手を差し伸べてくれたから
「……お前も、か。」
平は眉をひそめ、檻の中の天使族の少女を冷ややかな目で見た。
少女はその視線にも怯えず、小さく微笑む。
「ねぇ。」
鉄格子にそっと手を添える。
「僕を連れていってよ。」
澄んだ瞳が、まっすぐ平を見つめる。
「――忘却の英雄さん。」
平は小さく舌打ちした。
「……俺は英雄じゃない。」
「でも、みんなはそう呼ぶ。」
「勝手に呼んでるだけだ。」
少女は首を横に振る。
「違うよ。」
「英雄だから助けるんじゃない。」
一拍置いて、静かに笑う。
「君だから、助けてほしいんだ。」
その言葉に、平は初めて少女の瞳をまともに見た。
「平くん……なんで駄目なの?」
宝は納得できないというように平を見つめた。
「助ければいいじゃん。」
平は檻に視線を向けたまま、静かに答える。
「……奴隷は国の財産だ。」
「え……?」
「合法的に所有されている以上、勝手に連れ出せば誘拐でも窃盗でもなく、国家財産への侵害になる。」
宝は唇を噛む。
「でも……だからって!」
「感情だけで動けば、この村ごと敵に回すことになる。」
平の声はどこまでも冷静だった。
「助けたいだけじゃ、人は救えない。」
宝は何も言い返せなかった。
檻の中の天使族の少女は、そんな二人を静かに見つめていた。
平は檻の前で立ち尽くした。
奴隷は国の財産。
勝手に連れ出せば国を敵に回す。
それが現実だ。
だが――
脳裏に、あの日の光景がよみがえる。
冷たい雨。
誰にも見向きもされなかった自分。
そんな自分に、ただ一人、手を差し伸べてくれた存在。
「……」
平はゆっくりと目を閉じる。
そして、小さく息を吐いた。
「……わかった。」
「えっ、いいの!?」
宝は目を丸くする。
「ただし、無茶はするな。」
平はラグラン銃を静かに握り直した。
「ここから先は、俺が責任を持つ。」




