入室禁止
平は机いっぱいに広げられた研究資料へ目を落としていた。
古い文献。
地図。
魔法陣の設計図。
そして、誰にも見せたことのない手書きの研究ノート。
静かな部屋に、紙をめくる音だけが響く。
コンコン、と軽いノック。
しかし返事を待たずに扉が開いた。
「悪石、暇そうだな。」
マスターがひょいと顔を覗かせる。
平は資料から目を離さない。
「……ここは入室禁止だ。」
「あれ、そうだっけか。」
悪びれる様子もなく部屋へ入ってくる。
「貼り紙も読めないのか。」
「読んだけど、お前なら許してくれると思ってな。」
「帰れ。」
「冷たいなぁ。」
マスターは肩をすくめながらも、机の上に積まれた資料を見て口笛を吹く。
「相変わらず、とんでもない量だな。」
「……仕事だ。」
平は短く答え、再び資料へ視線を落とした。
「悪石……まだ、あの少女のことを根に持ってるのか?」
マスターの声に、部屋の空気が少しだけ重くなる。
「……」
平は資料から目を離さない。
「無視はよくないぜ。」
それでも返事はない。
マスターは苦笑しながら肩をすくめる。
「相変わらず頑固だな。」
しばらくの沈黙。
やがて平が静かに口を開く。
「……彼女が願ったことに、根は持たない。」
その声には怒りも憎しみもない。
ただ、どこか諦めにも似た静けさがあった。
「そうか。」
マスターもそれ以上は聞かなかった。
部屋には再び、資料をめくる音だけが響いた。




