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第三幕…「その日は、いつもと変わらぬ日常」後編

【注意】

今回は、一部分残酷な表現があります。

 ジアンの手を引いて走り続けて少し経った頃、見えてきた孤児院の明かり。

 あと少しと思った直後、ゾクッと背筋に走る悪寒。

 ほぼ直感的にジアンを抱き寄せた時、強い衝撃が横を通ったのを感じた。

 恐る恐る視線を、衝撃のあった横に向ける。

 そこには、深々と切られた跡があった。それをジアンも見て恐怖に顔を歪ませた。

 そして次第に身体を震わせ初めて、僕ははっと我に戻り、急いで孤児院に向かってジアンを抱き上げて走った。

 孤児院に近づくにつれ、背後からの攻撃が激しさを増す。

 が、不意に聞こえたシオンの声に僅かな安心感を感じては振り返らずに走り続けた。


「はぁ……はぁ……っ」


「ぁ……レナ…グ?」


 カタカタと震えていたジアンから声をかけられ、僕はそっとジアンを下ろして微笑んで見せた。


「さぁ着いたよ。ジアン、すぐにシスター・ロザマリアに誰一人、外に出さないでって伝えてもらえるか?」


「……っ」


「出来るな?」


「……ぅん」


 僕の言葉に服を握り、涙で濡れた瞳と声で頷いてくれる。

 そこまで確認して、ジアンを扉の方に向けて背中を押す。


「頼んだぞ」


 最後にそう声をかけた。

 ジアンが無事、孤児院に入ったのを確認した直後、真横に何かが吹き飛んでくる。

 僕は真横に飛んできた何かを確認することなく、杖を召喚して振り返る。

 そして真横に飛んできた何かに声をかけた。


「時間稼ぎご苦労さま」


「ぁあー、疲れた……いてー」


擦り傷、切り傷、少し深い傷と様々が見受けられる。とりあえず回復魔法を使い、シオンの傷を癒す。

 傷が消えたことにより少しは楽になったのか、シオンは一度はぁっと息を吐く。


「さーて、ここからどうする?レナグ……あいつは帰る気がないみたいだが」


「帰る気がないなら、迎撃するしかないでしょ……ここには僕たちの家族がいるんだから」


 僕の言葉に苦笑いを返しながら口を開く。


「そりゃぁ、俺たちが頑張るしか無いな」


「さぁ、頑張ろう」


 杖を手の内で一回転させてから人の形をした何かに杖先を向ける。シオンも立ち上がり、木刀を同じく人の形をした何かに向けた。

 変わらず人の形をした何かは、ケタケタと笑っている。

 左右の手がまるで剣のように鋭く、刃はボロボロ。先程出会った時はただの手であった。

 状況によって変わるのか、僕が考え事をしていると、先に動き出した人の形をした何かにシオンが迎え撃つ。

 時間稼ぎで撃ち合った木刀も既にボロボロになっており、長期戦になれば折れる。

 僕はすぐに木刀に対して、耐久強化魔法を付与させてから戦闘に参加する。

 シオンが人の形をした何かの気を引き、僕から視界を外させる。

 その間に僕は二重詠唱を小さく唱えて好機を探す。

 シオンが振り被った攻撃をしようとすれば、人の形をした何かは、がら空きになった横腹めがけて攻撃をしようとする。

 が、そんな見え透いた陽動に引っかかる相手ではないと理解している。

 案の定、人の形をした何かが攻撃をした場所がまるで霧だったかの様に霧散する。

 それに紛れてシオンが攻撃を仕掛けるが、相手もそれが分かっていたのか、一旦周囲の霧を一気に風圧で消し飛ばす。

 姿が見えれば、シオンも人の形をした何かも互いにどちらが先に仕掛けるかの、駆け引きを始める。

 そんな攻防を繰り返し、シオンが一度大きく交代した時に人の形を何かが追い打ちをかけようする。

 そんな事、僕が許すはずがない。

 僕は空かさずファイヤーボールを人の形をした何かに向かって撃ち牽制。

 すぐにシオンを回復させ、体勢を整える。


「あいつ、何なんだ」


「……多分、僕はあいつの気配を知ってる……気が、する」


 僕の言葉にシオンが首を傾げる。

 魔力残量や残りのポーションの数を数えながら、口だけを動かす。

 人の形をした何かに対する警戒はシオンがやってくれている。


「今日森に薪を取りに行った時に、僕が1度後ろを気にしていた時があっただろ?」


「あぁ……あの時は、多分大丈夫って返されたな」


「あいつはその時に感じた気配と同じな気がする」


 僕の言葉に一瞬だけ目を見開いたシオンだが、人の形をした何かが仕掛け出した攻撃に集中する。

 先程よりも動きが早くなった攻撃に、シオンは僅かに舌打ちをするが、後ろにいる僕に攻撃が来ないように捌く。

 そこから再び、攻防が続いた。

 が、ことが動いたのは孤児院の扉が開いた時だった。


「シオン?レナグ?こんな時間に何をしているの?」


「――っ、シスター・マリー!?」


「何してる!?扉を締めろ!」


 僕の反応とシオンの言葉に、戸惑い・困惑した表情を見せていたシスター・マリー。

 僕たちの反応を見た人の形をした何かは、ケタケタと笑いながら先程よりも更に素早い動きで斬撃を飛ばす。

 誰に向かって斬撃を飛ばしたのか、僕もシオンも分かっていた。

 分かってはいたが、咄嗟に体が動かなかった。

 やっと動いた時には、視界に移る鮮血の飛沫と彼女の痛がる悲鳴が聞こえた時だった。


「きゃっぁぁぁ!!??いた、痛い痛い痛いっ!!あぁああ!!」


「シスター・マリー!!暴れないで!」


「痛い痛い痛いっ、ぁあっ」


 シスター・マリーが切られたのは左腕で、右手で傷を抑えて床にのたうち回っていた。

 僕はすぐに駆け寄り、傷の手当をしようとするが傷の痛みが酷く、シスター・マリーの動きが止まることはなかった。

 今の彼女に僕の声は聞こえてはいない。

 どうすればいい……そう考えを必死に巡らせていた時だった。


「レナグ!!!」


 悲鳴のようにシオンが叫ぶ僕の名前に、はっと顔を上げる。

 しかし、もう間近に迫った人の形をした何かの斬撃に対し、僕は瞬時に簡易障壁を作るが所詮は簡易。

 すぐにパキンッと乾いた音をたてて障壁を砕く。

 最後に見たのは、誰かに庇われた瞬間で……そこからの意識は途切れた。




 誰かが僕を呼んでいる声がした気がして目が覚める。

 はっと目を見開き、乱れた呼吸を整える。

 あれからどれくらいが経ったのか、僕はすぐに周囲を確認すれば少し離れた場所では、未だにシオンが人の形をした何かと戦っているのが分かる。

 しかしここから見ても、シオンの傷は相当深手をいくつか貰っている。

 すぐに治療をしなければ死んでしまう。

 僕はそう思って立とうと体を動かすと、ズルッと何かがズレるが視界に移る。


「……ぇ」


 無意識に出た声、自然と僕の視界は下に向けられた。そこに広がる地獄のような光景に、ヒュッと喉が鳴る。

 僕の視界に映るのは、血痕が飛び散った壁と床に広がる大量の血。その中に転がっているいくつかの頭と体。

 そしてシスター・マリーを庇うように倒れているシスター・ロザマリア。

 なんで、どうして……一体何があったのか……っ

 思考の停止した僕は、ただじっとその場に座ってこの光景の原因を探した。

 

 「何でこんな光景になったのか、知りたいか?」


 ふいに聞こえた声に、僕がまるで縋るように振り返れば、不敵に笑っている少女が平然とそこに立っていた。

何も言わずにいる僕に対して、少女は楽し気に説明を始める。

 

 「あの時、障壁が砕けた時にお前を庇ったのは、そこで最初に片腕を失った女だった。

 痛みで苦しんでいたにも関わらず、身を挺してお前を守り、女も気を失った。」


 少女のことばと視線に、誘導されるように僕はもう一度、シスター・マリーがいる場所を見た。

 

「それから、少しして女の悲鳴で中からもう一人の女と子供たちが出てきた。

 あそこで戦っている救世主は、その事に気づいたが既に遅かった。

 あの影はまず子供の首を飛ばした、それを見た女が近くにあった武器を取り、戦おうとしたが呆気なく背中を切られた。その時、お前を守った女が目覚め、この惨状を見て落ちていた武器を取って戦おうとした。結果は見ての通りだ。」


少女の説明を聞いた僕の視界は、涙で歪み、嗚咽を漏らす。


「ぁ……あぁ……っ」

 

「お前を守った女が殺される瞬間、もう一人の女がそれを庇った。

 そして怒りに身を任せた救世主が、今も影と戦っている。

 これはお前が目覚める20分も前の出来事だ……これを聞いたお前はどうする?」


 楽し気に笑う少女に、僕は何の感情も沸くことなく……ただ血の海に倒れている家族をただ歪んだ視界で見つめ、回っていない頭で必死に考えた。

 何がいけなかったのか……

 あいつと戦う選択肢をしなければ良かったのか……

 ジアンを探しに、夜の森に入らなければ良かったのか……

 どんなに考えても、僕の中には後悔という言葉が存在しない。

 この惨状を生み出したのは、僕の選択によるものなのかもしれなかったのに……

 もうどうすればいいかわからい。

 気が付けば僕は泣いていて、頭を抱えて、叫んでいた。


「ああぁぁぁぁあ!!」


 そんな僕の姿を見て、少女は何を思ったのか、僕の前に両膝をついてそっと優しく両手で頬を包んで持ち上げる。

 突然の少女の行動に、僕は固まり、少女の目が僕の目と合う。


 「今一度、お前に問う。わたしと契約をしないか?」


 「……ぁ」


 契約。そう言えば、あいつが出てきた時もそんなことを言っていた気がする……


 「わたしはお前を助けられる力を持っている。

 わたしが貸せる力の限り手を貸そう。

 条件は前にも言った通り、期限は無い。わたしと一緒に最後までやり遂げてもらう。

 あの時見せた物で、わたしがやろうとしていることは分かっているだろう?」


 「……」


 確かに、あの時この世界と少女の事実を知った。


 「契約を結んでくれるのなら、この手を取って」


 そう言って少女は手を差し伸べる。

 僕はその手を見つめた。

 この手を取れば、後には引けない。

 シオンにも話せない、一緒にもいられなくなる。

 ……それでも


 「……僕はこの惨状を肯定することはできない」


 僕はそう言って少女の手を取った。

 少女は僕の答えを満足そうに、楽し気に口を開いた。


 「さぁ、わたしと一緒に紡ごう!!この世界の終わりを!!この世界の終焉を!!

 わたしの名は、アング・レカムだ!」


 少女がそう宣言すると同時に、僕自身の内側で少女と繋がったよう感覚が現れる。


「この感覚は……」


「契約が成立し、わたしとのパスが繋がっている。そのパスがある限り、わたしはお前を裏切ることも、見捨てることもない。

 わたしとお前は一心同体みたいなものだ」


 少女、基アング・レカムの言葉に、僕はなるほどと頷く。

 何を考えているのかは分からないが、アング・レカムが今はとても嬉しく、楽しいと思っていることは感じる。

 つまり、僕がこう感じているということは、僕が感じてることが、アング・レカムにも伝わることになる。


「……アング・レカム、僕が今どんな気持ちか分かってるのか?」


「愚問だな。お前、いや、レナグが感じてわたしが感じないわけが無い。

 ……今のレナグは、不安・戸惑い、喪失感に僅かな喜びを感じていて不安定だな……

 まぁ今は、救世主を助けてはどうか?」


 アング・レカムに促されるまま、僕はシオンがいる方を見た。

 さっき見た時よりも、傷が増えている。


「レナグ、とりあえずあの救世主をどうにか止めろ。」


「……」


「案ずるな、影の相手はわたしがやろう」


「その、ずっと気になってたんだけど……あいつのことを影と呼ぶのはなんか意味があるのか?」


 僕がそう訪ねると、アング・レカムは少し考える素振りを見せる。

少し考えた後、アング・レカムは僕の目を見て答えた。


「詳しくは後で話す。今は、あの限界を超えた状態の救世主をどうにかしろ」


「わかった……それじゃあ、僕がシオンを止めるからその間はあいつの相手を頼む」


 アング・レナグの言葉を信じ、僕はすぐに行動に移す。

 杖を召喚し、人の形をした何かとシオンの間に杖を乱入させる。突然現れた杖に、一瞬動きが止まるシオン。

 けど、その一瞬だけで十分だ。


「ごめん、シオン」


 先に謝罪の言葉を伝えてから、僕は自分の体に身体強化を付与してすぐに、シオンの頬に杖で思いっきり殴る。


「ぐっ」


 思いっきり吹っ飛んだシオンは、数本の木を倒し、地面に倒れる。

 その姿を確認してから振り返る。

 僕の後ろにはアング・レナグが、人の形を何かに向けて手を向けているだけ。

 しかし、それで人の形をした何かの動きが止まっている。


「何をしたんだ?」


「なに……いずれお前も出来るようになるさ。

 そっちは片付いたみたいだし、影の方も頼もうか」


「え、それはそっちがやってよ……僕より断然早いだろ?」


 アング・レナグの言葉に対して素直に返せば、面倒くさそうな表情をさらに返される。


「だって僕は魔法しか使えないんだぞ?」


「お前、まだ不安定と言っても、わたしの力も使えるようになっているから楽に倒せるはずだが……まぁいい、今回は特別にわたしが対処しよう」


 はぁとため息を吐いてから、アング・レナグは人の形をした何かに向き合う。


「さぁ、お前を解放しよう」


 そう言って、アング・レナグはゆっくりと動き出す。その動きはまるで踊っているように


「世界に尽くし、世界に見捨てられた哀れな処刑人よ」


 アング・レナグの手が人の形をした何かの顔に触れる。


「お前の役目は終わった。

 世界に戻れ、世界はお前を拒まない。世界はお前に感謝する。

 お疲れさま――聖花琉冥(せいかるいめい)


 聞いたこともない呪文。

 アング・レナグがそう唱えた瞬間、触れていた場所から花が咲き誇り、そして散る。

 散る寸前、人の形をした何かが僕を見た気がするが、それも一瞬で気のせいだったのかもしれない。

 人の形をした何かがいた場所には、花びらだけが残っている。

 僕はただじっと、その光景見つめていた。


「さぁ終わった」


「……本当に呆気なく」


 アング・レナグの言葉に呆れつつ答える。

 僕はシオンの元に歩み寄り、回復魔法を使用する。

 深い傷には少し時間がかかったが、なんとか全ての傷が塞がったのを確認をし、孤児院を見た。

 亡くなっていたのは数人の子供、まだ生きている子供がいるかもしれない。


「アング・レカム、シオンの側に居てくれ」


「いや、わたしが行こう。お前は契約した直後だからな、少し休んでいろ」


「え……でも、アング・レナグの姿は他の人には見えないんでしょ?」


「探すことくらいできる……それに、今のお前は精神が疲れ切っている」


「……わかった。頼む」


「ふふ、よろしい」


 僕の回答に満足そうに頷いてから、アング・レカムは孤児院内へ歩いていく。

 僕はそれを見送ってから、隣で眠るシオンを見下ろした。

 

「守れなくて、ごめん」


 ぽたりとシオンの顔に涙が落ちた。

 僕はすぐにシオンの顔に落ちた涙を拭い、両手で目を覆った。


「俺も……守れなくて、すまん」


 小さく聞こえた声に、僕ははっと息を飲んでシオンを見た。

 涙の滲んだ瞳が開き、僕を見つめてくる。


「いつ起きたんだよ……お前」


「ついさっきだ。お前の一撃、マジでキツイって」


 頬を引き攣らせながら言ってくる苦情に、僕は思わず笑いかけてから、孤児院を見た。

 シオンも体を起こし、孤児院の方を見る。


「……お墓、どこがいいかな」


「確か…教会の隣に綺麗な花畑がなかったか?」


僕の言葉に、シオンが答える。

  

「あぁ、確かにあったね……あそこがいいか」


「あぁ、あそこの方がいいだろう」


 僕とシオンがそんな会話をしていると、アング・レナグが戻ってくる。

 次の行動をするため、孤児院に向かって歩くシオンとアング・レカムがすれ違うが、やはり見えていないのか、素通りして行く。


「二階に男とその周辺に男女の子供がいたぞ、無傷だ」


「――っ、ありがとう」


 アング・レナグの言葉に、嬉しくてつい涙が出そうになるがなんとか堪えてシオンの後を追った。

 1度奥に行って、白いタオルを持って戻ってきたシオンに、僕はすぐにシオンがしようとしていることに気がつき、手伝う。

 白いタオルの上に、遺体を乗っけては教会横の花畑に持っていく。

 それを何度も繰り返し、次にやることは花畑の中心に穴を掘り、遺体を中に入れて埋める。

 そして埋めたところには、人数分の名前を刻んだ石を乗っける。

 その間、僕もシオンも溢れる涙を流したまま作業をした。


「……っ、よし、次は生き残った子達がいるはずだから探そう」


「そうだね、今もどこかで震えてるはずだ……僕たちが行って、少しでも安心させなきゃね」


 涙を拭いながらシオンの言葉に同意し、孤児院内に移動して探し始める。

 アング・レカムのお陰で、僕は生き残った子供たちの居場所を知っていたが、それでも自分の目で確認がしたかった。

 一階を全て探しても誰もおらず、シオンの表情が曇る。僕はそっと、シオンの肩に手を置いて二階を見上げる。シオンも釣られて二階を見上げた。


「まだ二階があるから、もしかしたらそっちにいるかも」


「そうだな、神父様の姿も無いし」


 僕の言葉に頷いて返してくれる。

 そんなシオンに、僕は申し訳ない気持ちが湧く。

 恐く、そんな長く一緒には居られなくなる。

 今の状態のシオンを一人にすれば、すぐに壊れてしまう。

 僕は先頭を歩くシオンに気づかれないように、後ろを歩くアング・レカムに視線を向けた。

視線に気づいたアング・レカムは、僕が何を考えているのか理解したかのように口を開く。

 

「安心しろ、まだ時間はある。今を大事にしとけ」


「……」


「それにレナグ。お前がしようとする行動には、あの救世主が必要不可欠だ。離れると言っても、つかず離れずの関係になるだけだ」


 アング・レナグの言葉に頷いて返答。

 そうこうしているうちに、二階の捜索が進み、残すは僕たちの部屋と数部屋の子供部屋のみとなった。


「……ぁ、泣く声が聞こえた」


「!!、ぁ、ほんとだ!」


 僕の言葉に、耳をそばだてたシオンも嬉しそうに僅かに笑みを見せた。

 僕とシオンは泣く声がした方の部屋の扉を開ければ、まず初めに聞こえたのは悲鳴だった。


「きゃぁぁぁぁ!いや!殺さないで!いや!」


「だ、大丈夫だ!俺たちだ!」


「ぁ、シオン兄ちゃん……レナグ兄ちゃん……っ」


「わぁぁあぁぁっ」


「お二方が無事で、安心しました……」


 僕とシオンの姿を見て泣き出す子供たち。

 そんな子供たちをあやしながら、神父様がそう声をかけてきた。

 神父様の表情はとても悲しそうで、出入口の状況を知っている口振りだった。


「神父様たちも無事で、良かったです」


「ここでは落ち着かないでしょ、教会に行って休みましょう」


 再び泣きそうなる僕に気遣ってか、神父様がそう声をかけてくる。

 確かに、この建物で起きた出来事を思い出すだけで、吐き気と悔しさ、そして絶望した気持ちが込み上げてくる。

 僕の顔色の変化に気づいたシオンは、そっと背中をさすってくれる。

 自分だって、苦しい癖に強がって……本当に


「よし、今日は教会で休んでまた明日、話そう」


 泣き疲れた子供二人を抱き上げてそう宣言するシオンに、僕も神父様も頷き、残った子供たちを抱き上げて移動した。

 子供たちが眠ってくれていたことに感謝しながら、血で満たされた場所を通って教会の中へと入る。


「とりあえずここら辺の椅子に横にさせとくか」


 一番先頭の席に移動して、シオンは二人の子どもを寝かせる。

 僕もすぐ隣の席に子供たちを寝かせて、教会の奥へと歩く。

 教会の奥には、もしもの時に備えて僅かな食料や毛布などが常備されていた。

 まさか、こんな時に使うとは思ってもみなかったが……

 

「レナグ、これを渡しておく」


 不意に聞こえたアング・レカムの声に、振り向けば一冊の本を渡してきた。

 とりあえずそれを受け取り、首を傾げていると、本について説明してくれる。


「その本に、お前が塗り替えたい話を書いておくといい」


「塗り替えたい話?」


「例えば、今日の様なあの出来事を無かったことにしたりだ」


「……っ」


 アング・レナグの例えに、思わず僕の動きが止まる。


「レナグ?どうした?」


「……ぇ」


 名前を呼ばれて顔を上げると、目の前にはシオンがいて、アング・レナグの姿はなかった。

 気づけば、渡されていた本も消えている。

 再び固まった僕に、シオンは悲しそうな表情を見せながら口を開く。


「今日は色々ありすぎたな……シャワー浴びて、さっさと寝よう」


「……ぅん」


 シオンに手を引かれて歩く。

 最初に子供たちに毛布を届けて、再びシオンに手を引かれてシャワー室へと向かう。

 僕は未だアング・レカムが言っていた言葉が脳裏で響いていた。

 塗り替えたい、変えたい現実。

 僕は、今日の出来事をどう塗り替えたいのだろうか……これは、今後にも関係してきそうな気がしてならない。


「おーい、おーい……レナグ?」


「え?」


「シャワー室に着いたぞ?」


「あぁ、うん。ありがとう」


 僕がそう返せば、不安そうな表情を見せつつも個室のシャワー室に入っていく。

 僕もすぐに個室のシャワー室に入り、血の着いた服を脱ぎ、肌に着いた血を流していく。

 冷えきった体が温まっていく。


「……」


「レナグ……守りたいものを守れるぐらい、強くなろうな」


「……うん、そうだね」


 壁越しに聞こえたシオンの声が、どこか震えていたのはシャワーの音で、気のせいだ。

 だから僕の頬をつたう何かも、シャワーの水で、気のせいだ。

 シャワー室から出て、素早く体をタオルで拭き、協会の服に身を包む。

 暖かくなったからか、それとも疲れが一気に来たのか、僕は眠気に襲われる。


「……おいおい、ここで眠るなよ」


 最後にその言葉が聞こえた気がしたが、すぐに僕の意識は暗闇に引っ張られる。

 ……全てが夢なら良かったのに

 最後の瞬間、僕はそんな風に思ったことをハッキリと覚えている。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

次回の投稿予定日は、3月16日になります。

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