第二十六話
「……っ……あの、あの……」
「何? ナナカらしくない感じだな……」
「…………バカ」
「えっ、なぜ!?」
「なんで……気づかないの!」
ナナカは、ユウマとケリをつけようと決めた。
正直な気持ちを伝え、なんと返されようが、それで心を整えようとしたのだ。
「え……何? 俺、なんかされてた?」
しかし、そう上手くはいかないようだ。
どこまでも鈍感なユウマは、ナナカの気持ちには、全く気付いていないらしい。
イケメンなのに、もったいない。と、ナナカは思う。
これが世に言う、残念なイケメン、とでも言うやつなのだろうか。
「…………だから」
「うん?」
「………………すき」
「ん???」
「……好きだって言ってんの!!!」
あまりにも察しの悪いユウマを前に、ナナカは思わず声を張る。
ふと我に返ったナナカは、ユウマの顔色を伺った。
「あ……ごめん、うるさいか」
「いや……えっと……こういう時は、なんて言うべき……」
ユウマは、顔を真っ赤に染めて、戸惑ったような様子でいる。
どうして今まで気付いていなかったのか、不思議なくらいに、今更な光景だった。
「……別に、今すぐ返事くれなくてもいいけど」
「え、違う。好き……うん、好きなんだけどさ」
「は?」
急に「好き」という単語を出されて、ナナカは変に焦る。
それは、どういう「好き」なのか。ナナカはきっと、友達の方だと思った。
「……ナナカはさ、付き合いたい、とか……あるのか?」
「つ……きあう……?」
「まだ、受験生だから……受験、終わってからの方が、いいのかなぁ……って」
「……それは、つまり、あの……どういう解釈をすれば?」
「ん? 俺は、ずっとナナカの事、好きだったけど?」
「……は、はぁ!? いつから!?」
やはり、あまりにも急展開すぎる。
まさか、カイが何か仕込みでもしたのか。というほどに、急だった。
「会った時から」
「会った時って……めっちゃ前……」
「でも、受験あるし、ナナカ……恋愛に興味なさそうだったから。好きって気持ちだけで、終わらせてた」
「ほんとに……鈍感」
「ナナカだって、鈍感だろ」
「でも、ユウマはなんにも動かなかったんでしょ? 私……私は、結構アピール、した……つもり……だった……」
ナナカは、だんだんと落ち込み声になる。
あっちは何もしてこなかったのに、自分だけ、ひたすらにアピールをしていた事が、妙に恥ずかしかった。
「でも、ありがと。気づけなかったのは……俺の鈍感のせいだと思って」
「……ミホちゃんにも、相談してたんだからね」
「ミホちゃん?」
「お母さん。まだ若いから、恋愛相談、聞いてくれる」
「ナナカって、猫飼ってるんだっけ」
「うん。ラアと、ソラ。今度会いに来ても……いいけど」
「じゃあ行く」
「ちゃんと、勉強してから、来てよ」
「……はい」
今まで、お互いにとって、好きな人止まりだった二人は、やっと結ばれた。
ナナカは、やっと勇気を出せた事が、嬉しかった。
すぐにでも、マヤに伝えたい。そう思うくらいだった。
マヤは、深い眠りに落ちていた。
文化祭が終わった翌日、一日中、マヤの目が覚めることはなかった。
担当医は、「きっと疲労が溜まっているからだ」と思っていたが、ここまでくると、不安だった。
それからというもの、もうすぐ一週間、マヤは目を開けていない。
「マヤ……疲れちゃった……?」
アコは、溢れ出る涙を抑えきれずにいた。
その横では、アコの気分転換のためにと、さきほどまで、カフェで話をしていたユミコがいる。
アコは内心、今、仕事をしていなくてよかった、と思う。
事情を聞きつけたヨウスケは、マサヒコと共に、車で駆けつけると言っていた。
それを待つまでの間、アコは必死に、マヤに言葉をかけ続けた。
少しだけでもいいから、目を開けて欲しかったのだ。
手術後の元気な顔を見て、アコは安心しきっていた。
これが、油断は禁物、ということなのだろう。
「……アコさん!」
息を切らして駆けつけたヨウスケは、涙で顔を埋めているアコを見て、事の重大さを知る。
マヤは、息をしているのか分からないくらい、深く眠っているようだった。
「会いに来たよ、マヤ。お父さん……分かる?」
「絶対、また起きるんだよ。じゃないと、アコさんも、僕も、他の人たちだって……悲しむんだから」
「……マヤを失って、得する人なんて、誰もいないから」
ヨウスケは、自分が深い眠りに落ちていた時のことを思い出す。
あの時、自分はこう見えていたのかと、ヨウスケは悲しくなる。
「アコさん、マヤの事、信じよう」
「……そうね」
アコは、何度大切な人を失いかけても、信じ続けた。
そうすれば、いつか光が見えると、思っていたからだ。
もし、マヤがもう二度と目覚めてくれなかったら、何を信じればいいのだろうかと、アコは思った。
ヨウスケが昏睡状態になった時も、アコは同じような気持ちでいた。
アコは、神にどう祈れば、光がともるのだろう、と思った。
「……私らが、舞い上がってる間に、マヤは……もう、終身刑か?」
「知らなかったんだし、二人の事はおめでたい事やから。仕方ない、マヤだってこうなりたくて、なってるわけじゃない」
「会いに行こうよ。カイも……マヤが目覚める前に、行かなきゃいけなくなるだろ。」
「まぁ……なんか、別れの挨拶みたいで嫌な感じするんやけど」
「……そうなる可能性だって、ある」
カイは、正直言って、マヤに会いたいと思えなかった。
今会ったら、もう二度と、会えなくなってしまうような気がしたからだ。
まるで、最後の別れのような、そんな気がしてならなかったのだ。
それとは反対に、ナナカは今すぐに、マヤの顔を見たいと思っていた。
大切な親友を失うくらいならば、受験なんてどうでもいい、とまで思った。
ナナカからしたら、マヤは、人生のパートナーのようなものなのだ。
何か他にしなくてはいけないことも、放り出すくらい、マヤに会いたかった。
「二人とも、そんな不安そうな顔するなよ。大丈夫だって……疲れて寝てるだけだから、きっと」
「……そう思わなきゃ、だめだよね」
ユウマは、気分が落ちている二人を、精一杯に励ました。
その裏腹に、ユウマ自身も、不安で溢れている状態だった。
まだたくさん、話したい事がある。
ナナカと上手く行ったことも、カイを見送ることだって、出来ていないのに。
このまま、終わらせることなんてできない。ユウマは、そう思っていた。
「俺らが落ち込んで、どうするんや……」
「もうそれ、何回目か分かんない」
「でも……ほんとにそうだよな」
「それほど、何回も、落ち込んでるってことやろ」
「……会いに行こう」




