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風が吹いたら  作者: 和林
22/42

第二十一話

「なんか……久しぶりな感じ」


「そうやね……」


 カイとマヤは、教室の窓際にもたれ掛かりながら話していた。


 二人はそれぞれに、決心をしたのだ。


「あのさ」


 二人の声が同時に響く。


「あ、先にいいよ、言って」


「いや……マヤが言いたいことあるなら、聞く」


「えっ……と……」


 マヤは緊張していた。


 好きな人に「好き」と伝えることは、こんなにもドキドキし、不安になるものなのか。


 マヤは、勇気を振り絞って想いを告げることにした。


「好きだよ」


「……えっ、え、え?」


 カイは明らかに動揺している。


「ねぇ、顔真っ赤だよ……」


「マヤだって!」


 二人はそれぞれの顔を見て笑い合う。


 マヤはこの時間が幸せだった。そして、これからの励みになる時が来ると思っていた。


「……俺もさ、好きなんやけど……てか、待ってた、って感じやけど」


「うん」


「俺さ、あっち帰らなあかん」


「あっちって、大阪?」


「うん……でも、ちょっとしたら戻ってくる」


「ちょっと……どのくらい?」


「……五年、くらい」


「全然ちょっとじゃないし」


 マヤは柔らかく笑う。


 しかし、カイの顔に笑みが現れることはなかった。


「はぁ……どうする? 遠距離恋愛?」


「俺が戻ってきたら、付き合う?」


「その間に他に好きな人出来たらどうすんのさ」


「そんなことありえへんて……」


 二人の間に沈黙が訪れる。


 その隙を見計らったかのように、そよ風が間を通り抜けた。


「なんか……」


「何?」


「消えちゃいそうやね、マヤ」


「え? 私は消えないよ……」


「風に、連れていかれてしまいそうな……」


「何それ。詩人みたいだね」


 カイは、マヤ達と離れなくてはいけないという事実を認めたくなかった。


 自分一人では、生きていけないと思った。


 それと同時に、マヤが消えてしまうのではないかという不安も現れた。


「大丈夫。手術成功して、合唱コン出て、また、戻ってくるから」


「うん……そしたら、またいつか会える……かな」


「会えるに決まってるでしょ! 五年後だから、次会う時は四人でお酒でも飲もう」


「そうやな……不安なことばっか考えててもどうしようもないな……」


「私達は、いつでも待ってるから」


「……ありがとう」


 不器用な手つきで、カイはマヤと手を繋ぐ。


 初めての恋は、二人を遠ざけてしまった。




「ありがとうございました」


「いいえ、お大事に〜」


 ヨウスケは、アコと共に病院を出た。


 世話になった看護師や医師に存分に頭を下げ、また娘が世話になると説明をした。


「娘さん、よくなるといいですね」


 その言葉は、二人の心を深く抉った。


 とても嬉しい言葉ではあると分かっているはずなのに、どうしても受け入れられなかった。


 マヤの病気は、もう治らないのか。


 二人の中で、三人の家族の中で、その謎は解明されないままでいた。


「マヤ、合唱コン出れるの?」


「多分……車椅子になるかもしれないけれど」


「僕が送っていった方がいいか」


「いや……ヨウスケさんはまだ安静にしてなきゃ」


「ううん、大丈夫。心配してくれてありがとう」


 二人は同じペースで歩みを進める。


 家への道のりは、長いようで、短かった。


「あー、ただいま」


「おかえり!!」


 マヤは、ヨウスケが久しぶりに帰宅したことが嬉しくて、自らの手術のことを放ったらかしていた。


 しかし、放ったらかしたくても、頭の片隅にはいつも、「手術」という言葉があった。


「いや、久しぶりの家……いいね」


「よかったね、帰って来れて」


「一時はどうなるかと思ったけど……ユミコさん達も協力してくれて、よかった」


「お父さん」


「マヤ、どうした?」


「お父さんは、入院してて、暇だと思うことってあった?」


「うーん……確かに、昼間とかは暇だったかも」


「暇な時、何してた?」


「テレビでニュース見たり、寝たり……とかかな。どうして?」


「いや……私も暇になるかなーって思って」


「でもまあ、そんなに入院期間は長くないんでしょ? 伴奏の練習もできるし」


「……そうだよね」


「マヤ、何か不安なことあるの?」


「不安……っていうか、もう、全部が心配。伴奏も、カイも、自分も、お父さんも……」


「マヤ……カイくんのこと、誰に聞いたの?」


「カイが自分から教えてくれた……本当は、言うの躊躇ってたらしいけど」


「そう……マヤは、カイくんが大阪に戻ること、どう思ってる?」


「どうって……別にいいと思うけど」


「寂しいとか、思うでしょ?」


「もちろん……でも、人は出会って別れるものだから。五年後には戻ってくるし」


「五年後かぁ……結構先なんだね」


「ヨウスケさんは、お風呂入ってきて」


「はい……」


「マヤとカイくんは、付き合わないの?」


「は!?」


「いや……あんまりにも仲良しだから、そういうのはないのかなー、って」


「あ、あるわけないじゃん……こんないつか死ぬかもしれない人間……」


「マヤ、人間はいつか死ぬものだから」


「そっか……」


 アコは、もう涙が溢れる寸前でいた。


 娘の前で泣き姿など見せられないと思ったから、アコはマヤに話しかけ続けた。


 反対にマヤは、半分吹っ切れていた。


 カイが関西に戻るのならば、自分に対する重りが少なくなると思った。


 近くに味方がいればいるほど、不安もどんどん大きなものになるのだ。


 もうすぐそこまで、手術の日は迫っている。


 マヤは、もう覚悟ができていた。




「あ〜あ……」


「いや、そんな落ち込む要素ないって」


「こんなん見たら落ち込むでしょ!」


「そうか……?」


 学校では成績表が配られていた。


 ナナカは成績表を見て一言、「最悪!」と言っていたが、そう思っているのはナナカだけではなかったようだ。


「俺なんかボロボロなんだけど?」


「なんでここだけ四なの?なんで?」


「落ち込んでる世界が違った」


 ユウマは、部活が長引いたせいか、あまり成績が良くなかった。


 自分では精一杯努力をしたつもりなのだ。


 だが、その成果を発揮することは出来なかったようだ。


「あー、マヤ大丈夫かな」


「なんで今日来てないんだろ?」


 マヤは今日、学校を休んでいた。


 入院準備や手術内容の説明などで、病院へ行かなくてはならなかったのだ。


 マヤはずっと、みんなに早く会いたいと思っていた。


 早く手術をして、早く帰ってきて、みんなと一緒に合唱コンクールに出る。


 それが、今のマヤの目標だった。


「まぁでも、大丈夫なんじゃないの?」


「失敗する確率とか、あるのかね」


「そんなこと言わないでよ……ユウマ最近ネガティブ思考すぎる」


「ごめん……プレッシャー重なると、こうなるんだな」


「成績が全てじゃないから」


 ナナカとユウマは、マヤとの思い出を語り合いながら、現実逃避をしていた。


 そんな二人を横目に、カイは成績表と向き合っている。


 前回より良くはなったものの、まだまだ改善の余地はあると思った。


 関西に戻って、高校を新しく探すより、本当は暁星高校に行きたかった。


 ユミコにもその思いは伝えたが、仕事の都合なのだから致し方ないと、キッパリ言われてしまった。


 あっちに戻って自分の偏差値に合う高校を見つけることは出来るのだろうか。


 カイはカイで、また新たな悩みを抱え始めていた。

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