第三話「ローレライの伝説」
カスパルは、もう一日、宿に泊まることにした。
ローレライの岩の近くで、もっと川を見たいと言った。
エルザは、宿の仕事の合間に、カスパルと話した。
「ローレライの伝説を知っていますか」とエルザは言った。
「知っています」とカスパルは言った。「岩の上に女がいて、歌を歌う。その歌に引き寄せられた船頭が、川に沈むという」
「そうです」とエルザは言った。
「怖い伝説ですね」とカスパルは言った。
「この川を知らない者には、怖い伝説です」とエルザは言った。「しかし、この川で育った者には、少し違う話に聞こえます」
「どう違いますか」
「この川の急流は、本当に危ない」とエルザは言った。「歌がなくても、知らない者は沈みます。だから、歌のせいにしたのかもしれません」
「川が危ないことを、伝えるための伝説だと」
「そう思っています」とエルザは言った。「父にそう教わりました。伝説には、必ず本当のことが隠れていると」
カスパルは、ライン川を見た。
「あなたのお父上は、船頭ですか」
「そうです」とエルザは言った。「この川を、四十年渡ってきた人です」
「川のことを、よく知っている」
「よく知っています」とエルザは言った。「川の底まで、知っています」
「あなたも」
「少しは」とエルザは言った。「毎日見てきたので」
川が流れていた。
ローレライの岩が、川の上に立っていた。
秋の光を受けて、赤く染まっていた。
「音楽に、その話を入れたいです」とカスパルは言った。「伝説の怖さではなく、川の本当の話を」
「川の本当の話を、音楽にできますか」
「できると思います」とカスパルは言った。「あなたが教えてくれれば」
(第三話 了)




