ミーナは完璧なメイドですぅ!
今回は、私がこの物語の中でどうしても描きたかった、リントハイムの「とあるセリフ」が登場します。ビジネスライクに見えて、実は誰よりも熱い彼なりの譲れない一線。それが一言に凝縮されています。
その言葉を聞いたとき、老鉄が残した「ログ008」の独り言は、きっと皆さんの心にも深く刺さるはずです。
ミーナさんとのコミカルな掛け合いから、一気に物語の核心へ――
“死の商人”リントハイムの本当の顔が垣間見える今回のエピソード、どうぞじっくりとお楽しみください!
私の名前は老鉄、旧式のドロイドです。
今日はお嬢様がリントハイム様と自由星間同盟の正式宇宙空母「ヨルムンガンド二世」の進宙式の式典に出席する為に惑星ベガⅣにやって来ました。
ホテルの一室で式典の為に用意された特注のドレスを手にしたメイドのミーナさんが、はしゃいでいます。
ミーナ「今日もお姉様は銀河で一番美しく、尊い! 私の美容・衣装コーディネートの腕の見せ所ですぅ〜!」
紅華「フフッ!ミーナってば今日は特にテンション高いわね?」
私は部屋の隅で警護にあたっていましたが、突然ミーナさんが私の方に向き直り…
ミーナ「…ちょっと、老鉄さんレディの着替えを覗くなんて…セクハラですぅ!」
老鉄「しかし私は護衛の為に…それにドロイドの私に見られても恥ずかしくないかと…?」
ミーナ「完・全にセクハラですっ!」
そう言って部屋の外に追い出されてしまいました…
廊下は静かで部屋の中の声がよく聞こえます…
紅華「ミーナ、今日のドレス、少し背中の紐がきついかしら?」
ミーナ「はぁぁ……っ、お姉様……美しすぎますぅ……っ!!」
紅華「うふふ…ミーナはいつも褒めてくれるわね?可愛いわよ!」
何故か数秒間、声がしなくなりました。
ミーナ「…!はわわわ!落ち着けミーナ!不敬だぞミーナ!ここで理性を失ったらお姉様を悲しませてしまうわよ!」
…着替えているだけのはずなのに…なんだかとても賑やかです。
そこへリントハイム様がやって来ました…既に着替えを終えています、何事もスマートにこなすのがリントハイム様ですから…
リントハイム「……何をしているんだ?」
老鉄「……追い出されてしまいました。レディの着替えを覗くなんて**『セクハラドロイド』**だと言われまして……。私はカメラですらオフにしていたのですが……」
リントハイム「…プッ……!!」
リントハイム様の表情筋がここまで動いたのを見たのは、私の記録では二度目です…
リントハイム「クク…まぁ仕方ない…あの子は紅華が大好きだからな…専属メイドになるって言ってきたのもあの子自身なんだよ!」
老鉄「…さようですか…」
私はなんだかモヤモヤしていましたが…モヤモヤとは何でしょう?
ミーナ「さぁお姉様、仕上げの香水!今日はこのドレスに合わせてこちらの香りですぅ…いかがですかぁ?」
紅華「うーん…良い香りね?さすがミーナ、こういうセンスは抜群ね!」
ミーナさんがお嬢様の体に触れるたびに彼女の心拍数が上昇していくのを私のセンサーが感知しています。
ミーナ「…あ、圧倒的感謝……!今すぐこの香りを遺伝子レベルで記憶しなければ……!いやダメです、私は影!お姉様を輝かせる影なのよ!」
おそらくは声に出さないはずの声がダダ漏れになっています。
紅華「あらミーナ、顔が真っ赤よ? 熱でもあるの?」
心配そうなお嬢様の声が聞こえてきました…
ミーナ「ふぇっ!? い、いえっ! お姉様の後光が眩しすぎて、少々逆上せ(のぼせ)ただけでございますっ!!」
ミーナさんの心拍数と血圧が異常値になっています…危険です!(色んな意味で)
支度がおわり、部屋からお嬢様が出て来ました…「銀河で一番イイ女!」と言っていますが、ミーナさんがそれに貢献しているのは間違い無いでしょう!
紅華「素晴らしいわミーナ。さすが私の専属メイドね」
老鉄「…本当に素晴らしいですね!」
私はなんだかモヤモヤしていましたが…
お嬢様が誰かに大切にされている事を確認すると、私の内部回路は何故か少し熱を持つのです。
ミーナ「お姉様がお美しく輝くためなら、わたくしは影でいくらでもお支えいたしますぅ……っ❤️」
ミーナさんがうやうやしく礼をしますが…口元からヨダレが垂れそうになっているのを私のカメラはとらえていました…
老鉄「それではお嬢様、リントハイム様がお待ちです。」
紅華「そうね…お待せしてしまったけど…今夜のアタクシも完璧よ!行ってくるわね!」
ミーナ「は はいっ!行ってらっしゃいませ!……はぁぁ……幸せ…幸せ過ぎて死にそうですぅ…」
お嬢様には聞こえていませんでしたが私の聴音センサーはミーナさんの声をしっかりと録音しています。
私とお嬢様はリントハイム様がすでにご乗車しているリムジンに乗り込みました、運転手はメイド隊隊長の夜影さんです。
リムジンの後部座席で向かい合って座るお嬢様とリントハイム様…本日の式典についてお話しされています。
紅華「宇宙空母自体はこの星の会社が建造したのよね?」
リントハイム「ああ…だが搭載される戦闘攻撃機の発注のお陰でかなりの利益が出たよ!レオナルド氏には感謝だ!」
紅華「そんな事言って…利益なんてどうでもいいクセに…」
リントハイム「どうでもいいとは思ってないさ、金だって必要だ…金が無ければそのドレスだって買えないからね?」
紅華「はいはい、コレはかなりミーナも気に入ってるみたいだから良かったわ!」
リントハイム「うむ!あの子のセンスは素晴らしい…ちょっとキミに対する愛情表現が独特だがね…?」
紅華「フフッ!まさかリントハイム様が妬いてるの?」
リントハイム「ジェラシーだって?この私が?ありえないだろう?フフン…」
紅華「そうね?アナタは女にも金にも本当は興味無いもの…」
リントハイム「…私には大望がある…!この銀河の…均衡を保つのは私の使命だ…!」
リントハイム様は三大勢力のパワーバランスを保つ事で破滅的な戦争を回避するという目的があるのです、紅華お嬢様もそれに賛同して彼の元で働いているのです。
紅華「それが…アナタの師匠の遺言?」
リントハイム「ゼロス・ハイマンは行方不明だ!死亡は確定していない…」
紅華「もう100歳を越えているんでしょう?さすがに…」
リントハイム「少なくとも、彼の意志は私が受け継いでいる…私が…」
夜影「リントハイム様、もうすぐ会場に到着いたします。」
運転をしている夜影さんの声がスピーカーから聞こえてきました、後部座席は完全に隔離されているので2人の会話は、私以外には聞こえていません。
リントハイム「さて…ここからはキミのステージだ!銀河で一番イイ女!として私のそばで輝いてみせろ!」
紅華「フフッ!お任せよ!」
会場に入り、出席者は並べられた椅子に座っていますが…私は席から離れた所に立たされています。
警備のシークレットサービスは皆さん同じように立って周囲を警戒しているので仕方ありません…
私もカメラのズームを最大にして狙撃可能ポイントを探しますが、すでにシークレットサービスの人員が配置されていて問題ありません。
しかし突然、私のカメラが勝手にお嬢様の方に固定されました…これは…ハッキングです!
何者かが私の撮影システムに介入しているのだと判断しました…すると無線が直接私の回路に流れて来ました。
ミーナ「ヤッホー!老鉄さん聞こえてますぅ?」
老鉄「み ミーナさん?なんですこんな非常時に?」
ミーナ「えっ?何かあったんですかぁ?」
老鉄「私のカメラシステムがハッキングされて乗っ取られてしまったのです、緊急事態なんですよ!」
ミーナ「あ〜?それワタシですぅ!」
老鉄「…はい?……それはどういう事でしょうか?」
ミーナ「ワタシがぁ…白にパスワードを教えてもらってぇ…乗っ取っちゃいましたぁ!」
老鉄「……困ります!勝手にそんな事を…」
白は時々、私の回路をハッキングするのですが…まさかミーナさんにまでそれを教えてしまうとは?
ミーナ「だってぇ…ワタシは会場に入れないんですよぉ!お姉様の最高に輝く姿を見せてもらえ無いなんて理不尽ですぅ…」
老鉄「ハッキングされるのも理不尽です!」
ミーナ「とにかく、白にも録画しておいてって頼まれているので…あの子まだ寝ているから後で見たいんですってぇ〜!」
老鉄「白まで…仕方ないなぁ…」
ミーナ「はわわっ!会場って外だったんですね?ワタシとした事がぁ…」
老鉄「宇宙空母が飛び立つのに屋根があったら飛べないですよ。」
ミーナ「そういう問題じゃないんですぅ…紫外線対策を忘れてましたぁ…お姉様ぁ…すみません…うぅ…」
老鉄「本日の気温は20℃くらいなので快適だと思いますが?」
ミーナ「甘いです!この日差しではお姉様のお肌に重大なダメージがぁ…日陰、日陰を探さないとぉ…」
ミーナさんは私のカメラをぐるぐる回して日陰を探します…向こうでお嬢様が不思議そうな顔をして見ています…きっと「何をやってんの?」なんて思っているに違いありません!
そんな事をやっているうちにレオナルド氏が壇上に立ち演説を始めました。
ミーナ「向こうの植木の影に入れば紫外線を防げると思いますぅ!老鉄さん、お姉様をあそこまで連れて行ってくださいぃ!」
老鉄「式典の最中に無理言わないでください!」
ミーナ「……アレェ?」
老鉄「どうしました?」
ミーナ「植木の辺りに何かの揺らぎが見えたんですぅ…」
老鉄「それは地面が温められて起きるカゲロウ現象では?」
ミーナ「でも…なんか違和感を感じてぇ…老鉄さん、この画像を解析してくださいぃ!」
老鉄「わかりました!」
私のプロセッサが特殊なフィルターをかけて画像の揺らぎをあぶり出します…第一段階、第二段階…そして…
老鉄「ミーナさん、この揺らぎは人間…ステルスシステムです!カメラの権限を返してください、不審者が紛れ込んでいます!」
ミーナ「は はいぃぃ…」
私は揺らぎに向かって走り出しました、揺らぎは壇上のレオナルド氏に向かってます、狙いは次期大統領候補ですね?
私が走り出したので、周囲の人がざわめきました…レオナルド氏の所まであと1メートル…
紅華「な 何やってんのよ老鉄?」
レオナルド氏の前に私が止まった時にパン、パン!という二発の銃声が響きました。
弾丸は私の胸部装甲に弾かれ、キャーという悲鳴とSP達の怒号が巻き起こりました。
老鉄「ここです!」
私は揺らぎを両手で掴み、そのまま押し倒しました、同時に下から犯人の悲鳴が…
ステルスシステムが壊れて犯人の姿があらわになりました、まだ大学生くらいの若い男性で、給仕の格好をしています。
この男性はプロの暗殺者ではありませんでした…手には手作りの銃、怯えて弱々しく震えてる…しかし歪んだ正義感に燃える「素人の平和活動家」だったんです。
犯人「わ…私は…ベガⅣを戦火に巻き込むレオナルドを止めたかっただけだ! 平和のために、これ以上の軍拡を許してはならない!」
…などと、いかにもな大義名分を叫んでいます。
リントハイム「平和を掲げながら、やっていることはただのテロ(暴力)か。吐き気がするな…」
珍しく感情をあらわにして吐き捨てるように言うリントハイム様を私は初めて記録しました。
犯人「なんだとぉ?お オマエの正体を知っているぞ!薄汚い武器商人のくせに…!」
リントハイム「…確かに私は死の商人だ。…だがね、“戦争を望む愚か者”と、“平和の名を借りて暴力を振るう偽善者”は、同じくらい嫌いなんだよ!」
無線の声が聞こえてきます夜影さんです…
夜影「老鉄さん、大丈夫ですか?入り口でもステルス対策はしていたんですが…」
老鉄「こちらは大丈夫です、犯人はおそらく給仕に化けて入り込み、会場に入ってからステルスシステムを装備したのだと推測します。」
夜影「わかりました!さすが老鉄さん、お手柄ですね!」
老鉄「ありがとうございます、でも犯人を見つけたのは…」
ミーナ「わーっ!老鉄さん、この事は秘密にしてください!お姉様に怒られてしまいますぅ…」
まだミーナさんも繋がっていたようですね?
夜影「⁇…どうしました?」
老鉄「は 犯人を見つけたのはたまたまですよ。」
ミーナ「…ふう…ありがとうございますぅ!」
騒動が収まり、犯人は連行されて行きました…
すると私達のところへ大柄な中年男性が近づいてきました、レオナルド氏です。
レオナルド「リントハイム君、キミの部下のおかげで助かったよ、ありがとう!」
リントハイム「どういたしまして!でもこれで次の選挙は勝利確定ですね?」
レオナルド「ハハっ!それはまだ分からんが…こんな旧式ドロイドが現役で頑張っているんだ、私も負けずに頑張るよ!」
リントハイム「結構な事です!…あ 一つ訂正させて頂きますが…この老鉄は私の部下ではなく…私達の仲間です!」
紅華「へえ〜?」
老鉄「な 仲間…?」
私の回路の温度が上昇したのを感じます、そしてモヤモヤしました。
レオナルド「フハハッ!キミの口からそんな言葉が聞けるなんてな?今日はイイ日だ!」
そう言いながらレオナルド氏は去って行きました。
こうして私達は帰路に着いたのです。
## 老鉄の独り言:ログ008
【人間とは?】
平和のためにと他者を殺そうとする人間
戦争を防ぐ為に戦闘をする人間。
人間とは矛盾した非論理的な存在です。
いつの日かネビュラAIが「人間は宇宙には不必要なバグ」としてデリートしようとする日が来るかもしれません…
その時、私は…
私を家族と呼ぶお嬢様。
私を仲間と呼ぶリントハイム様。
私を爺爺と呼ぶ白や紅棘の人達を守る為…
戦うのでしょうか…?
今回は新しいキャラであるミーナのコミカルな一面とリントハイムの彼なりの矜持を描いた回になりましたね?ビジュアル的にはミーナは大好きなキャラですが…紅華に対する愛情が暴走気味という危ない一面も…でもとても有能なんですよ!




