マスターの依頼
それから数時間。
二人は雨の止んだ街道を歩き続け、ようやく少し栄えた村へと辿り着いた。
「平くん、ここは?」
「……俺の領地だ」
「えっ!?」
宝は目を丸くした。
「とはいえ、俺を『神殺しの英雄』なんて崇める狂人の集まりだ」
「そんなわけ――」
と言いかけた、その時だった。
「あっ! 悪石様だ!」
「悪石様ー!」
遊んでいた子どもたちが一斉に駆け寄ってくる。
「勉強教えて!」
「昨日の続きやろう!」
「今日は剣術も!」
平は面倒そうに息をつく。
「……後でな」
「やったー!」
子どもたちは嬉しそうに走り去っていく。
宝はくすりと笑った。
「すごく慕われてるじゃん。」
「……たまたまだ」
「絶対たまたまじゃないよ。」
平は何も答えず歩き続けた。
やがて二人は村の一角にある小さなカフェへ入る。
店内にはコーヒーの香りが漂っていた。
「おう、悪石。おかえり。」
声をかけてきたのは、帽子にサングラスというラフな格好の中年男性だった。
村人たちは彼を”マスター”と呼んでいる。
「悪石……その子は?」
先ほどまでの気さくな表情が消え、真剣な眼差しを平へ向ける。
「あ、私は――」
宝が自己紹介しようとすると、
「彼女か!!」
マスターは勢いよく身を乗り出した。
「ついに彼女できたのか、お前!」
「違う。」
平は即答した。
その後、平は宝の事情を簡潔に説明する。
「なるほどな……。」
マスターは腕を組み、小さく頷いた。
「悪石、悪いが依頼がある。」
「依頼?」
宝が首を傾げる。
「宝ちゃんは知らない方がいい話かもしれない。」
マスターは気遣うように言う。
しかし宝は一歩前へ出た。
「私も行きます!」
「……まあ、宝ちゃんがそう言うなら止めはしない。」
マスターは平を見る。
「依頼内容は――奴隷商の見回りだ。」
店内の空気が、一瞬で張り詰めた。




