃ではなく、女神が自ら繋いだ魔法の経路を通し、神の体内(システム内部)へ直接、太郎の瘴気が注ぎ込まれたのだ。
佐藤太郎
「あんたが作った『腐った存在を殺す』ためのチート能力だ! 意志を持たず自動で対象を攻撃するなら、今この場でもっとも腐敗している『お前自身の神核』を最優先で喰い破るはずだ!」
女神レヴァット・マーレー
「アアアアアアアアッ! 私の、私の創った力が、私自身を……!? おのれ、下等生物風情がアアアアッ!」
神核が完全に腐敗する直前、女神レヴァット・マーレーは狂乱しながら自らの右腕ごと重力パスを引きちぎり、天界へと逃げるように空間転移で姿を消した。空には、女神の残した金色の血が黒く濁って降り注いでいた。
魔法使いマーリン
「……システムの中枢に致命的なウイルスを撃ち込んでやった。しばらくは天界から干渉すら出来まい。さあ、行くぞ太郎。浄化の森へ。次奴が来るまでに、お前の能力の『管理者権限(ルート権限)』を完全に奪い取る方法を教えよう。」
佐藤太郎
「はい……! 俺はもう、誰の思惑通りにも動かない。俺の意志で、この理不尽な世界を書き換えてみせます!」
力に振り回されるだけの男は死んだ。今ここから、神の理すらも論理でハッキングする、真の反逆が幕を開けたのである。




