あとがき
――風が吹いたあとに。
『三匹のこぶた、青春中。』を最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
この物語を書き始めるとき、頭にあったのは、とてもシンプルな問いでした。
――もし、「三匹のこぶた」が現代の中学生だったら?
わらの家。
木の家。
レンガの家。
童話では、それぞれの家の強さが、そのまま三匹の性格の違いとして描かれています。
でも、現代の中学生に置き換えてみたらどうだろう。
「わら」は、弱さではなく、人と人をつなぐ柔らかさになるかもしれない。
「木」は、努力する強さになるかもしれない。
「レンガ」は、自分を守るための壁になるかもしれない。
そんなところから、蓮、樹、岳の三人が生まれました。
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藤原蓮は、いつも笑っていました。
誰とでも話せて、場を明るくできる。
でも、その笑顔の裏には、
「嫌われたくない」
という気持ちがありました。
だから、蓮にとっての「わらの家」は、決して弱い家ではありません。
人と人の間に入り、誰かを仲間にすることができる。
そんな、蓮にしか作れない家でした。
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木村樹は、努力する少年でした。
毎日練習して、勉強して。
頑張れば、いつか結果につながると信じていました。
でも、人生には、どれだけ頑張っても思い通りにならないことがあります。
樹はそこで、一度立ち止まります。
そして、
「努力すること」と「自分の価値」は同じではない。
ということを、少しずつ知っていきました。
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石田岳は、自分の周りにレンガの壁を作っていました。
失敗しないように。
傷つかないように。
誰かに踏み込まれないように。
その壁は、確かに岳を守っていました。
でも同時に。
誰かが手を伸ばしてきても、その手を受け取れなくしていました。
物語の最後に岳が見つけたのは、壁を壊すことではありません。
壁に――扉を作ることでした。
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そして。
この物語には、途中から美咲と湊が加わりました。
最初は三匹だった物語が、いつの間にか五人の物語になっていきました。
白石美咲は、三人を外側から見つめる存在でした。
蓮の笑顔の奥にあるもの。
樹の頑張りすぎるところ。
岳の閉じた心。
それぞれの変化に気づきながら、自分自身も変わっていきました。
そして黒崎湊。
「狼みたい」と言われていた少年。
人と関わらず、一人でいることに慣れていた少年が、五人の中に少しずつ居場所を見つけていきました。
最後に、
「……うん」
と答えて、みんなのところへ歩いていく湊。
あの場面は、この物語の中でも特に大切な場面の一つです。
人は、急に変わるわけではありません。
昨日まで一人だった人が、今日から急に誰とでも笑えるようになるわけでもない。
ただ。
「早く」
と呼んでくれる誰かがいる。
その一言だけで、一歩前に進めることがある。
そんな気持ちを込めました。
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物語の後半で、三人の友情は一度壊れました。
ここで「狼」を、一人の悪役にはしたくありませんでした。
SNS。
噂。
周囲の視線。
部活動。
進路。
恋愛。
期待。
不安。
誰かの何気ない一言。
現代の中学生の周りには、目に見えない「風」がたくさん吹いています。
そして、その風は誰か一人が起こしたものではありません。
だから玲奈も、単純な悪役にはしませんでした。
悪意がなくても。
面白半分でも。
「みんなやっているから」と思っていても。
誰かの言葉が、別の誰かを傷つけることがある。
それが現代の「狼」なのだと思います。
だからこの物語で、三匹が最後に勝ったのは狼ではありません。
風との付き合い方を覚えたのです。
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そして最後に。
この作品で一番描きたかったのは、
「家」とは何なのか。
ということでした。
童話の中では、家は狼から身を守る場所です。
けれど、中学生にとっての家は、それだけではありません。
教室かもしれない。
部活動かもしれない。
家族かもしれない。
友達との帰り道かもしれない。
誰にも言えない話をする秘密基地かもしれない。
そして。
「自分らしくいられる場所」なのかもしれません。
蓮のわらの家も。
樹の木の家も。
岳のレンガの家も。
一度は壊れました。
でも、三人はそれぞれ違う材料で、自分の家を作り直しました。
そして最後には、五人で同じ場所に帰ってくることができました。
だから、この物語の最後にあるのは、
「ずっと一緒にいる」
という約束ではありません。
人はいつか、それぞれの道を歩きます。
進学して。
新しい友達ができて。
知らない町へ行くかもしれない。
それでも。
「あの頃、一緒にいた」
という記憶は消えません。
帰ろうと思えば帰れる場所が、心の中に残っている。
それだけで、人は少し強くなれるのだと思います。
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最後の場面。
五人の影が、春の町を歩いていきます。
蓮が振り返り、
「来年も、ここ来ような!」
と言う。
樹は、
「当たり前だろ!」
と答える。
美咲が笑い。
岳がいつものように、
「予定が合えば」
と言う。
そして湊が、
「……たぶん」
と答える。
蓮が、
「そこは『絶対』だろ!」
と言って笑う。
きっと来年も。
五人は同じ場所に集まるとは限りません。
それでも。
この瞬間だけは、確かに五人で笑っています。
それでいいのだと思います。
青春は、永遠に続くものではありません。
だからこそ。
その一日が、大切になる。
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もし読者のみなさんが、この物語を読み終えたあと、
自分にも「秘密基地」と呼べる場所があったな。
あの頃、一緒に笑った友達がいたな。
あの人に、ちゃんとありがとうと言えばよかったな。
そんなことを少しでも思ってくれたなら。
この物語を書いた意味があったと思います。
風は、これからも吹きます。
家が揺れることもあるでしょう。
時には、壊れてしまうこともあるかもしれません。
でも。
何度でも建て直せばいい。
わらでも。
木でも。
レンガでも。
自分が帰りたいと思える場所を、自分の手で作ればいい。
そして。
もし誰かが困っていたら、
「早く」
と声をかけられる人でありたい。
そんな願いを込めて。
最後にもう一度。
この物語を読んでくださって、本当にありがとうございました。
あなたの青春にも。
いつか振り返りたくなるような、
小さな秘密基地がありますように。
そして――。
その場所に、春の風が吹きますように。
『三匹のこぶた、青春中。』
完




