第三十九話
ヨウスケとマサヒコは、同じ職場にいた。
マサヒコにとっては、五年ぶりの職場なため、新人が入って来ていたり、前とは違った新鮮味を感じていた。
「マサヒコさん、窓から花火大会、見えますよ」
「そうなの? 仕事がひと段落したら、見ようかね」
職場の大きな窓からは、丁度良い位置に花火を見る事が出来た。
ヨウスケは、マヤが同窓会へ行っていることを思い出す。
「カイくんは、同窓会、行ってるんですかね?」
「あー……多分、家にいるんじゃないかな」
「大人数で集まるの、得意じゃなさそうですもんね」
「そうなんだよ。一匹狼みたいな感じでさ、何でも一人で解決したがる」
「それも、カイくんの強みに、なってるんじゃないですか?」
「……うん、そうだといいね」
マサヒコは、カイが一人行動を好む事に、少し不安を抱えていた。
自分で解決しすぎる余り、周りに頼る事がない。
そして作家となれば、余計に人間と関わる機会が減ってしまう。
マサヒコは、いつかカイが引きこもってしまうのではないかと、不安だった。
誰かが、側にいてくれればいいのにな、とマサヒコは、心の中で思っていた。
「モカちゃんだ! なんか、綺麗になってる……」
「そう言うマヤちゃんこそ、元気そうで良かった」
「今は、結構調子良い」
マヤは、同窓会に来ていた。
久しぶりに見る皆の顔は、懐かしく、成長を感じていた。
それでも、違和感があったのは、誰かが、足りなかったからなのだろう。
「カイ、いないね」
「……ユウマ、カイの家行ってきてよ」
「あいつ、今一人暮らししてるらしいよ」
「え……一人暮らし?」
「マヤちゃん! こっち来てー!」
「ほら、モカちゃんが呼んでるよ」
「ごめん、ちょっと行ってくるね」
「……何。一人暮らしって」
「小説を書きやすい環境が欲しいって言って、いち早く神奈川戻って一人暮らし……って感じらしい」
「……バカなの? なんで、同窓会来ないの」
「さぁね。忙しいんじゃない?」
ナナカは、心のどこかに、悔しい気持ちがあった。
なぜ、何も教えてくれなかったのだろうと、疑問に思ってしまったのだ。
わざわざ、一人で神奈川県に戻って来て、誰にも会う事なく、一人暮らしを始めるなんて。
カイならやりそうな事だけれど、カイらしくはない。ナナカはそう、思っていた。
「……まぁ、カイが自分の足で来なきゃ、意味ないか」
「うん。まだ、気持ちが追いついてないんだろ。急に小説家になって、一人暮らしして。俺だったら、そんなの無理」
「私も、無理だわ」
ユウマは、カイが自分の気持ちに正直になってくれるのを、待つ事にしていた。
カイは、一度は失敗してしまった告白を、やり直したいと言っていたのだ。
中学生時代、マヤに「好き」と言われた時、正直な返事をする事が出来なかった。
本当は、付き合うという選択肢を、取りたかった。
けれど、関西に戻ってしまうのに、気持ちだけを残して行くわけにはいかないと、思ってしまった。
それなら、一度心に秘めたまま、神奈川県に戻ってきた時に、また伝え直そうと、思っていたのだった。
まさに今日は、それが出来る日だと言うのに、当の本人はいない。
ユウマは、どうしたものかと、頭を抱えていた。
「カイもさ、これからやっていけるんやろかって、心配になるんよ」
大人居酒屋にいる三人は、まるで相談会かのように、アツシと話をしていた。
花火大会があるからか、大人居酒屋にいる人はいつもより、少なめだった。
アツシは少し余裕があったため、折角ならばと、三人の話を聞く事にしたのだ。
「あの子、小説家になったんやけど。一冊目の売れ行きは良かったのに、二冊目は上手く行かなかったんよね」
「それだからか分からんけど……急に熱中するようになってしもうて、こっちには見向きもしてくれへん……」
「……大丈夫なんやろか、あの子は」
カイには、負けず嫌いな面があった。
一度失敗すると、それが成功するまで、何度でもやり直す性格だった。
その性格がゆえに、一つの物事に熱中してしまうのだろう。
ユミコはそれが、悪い方向へと行ってしまわないかと、疑っていたのだ。
「小説家って、すごいですね。きっと、息子さんも……家族を想って、頑張ってるんじゃ、ないですかね」
「もし、小説家になる事が夢だったら、それを上回る夢が、今はあるのだと思いますよ」
「……見守ってあげるのが、家族の役目なんだと、思います」
「……なんか、妙に説得力あるんよなぁ」
「分かる。アツシさんは、本当の事しか言ってない感じがして、実際に体験した事がある……みたいな」
「……アツシさんって、いくつやったっけ」
「あ、今年で三十二です」
「ほう……三十二」
「お母さん、別に無理に探さんくても、ええから」
「え何? もしかして彼氏出来たん!?」
「…………いや、別に?」
「おめでとうございます」
「アツシさん!?」
アコは、ユミコとユイを見て、家族の偉大を感じていた。
少しずつ酔いも覚め、二人を見ている内に、マヤやヨウスケが恋しくなっていた。
そう思えるのが、良い家族なのだろうかと、アコは思った。
「お、花火の音する」
「さっき見に行った時は、まだやったもんな。帰り際に、行ってみよか」
「お家、近いですし、一緒に帰りますか?」
「アコさん心配やし、そうします」
「……ユイちゃんも、ほんとに大人になったんだね……」
「ま、この子アラサーなんでね」
「やめてってば……」
「三人とも、また顔出して下さいね」
「くだらん話聞いてくれて、すみません。いつも助かってます」
「いえ、次は、ご家族で……は、多すぎますかね?」
「行ける行ける! 全員成人したんだし、次はそうしましょ」
「アコさん、頼もしいな」
まるで三姉妹のように、三人は笑い話をしながら帰り道を歩く。
血は繋がっていなくとも、大人同士、ここまで仲良くなれるものなのだと、アコは思っていた。
「花火、綺麗ですね」
「成人祝いの花火やのに、ここにはいないってのがね」
「じゃあ、ユイちゃんの彼氏祝いで!」
「そうしよか!!」
「もう、アコさんまで……あ、ありがとうございます」
帰り道を歩く三人の後ろ姿は、いつもより楽しげに見えた。




