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レンズの向こう側

旧式の機械である私にとって、“新型”という言葉には少し憧れがあります。

より鮮明に。 より遠くまで。 より美しく。

性能が向上すれば、今まで見えなかった景色を見る事が出来るのです。

……もっとも、 皆さんが興味を持っていたのは、レンズの性能よりも「誰を撮影するか」だったようですが。

私の名前は老鉄ラオティエ、旧式のドロイドです。

レオナルド氏の暗殺を偶然にも未然に防ぐ事が出来たその数日後…リントハイム邸の会議室にお嬢様と共にやって来ました。

会議室の大きなテーブルの上座にはリントハイム様が座ってます、他にも召集されたメンバーがすでに何名か座っていました…お嬢様は上座に一番近い右側に座り私はその隣りに座らされました。

リントハイム「揃ったようだな?…今日集まってもらったのは、皆んなに相談があるからだ!」

皆さんが少しざわつきます…無理もありません、IQ180以上の天才で、何事も即断、即決のリントハイム様が相談なんてするのは初めてだったからです。

紅華ホンファ「珍しいわね?アナタが他人に対して相談するなんて…」

リントハイム様は表情を変えずに続けます…

リントハイム「この前の功績に対してレオナルド氏が、老鉄に何かお礼をしたいそうなんだ!」

紅華「老鉄に?凄いわね?」

リントハイム「彼にとっては命の恩人だからな…」

紅華「良かったわね?老鉄は何がイイ?」

老鉄「私は欲しいものはありません、皆さんが喜んでくれる物が良いかと…?」

紅華「そういうと思ったわ…なるほど?だから皆んなを集めたのね?」

リントハイム「その通りだ、察しが良くて助かるよ…!」

紅華「だったら皆んなで老鉄の役に立つ物を考えてあげましょ!」

夜影(イェイン)「それでしたら…汎用性の高い武器が良いかと?」

源蔵(ゲンゾウ)「そいつは…」

夜影「電磁波破砕法を応用した電磁砕拳・一式は確かに強力無比ですが、老鉄さんへの負担が大き過ぎます!」

リントハイム「一理有る…が、それは却下だ!レオナルド氏から兵器の類いはNGだと言われているからね…」

夜影「そうですか…残念です…」

源蔵「だったら装甲をヴォルテック合金に換装したらどうだい?今は肩や胸部の一部だけだし…全身を換装したら軽量化にもなって機動力もアップするぜ!」

リントハイム「残念だがそれは不可能だ…原料のヴォルテニウム鉱が現在は流通していない…規制されているからな…!」

源蔵「あちゃー…まぁ仕方ねぇな!…アレは元々帝国軍の近衛騎士団くらいにしか使用が許されてない代物だからな…」

リントハイム「私の裏ルートでも、もはや手に入らないんだ…!」

会議室が静まり返った時に白が抱いている、ぬいぐるみのヌマルが声を上げました。

ヌマル「老鉄のプロセッサをアタシと同じ最新の物に替えるニャ!処理速度が大幅に変わるニャ!」

…ヌマルは実はぬいぐるみではなく最新のプロセッサとAIを搭載した端末で、リントハイム様が設計したものに、お嬢様が外観をデザインしたそうです、白の脳の負担を軽減する為のサポート端末みたいな感じです。

白はヌマルの尻尾に触れただけでアクセス出来、電脳空間にダイブする事も可能なのだと聞いています。

白「それはダメ!…爺爺(イエィエ)が爺爺でなくなったら嫌!」

ヌマル「なんでニャ!非合理ニャ!」

白「ヌマル…うるさい!」

ヌマル「わかったニャ…」

再び室内が静まり返ってしまいました…

小雨(シャオユイ)「…それでしたら、カニメデ星のアイスクラブを取り寄せて私が調理しましょう!滅多に手に入らない食材ですし…きっと美味しいですよ!」

リントハイム「アイスクラブか…分厚い氷の下でしか取れない、レアな食材のカニだな?」

紅華「気持ちはわかるけど…老鉄は食べられないから…」

小雨「す すみません…!」

老鉄「気にしないでください、小雨さん!」

ミーナ「あ〜あ…皆さんわかっていませんねぇ…?今の老鉄さんに必要なのはコレですぅ!」

そう言ってタブレットの画面を見せてきます…画面にはレンズらしき物が映っています。

ミーナ「老鉄さんの目であるカメラのレンズをコレに交換するのですぅ〜!」

夜影「なんだそれは?」

ミーナ「これは銀河でも指折りの光学メーカー、カーネル光学の最高級レンズ…その名も、バリアブルスターK100ですぅ!」

リントハイム「ほう?1本のレンズが何十万もするという…確か…職人がレンズの一枚一枚を手作業で研磨して作り上げているそうだな?」

源蔵「そいつは豪勢だな?同じ職人として、そのこだわりには感心するぜ!」

夜影「解像度がアップすれば索敵能力の向上にも繋がるし、メリットはありますね?」

ミーナ「そうですぅ〜!このレンズに変えればぁ、お姉様の…美しいお姿をさらに高画質、高精細で撮影する事が出来るのですぅ!…あぁ…想像しただけで…ムフフ〜!」

小雨「ヒソヒソ…ミーナ、ヨダレヨダレ…」

隣りに座っていた小雨さんがミーナさんの口元を拭いてあげていました…

本来なら声に出さないはずの声が丸聞こえで…皆さん呆れ顔になっています…再び静まり返った会議室でしたが…真剣な顔をしていた白が口を開きました。

白「爺爺の目が良くなるの…良いと思う…」

私は別に老眼ではありませんが…白のその言葉を聞くとなんだか内部回路の温度が上昇しています。

リントハイム「よし!それではそのレンズに決定だ、私の方からレオナルド氏には連絡しておく…解散!」

会議室から皆さんそれぞれの持ち場に戻って行きました…そしてそれから数週間が過ぎました…この数週間、ミーナさんは「まだ来ないのぉ?」と工房と玄関前をウロウロしていました。


…そして、レオナルド氏から荷物が届くとゲンサンの工房に人が集まって来ました…

源蔵「コイツはたまげたな?箱からして豪華だぜ!」

老鉄「たまげた?たまげ…た?どういう意味でしょうか?」

源蔵「驚いたとか…まぁそんな感じだ…とにかく、早速取り付けようぜ!」

ミーナ「ゲンさん、レンズにホコリが入らないように気をつけて下さいねぇ!」

源蔵「あいよ!任せておけって!」

夜影「凄く明るいレンズなんだな?夜間や曇りの日でも明るく撮影出来そうだ…!」

夜影さんが説明書を見ながら感嘆の声を上げています…

源蔵「おいおい…こんなに人が多くちゃ作業ができねぇよ!」

紅華「さあさあ…みんな持ち場に戻って、ゲンさんの邪魔したら承知しないわよ!」

お嬢様の一言に皆さん慌てて去って行きました…なんでこんなにギャラリーが多いのか…皆さんヒマなのでしょうか?


作業が終わり、私の視界が戻ってきました…明るさに露出が合ってくると白くボケた風景に色がついてピントも合って来ました…

紅華「老鉄、どう?アタクシの美しいお顔が見れる?」

ピントが合ってくると驚きました!世界が変わって見えるのです…お嬢様の髪の毛1本1本がクッキリと、ゲンサンの額のシワもハッキリと見えます!今までよりも色の濃淡が細かく細分化された感じです。

老鉄「はい!お嬢様がより美しく見えます!」

紅華「フフッ!良かったわ…ねえ…遠くの方まで見えるかしら?」

私は首を回して遠くの景色を撮影してズームアップしていきます…20倍、30倍……100倍まで、普通は高倍率になるとレンズは暗くなってくるのですが…このレンズはそんな事が全くありません!有名メーカーの高級レンズの性能に私の電子頭脳が熱くなってきました。

老鉄「遠くの物も100倍ズームでハッキリ見えますよ!レンズが明るいので夜景なども暗視モードを使わなくても月明かりがあれば見えます。」

ミーナ「それでは早速、テスト撮影に行きましょう!ワタクシがピッタリの場所にご案内いたしますぅ!」


…ミーナさんの半ば強引とも言える提案で、私達は海岸近くの灯台にやって来ました。

この灯台は割と有名な観光地でもあり、今日も何人かの人が登っていました。

白い壁の灯台をバックにポーズをとるお嬢様とミーナさんを撮影したり、遠くの海岸線を撮影したりとかしているうちに灯台の明かりが灯りました…

ミーナ「お姉様、あちらに観覧車がある公園があるので…そちらで夜間撮影のテストをしましょう!」

お嬢様とミーナさんは観覧車に乗り込み、私は下から撮影する事に…本当は私も乗り込みたかったのですが…ドロイドは不可と書いてあったので仕方ありません。

新しいレンズの性能は素晴らしく、夜景もお嬢様も美しいまま撮影出来ます。ただ、夜になっても公園は結構な人混みで、他の方が写り込まないようにアングルを選ぶのには苦労しました。

お二人の乗った観覧車を撮影し終え、私達は帰路に着きました。

邸宅に帰ると、会議室のモニターにテスト撮影した映像を再生してリントハイム様にもお見せしました。

リントハイム「凄いな?確かに以前よりも美しい…あ いや…景色の話しだ…」

紅華「フフッ!ワタクシの事でも全然問題無くてよ!」

ミーナ「この夜景をバックに振り向いたお姉様なんて最高ですぅ〜!」

紅華「夜になっても結構人が多くて…他の人が写らないように撮影するのが難しかったわよね?」

画面には、遠くの背景の群衆まで、新しいレンズによって恐ろしいほど鮮明に写し出されていました。

すると突然、それを見ていたリントハイム様が声を上げました。

リントハイム「今のは…まさか…ちょっと止めてくれ!少し動画を戻してくれないか?」

紅華「いきなりどうしたの?珍しく慌ててるじゃない…?」

いつになく緊迫した顔のリントハイム様にお嬢様も驚いていました。

リントハイム「ここだ!ストップ!この帽子の男性を拡大出来るか?」

老鉄「はい!かしこまりました…」

言われるがままに帽子を被った男性を拡大していくと…他の群衆とは違う冷たい目をした人物が私の方を見ていたのです。

挿絵(By みてみん)

リントハイム「まさか……先生…いや…そんなはずは…?」

リントハイム様が普段見せている冷静で余裕のある表情は消えていました。

…そして私はリントハイム様が先生と呟いたのを初めて記録しました…

一体この人物は誰なのでしょう?


## 老鉄の独り言:ログ009

【新しい世界】

世界そのものは変わりません、

でもその世界を見る目は変わります。

見る側の視点が変わるだけで…世界が違って見える事もあります。

私のレンズが変わったからか…世界が違って見えました。

でも…皆さんの笑顔をよりハッキリと私のカメラが捉えると…私の回路の温度が僅かに上昇するのです。

リントハイムが見せた表情、彼は普段は感情を表に出しません。ビジネスの場では愛想笑いはしますが…本心では笑っていないのです…

なので彼と会った事のある…一部の人は語ります。

「まるでAIと話してるみたいだった…」と。

そんな彼が今回は…

驚愕。

困惑。

そして、僅かな恐怖。

それらを表に出しました…

さて、リントハイムが先生と呼ぶ人物は果たしてどんな人物なのか?

普段は感情を見せない彼を動揺させる存在――

その正体は、次回明らかになります。

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