復讐の紅い花
何処か別の銀河の話……
この銀河では、三つの巨大勢力が互いに睨み合い、危うい均衡の上に平穏が成り立っていた。
帝国主義を掲げる「ヴォルテック星間帝国」
自由と自治を重んじる「自由星間同盟」
そしてAIによって統治される「ネビュラ星間連合」
これは、その銀河を股にかける自称「銀河で一番イイ女!」――李 紅華と、彼女の相棒である旧式ドロイド・老鉄の物語。
老鉄が語る紅華との出会い…別れ…そして再会の物語…
私(老鉄)がお嬢様と初めてお会いしたのは…まだお嬢様が幼い頃でした…
お嬢様の家は辺境にある惑星、「アステリア」の田舎の名家である李家。
私は李家の当主様、つまり紅華様のお父様に買われた旧式のドロイドです!
元々は軍用ドロイドでしたが旧式になったために戦闘用モジュールを排除して民間に払い下げられたのです。
初めて私を見たお嬢様は、恐る恐る私の指先に触れて「冷たい…」と言っていたのを記録しています。
お嬢様はものすごいお転婆で格闘技や剣術などに夢中になっていました。
おまけに毎日外で遊んでいるので日焼けして真っ黒になっていたのですが…今の姿からは想像もつかないでしょうね?
…しかし当主様に二胡を教わるなどもして女の子らしい側面もお持ちでした…!
時々、私の前で練習している姿がメモリに残っています…
紅華「ねぇ、老鉄…今の演奏どうかな?」
老鉄「私には分かりません…しかし音程が少々ズレてる時があります!」
紅華「ちぇ〜!まだお父様には聞かせられないかぁ…」
口を尖らせながらも、再び練習に励む姿は負けず嫌いな今の姿に重なります。
私のボディには武装を取り付ける為のコネクタが各部に着いてますが、そこに農業用機械を取り付ける事で畑を耕したり稲刈りをしたり、雑草を除去したりする作業をする毎日…そんな私に仕事を教えてくれたのが李家の爺や、こと李 老福さんでした…
老福さんは李家の遠い親戚で身寄りが無い為に李家に厄介になっている方です。
老福さんの事をお嬢様は「爺爺」と呼んでとても懐いていました、老福さんも本当の孫のようにお嬢様と接していました。
紅華「ねぇ爺爺、この子の名前はなんて言うの?」
老福「名前はGRD-04じゃよ、昔は帝国軍の戦闘ドロイドだったんじゃ!」
紅華「そんなのつまんないよ!それに…番号なんかで呼んだら可哀想…」
老福「…ふむ、そうじゃな?…それではワシの名前から一文字取って……コイツは鉄の体じゃから…老鉄というのはどうかな?」
紅華「老鉄?うん!良いと思うよ!老鉄よろしくね!」
老鉄「よろしくお願いします、お嬢様…」
老福「ほほ…名前も決まったところで老鉄や、ワシは歳だからもう畑仕事は無理じゃ、お前ならば力仕事もお手の物じゃろう?これからよろしくな!」
…それが初めて会った時の老福さんの言葉でした…
…それから数年後…お嬢様が15歳の時…叔父夫婦が李家を乗っ取り、当主様夫婦は殺害されました。
お嬢様は老福さんの手助けで無事に逃げのびましたが、代わりに老福さんが殺害されてしまったのです。
血まみれになって息も絶え絶えの老福さんの体温がどんどん下がってくるのを私のセンサーが捉えていました…
そして、私にすがりついて言われた言葉が今でも私のメモリーの1番奥に残っています。
老福「お嬢様を守れ!頼んだぞ…老鉄…」
…それは命令と言うよりは願いと言うべきではなかったのか?私には分かりません、しかしプロテクトをかけた訳では無いのですが初期化しても消えずに残っているのです…
私はプログラムを書き換えられて、叔父夫婦にこき使われる毎日を何年も続けていました、しかもろくすっぽメンテナンスも受けられていなかったのでアチコチの関節がきしんでいました…
叔父夫婦は動かなくなったら買い換えるからイイと常々言ってましたが、私は自分でメンテナンスをしながら頑張っていたのです。
…そしてある日、お嬢様が帰ってきました!成長したお嬢様は恐ろしいくらいに強く、叔父夫婦はたちまち追い詰められてしまいました…叔父夫婦は私の背に隠れながら…
叔父「おい鉄クズ、この女は強盗だ!コイツを殺せ!」
叔母「アンタ、民間用のドロイドにそんな事出来るのかい?」
叔父「この鉄クズは元々軍用だからな、コッソリと戦闘用プログラムを手に入れて入れておいたんだ!」
…上擦った声の殺せという命令で、私はお嬢様の前に立ち塞がったのです…!関節を軋ませながら腕を振り上げたその時…
紅華「老鉄…アンタもアタシの敵なの?」
…その言葉を聞いた瞬間、私の奥のメモリーが再生されました。血みどろになりながら私の腕を掴んで…息も絶え絶えに言う老福さんの言葉が…
老福「老鉄、お嬢様を守れ!…頼んだ…ぞ…」
叔父「何やってる、早く殺せ!」
老福「守れ!…頼んだぞ!」
…殺せという命令と守れという2つの相反する命令に私の電子頭脳は火花を散らしてショートしフリーズしてしまいました…再び私のカメラが写したのは血みどろになって倒れている…叔父夫婦の遺体と、泣きながら抱きついてくるお嬢様でした。
後で聞いた話しでは、フリーズしているにも関わらず私は叔父夫婦に殴りかかって撲殺してしまったそうです…
紅華「老鉄…アンタ…私を守ってくれたの…?」
老鉄「おかえり…なさい…ませ…お嬢様…」
…泣きながら抱きつくお嬢様はぽつりと
紅華「老鉄…暖かい…」と呟いたのです。
老鉄「以上が、私のメモリに残っている記録です!」
源蔵「なんでぇ…グス…お嬢も結構苦労してんだな?」
老鉄「ゲンサン、鼻水が出てますよ!」
源蔵「う うるせぇ!人間てのは歳をとるとアチコチから水分が出やすくなるんだよ!」
そう言ってゲンサンは顔を背けて鼻をかみました…でも何故か私の回路の温度が上昇するのを感じます、人間は不思議です。
##老鉄の独り言:ログ004
【未解決事案】
お嬢様は、私が叔父夫婦を「破壊した」と仰います。
ドロイドの倫理プログラムによれば、それは重大なエラーです。
ですが、もしそのエラーによって彼女の命が繋がれたのだとしたら。
私は、自分のログに記録されていない「私」を誇りに思います。
リントハイム様の傍らで銃を構える今の彼女は、時に冷酷で、時に「銀河一怖い」と称されます。
でも、夜に二胡を奏でる彼女の背中を守る時。
私はあの日、ログを捨ててまで手に入れた「守るべきもの」の重みを感じているのです。
ついに李 紅華の過去が明らかになりましたね!
冷たかったはずの鉄の身体を、最後に「暖かい」と感じたのは何故だったのでしょうか?
回路のショートかもしれません。
あるいは、もっと別の理由かもしれません。
……それは私にも分かりません。(笑)




