第三十一話
合格した事が分かった後、学校では、卒業式が行われていた。
この場に、カイはいない。けれど、マヤ達の思い出の中では、何回も、カイが出てきていた。
「石川優馬」
「はい!」
三年間の想いを込めて、ユウマは返事をした。
部活の事もあり、たくさん悩んだ三年間だったけれど。
この三年間は、決して無駄なものではなかったと、ユウマは思えた。
カイはいなくても、違うところで、カイも卒業証書を受け取っている。
ユウマは、カイと一緒なら、これからも大丈夫。そう思った。
「宇美床舞耶」
「はい」
自分の手で、卒業証書を受け取った瞬間、マヤの中学生生活は修了した。
どちらかと言えば、辛いことの方が多かったように思う。
けれど、その辛さを乗り越える事が出来たのは、カイやナナカ、ユウマがいたからであり、乗り越えた先には、幸せが待っていた。
カイに会えるのは、数年先になってしまうけれど、ユウマとナナカには、これからも会う事が出来る。
それが、マヤにとっての、原動力のようなものでもあったのだ。
「幹田菜々華」
「……はい」
卒業しなくてはいけない事が、嬉しいようで、嫌だった。
だからなのか、返事をするのに、少し躊躇ってしまう。
ナナカは、四人で過ごした毎日を、終わらせたくなかった。
このままずっと、続いてほしいと、思うほどだった。
卒業式が終盤に差し掛かった時、マヤは急に、涙が溢れている事に気付いた。
悲しいわけでもなく、名残惜しいわけでもなく、ただ、涙は溢れ出ていた。
「……生きてたら、一緒に、卒業出来てたんだよね」
ふと、サキの事を想う。
あの時、失っていなければ、きっと今同じように、卒業の日を迎えていたのだろう。
マヤは、サキの分まで、卒業式への想いを背負おう。そう思った。
「浜代架維」
「はい」
カイは、転校して来た中学校で、卒業式を迎えていた。
たったの四ヶ月ほどしか、この場所で過ごす事は出来なかった。
最初は、不安しかなかったのにも関わらず、事情を知った上でなのか、周りのクラスメイトは、とても良い人ばかりだった。
まだ人見知りは抜けていないけれど、短い期間の間で、色々な思い出が出来たと、カイは思った。
「……みんな、元気にしてるんかなぁ」
ユウマに電話をしようかと、迷ったけれど、結局、電話をすることはなかった。
もう既に、何回も電話を掛けている。それだからか、少し、気を使ってしまっていた。
諦めて他の事をしていると、今度はユウマの方から電話が掛かってきた。
「はいさ」
「卒業おめでとう」
「そっちも、おめでとう」
「今、ナナカとマヤと一緒にいる。代わる?」
「あー、なんか、スピーカーみたいなの出来へんの?」
「ん? これか」
「カイーー! 卒業証書何色だった!?」
やけにテンションの高いナナカが、早速カイに話しかける。
本当は、カイと話す事が出来るのが嬉しいだけなのに、ナナカは照れ隠しなのか、その事は一切口にしなかった。
「え、初っ端それなん?」
「えぇ? 何色??」
「青」
「いいなー、こっち、赤」
「赤の方がええやん。卒業証書感ある」
「春休みだし、大阪遊びに行こうかなー」
「絶対無理やん。ナナカはどっかで迷うしユウマは財布ごと忘れてそう」
「正常者はマヤだけか?」
「マヤだけやな」
「やったね」
まだ大阪には行けないとしても、大人になって、カイが戻って来てから、四人で遊びに行きたいなと、マヤは思っていた。
「というか、そっちがザワザワしすぎてて、誰が喋っとるか分からへん」
「それはもうね、勘でどうにかしてくれ」
「カイ、合格おめでとう!!」
「……急すぎん? ありがとう」
「暁星でカイの分まで青春送ってくるからね! あ、あの人、あの人も暁星だよね」
「誰?」
「ほらあの、ユウマに名前似てる人」
「あー、波田ね」
「そうそう! 波田さんって、頭いいんだって」
「……あいつん家の父親って、有名人とか噂流れとった」
「そうなの!?」
「そうなのって……マヤが、波田に惚れ惚れしてる時に、教えたじゃん!」
「マヤ……波田の事好きだったん?」
「い、いや、好きだったとかじゃなくて! なんか、一目惚れ? みたいな!」
「それは好きだったやん」
「違うよ!? ね、ユウマ!?」
「え……多分」
マヤは正直、波田に一目惚れをしていた事を忘れかけていた。
そんな人が、まさか同じ高校だなんて、逆に奇跡なのではないかと、マヤは思った。
「ま、直接は会えないけど、電話だったら幾らでも出来るから」
「うん。いつでも電話してええよ」
「……ほんとに、暁星じゃなくてよかったの?」
意を決して、マヤは気になっていた事を口にする。
「……なんか、あの時は、ただ先輩を追いかけてただけやった。でも今は、違う」
「本気で、行きたいとこ、見つけられたから……」
「そっか。よかったね、行きたい高校見つけられて」
「……それより、マヤ。いつから志望校暁星だったん?」
「それ、俺も知らないんだけど……」
「だいぶ初めの方から。でも、通信の方も考えてたよ。行きたいのは、暁星だったけど」
「……授業受けてないのに、暁星受かるとか、どんな脳内してるん……?」
「ただただ勉強。復習しまくって、問題解きまくって、こうなった。それだけ!」
「それは、それだけ程度の事ではない!」
咄嗟にナナカがツッコミを入れる。
マヤは、暁星を目指すにあたって、担任と何度も話し合っていた。
本当に通える自信があるのかどうか、追いついていない学習をどうするか、など、課題は溢れんばかりに、あったのだ。
それを片付けられたのは、マヤのプライドが、そうでないと許さなかったからだ。
「マヤのプライドは、日本一な気がする」
「……ここまで来たら、尊敬するしかない」
「うん? よく分かんないけど、褒められてる?」
「すんごい褒めてる。もう、すんごい」
「ありがとう……でも、頑張ってたのは私だけじゃないでしょ」
「みんな、頑張った。お疲れ!」
「うん、お疲れ」
「……そろそろ、電話切るで」
「もうそんな時間経ったか。カイ、元気にしててよ!」
「三人も、健康第一!」
「……じゃ、また今度ね」
「うん」
電話を切った後、カイは長く余韻を感じていた。
直接顔を見られないだけで、こんなにも寂しくなる事があるのかと。
カイは、早く時が過ぎてしまえばいいのにと、思っていた。




