第三十三話
ユウマは、ナナカの家へ遊びに来ていた。
「な、なんかさ……これ、大丈夫?」
ナナカの母、ミホもいる中で、ユウマは、緊張の糸が、張ち切れそうなくらいにまでなっていた。
「ユウマくん、だっけ? ナナカの事、幸せにしてやってよね」
「え、あ……はい」
これは一体、どういう意図の発言なのだろうか。と、ユウマは思った。
「ミホちゃん、私達そんな、重い感じで付き合ってるわけじゃないから」
「つ、付き合って……る」
「え? 付き合ってるよね?」
「はい、うん。そうです」
付き合うという言葉を前にして、ユウマは余計に緊張を感じていた。
そんな事はどうでもいい、とでも言っているかのように、幹田家の飼い猫、ラアとソラがやってきた。
「ラアちゃん、ユウマが気になるのかな」
「……かわいい」
「でしょ!? ウチの猫ちゃん、ほんとに可愛くてさ〜」
ミホは、まるで親バカのように、ベラベラと喋り始める。
ユウマはどうしていいか分からず、ただひたすらに、ミホの話に聞き耳を立てていた。
「そういうこと! ね、分かった?」
「ミホちゃん、愛が深すぎて、何言ってんのか分かんない」
「……俺、なんか、分かります」
ユウマは、段々と、ミホの言いたい事が分かるような気がしていた。
動物を守りたい気持ち、というのは、大切な人を守りたい気持ちに、どこか似ていたのだ。
「動物を保護する事って、すごくいい事だけど、難しいですよね……俺、ばあちゃん家で犬飼ってたんですけど、その犬も保護犬でした。もう死んじゃったけど、俺にとっては、大切な存在です」
「……ナナカ、良い旦那を見つけてきたね」
「い、良い旦那!?」
折角、感動的な話をしたはずなのに、それはミホの言葉により、存在感が薄れていた。
「ユウマは、何でも出来ちゃうから。やっぱ私、男見る目あったのかも」
「……なんか、あの……俺達って、結婚を前提に、みたいな感じなんですか?」
「え? ……そうじゃないの???」
ユウマが恥ずかしさを全て掻き消して言った言葉は、一瞬にして、ミホの発言に、圧倒されてしまったのだった。
「新人賞に、応募してみぃよ」
「……そんな、無理な事言われるとは」
カイは、超大作である、中学の頃から書いていた小説を、姉のユイに読んでもらっていた。
最後まで読み終わったユイは、感動で涙目になりながら、カイに新人賞への応募を強く、勧めたのだった。
「ほんまに感動した……ほんま、私の弟は天才か!」
「そこまで言ってくれるんやったら……応募してみようかな」
「うん、そうした方がええよ」
今の時代、ネットから新人賞へ、応募をする事が出来る。
なんて便利な時代に育ってきたのだろうと、カイは思った。
応募するにあたり、送る作品を隈なく確認していった。
誤字脱字、文章の構成にミスはないか、など、確認する事は無限にあった。
ユイにも手伝ってもらい、カイは、本当に超大作の、オリジナル小説を書き、応募をした。
結果は一週間後に届く。それまで、カイの胸の高鳴りが、止まる事はなかった。
「カイ! 応募の結果来たで!!」
高校一年生の夏、カイはここ最近で、一番緊張していた。
淡い期待を抱きながらも、カイは届いた茶封筒を開けていく。
応募をするのはネットだったのに、結果は茶封筒で届くのかと、カイは疑問に思っていた。
「…………え」
「え?」
カイが手にした通知書を、横からユイが覗き込む。
「この度は、第二十八回、小説新人賞にご応募頂き、有難うございます」
「新人賞受賞の結果を、ここに記載しております。是非よろしければ、今回の作品を、出版させていただきたいと、思っております」
「……やばい、新人賞……え?」
記載されている公式ホームページを見てみると、そこに大きく載せられていたのは、カイの作品だった。
見出しには、新人賞受賞、と書かれている。
本当に、取ってしまった。そう、カイは思った。
「すごい、すごいよ、カイ!! お母さん達にも、報告せな……」
「待って」
「ん? どした?」
「……いや、何でもない」
「そう……?」
カイは、これで本当に良かったのか、分からないでいた。
まだ、学生を終えていないというのに、勉強を放り投げてまで、小説に力を入れる必要は、あるのだろうか。
不安になったカイは、ユウマに電話を掛けた。
「あのさ……今、一人?」
「一人だけど、どうした?」
「これ、マヤには絶対言わないでほしい」
「……お前は何度隠し事をすれば、気が済むんだよ」
「これだけは……知られたくない」
「で、何」
「……新人賞、受賞してまった」
「え!? すっご……!!」
どうしてこんなにも凄い話を、マヤにはして欲しくないのか、ユウマは不思議で仕方がなかった。
「高校生なのに、小説も書くって、大変やと思った。だから、どうしようかって、迷っとる」
「逆に何を迷ってんの!? 小説家デビューして、実家建てんだろ? 夢、叶えられるじゃん」
「……こんな簡単に、行くはずないやん。絶対、どっかで躓く」
「そりゃ、そうだ。躓かない方が、心配になる。今は、流れに乗っておけば? ……マヤに言えない理由は、分かんないけど」
「マヤに言ったら、戻って来れなくなるかもって、心配されるかな……思うて」
「まぁ、そう思うだろうな。マヤだし」
「後、そっち戻ってから、サプライズで言いたいなって」
「カイ、意外とロマンチスト? 同窓会の時にでも、言ったら良さそう」
「……そうする」
「ナナカには、教えていい?」
「口、滑らせないようにだけ……言っといて。」
「分かった。頑張れよ、カイ」
「うん。ありがとう」
新人賞を取ったことを、ユミコとマサヒコにも報告したカイは、どこかスッキリとした気持ちでいた。
二人とも喜んで、出版を待ち望んでくれていた。
後日、出版社からの連絡により、修正箇所を修正し、早速出版する事が決まった。
「奥深くの展望台」
そのタイトルで出版された、カイの小説は、発売当初から人気を得ていた。
カイにとって、小説を書く事は、生きがいのようなものであった。
それだからか、たとえ期限に追われていたとしても、辛いと思う時は少なかった。
いつか神奈川に帰った時、マヤに良い報告をするため、カイは今日も、小説案を練り続けていた。
「はっ。課題、終わっとらん」




