恋した金魚
青い水の中を漂うように泳ぐ、上等な金魚のような、君に恋をした。
いつも君はそこにいた。小洒落た街角に不釣り合いなプールの中。静かに息を吐き出す君は、何よりも美しく見えた。君に会いに行くと、僕はいつも、君の回りの人間に追い出される。上等な君とはすべてが違うんだ。君はなにもしなくても生きていけるけど、僕は盗みをしなければ生きていけない。そんなことは、わかりきったこと。
「また、あいつに会いに行くのか」
汚い、野犬みたいな男が笑う。脂と埃にまみれた髪、傷だらけの身体。僕はこいつが嫌いだ。全てに、わかったような口を利く。僕の恋が叶わないなんて、まだ、わからないのに。
「君には関係ない。好きにさせてよ」
野犬の男は、嘲笑ともなにともつかない笑い声を吐き捨て、僕を一度睨んでからその場を去る。ああ、腹が立つ。
角を曲がる。君のいるプールが見えた。心臓が跳ねる。足が、少しもつれた。
プールの水面が、静かに揺れている。ただ、それだけだった。君はいなかった。
「だから、言っただろう」
野犬の声が降ってきた。空を仰ぐ気にもなれなかった。
「金魚の寿命は短いんだよ」
「犬の癖に、なんでそんなことが言えるのさ」
「お前だって猫だろうが」
――そんなことは、わかってるよ。
頭の上から声を降らす犬の声を、僕はただ黙って受けていた。




