表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風が吹いたら  作者: 和林
24/42

第二十三話

「……終わった。全部終わったんや」


「そう……ですね」


 アコとユミコは、結局予想通りの結末を迎えていた。


 会社が、倒産したのだ。


「旦那に縋るか……? いいや、そらみっともないな」


 ユミコは、まるで感情を失ったかのように、先の事を呟き始めていた。


 アコの方はと言えば、ひたすらにユミコの話に相槌を打ち続けている。


 あんな課長の言葉を、鵜呑みにしそうになった自分は、なんてやつなのだろうと、アコは思っていた。


 二人とも、なす術がなかったのである。


 いつも通り出勤した朝、急に課長から「解雇だ」と言われ、ユミコは一瞬だけ、時が止まったように思った。


 そのあとユミコからアコへとその情報が渡り、今に至る。


「まぁ……分かってたんよ、倒産するってことは。でもなぁ、こんなに急だとは」


「思わなかったです、私も」


「専業主婦にでもなるか? それでやってけるんか? 大阪戻って大丈夫かこれ?」


「大丈夫ですよ、ユミコさんは。大阪でまた一から始めれば大丈夫です。でも、私は……無理です。どうあがいても、無理」


「そんなことないやろ! アコさんはなんで……マヤちゃんとは真逆なとこあるな」


「あの子は、私と違って、意志の強さがあるんです。私は、違う。弱いんです、私」


「……弱かったら、倒れるまでにならんやろ。自分が気付いてないだけや。アコさん、頑張りすぎはよくないんやで」


「頑張りすぎ……なんですかね」


「マヤちゃんの受験が終わるまでの間くらいは、サポートしてあげた方がええんちゃう? ……手術も、あるんやし」


「確かに、そうですよね。マヤ、今は一人になりたいって、病院来ないでって言われてるんです。あの子も、考えてることがあるんですよね……きっと」


 マヤは、アコとヨウスケに、「今はどうしても一人になりたい」とお願いをしていた。


 急に何かが起きたらどうするんだと、二人とも最初は受け入れなかった。


 しかし、マヤにも考えていることがある、とヨウスケがアコに話した末に、二人は家へ帰ることを決めたのだった。


「そうや。前にも言ったやろ、マヤちゃんは強い。だから、アコさんも強く生きるんやで」


「……はい。私が、側にいなくてどうするんだって、話ですよね」


「とにかく……ほんまに、ごめんな。私がいくら謝っても解決することやないけど、今は……何も出来ることがない。ほんまにごめん……」


「なんでユミコさんが謝るんですか! 働くことを決めたのは私です。職を探しておいた方がいいと言われてたのに、探さなかったのも私ですから。思い詰めないでください」


「……アコさんのその優しさは、マヤちゃんにもあるんやろうなぁ」


「マヤは、強くて、優しい子です。親バカみたいですけど、本当に」


「親バカなんかやないよ。マヤちゃんは、カイに足りないものを持ってる。だから、気が合うのかもしれんね」


「……なるほど」


 アコは、あの二人は、似ているようで違うのだと思った。


 成績もそこそこだし、強いところも、優しいところもある。


 けれど、不器用なところや、たまに弱さを見せる瞬間は、二人とも違う。


 それがあるからこそ、カイとマヤは特別なのだろうと思った。




「手術前に言うことじゃないけど……お母さん、仕事やめちゃった」


「……倒産したの?」


「え……なんで知ってるの」


「カイが……言ってた」


 アコは、やはり、ユミコとカイはよく似ているなと思う。


「だから、これからはね、マヤと一緒にいる時間にしようと思う。いい?」


「うん。嬉しい」


 アコは内心ほっとしていた。


 これでマヤが落ち込んでしまったら、手術直前に酷いことをしてしまうと思っていたからだ。


 マヤもマヤで、気持ちが落ち着いていた。


 一人の時間をもらって、今までの思い出を考えたり、これから先の人生を考えたりもした。


 全ての結論は出なかったけれど、マヤは、これで後悔なく手術に挑めると思っていた。


「マヤ。アコさんだけじゃなくて、僕にも頼っていいんだからね」


「ありがとう。仕事が落ち着いて時間ができたら、また病院来てね」


「もちろん行くよ。だから、元気になって待ってて」


「……うん」


 ヨウスケは、この時のマヤの辛さに強く共感した。


 なぜなら、この前自分自身がこの怖さを経験したばかりだったからだ。


 手術が終わったあと、生きていられるのかも分からず、いつの間にか長い眠りに陥ってしまっていた。


 そんな経験をしたからこそ、マヤの不安が伝わってくるようだった。


「マヤ、絶対生きるんだよ」


「……お母さんも、お父さんも、私が戻ってくるまで元気にしてて」


 そう言ったマヤの手に握られていたお守りは、まるでみんなの想いが込められているように、輝いて見えた。




 ナナカは、カイとユウマを誘い、自宅で勉強会を開いていた。


「……やばい、手をつけられない」


「分かる。気になって進まない」


「大丈夫やて……マヤより心配してどうするんや」


 勉強を始めたものの、マヤのことが気になって仕方がない三人だった。


「そうだよね。私たちがキリッとしてなきゃ! キリッと!!」


「……キリッと?」


「あぁ、家帰ったら荷物の整理進めなあかんのか……」


「カイだけ話題が違う」


「大阪戻るための準備? 大変そう」


「なんか……多い。とにかく多い。なんでこんなところにある? ってぐらいに参考書出てくる。多い」


「参考書……」


「しかも、全部解いてある。なんでとってある? ってやつばっかり。全部捨てた」


「捨てたんかい」


「やっぱりさ、頭良くなるには問題解きまくるしかないのか」


「そうだと思う。俺が頭良くなったのは、そういう理由」


「自分で頭良いとか言うか。頭良いけど」


「でも、今勉強してる意味あるんやろか……ってなる時もある。高校決めらんなくて、卒業までいられないってなったら、脳内ぐちゃぐちゃ」


「カイだったらどこでも行けちゃいそうだけどね」


 カイは、転校先の中学校で、志望校を考え直す、ということを勧められていた。


 合唱コンクールと文化祭が終わったあと辺りならば、まだ説明会などが残っているからだ。


 正直、父親の転勤が理由ならば、いっそのこと一人暮らしをしてでも、ここに残りたい。カイは、ずっとそう思っていた。


「カイ……大丈夫?」


「……大丈夫、ではない、かもしれん」


 ナナカとユウマは、カイの手元がこんなにも止まることがあるのかと、不思議に思っていた。


 問題も数問しか解いていないカイは、内心上の空状態だった。


「会いたい……」


「ずっとそればっかり言ってる」


「俺らだって早く会いたいけどさ……しょうがない。今は粘るしかないだろ」


「うん……そうやな」


 ナナカは、マヤならきっとすぐに元気になって、何事もなかったかのように帰ってくると信じていた。


 それは、ユウマも同じだった。


 だからこそ、不安なのも、全員同じであり、それが吐き出せないのも、一緒だった。


 何年もマヤと過ごしているナナカですら、その不安は拭えるものではなかった。


「お守り、あるじゃん」


「私たちが作ったんだから、堂々としてなきゃ……ね」


「……そう、だね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ