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風が吹いたら  作者: 和林
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第三十四話

「それでさ。親父、怒っちゃって」


「そうなんだ……大変だね」


 マヤは、順調に、トウマとの仲を深めていた。


 あの時とは違い、恋愛的な感情は、マヤには全くなかった。


 トウマは、フレンドリー気質なところがあるため、マヤも関わりやすかったのだ。


 二人は、ほぼ毎日学校で話していくうちに、周りから噂をされるようになった。


 それも、悪い噂ではなく、よくある、付き合っている疑惑、などの噂だった。


 その噂を、ナナカも、ユウマも耳にしていたが、マヤは全否定をしていた。


 対するトウマは、マヤに恋心を抱いている、と話していた。


 ユウマと同じくらい鈍感なマヤは、それには気付いていなかったのだが。


「宇美床、途中まで一緒に帰ろ」


「うん」


 マヤは、自分と話していると、トウマが笑顔でいてくれる事が、嬉しかった。


 トウマの顔を見ていると、ふと、カイを思い出すのだ。


 今は連絡を取っていないため、向こうの状況は全く分からない。


 けれど、元気でいてくれればそれでいい、とマヤは思う。


 カイに慣れすぎていたのか、トウマの恋心にマヤが気づく事は、到底なかった。


「……浜代ってさ、引っ越したの?」


「あ……うん。大阪に行っちゃった」


「宇美床って、浜代と仲良かったよね」


 カイとの仲を、過去形にはされたくないと、マヤは思ってしまう。


 確かに顔は合わせてないけれど、心は繋がっているはずだと、マヤは信じていた。


「ナーちゃんが、いたからだよ。そうじゃなかったら、カイとは話してなかったかも」


「……俺の事、どう思ってる?」


「ん? どう……面白くて、話しやすい?」


「好きって言ったら、嫌いになる?」


「……いや……そんな事は、ない」


「好き」


 トウマは、マヤの唇に人差し指を当てる。


 そして、口だけを動かし、「ひみつ」と伝えたのだった。




「どう考えても女たらし」


「……なんか、すっごいドキドキした……久しぶりに」


「久しぶりに?」


「……カイの時以来」


「あそ……とにかく、波田には気をつけた方がいい。絶対、女たらし」


 ナナカは、トウマの実態を知っていた。


 しかし、マヤがそれを簡単に信じるはずもなく、ナナカは、どうしたらいいものかと、頭を抱えていた。


「でも……いい人だよ? 話聞いてくれるし、聞くだけじゃなくて、話してくれるし……波長が、あってる」


「そういう、テクニック」


「もしかして……運命だったり、する?」


「聞いてんの? てか、マヤの運命の相手は、カイでしょ」


「あ……そか」


 ナナカは、余計にマヤが心配になってきていた。


 放っておいたら、いつの間にかトウマと駆け落ち。なんて事が起きそうなぐらいに、マヤはトウマに惚れ惚れしていた。


「中学の時思い出す。マヤ、波田に惚れるの二回目だよ」


「あの時とは違う! 今は、ちゃんと会話してる」


 やはり、マヤは自分の世界にのめり込んでいるのかと、ナナカは少し呆れ始めていた。


 それを察したかのように、マヤが口を尖らせる。


 カイがいない時に限って、どうしてこうなってしまうのかと、ナナカは思っていた。


「波田くんが、今度家に連れて行ってくれるって! 二人で、ちゃんと話そうって……プロポーズ?」


「……ばか」


「え、なんで! いい事じゃないの? 家に連れて行ってくれるって……」


「襲われるとか、考えた事なかったの? 波田は、そういうやつなんだってば」


「……襲われる?? 喰われるって事?」


「まぁ、あながち間違ってない」


 マヤは少し身震いする。なぜか今になって、我に返り始めているようだった。


「はぁ……二人でちゃんと話そうって、別れようって事だったのか」


「いや、何でそうなった?」


 我に返ったのかと思ったマヤは、ナナカの解釈とは違う、返り方をしていた。


「別に、付き合ってるわけじゃない。だから、噂されるのが嫌になって……みたいな」


「……それって、マヤの方でしょ」


「うっ、バレたか」


 マヤは、間違っている情報を噂されている事に、嫌気が差していた。


 好きとは言われたが、はっきりとした返事をしたわけではない。


 二人で話そうというのは、きっとその事なのだろうと、マヤは思った。


 マヤには、トウマと付き合うという選択肢は、全くもってない。


 それならば、しっかりと、トウマを振るべきだと、マヤは思っていた。


「振るわ!!」


「そんな気合い入れて言われても……」


「私には、カイがいるんだ。波田くんは……友達以上恋人未満!」


「それって、友達じゃないって事じゃ」


「いや、友達。波田くんは友達!!」


 マヤはそう言うと、ナナカに向かって、トウマに一言振ってくる、と言い渡したのだった。




 ユミコとマサヒコは、子供達が寝静まった後、リビングで向かい合っていた。


「……ほんまに、無理なん?」


「ごめん。俺も、部長にお願いしたんだけど」


 ユミコは、カイが暁星高校へ行きたがっていた事を知っていたため、神奈川県に戻る事を、望んでいた。


 だから、どうして単身赴任が出来ないのかを、マサヒコに聞いていた。


「多分、こっちで過ごすうちに、神奈川での事は忘れていくやろ。それでマヤちゃん達との思い出、消えたらどうするん?」


「私だって、アコさんに会いたい思う時あるで。マサヒコも、そうやろ」


「……実は、さ」


「なんや」


「こっちでの仕事が、長引く可能性があるから、家族で引っ越せって、上から言われてた。でも俺も、それは嫌だったから、単身赴任でって、お願いした」


「そしたら……家族を置いて、大黒柱だけ逃げてどうするって、言われて」


「……なんやそれ、嫌味か?」


「単身赴任が長いほど、離婚率が上がるって……だから、こうした」


「そうか……マサヒコが、家族といる事を選んでくれたんは、よう分かった。……数年後には、戻れるんよね?」


「……仕事の、進み具合による……けど、できるだけ早く戻れるように、するよ」


 ユミコは、マサヒコを責めてしまったという、罪悪感があった。


 マサヒコは、一人で家族を置いて離れるのではなく、家族と一緒に過ごす事を選んだ。


 それはとても立派な事であり、逆に考えれば、責任のない行動でもあった。


 行動力を、どう活かすべきなのか。それは、浜代家の、永遠の課題である。


「私も、協力するし、カイだって、小説頑張っとる。ここが、私らの力の見せ所とちゃうか?」


「……ユイも、就職あるもんな。家族一丸、頑張るか」


 二人の会話を、こっそり聞いていたカイとユイは、密かに、両親への感謝をしていた。

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