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風が吹いたら  作者: 和林
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第三話

 カイは、ユウマの家にいた。


 ユウマが、話があると言い出したのだ。


「え、まさか絶交……とかじゃないよね?」


「いや、そんなわけない」


 カイは内心ほっとする。


 そして改めて、ユウマの話とやらを聴き始めた。


「陸部、やめようと思って」


 ユウマは、拳を握りしめながらそう言った。


 カイは、じっと話を聴いていた。


「なんでかっていうと、まぁ、自己中かもしれないけど、一言で言うと、疲れてしまった」


「なんか、放課後、毎日のように走って、走って走って……」


「そんなことするより、大会に出るより、受験が大事だと思った」


 そう言い切ったユウマは、清々しい顔をしていた。


 それをカイは、何かを決意した、勇者のような顔だと思った。




 マヤとナナカは、少しだけ喧嘩をした。


 喧嘩といっても、それぞれの話が噛み合わなかっただけである。


「……やっぱり、ナーちゃんには分からないこともあるんだ」


 マヤは、強く反省していた。


 喧嘩の発端は、マヤだった。


 放課後の教室で、マヤは言った。


「ナーちゃんさ、受験生なのに恋愛して大丈夫なの?」


「……マヤ。恋愛は、心の支えなんだよ!」


 そう言うとナナカは、語りだした。


 それにマヤは、少しだけ、ほんの少しだけ、腹を立てたのだ。


「ナーちゃん。もういいよ……」


「マヤ、よく聞いて! マヤも、恋愛するんだよ!」


「……ナーちゃん!」


「え、何?」


「ナーちゃんは、クセがあるの。語りすぎるクセ。ちょっとだけ、うるさい」


「……ごめん、でも、マヤが言い出したじゃん」


「そうだけど」


「うるさいと思うなら、聞かなきゃいい」


「うん。途中から聞いてなかった」


「……そうか」


 少し不穏な空気になった後、ナナカはさっと教室を出ていってしまったのだ。


 マヤは嫌な予感を覚えた。


 これが、絶交か。


 と言っても、こんなこと日常茶飯事だった。


 小さい頃から毎日のように喧嘩をして、ナナカが絶交と言い出すと必ずどちらかがその場を去った。


 でも次の日には、そんなことすっかり綺麗に忘れているのだった。


 それが、マヤとナナカなのだ。


 マヤは、一人残された教室で、ゆっくりと伸びをしていた。




 次の日、予想通りナナカは普通だった。


 きっと昨日のことなど、ナナカにとっては日常会話のようなものなのだろう。


 学校へ向かい、廊下を歩いているところで、ユウマに会った。


 ナナカは職員室に用があると言って、先に教室へ向かっていた。


「あ、宇美床さん、おはよう」


「おはよう……」


 ユウマは、とてつもなく美形だった。


 自分では気づいていないらしいが、カイに少し似ていて、綺麗な顔立ちをしていた。


 マヤはふと、聞いていた。


「石川さんて、浜代さんと双子……?」


 まさか。というように、ユウマは少し戸惑いながら笑った。


「俺はカイとは違うよ。カイは、なんでも出来るから」


「そうなの?」


 カイは、優秀すぎるほどに優秀だった。


 頭が良く、模試はいつも上位をキープしていた。


 運動神経も良く、引退したサッカー部ではエースを務めていた。


「そう。だから、カイと俺は違う」


「……へぇ」


「マヤ!?」


 後ろから驚く声が聞こえてきた。


 その正体は、思った通り、ナナカだった。


「あ、ナーちゃん」


 ナナカは、ユウマとマヤの顔を交互に見たあと、マヤの腕を掴んでズルズルと遠くへ引き連れた。


「マヤ……何してた? 何話してた?」


「え、普通に、おはようって」


「……ほんとに?」


「うん、ほんと」


 マヤはにひっと笑う。


 その笑顔は、窓からのそよ風で、余計綺麗に見えた。




 マヤの母、亜子(アコ)は、一人頭を抱えていた。


 マヤの志望校が、いつまで経っても決まらないのだ。


 夫の洋介(ヨウスケ)は、海外赴任でイギリスに行ってからまだ帰ってきていない。


 マヤはひとりっ子なのだ。


 だから、マヤのことを考える時間はあるのに、あまりにも選択肢が多い為に、とてつもなく困っていた。


「はぁ……どうしたらいい」


 そのとき、アコの携帯電話が鳴った。


 ヨウスケからだ。


「……もしもし」


「アコさん、大丈夫? 元気?」


 電話の向こうのヨウスケは、忙しそうだった。


「……うん。マヤの、志望校、決まらない」


「そっか……」


「ごめん、忙しいのに。電話くれてありがとう」


「ううん、今、ちょうど休憩」


 アコはきっと嘘だと思った。


 休憩しているようには思えないほど、パソコンの機械音が聞こえていた。


 それでもヨウスケは、休憩していると言い張った。


「マヤの志望校は、みんなで考えよう」


「……そうだね。ほんと、私ってだめね……」


「そんなことないよ、アコさん」


 ヨウスケは、優しく言った。


 アコは、二十八歳でヨウスケと結婚した。


 ヨウスケは、アコより三歳年下の、二十五歳だった。


 その為、ヨウスケはアコのことを、「アコさん」と呼んでいるのだ。


 アコは電話を切ったあと、少し休憩を挟むことにした。


 ヨウスケがイギリスから送ってくれた紅茶を入れ、日が差し込む窓の近くに座った。


 その姿は、今にも消えてしまいそうなくらい、幻想的だった。




 マヤは悩んでいた。


 先生に、「修学旅行の班で、決めることがあるから、教室に来ない?」と、言われたのだ。


 本当は行きたくない。だが、行かないと決められないのだ。


 先生に行きたくないことは伝えているが、先生は粘った。


 ナナカにも相談して、先生を説得したが、結果的に、半強制的に教室に連れていかれた。


「マヤ! 久しぶり」


「久しぶり」


 友達とは言えない、知り合い程度のクラスメイトが次々に話しかけてくる。


 マヤは、半分嬉しく、半分悲しかった。


 みんなが自分を受け入れてくれていることは嬉しい。


 だが、先生が自分の意見を受け入れてくれないことが、少し悲しかった。


 班で決めることは、すぐに終わった。


 個人学習の教室に戻ろうとしたマヤを、ナナカが止めた。


「もう少し、居て」


 ナナカは小声でそう言った。


 机を班の形にして座っていたのだが、ナナカの前の席には、ユウマが座っていたのだ。


 だからか。と、マヤは妙に納得した。


 班の間に少しの沈黙が流れたあと、最初に口を開いたのは、同じ班の女子、モカだった。


「あっ、マヤちゃん」


「ん?」


「ホテルで寝るときの部屋、一緒!」


「私も同じ!」


 ナナカが乗っかるように言う。


「ほんと!? 嬉しい!」


 マヤは少し盛るように言った。


 ナナカ以外の人には、素の感情を出せないでいた。


 それほどマヤは、ナナカが大切だった。


 その後の班は、ほぼ女子会と化しており、男子二人はコソコソと話をしていた。


 マヤとモカは仲を深め、ナナカと三人で遊ぶ約束までした。


 マヤはついさっきまで悲しかった感情が、まるで嘘だったかのように、その場を楽しんだ。

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