第五幕…「中央国家__ディスペリア」
中央に向かい始めて、早二日。
僕たちは今、子供のような背丈、人の形をした緑色の肌をした魔物に襲われていた。
シオンが今も数を減らし回っているが、体力は無限ではない。
今の僕に出来るのは、皆を護る盾となり、シオンをサポートするくらいしか出来ない。
それにしても、いくらなんでも魔物の数が異常すぎる。何かに呼び寄せられていると考えても、何が原因かも検討がつかない。
「シオン!後どれくらい持ち堪えられる!?」
「え……えーと、まだまだいける!!」
僕の問いに、魔物の首や胴を木刀で切りつけながら答えてくれる。
シオンの答えを聞いた僕は、すぐに神父や子供たちの護りを固めてから、とある魔法を使用する。
「捧ぐは我が血、我の望む答えを示し、対価に見合う結果を齎せ」
僕は言葉を述べつつも、行動に迷いはなく、懐に隠していたナイフで指先を僅かに切る。
するとじわりと血が滲みだし、僕はその血を一滴だけ地面に垂らす。
ポタリと垂れた血から波紋が広がる。
そこまで見届けてから僕はその魔法の名を一呼吸してからゆっくりと言う。
「血海探敵」
僕が名前を言うと、波紋はさらに広がり敵が増える原因を探る。
地下の探知も同時にできる魔法のため、僕は集中するために目を瞑り、頭に流れてくる情報処理に専念する。
「見つけた!シオン!お前の位置から斜め右、偉そうにしている奴がこの魔物の召喚者だ!」
「えーと、俺の位置から斜め右……いた!偉そうにしている奴!」
僕の言葉を聞き、即座に相手をしていた魔物を斬り伏せて右を見る。
他の魔物たちに囲まれて、偉そうに椅子に座っている魔物。
シオンはすぐに偉そうにしている魔物に近づき、木刀を横長に振るう。
しかし、他の魔物を犠牲にし、偉そうにしている魔物は椅子を利用して交わす。
「チッ」
シオンからは珍しく舌打ちが聞こえたが、僕はあえてその事を無視しする。
神父や子供たちの様子をチラッと確認してからシオンの側まで走る。
ちなみに、邪魔をしてくる魔物に関しては爆発魔法をプレゼントしている。そのお陰で、快適に走れた。
「はぁ、はぁ」
「体力もう少し付けたら?」
「うる……さいぞ、全く。いいんだぞ、協力しなくても」
到着早々、シオンの呟きに対し、僕は思わず腕を組んで睨む。
それが効いたのか、小さく「すいません」と返ってきたので、気を取り直して僕は杖を召喚する。
「あいつの動きは素早い、だから僕が動きを止めるから、トドメを頼む」
「追い込みポイントは?」
「無い。好きに動いてくれ」
「了解!」
僕の指示に了承の言葉を返せば、すぐにシオンは偉そうにしていた魔物の後を追って動く。
後は僕がシオンの動きに合わせて、動きを止める。そしたらシオンがトドメを刺してくれる。
いつも通りだ。
「そこ!」
幾度かシオンと偉そうにしていた魔物が木刀と杖を打ち付け合う。
それでも決着が着かず、互いに一度後退をした時、僕はすかさずに足だけの拘束魔法を使用する。
「薔薇蔦」
突然生えてきた棘のある蔦に拘束された偉そうにしていた魔物は、「ギゲェッ」と驚いたように鳴く。
シオンは片足で着地した後、再び偉そうにしている魔物に接近し、首を切り落とした。
「ふぅ、他の魔物はどうなって___」
「お疲れ様」
偉そうにしていた魔物の首を切り落とし、シオンはすぐに振り返れば敵の骸の山が出来ていた。
その山を平然と作って見せた僕は、すぐさま骸を燃やして、子供たちと神父に張った結界を解除する。
「流石って言った方がいいのか、お疲れ様って言った方がいいのか」
「そこは素直にお疲れ様じゃないかな?お疲れ様、シオン」
「そうだな、お疲れ様。レナグ」
僕の言葉に力が抜ける笑みを見せて、返してくれるシオン。それが合図かの様に、子供たちや神父がやってくる。
「すげー!俺、シオン兄ちゃんみたいな剣士になりたい」
「わたしはレナグにぃみたいに魔法を使いたい」
「おやおや、では教会の手伝いをしてくれる子には、私から推薦してあげましょう」
らんらんに輝く子供たちの瞳を見た神父は、微笑ましそうに一つの提案する。
神父の提案に、子供たちもやる気が出てきたのか、夢を考え始める。
そんな姿を見て、僕とシオンは笑いつつも神父に尋ねた。
「神父様、中央まで後どれくらいですか?」
「ここからですと、そんなに遠くはありません。
……あそこを超えた先が中央ですから」
神父はそう言って進行方向にあるまだ距離のある丘を指す。
つまり、あの丘を超えれば目的地の中央が見える。僕もシオンも初めて見る街というものに、不安を抱えつつも好奇心が勝っていた。
「それじゃあ皆、進もうか」
『はーい』
僕の言葉に子供たちは元気に返事を返す。
それからシオンと目配せし、シオンを先頭に神父を中心、その周りには子供たち。そして最後尾に僕といった配置で歩き出す。
道中、見つけた花を摘んだり、じっくりと観察したり、木に実っていた果物を取って小休憩をとったりしつつ丘を目指した。
そのお陰もあり、子供たちは対して疲れを見せることなく無事に丘に辿り着く。
「この丘を越えたら、中央……」
いざ目の前にした丘を眺めながら、思わず呟く僕に対して、隣に立っていたシオンは興奮している様に伺える。
「中央ってどんなところなんだろうな!!レナグ」
「王様が住んでいる街だからね……とても広くて、とても綺麗なんだろうね」
「そうだな」
シオンの言葉に僕は小さく微笑みながら返して、子供たちと神父に続いて丘を登った。
丘を登った先で見たもの、それはこれ以上ないくらいのとても美しい街並みだった。
最初に目が行ったのは街の少し奥に建てられた白を基調にしたどの建物よりも立派な建物。
そして次に気になるのは二番目に高い。
これもまた白を基調にした建物だが、奥のとは作りが違うようにも見える。
一番上には、大きな鐘があり、それが丁度ゴォーンゴォーンと鳴っていた。
最後に二番目に高い建物囲むように建てられている一般建築。
「皆様、ようこそ。中央国家__ディスペリアへお越しくださいました。歓迎いたします」
突然礼儀正しく頭を下げながら、そう言う神父に対して、僕は神父が言った中央の名前を呟く。
「ディスペリア……そんな名前が付いていたんですね」
「はい。王が変わってから、名前を付けたんです。それまでは中央で通っていました。
しかし、民が増え、指折りの国となったのでついでに名前を付けようっとなったのです」
神父の言葉に、おつかいを頼む様な軽いノリで言う神父に呆れながらも、僕は静かに神父の話の続きを聞く。
「ちなみに君たちがいた場所の名前は、辺境の地・リベリエって呼ばれています」
「辺境の地・リベリエ……」
「リベリエ……」
僕とシオンは同時に呟く。
初めて知った自分たちが住んでいた場所の名前に対し、シオンは何を思ったのだろうか……
子供たちは、自分たちが住んでいた場所に名前があったことを知り、嬉しそうにしている。
シオンは、この名前をシスターたちに教えてあげたいと思っているだろうか……
それとも……今、何で知ってしまったのだろうかと、悔やんでいるだろうか。
「レナグ」
「…何?」
「いつかあの場所に戻って、シスターたちに教えてやろうな」
「――っ、うん」
笑って言うシオンの言葉に泣きそうになるが、何とか堪えて頷くことは出来た。
それから僕たちは、神父の先導によって中央…基、中央国家・ディスペリアに入ることが出来た。
街並みは、丘で見た時よりも洗礼されており、初めて入る街に僕もシオンも子供たちも興味津々で辺りを見渡したりしていた。
特に僕が興味を惹かれたのは、沢山の本が並んだ店だ。
神父曰く、そこは本屋と呼ばれている様で、お金で買って読むことが出来るそうだ。
それを聞いて僕は、なるほどと頷く。
次にシオンが興味を惹かれたのは、武器が沢山置かれている店だ。本が沢山置かれた場所を本屋と呼ぶのだったら、ここは武器屋だろう。
「神父、ここは武器屋ですか?」
「そうですね。ここで戦うための武器を整えるそうです。
救世主様は、ここが気になるのですね?」
僕の問いに答え、側で瞳を輝かせているシオンに今度は神父が答える。
しかし、今のシオンに神父の声は聞こえていないらしく、代わりに僕の推察で答えておく。
「今まで本物の武器は見たことがなかったですからね……ほら、神父様も見たことがあるでしょ?シオンの武器が木刀だったことを」
「あれは好んで武器にしていたのではないのですか?」
「あれは、生きていくために森で取れた太い枝を剃って作ったシオンお手製の武器なんです。
お金は一応もっていましたが、使える場所はなかったですし
それに木刀は壊れても、また森に探しに行けば無料ですからね」
僕の答えに何も言えなくなった神父に、僕は気を使わせないようにシオンの肩を掴む。
「シオン、入るのか?」
「あぁ……いや、今はいいや。そんな事よりも子供たちは?」
シオンの問いに、神父が答える。
「今はあちらの玩具屋さんにいます。バイモとジアンが子供たちを見てくれています。
あの二人は無邪気さもありますが、どちらかと言えば、救世主様とレナグくんに似た感じですね」
神父はそう言って子供たちがいる方を見る。
僕とシオンもつられるように、子供たちがいる玩具屋さんの方を見れば、丁度子供たちと話しているバイモとジアンの姿が見える。
何かを話しては笑っている。
そんな姿を見てからシオンが思ったことを口にする。
「あの二人は、他の子たちよりも年上で、俺やレナグよりは年下だから、俺たちが側にいない時は責任感でいっぱいなんだと思う」
「確かにシオン言う通り、僕たちがいる時は、子供らしさはあるけど、あぁやって僕らが側にいなかったら進んで子供らしさを引っ込めて、年下を気にしだすんだよね」
シオンの言葉に僕が頷いて答えると、神父は「なるほど」と呟いてから子供たちのいる方へと歩いていく。
そんな神父を見送ってから僕は未だに武器屋から離れようとしないシオンに視線を向ける。
「で、シオンはこの店に入るのかな?」
「……っ、ちょ、ちょっとだけ」
僕の促しに対して、一度店の方を見てからうずうずした様子で僕に答える。
その答えに僕は思わず微笑み、シオンに付き合うことにする。
武器屋に入ると、チリ〜ンとベルが鳴り、客が入ったことを知らせる。
ベルを聞いて、店主が奥の方から出てくる。
顔に傷があり、圧を感じる。
店主は僕とシオンを見てから、はぁと息を吐いてから口を開く。
「ここは子供が来るような場所じゃないぞ」
「あのすいません。ここに置てある武器を見てもいいですか?」
嫌みったらしく言って来る店主に向けて、僕は満面の笑み見せながら訪ねる。
すると店主は一度舌打ちをしてから「好きにしろ」と許可をくれる。
ちなみに、満面の笑みをした僕を見て隣にいたシオンが「うわ」と呟いたのは聞こえていたので、思わず横腹に拳をお見舞いしておく。
気を取り直して、店を見て回ってもいいと言われた僕とシオンは、それぞれ興味を惹かれた武器を見に移動する。
僕は杖。シオンは剣。
やはり武器屋だけあって、とても良い杖が揃っている。
最初に見たのは、装飾の多い杖だ。
持ったり、傾けたりするだけでチャリチャリと音が鳴り、戦闘には不向き。別の用途ようなのだろう
次に見たのは、やけにキラキラと輝いている杖。
このキラキラしたヤツは、昔にシスターたちが話しているのを聞いたことがある。
どの角度から見てもキラキラと輝き、とても高価な宝石。
つまり、この杖は至る所に宝石を埋め込まれた杖で、これも戦闘には不向き。
最後に見たのは、今まで見た中でいちばんシンプルな杖だ。
見た目はただの棒。しかし、これだけは説明が書かれた札が付いており、内容を見る。
所有者次第で変わる。とそれだけ書かれている。
僕はそんな杖が気になり、椅子に座り、本を読んでいた店主に尋ねた。
「すいません。この杖って、売り物ですか?」
「あぁ?そんな杖、知らないな……勝手に誰かが置いていったんじゃねーのか?
たまに居るんだよな、許可なく、自分の実力を勝手に試す鍛冶屋が……処分するから寄越しな」
「……すいません、これ、いくらかで譲って貰えませんか?」
「……責任は取らねーぞ?」
「構いません」
「それは売り物じゃねーから好きにしろ」
僕の言葉に店主は一度ため息を吐いてから、そう答えて再び読んでいた本を読み始める。
僕は譲ってもらった杖を空間収納にしまい、ずっと静かにしているシオンの様子を見に向かう。
どうやらシオンは剣の並んだ場所にいて、じっと一つの剣を見つめていた。
「それ、気になるのか?」
「ん?あぁ、何かな」
「いくら?」
「えーと……銀貨八枚だ」
「高いね……今いくら持ってる?」
僕の問いに、シオンはズボンのポケットからボロボロの袋を取りだして中身を確認する。
「銀貨三枚だ……足りないな」
「仕方がないなぁ、僕が残りを出してあげる」
所持金が足りずに落ち込むシオンに、僕は懐に入れていたボロボロの袋を取り出して、足りない分をシオンに渡す。
持たされた銀貨五枚を見て驚いた表情を見せるシオンに、僕は得意げに胸を張る。
「コツコツ貯めたお金だよ。僕の杖は譲ってもらったからね」
「ありがとう!レナグ!!買ってくる!」
コロコロとよく表情を変化させるシオンに、僕はいつも通り「はいはい」とだけ返して、戻ってくるのを待つ。
少しすれば、新しい剣を腰にぶら下げた状態でシオンが戻ってくる。
「しまわなくていいの?」
「あぁ、今はこれがいい」
そっと柄に触れる仕草に、よっぽど気に入ったんだななんて思いながら、僕らは武器やを後にする。
その時、丁度おもちゃ屋から子供たちも出てくる所で、僕とシオンに気づくと満面の笑みで子供たちが近づいてくる。
「見てみてシオン兄ちゃん!レナグ兄ちゃん!」
「神父様に買ってもらったの!」
「杖買ってもらったよ」
「剣買ってもらった」
僕とシオンを囲いながらそれぞれが買ってもらった物を見せてくる。
僕はゆっくり近づいてくる神父の方を見て、申し訳なく口を開く。
「すいません。いくらでしたか?」
「構いません。お気になさらないでください……それよりも、そろそろ王城に行きましょう。
その前に、子供たちを中央教会に預けてからですが」
「そうですね……皆、次は中央教会に向かうよ」
『はーい』
僕の声がけに、子供たちが元気よく返事を返してから歩き出す。
神父の案内で進む僕たちは、離れないようにしつつ街を見渡す。
丘の上から見た時も、綺麗だと思ったが、道を歩くと細かな所まで視線が向く。
例えば、街に引かれた道。
土の道ではなく、白色のタイルがぎっしりと引かれ、時々見かける天使の絵が描かれたタイルも紛れていて飽きることがない。
そして、一定の間隔に置かれた電灯。
街の色合いや雰囲気に合わせて置かれていて、統一感がある。
子供たちも楽しそうに、タイルを見て歩いたりしている子もいれば、電灯を見上げている子もいる。
「くっくっくっ」
僕も周囲を見渡していると、横を歩くシオンが口を抑えながら笑いを堪えている。
「なんだよ」
「いや、別に……キョロキョロしてるお前を見てるとおかしくて」
「……」
再び笑い出すシオンに腹が立った僕が、拳を握りしめた時、神父が止まる。
「さぁ、着きましたよ」
「……」
「……」
正直、圧巻だった。
今僕たちの前にあるのは、外見からして丘の上から見た二番目に高い建物。
白を貴重にした建物で、近くで見て気づけたのは細かな花や小鳥、そして蔦や葉の彫刻がされていたことだ。
「……今日からここがジアンたちが住むお家だよ」
はっと我に返った僕は、いつもと変わらぬ微笑みで子供たちに話す。
僕の言葉で、不安そうにする子もいるが、そこはバイモやジアンがサポートしてくれる。
が、不意に裾を引っ張られ、僕は自然とそちらを見ればジアンとバイモの二個下のユカリがいた。
ユカリはとても静かで、自分のことはあまり主張することは無いのだが、珍しいこともあるものだと考えながら目線を合わせる。
「どうした?」
「ここに住むのは……レナグとシオンも?」
「いや、僕とシオンはここでは暮らせないかな……まだやらなきゃいけないことが沢山あるから」
「それ、全部終わったら会える?」
「うん。会えるよ……それまでジアンやバイモのことを助けてあげてくれる?」
「うん。いいよ……約束、絶対だよ?」
ユカリは頬を軽く染めながら小指を差し出す。
それを見て、懐かしいなんて思いつつ、ユカリの小指に自身の小指を絡めて、言うのだ。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます、指きった」
ユカリはそう言って楽しそうに笑う。
僕も笑いつつ小指を見た。
昔、破られたくない約束はこうやって交わすのだとロザマリアが言っていた。
「針千本なんて、すぐ集まるのですからね」、氷で作った針くらいの大きさの物を背後にいくつも造形しながら言っていた。
ユカリもロザマリアに習って、あんな圧を将来持つのだろうか……
なんて考えていると、トントンと二回肩を叩かれる。
「ほら、行くぞ」
「あぁ、うん」
「では、任せましたよ」
いつの間にか来ていた神父と同じ服装をしている青年とシスター姿の女性が、綺麗に神父に頭を下げている。
それから僕らは、再び神父に案内されつつも王が待つ城へと案内されるのだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
次回の投稿予定日は、5月18日になります。




