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風が吹いたら  作者: 和林
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第三十話

「……宇美床さん、よく頑張ってる。このまま順調に行けば、合格間違いナシよ」


 学校では、受験前最後の、三者面談が行われていた。


 この三者面談で、進路に関わる成績が、配られることになっている。


 マヤは、不安ながらも、自信がないわけではなかった。


「本当ですか……マヤ、すごいね」


「はい。内申も十分だし、模試の結果も良好です。あとは……体調と向き合いながら、復習を積み重ねるのが吉、って感じですね」


「……先生、カイって、高校どうするんですか」


「それは……先生にも、分からない。けれど、あの子だったら、きちんと道を選ぶはずだと思うわ」


「私も……そう思います」


 マヤは、カイの事が心配だった。


 カイは常に一人行動を好んでいるし、新しい環境は苦手、とも言っていた。


 ユウマによると、小学生の頃、転校してきた当初は、とてつもなくぎこちなかったらしい。


 なんとなく、その姿が想像できてしまう事が、面白い反面、不安でもあったのだ。


「まぁ、最後まで頑張りましょう! 浜代さんの事は残念だけれど、会える時はきっとある。今は、受験に専念しよう、ね?」


「……はい」


 マヤは、少しだけ、違和感を残したまま、三者面談を終えた。


 家に着くと、今まで黙っていたアコが、口を開く。


「この前……お父さんが、家事を代わってくれたじゃない?」


「あぁ、そうだったね」


「家事が終わったあと、カイくんのお父さんと、電話をしてたみたいなの」


「……そうなの?」


「カイくんのお父さん、本当は単身赴任で大阪に行って、カイくん達は、神奈川にいる事になってたらしいんだけどね……」


「お偉いさんが、許可してくれなかった……って、話をしてた」


「……なんでだろうね。それだけ、長い期間、って事なのかな」


「五年後って、単身赴任の期間的には、結構長い。だからやっぱり、家族の事を想って……だったのかも」


 単身赴任をすることになれば、長い間、家族が分裂してしまう事は、マヤも知っていた。


 家計も大変になるし、お互いの状況も伝え合わなくてはならない。


 その大変さを、五年も続けるならば、いっそのこと、家族ごと行ってしまえば良い。


 確かに、効率的ではある。マヤはそう思っていた。


「……もう行っちゃったんだし、関係ない私達が考えても意味ないよ」


「……そうだね」


 カイに対するマヤの感情は、日に日に薄れて行っているのではないか。そう、アコは考えていた。




「頑張ろう」


「いや、もっと大雑把に」


「……がんば!!!!!」


「お、おーー!!」


 マヤ、ナナカ、ユウマは、受験の日の午前、三人で集まっていた。


 同じ高校に合格する事が出来るように、気合を入れよう、と決めたのだった。


 正直なところ、三人とも、受験以外に考える頭は持っていなかった。


 そのためか、気合を入れようと、円陣を組んだものの、気分は浮かれているようだった。


「ほら、ほら! あと、一時間後!!」


「やばい……もう公式忘れそう」


「受験票握り締めて、頭の中は、単語に単語に、あと単語! それが私だ」


「ナーちゃん……生きてる?」


「俺……回答欄ずらす自信ある」


「やめて、意味わかんない自信持たない!」


 偏差値に影響されているのか、まともにツッコミを入れられるのは、マヤくらいだった。


 とうとう時間になり、受験会場へと足を運んだ。


 周りの緊張感も高く、まさに、この会場にいる全受験生の脳内は、単語で埋め尽くされているかのようだった。


「……絶対、合格」


 試験監督がやってきて、テスト用紙が配られる。


 開始の合図が鳴り、皆一斉に、ペンを動かし始めていた。


 そんな中、冷静さを保ちながら、問題を解くマヤの鞄には、いつものように、あのお守りが、付けられているのだった。


「……はい、よろしくお願いします」


 カイは、推薦で高校に入学することを選んだ。


 学力選抜はないが、その代わりに、個人面接が実施されていた。


 緊張で胸が押さえつけられそうになりながらも、カイは的確に、質問に答えていった。


 面接が終わり、会場を出る頃には、もう疲れ果てていた。


 今頃、マヤ達はまだ、受験勉強をしている頃だろうかと、カイは思う。


 本当は、同じ会場で、試験を受けるはずだったのだ。


 結果的に、行きたいと思える高校が見つかって、良かったと思う。


 けれどやはり、同じ場所で、一緒に時を過ごして行きたかったと、思ってしまう気持ちも、あった。


「終了!」


 学力試験が終わり、三人は反省会を開く事にした。


 それに、来週には、個人面接が控えている。


 そのためにも、練習も兼ねて、反省会を開こうと思ったのだった。


「……どうだった」


「私は、自信ある」


「俺も」


「……ない」


「ナーちゃん、珍しい」


「無理だ、やばい。英語だ、英語が……だめな気がする」


「あー。ナーちゃん、英語出来ない」


「確かに……勉強会やった時、苦い顔してたな」


 ナナカは、英語が大の苦手だった。


 サッパリしすぎているナナカは、日本語以外の言語に興味はないと、バッサリ切り捨ててしまっていた。


 今になって、その仇が帰ってくるとは、あの時の自分が情けない。と、ナナカは思う。


 最大限努力をしたつもりではいたのだが、結局、英語は不安なままだった。


「でも、ナーちゃん頑張ってた。だから、大丈夫。自分信じた方がいい!」


「ナナカは英語、一番頑張ってた。俺も見てたし、知ってるから。絶対平気!」


「……詐欺?」


「詐欺なわけあるか」


 合格するかどうか、不安なのはナナカだけではない。


 マヤとユウマは、それをナナカに分かって欲しかったのだった。




「合格、した」


「ほんとに!? すげぇ……」


 カイは、早々に合格通知を受け取っていた。


 一般入試を受けたユウマ達とは違い、カイは推薦のため、時期が少しずれているのだ。


 けれどカイは、他の三人に合わせるために、合否を伝えるのは後回しにしていた。


「でもまぁ……面接しただけやし。人と話した。そんだけ」


「いや、すごい。偏差値、高いとこだろ? そこに推薦で入れるって……すごい」


「……面接の待ち時間、空気重かった。なんか……変なプレッシャーみたいなの、あった」


「それは、分かる。俺も、面接やばかった。面接官の人、顔……怖かった」


 ユウマが意外にも怖がっているのが面白くて、カイは電話越しに笑う。


 それが余計に恥ずかしかったのか、ユウマは電話越しに、顔を真っ赤に染めていた。


「……ユウマは? 合格した?」


「うん。全員、合格! ナナカは、ちょっと危なかった」


「英語か」


「当たり」


 英語が理解出来なさすぎたナナカは、まるで訓練の如く、カイに教えてもらっていたのだった。


「でも、よかった。みんな行きたいとこ行けて、安心した」


「……高校卒業したら、会おうな」


「そうやな。また四人で、どっか遊びに行こうか」


「……絶対な」

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