月の味・ぼくは魔王
月の味
「月って 、どんな味?」
「……砂の味がするよ」
「砂って、どんな味?」
「……鉄の味がするよ」
「鉄って、どんな味?」
「……
……血の味がするよ」
「……」
「月って美味しくないんだね」
「……」
2012/11/08 23:21
2012/11/08 23:59
*――
ぼくは魔王
砂が身体にまとわりつく。普通なら呼吸もままならないような砂の中で、僕は生きている。空には目玉焼きみたいな太陽が浮いていて、見ていておなかが空いてきたので目を閉じた。
「魔王さま」
「うん、ぅ」
僕を呼ぶ誰かの声。胸の上にあった手をあげると、手の中にあった砂がざらりとこぼれて僕にかかった。
僕の目に写るのは、なんだか可愛い人型の魔物女の子と、空にかざされた僕の手をおおう手袋だけだった。それくらい、女の子の体が僕に近い。
女の子は僕を冷たく見下ろしてくるから、僕がマゾだったら大喜びしていたと思う。
「魔王さま」
「やだ」
空、というか女の子に翳した手をそのまま落とす。動きたくない。
「前回勇者軍が攻めてきてから、もう七年たちました。最近、また人間が勇者軍を作っているそうですが……」
「好きにさせとけばいいのに」
だって、面倒臭いもの。それに、僕の睡眠時間は長いから、あと三年ぐらい寝なければ体もまともに動かない。
女の子は微妙な顔をしている。
「大体さ、最初はなんか理由があったのか知らないけどさ、今はただなんとなく戦ってるだけじゃん。放っておこうよ」
いい加減にしつこい。勇者は殺しても殺しても新しい勇者が出てくるし、魔王だってそうだ。二十七年前に先代の魔王が勇者に殺されたら、いつの間にか魔王とは全く無関係な僕が魔王にされていた。もう僕で七十七代目になる。数字のきりがいいのはちょっと嬉しいけど。
「お気持ちはわかりますが、そういうものなのです。あなたが眠っている間、あなたが起きているように見せて街を荒らすのも大変だったのです。
だからせめてあなたが起きていられる三年間だけでも、魔王らしくしていてください」
「面倒臭いなあ」
こんなルール、誰がつくったのか知らないけど、いつの時代も魔王がいて勇者がいる。人間と魔物は意味もなくいがみ合っているし、魔王も勇者も自分がいる意味を知らない。僕がそう知っているように、勇者だってこの戦いに意味も理由もないことを知っているだろう。でも、戦わなければならないの。そういうものなのだから。
理由もなく、ただただ回りつづける歯車になんとなく巻き込まれている僕ら。そういうものなのだ。
ため息をついて、僕は重い腰をあげた。
「ふはははは、愚かな勇者よ、また私に殺されにくるがいい」
魔王って面倒くさい。僕の体から流れ落ちる砂が、いつの間にか腰まで延びた髪に絡まっていくのを見ながら、そう思った。
2010年10月11日23時44分
2010年10月12日00時33分




