第四幕…「中央へ」
遠くの方で誰かが話している声で、目が覚める。
どれくらい眠っていたのか、僕が最後だったようで子供たちが元気に走り回っていた。
そんな光景を見て、ほっと胸を撫で下ろしてから横にずっと座っている人物を見た。
「よく寝てたな……まぁ、あんなことがあったから、疲れてたんだろうけど」
「……シオンが早起きしてる」
隣にいる人物を見て、恐怖する。
普段から全く起きないシオンが何故か、今は僕よりも早く起きていることに。
僕の困惑する姿を見て、満足そうに笑いながら立ち上がり、僕に手を差し伸べる。
僕は迷わずその手を取って立ち上がる。
その事に気づいた子供たちが元気に近づいてくる。少し遅れて近づいてくる子もいた。
「レナグが最後に起きるなんて珍しいよねー」
「ねー、シオン兄ちゃんが早く起きてることもビックリだよねー」
「神父様ー、レナグにぃが起きた」
「……」
「……おはよう、レナグ兄ちゃん……シオン兄ちゃん」
パタパタと忙しなく動き回る子供たちに、遅れてやってきたバイモとジアン。
どうやら二人は生き残っていたらしい。
色々と忙しく、精神的ダメージもあり、きちんと生き残っていた子供たちの確認をしていなかったことに気づき、すぐに僕は二人の視線に合わせる。
「おはよ…バイモ、ジアン」
「おはよー。二人とも」
僕とシオンに頭を撫でられて嬉しそうにしているバイモに対し、萎縮している様で、表情には後悔の念が浮かんでいるジアン。
その事にシオンも気づいたようで、さり気なくバイモも他の子と遊ぶように促してジアンだけを残す。
バイモが離れたことを確認し、僕は盗聴防止魔法と意識阻害魔法の二つを僕とシオン、そしてジアンの周辺に張る。
盗聴防止魔法は、外に話の内容が漏れないようにするため
意識阻害魔法は、意識がこちらに向けられないようにするためだ。
「……っ、なさい」
「え?」
「ごめん……なさい」
僕が問う前にジアンがポロポロと泣きながら謝罪を口にし始める。
「ごめんなさい」
「……うん」
服をぎゅっと握りながら泣く姿が、どうしてもほっとけなくて、僕はそっと抱きしめる。
ジアンは僕にしがみ付いて泣いた。
ジアンは他の子と違い、人の形をした何かの攻撃を目の当たりにし、母親同然だったシスター・マリーとシスター・ロザマリアの二人を同時に亡くし、仲の良かった子供たちを一度に無くした。
それがどんなに辛く、自分の行動の責任と後悔が小さな体にどれだけ押し込まれていたのだろうか……
僕はそんなことを考えながら、より一層ジアンを強く抱きしめる。
ようやく落ち着いた頃に、聞きたかったことを話してくれる。
「……ジアン、何であの時、外に行ったの?」
「レナグ……昨日が何の日か覚えてる?」
「え……と」
ジアンの問いに、僕もシオンも考え始めるが、昨日は色々起こりすぎて何も思い浮かばない。
「昨日は、シスター・ロザマリアの誕生日だったんだよ」
「あ!!」
「そういえば」
ジアンに言われてはっと思い出す。
確かに昨日は、シスター・ロザマリアの誕生日だった。
もしかしたら、あんな出来事が起きなければ、皆でお祝いしていた可能背はあった。
しかし、昨日の出来事が起こるとは、誰も知る由もなかった。
「だからぼくは、あの時にお花をプレゼントしたくて……森に取りに行っていたんだ
そしたら急に何かが飛び出してきて、驚いて奥に行っちゃったんだ」
ジアンの言葉に頷きながらシオンは、もう一つについて尋ねた。
「今聞くのは辛いこともかもしれないけど、何でシスター・ロザマリアたちは出てきちゃったんだ?」
「……レナグの言う通り、ぼくはすぐにシスター・ロザマリアに言いに行ったんだ...けど、それが伝わる前にシスター・マリーは外に出たらしくて……
それから聞こえた声に、シスター・ロザマリアが様子を見てくるって言って、出ていったんだ」
その時のことを、思い出しながら話すジアンに対して、急かすことなく静かに聞く。
まだ僕よりも幼い彼が見て、思った気持ちはとてつもなく恐怖と不安だけをもたらしていただろう。
「そしたら皆が泣きながら追いかけちゃって……ぼくは止めようとしたんだ、だけど…声が出なくて」
「皆を止めようとしてくれたんだね……頑張ったね」
最後の方はほぼ掠れていたが、僕は微笑み、声を掛けながら頭を撫でた。
ジアンの話で、だいたい理解した。
ジアンは僕に言われた通りに、すぐにシスター・ロザマリアの元に行って説明をしてくれた。
けど、シスター・マリーに伝わる前に、外に出てしまい腕を切られ、痛みで叫んだ。
その声に、シスター・ロザマリアが様子を見に行くが、恐怖のあまり数人の子供たちは追いかけてしまい、あの惨状に繋がった。……て、ところだ。
話を聞き終えたシオンも、昨日の出来事を思い出して悔しそうな表情をしている。
「……」
あぁ、そうか……
僕がやるべきことが見えてきた気がする……
「とりあえず事情は理解できたし、今後の話を神父様と話して決めよう」
「あ、あぁ、そうだな」
盗聴防止魔法と意識阻害魔法の二つを解除する。
その二つを解除することにより、楽しそうに走り回っていた子供たちが僕らに駆け寄ってくる。
その後ろから神父も近づいてくる。
「ねぇねぇ聞いて」「何してたの?」「神父さまとね、お話いっぱいしたんだよ」「あのね〜」
四方八方から聞こえてくる声に、忙しなく対応しつつも、僕は神父に視線を向けた。
視線に気づいた神父は、少し子供たちに離れているように話して、僕とシオン、神父の三人だけになる。
「どうしました?」
「これからの事を話そうかと……ここに残ることは出来そうに無いので」
「なるほど……それでは、中央の教会本部へ来てはいかがですか?」
「いいんですか?」
「構いません。あそこは静かすぎますから、賑やかになることはいい事です。
……それに、どうやら救世主様が覚醒されたようですから」
神父はそう言ってシオンを見る。
自覚がないシオンは、自分を指さしながら困惑した表情を見せた。
「では、中央への移動が目的でいいですか?」
「俺は構わない」
「私も構いません」
「……じゃあ、準備と近隣の人達に挨拶してから向かいましょう……
僕が近隣の方々に挨拶して来ますから、シオンと神父様は子供たちの準備を任せてもいいですか?」
僕が確認のためそう訪ねると、二人はすぐに頷いて了承してくれる。
二人の答えを聞いて、僕はすぐ近隣に挨拶をしに向かう。
「ねぇ、アング・レカム」
「どうかしたか?」
「昨日の話をしよう」
教会を出て、少し離れた場所で僕はアング・レカムを呼ぶ。アング・レカムはすぐにふわりと優雅に、僕の隣に降り立ち、視線を向けてくる。
僕も真剣にアング・レカムに視線を向けて言った言葉は、すぐに理解される。
「わたしがあいつを影と呼んでいた理由だな」
「……」
「簡単に言えば、あれは世界が生み出した掃除屋みたいなものだ」
「掃除屋?」
「影は、世界が何らかの原因で処理が追いつかず、原因を排除するために作り出された存在だ。人とも、魔物とも違う生き物。
この世界にはそう言った掃除屋が四体いる。そのうちの一体があの影だ……増えすぎた人間を減らすために生み出された掃除屋。
世界が生み出し、世界が忘れてしまい、置き去りにされたモノ。
故に、わたしはあいつらを影と呼んでいる
……今はこんな形の話しか、出来ない」
意味ありげな最後の言葉も気になったが、今は話す気が無いようで、僕はもう一つ気になったことを尋ねる。
「……アング・レカム、世界が処理できない何かとはなんだ?」
僕の問いに対し、アング・レカムは少し考えて口を開く。
「世界が処理できない何らかの原因は、さっきも言った通り、増えすぎた人間。
そして、増えすぎた魔物。
封じられた災い。
世界を狂わせた原因。
これらが、原因だとわたしは考えている
……今後、救世主の目的の一つは、残り三体の掃除屋の討伐となる」
アング・レカムの言葉に、僕ははっとその時の状況を考え、誰にも聞こえないくらい小さな声でポツリと呟く。
「その時に、その場で支えてあげるのは…僕じゃないんだよな」
だが、彼女には聞こえていたらしく、歩みを止めて僕に尋ねた。
「そうだな……その時のお前は、お前自身の願いのために動いている頃だろう。
……レナグ、お前は今後どうしたい?この世界をどう変えたい?」
「……僕は、救世主になるシオンを影からサポートしようと思う。今は無理でも、次は完璧な救世主の誕生のために
僕が変えるのは――――――」
「……」
僕の言葉をアング・レカムは静かに聞いていた。
そして全てを話し終えた時、彼女は寂しそうな表情を見せた。
「お前がそう決めたのなら、わたしは止めない。
これで、お前の終着点も決まった。
後は始まりのページに、物語を書いていくだけだ……さぁ、着いたぞ。
この物語の序章に終止符を打とう」
アング・レカムはそう言って姿を消す。
既に目的の場所に着いていたからだ。
僕は迷わずに、一軒一軒の扉をノックしては挨拶をしていった。
挨拶をする度に、誰もが悲しそうにしてくれていた。あの協会が愛されていたことを知れただけでも、僕は嬉しかった。
最後の家の挨拶が終え、教会に戻れば、出入口の前に子供たちが腕を振って待っていた。
「遅いよー」「はやくぅ」「これから皆でお出かけするんでしょ?」
一斉に言ってくる言葉に、思わず笑がこぼれる。
これでいい。子供たちの記憶に、あの惨状を残すことは出来ない。
「ほら」
「わわっ」
不意に投げられたリュックに、僕は慌ててキャッチしてから前を見れば、ニカッと笑うシオンの姿があった。
「お前の荷物だ。俺が準備したんだから、感謝しろよ」
「……日頃の感謝を僕に言うのが先じゃないかな?」
シオンの言葉に、嫌味ったらしく返せば、何も言えずにぐぬぬっと唸り出す。
そんなシオンの傍まで歩いて行き、額に軽くデコピンをくらわしてから子供たちに駆け寄っり、神父と言葉を交わす。
「挨拶は済ませましたから行きましょう。中央に」
「そうですか……では、行きましょうか」
僕の言葉に対し、何事も無かったかのように頷いてくれる神父。
そこに額を抑えながら文句を言いたげにやって来たシオンから逃げるため、僕は子供たちに提案した。
「皆!シオンに捕まらないように、あそこの木まで鬼ごっこだ!!」
『鬼ごっこー』
「え、ちょ、おい」
「さぁ皆、逃げろー!」
少し離れた位置にたった一本だけ生えた木までの突然の鬼ごっこ。
シオンは困惑していたが、子供たちは嬉しそうにシオンから離れていく。
それに混ざりつつ、僕も逃げる。
建物も花も見かけない、広々した野原を走る子供たちをシオンとの距離を保ちながら見守る。
「僕がシオンから離れるのは、後どれくらいかな……」
「……大体一ヶ月だな」
僕の呟きに、頭の中に直接語りかけるような言葉をアング・レカムは返してくる。
「なんで一ヶ月なんだ?」
僕の問いに、アング・レカムは答える。
「わたしとレナグのパスが安定する期間が、最大一ヶ月。それから力の譲渡もまた、約一ヶ月だ」
「?力は使えるんじゃないのか?」
「わたしの力は、な」
「……ふーん」
アング・レカムの言葉を全て理解した訳じゃない。しかし、今問い詰めたとしても彼女は答えない。
そんなことよりも、突然声を頭に流したり、急に姿を見せるくらいなら、ずっと実態化し、傍に入ればいいのに……なんて、思っても口にしない。
不思議とアング・レカムは、僕しかいない時にしか姿を見せないことが多い。
理由は分からないが、何となくシオンを避けているように感じる。
「ところでレナグ……救世主が後ろに迫っているぞ」
「え?わわっ」
アング・レカムの言葉に、振り返ってみれば、勢いよくこちらに走ってくるシオンがいた。
僕はすぐに目的の木に向かって走り出す。
「待て!レナグゥゥゥ」
「え、やだよ」
そんな軽口を言い合いながら、僕は他の子供たちよりも先に木に到着する。
僕が木に到着したことにより、シオンの狙いが子供たちに向けられる。
そこから聞こえてくる、楽しげな笑い声。
先に到着した僕は、座って休憩をしつつ、空間収納に閉まっていた一冊の本を取り出す。
この分では、もう少し時間がかかるであろうと予測し、僕は本にペンを迷うことなく走らせる。
僕も皆も望む形の物語を書き込んでいく。
それからどれくらい経ったのか、突然できた影で顔を上げる。
「驚いた、レナグは書き物をするんだな」
影を作ったシオンの言葉に驚きながら、口を開く。
「ふふ、驚いたでしょ?僕も物語書くんだよ……出来たら読んでくれる?」
「いいのか!見る!絶対見るから」
「僕も、書いた物語の最初の感想は、シオンがいいからね」
どうやらこの本は、僕が何かを書き込む時に実態になるようだ。
これからは、気をつけながら書かなくてはならない。
開いていた本を閉じて、抱きしめながら笑う。
「ところで皆は?」
「皆、木に辿り着いたから今は小休憩中。そろそろ進もうと思ってな」
「シオンも休憩できた?」
「もちろん、安心しろ」
「それなら行こうか」
シオンも休憩できたことを聞いて、僕は再び本を空間収納に入れて立ち上がる。
尻に付いた土を落とし、子供たちに声をかけて回る。最後に神父に声をかけて進む。
離れていく育った故郷を背に、誰も振り返ることなく中央に向けて進んでいく。
「シオン、周囲の警戒を頼む。定期的に探知魔法を使ってるんだけど、一定の距離を保ったままでいる魔物がいるから」
「了解。安心しろ…お前ら全員、俺が守ってやるからな」
新しくした木刀を召喚し、肩に預けながら僕たちに笑みを見せる姿は、決意を感じさせる。
今度こそは守って見せると、自分自身に言い聞かせている様にも見えてしまう姿だが、僕も同じ気持ちでいるために何も言えなかった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
次回の投稿予定日は、4月13日になります。




