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風が吹いたら  作者: 和林
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第四話

 カイは、ユイに勉強を教えてもらっていた。


 こういうときに、姉が頼れるのだと、カイは思う。


「これは、こうやるんや」


 そう言うとユイはものすごいスピードで解説を始める。


 カイは小さい頃から教えてもらっているせいか、その解説がよく分かった。


 浜代家は、新築の一戸建てに住んでいる。


 まだ建てたばかりで、ローンも組んだばかりの為、壁は真っ白で、フローリングも綺麗だった。


「カイ、カイ! 聞いとる?」


「あ、うん、ちょっと考え事しとった」


「そうか。ちょっと休もか」


「うん」


 ユイは、さっぱりとした性格をしていた。


 好きなことはとことんやる、嫌なものは手をつけない。そんな人だ。


 カイは、人前で関西弁を話すことを、恥ずかしがっていた。


 周りのみんなは標準語なのに、自分だけ関西弁なのが嫌だった。


 ユイは、最初はカイに同意していた。


 けれど、高校見学が終わったあと、やはり、姉らしく、「素直なカイがいい」と言った。


 カイは、迷って、悩んだ。


 その結果、友達だけにでも、本当の自分で話そうと決めたのだった。




 ユウマは少しだけ上の空でいた。


「カイが……関西弁」


 整った顔をしたカイが、関西弁を喋っている所を想像すると、やけにうずうずした。


「ごめん、やっぱ変?」


「いや、そんなことない」


 ユウマはきっぱりと言った。


「それが、カイのギャップ」


「……ギャップか」


「お前、もう既にモテてるけど、そのギャップがあればさらにモテる」


「いや、モテてない。ていうかユウマに言われたくないし」


 お互いにお互いのことは分かっているつもりだ。


 しかし、自分がモテているのはいつまで経っても分からないでいるのだった。


「ちょっと、会話しよ」


 ユウマは関西弁に興味津々なようだった。


「ユウマ、志望校決めたんか?」


「ま、まぁ。なんとなくは」


「俺はな、なかなか決まらんのや。先生に偏差値高いとこ勧められるんやけど、なかなか勇気が出ん。なんせ、この辺の私立はつまらん」


「……お、おぉ」


 ユウマは感動した。


 関西弁に、ではなく、カイが関西弁を喋っている所に、感動したのだ。


 カイが関西人なのを打ち明けてくれたことを、ユウマは誇らしく思った。





 マヤは、心が揺らいでいた。


 もうすぐ十月になろうとしていた頃、マヤには気になる人が出来たのだ。


「……カッコイイ」


 一人教室の窓を眺める。


 その先には、楽しそうに鬼ごっこをしている少年の姿があった。


「マヤ、入ります」


「お、ナーちゃんか」


 マヤはスっと窓から目線を逸らす。


 そして、気になっているのが分からないように、ナナカに聞いた。


「ナーちゃん、あの人、なんて名前?」


「あぁ、トウマ。波田(ハダ)冬馬(トウマ)。」


「え、あの人が波田さんなの!?」


「ん……え? どした?」


 マヤは、とある噂を耳にしていた。


 その噂は、トウマに関する噂だった。


「波田って、スタイルいいよね。しかもかわいい童顔! 天才……」


 ナナカが言う。


 マヤは、心の中でとてつもなく同意していた。


「で。なんでそんな驚いた?」


 ナナカは容赦なく聞く。


 マヤは渋々答えた。


「なんか、ほんとに、ほんの噂なんだけど」


「早く」


「お父さんが、有名な人らしくて。でも、名前は誰も知らないんだって。顔も見たことないから、ただの噂」


「見たことないって、見た人がいないってこと?」


「そう。朝早く出てるのか、いつも家にいないらしい」


「マヤ、それ、どこで聞いた?」


「この前、久々に部活行ったの。そしたら、知らない後輩いっぱいいた」


「バド部、一年生たくさんいたもんね」


「モカちゃんが、私の事紹介してくれてて。みんな挨拶しに来てくれた」


「優しいねぇ」


 嬉しそうに話すマヤを、ナナカは母親のような顔で見つめた。




 カイは、修学旅行の班行動で、班長を任されていた。


 中学校生活最後の宿泊体験とだけあって、気合いが入っていた。


「お姉ちゃん」


「どしたん」


「修学旅行の班長任されたんけど」


「おお! よかったやんか」


「……好きな人と、班同じ」


 ユイは驚きすぎて元々大きな瞳がさらに開いている。


 カイは、好きな人など作らない性格だった。


 まず、好きという概念をあまり知らなかった。


「す、す、すすす、好きな人!?」


 ユイは上手く呂律が回っていない。


「お姉ちゃん、落ち着いてや」


「あ、うん」


 カイが声をかけると、瞬く間にユイは平常心を取り戻した。


「で、誰? 好きな人誰や?」


「えと……この人」


 カイは体育祭のときの写真を見せる。


「うわっ……綺麗」


「せやろ!?」


 カイはバッと立ち上がると、そわそわしだす。


 よく聞こえないが、ブツブツ何かを言っているようだ。


「どうしよう……どうしよう……嫌われるかも……あぁぁ……」


 カイは、恋愛に全くと言っていいほど慣れていなかった。


 どうアタックしたらいいのか、分からないのだ。


 カイは、姉を頼った。


「お姉ちゃん、どうすればええ?」


「いやぁ……そう言われてもなぁ」


「お願いや! 一生のお願い! お姉ちゃんは、こういうときしか頼れないんや! 助けてくれ!」


 ユイは、静かに傷を負いながら、カイと一緒になって考えた。


 話しかける方法、仲良くなる方法。


 でもそれは、教室に来ていない好きな人には、無理なことだらけだった。


「無理や。あの子は、教室来とらん」


「その子は、学校にも来てないんか?」


「……いや、来とる。違う教室で勉強しとった」


「じゃあ、カイがそこに行けばええんや!」


「は!?」


 ユイのあまりにもぶっきらぼうな考えに、カイは少し、姉の頭の良さを疑った。


 しかし、冷静になってみると、いい考えかも、と思った。


「それ、ええな」


「そやろ?」


「口実もつけられるな。班長やから」


「おおお、ええんやない?」


 ユイは、子供に戻ったようなテンションで喜んでいた。


 カイは、姉の新たな顔を知れたな、と、嬉しくなった。




「うっ……」


 マヤは、学校から帰って来て、少し息苦しさを覚えた。


「……疲れてるのかも」


 そう思い込み、ベッドに顔を埋めて眠った。


 マヤは、ずっと気になっていた。


 いつもいる、あの人。


 それは、カイのことだった。


 トウマのことも気になる。だが、カイのことも気になっていた。


 恋愛的な意味ではないのだ。すこし不思議がっているという意味で、気になっていた。


「んー、やめよ」


 考えれば考えるほど分からなくなって、マヤは、アコに起こされるまで寝ていた。


「お母さんってさ」


「ん?」


「お父さんとどこで出会ったの?」


「ええとねぇ、職場」


「どこの職場?」


「海外の職場だよ」


 初めて聞く話だった。


 いつもたくさん、自分が産まれる前の話を聞いていたが、結婚する経由を聞くのは、なぜだか抵抗があった。


 お母さんとお父さんの時間軸に、入り込みたくなかったのだ。


 結婚の話は、二人だけの話。ずっとそう思っていた。


「じゃ、ご飯にしよう」


 今日の夜ご飯は、お父さんの好きな、ピーマンの肉ずめだった。


 そして、マヤはふと思い出す。


「あれ? そういえば、修学旅行の同じ班に、浜代さんって人がいるんだけど」


「あ! そうそう! 浜代さんのとこのお父さんと、ヨウスケさん、同じとこで働いてるんだよ」


「え、そうなの?」


「でも、ヨウスケさんは出張で手伝いに行ってるだけだから」


「そうなんだ……」


 そのときマヤは、少しだけ、胸が高まった気がした。

エセ関西弁許してくださいませ…。

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