第四十話
「またね」
同窓会が終わり、マヤは一足先に、家へ向かっていた。
カイに会えなかった分、早めに家へ帰って、ピアノを練習しようと思っていた。
ナナカとユウマは、二人きりの方がいいだろうと、マヤが、二人で帰らせていたのだった。
いつもより早足で、帰り道を歩く。
「…………カイ?」
まだ花火が打ち上がる中、向こう側から人が走って来ていた。
花火の明かりに照れされて、その人物が、カイだという事に気づく。
よっぽど急いで来たのか、髪は乱れ、身なりは余り整ってはいなかった。
「……久しぶり……やね」
カイは、自信なさげに、俯いている。
マヤはそんなカイが不思議で、顔を覗き込むようにした。
「あっ……ごめん、俺、作業してた時のまま来た」
「顔、変わってないね。相変わらず美顔なようで」
「マヤ……こそ。変わってない」
マヤは、カイに再会出来たことが嬉しかった。
けれど、マヤから見たカイは、昔よりも、衰えて見えていた。
「仕事、何してるの?」
「……小説家」
「すごい。夢、叶ったんだね」
「だけど、売れてない。やっぱり、上手く行ってたのは最初だけやった」
「……まぁ、皆最初はそうだよ」
人通りの少ない道には、冷たい風が、よく吹いていた。
マヤには、この状況をどうすればいいのか、分からなかった。
気持ちを伝えるべきなのか、カイに任せるべきなのか、迷っていたのだ。
「五年後に戻るって約束、守ってくれてありがとう。同窓会いなかったから、ちょっと不安だった」
「ごめん、締め切りがもうすぐで……」
カイは、一人で過ごした時間が長かったせいか、人との話し方を忘れかけていた。
元々の性格もあるのか、言葉がすぐに出てこなかった。
きっとマヤを、混乱させてしまっているのだろうなと、カイは罪悪感を覚えていた。
「……この前ね、サキのお墓参りに行ってきたの」
カイが俯いたままの中、マヤは中学生の頃のように、サキの話を始めた。
「お墓に手を合わせた時、急にいろんな思い出が溢れ返ってきて。サキが生きてたら、この四人にサキもいたのかな、とか」
「サキが、この先も生きているって想像しか、出来なくてね。きっとまだ、信じられてないんだと思う」
「……最近は、体調も良いし、動悸がする事もない。だけど、カイ達よりも、早く死んじゃうんだろうなって、思う時があって」
「サキに伝えるんだったら、もうすぐそっちに行けるかもしれないって、少しだけ……明るい気持ちで言える。でも、それじゃダメなのは、分かってるの」
「もっと自分を大切にして、治療に励んで……私は、長生きしたいのかなって、考える。大事な人が、いるんだったら、長く生きようって……思えるのかなって」
「いるのにね……カイも、ナーちゃんも、ユウマも……親だって、大事な人なのに……ね」
そう言うと、マヤは微笑みながら、涙を流していた。
「暗い話、したいわけじゃないの。カイに会えたのが、嬉しくて……でも、サキに引っ張られてる……サキが、どんな気持ちで私を見てるんだろうって」
「私だけが、こんなに幸せになって……いいのかな」
ナナカとユウマは、同窓会が終わった後、マヤの後をつけていた。
「ねぇ、これストーカーだよね」
「絶対……絶対カイが来る。俺のアンテナが、そう言ってる」
「……意味分かんないけど、そうなったらいいな」
ユウマの予想通り、マヤの前には、カイが現れていた。
「……カイ、病み上がりなの……?」
「小説家って、大変なんだな」
二人は、今すぐにでもカイを連れ出して、身なりを整えてあげたいくらいだった。
けれど、マヤのためにも、今は我慢をしていた。
「あ、マヤ泣いた」
「え? な、泣かせたわけじゃ……ないよな」
「違うと思う。マヤが勝手に泣いた。多分、サキの事だ」
「……やっぱ、忘れられないのかな」
「そうだと、思うよ。マヤにとっては、それほど、大事な人なんだよ。サキの話が出来るのも、カイの前だからだと思うけど」
「……どう言う事?」
「カイも、サキと同じくらい、大事な人……って事」
ナナカは、マヤと長い付き合いなだけあって、マヤをよく理解していた。
マヤがサキの話をするのは、ナナカやカイ達の前くらいだった。
大事な人だからこそ、自分の気持ちに素直になる事が出来る。
マヤが、心を許せるのは、それほど、信頼しているからなのだった。
「突撃したいくらいだけど……我慢我慢」
「俺らも、アラサーら辺になったら、結婚するかぁ」
「そうだなぁ……ユウマが、大学卒業してから、って感じ」
「トリマー、楽しい?」
「楽しくなかったら、選んでない」
「そりゃ、そうか」
マヤとカイが向き合う中で、ナナカとユウマは、将来の話を進めていたのだった。
「……マヤが幸せじゃなきゃ、サキさんは、悲しむ」
カイは、勇気を出して、重い口を開いた。
今しか、伝えられる瞬間は、ないと思ったのだ。
「自分だけが幸せになっちゃいけないなんて、言われてないやろ? マヤの幸せを……サキさんに、分けてあげればいい」
「幸せの共有って、そう言う事なんやないの……?」
顔を上げ、マヤに向かって話すカイの姿は、誇らしげだった。
「……俺は、マヤを幸せにしたい」
「いつ成功するかなんて分からへんし、もしかしたら、途中で折れるかもしれん。それでも、マヤに対する気持ちは、いつまでも変わらん」
「今も、変わってない」
マヤは、カイの言葉を聞いて、修学旅行の前日の事を思い出していた。
誰もいない廊下で、気持ちを伝えてくれたカイの姿を、マヤは、今でも覚えていた。
カイの熱心さは、あの頃から変わっていないのだと、マヤは確信した。
そして、溢れる涙を拭い、マヤも一歩、勇気を踏み出したのだった。
「……私も、好きなままだよ」
マヤがそう言った瞬間、空に大きな花火が打ち上がる。
花火の優しい光に照らされた二人は、お互いの顔を見て、微笑み合う。
「髪の毛ぐらい、整えて来てよ……」
「マヤだって、涙で顔ぐちゃぐちゃやで」
「……ま、お互い様か」
「サキも、花火見てるかな……」
「おめでとうって、言ってるんちゃう?」
「……そうかも」
二人は花火を見上げながら、並んで歩き出す。
それを見ていたナナカとユウマは、この二人は運命同士なのだと、確信していた。
「はぁ……なんで私が泣いてんだか」
「まじで運命じゃん……すごいもん見た気がする……」
「ていうかさ、ちゃんとレポート、終わらせて来た?」
「…………ちょっと、だけ」
「は? ……バカじゃん」
「早くナナカに……会いたかっただけ」
「……ば、バカ!!」
マヤ達に対抗するように、ナナカとユウマも同じくらい、運命同士なのだった。




