ゼロス・ハイマンの娘(1)
かつて銀河に緑豊かな星を増やし、人々の争いをなくそうとしたリリー博士。
そして、銀河を三大勢力の均衡によって安定させようとしたゼロス・ハイマン。
二人の天才が目指した未来は、果たしてどのようなものだったのでしょうか?
そして私とリリー博士だけに聞こえたカールの声……
私の中ではいったい何が起きているのでしょうか?
そして、リントハイム様は以前からある仮説を抱いていたようです……
その仮説を確かめるため、私達は源蔵さんの工房へと向かうのでした。
……というのが今回の始まりです。
私の名前は老鉄、旧式のドロイドです。
リリー博士を救出してから数日後、私達はリントハイム様にその報告をしていました。
執務室の椅子に座りリントハイム様は呟くように言いました。
リントハイム「…そうか…彼女は生きていたのか…?」
老鉄「お知り合いだったのですか?」
リントハイム「帝国のアカデミー時代に少し会話した程度だが…彼女は私とは違うタイプの天才だった!」
老鉄「確かに天才ですね?カールのような生命体を作り出すなんて…」
リントハイム「彼女は理想家だったよ…緑豊かで人が住める星が増えれば争いも無くなるって考えていたんだ!」
老鉄「そうですね?賛同はしますが世の中はそれほど単純でもありません。」
リントハイム「うむ、ゼロス・ハイマンが銀河を三大勢力による均衡で安定させようとしたのもそうした理由からだ!」
老鉄「しかしカールの声が聞こえるというのは不思議としか言えません。」
リントハイム「そういえば…キミの中でまた誰かの声が聞こえたそうだね?」
老鉄「はい…シャザーンの時に聞こえた声と同じでした…」
リントハイム「ふむ?以前より私はある仮説を考えていたんだが…それを確かめに行こう!」
老鉄「仮説…ですか?」
リントハイム様は私を伴い、リントハイム邸の庭に作られた源蔵さんの工房に向かいました。
工房で、私の内部にあるプロメテウスコア17(ワンセブン)を見たゲンサンとリントハイム様は驚きの声を上げました。
源蔵「こ、こいつはどういう事だぁ?」
リントハイム「ふむ?取り付けた時に比べて明らかに大きくなってるな?」
源蔵「そんなバカな、あん時は5cmくらいだったけど…今は8cmくらいになってるぜ?」
リントハイム「先生が作られた物だからな…私は驚かないよ…」
老鉄「どういう事ですか?勝手に大きくなるなんて…そんな事が有り得るのでしょうか?」
リントハイム「これは私の仮説だが…プロメテウスコアは自己増殖する事が出来るんだと思う…!」
源蔵「自己増殖だって?そんな事はネビュラのAIだって出来ないぜ?」
リントハイム「どういう理屈なのかは分からないが…ロストテクノロジーの中にはそんな事が可能な機械が存在するらしい…」
老鉄「それではプロメテウスコアもロストテクノロジーを使っていると?」
リントハイム「そう!かつてゼロスは帝国軍内部で様々な研究開発にも関わっていた…その中にはロストテクノロジーの解析なども存在したんだ。」
源蔵「なるほどねぇ〜?だからロストテクノロジーをこのプロメテウスコアにも応用してるんだ?」
リントハイム「あくまでも仮説だが…こうやってこの目で確認して…確信に変わったよ!」
老鉄「自己増殖機能が有る事と…あの声の理由は結びつきませんが…?」
リントハイム「つまり、プロメテウスコア17は老鉄の一部でありながら独立した存在でもある。私の予想では、これは無数のナノマシンが集合した知能体なんだ。」
……私の内部に、私とは別の知性が存在する…
そう考えると、不思議な感覚でした。
源蔵「つまりは、ナノマシンが神経細胞みたいになってるって事かい?」
リントハイム「そうだ!…そして演算処理を補助し、損傷した部位を修復し、必要であれば自らも増殖する事が可能なんだと思う。」
老鉄「それが…プロメテウスコア17の正体?」
リントハイム「あくまでも仮説だが…そう考えれば全ての事に説明がつく。」
リントハイム様の説には一定の説得力があります、しかし私には恐怖はありません。
なぜなら、あの声には不思議と親しみを感じたからです。
源蔵「…確かに!…シャザーンにやられた時も内部回路が新しくなっていたもんな?」
老鉄「言われて見れば…ガリウスと戦った時に驚異的な演算力を発揮したのもプロメテウスコアのおかげだったと考えれば合点がいきます!」
リントハイム「そうだな!そして今回のカールの声だ…!」
源蔵「でもよ…このままプロメテウスコアが成長したらラオ公は乗っ取られてしまうんじゃねぇのか?」
リントハイム「だとしたら、とっくに老鉄は乗っ取られているさ!」
老鉄「そうですよ、今もこれからも…私は私です。」
源蔵「なら良いけどよ…」
……確定した訳ではありませんが、プロメテウスコア17の秘密が徐々に明らかになって来ました…しかし、つくづくゼロス・ハイマンという男は底が知れないとリントハイム様は仰っていました。
それから数日後、リントハイム様はお嬢様と私、そしてメイド隊紅棘の隊長夜影を伴って惑星ベガIVの衛星、「リトル・ベガ」にやって来ました。
リトル・ベガは二つの小惑星をパイプで繋いだ形の衛星で、内部には居住区がありそこにレオナルド氏の別荘があり、私達はそこに招かれたのです。
リントハイム「しかし…大統領選挙を控えて資金集めに私を呼んだのか…?」
リントハイム様は別荘の応接室のソファーに腰掛けながら呟きました。
惑星ベガIVでは、来年大統領選挙が行われるのですが…レオナルド氏は大統領候補の筆頭なのです。
紅華お嬢様はリントハイム様の隣に腰掛けて夜影さんはその後ろに立ち、警護しています。
紅華「選挙にはお金がかかるものだけど…レオナルド氏はそんなに資金に困っているのかしら?」
リントハイム「直接会って話したい…なんて言っていたからな…聞かれたくない話なのは間違いない!」
そんな会話をしているとレオナルド氏が応接室に入って来ました。
レオナルド「久しぶりだな…リントハイム君、宇宙空母の進宙式以来だな?」
リントハイム「お久しぶりです!」
そう言いながら、二人は握手を交わします。
レオナルド「この別荘は安全だから安心したまえ、それに盗聴などのリスクも無いからな…密談には持ってこいなんだよ…!」彼は上機嫌でした。
リントハイム「…というと?」
レオナルド「実はな…キミの師匠、ゼロス・ハイマンらしき人物が…」
リントハイム「なんですって?」
レオナルド「デロリンド・シティに居るらしいのだよ!…ただし確認は取れておらんが…」
リントハイム「当然です!…あの男がそんなミスをするはずが無い。」
レオナルド「だが、捕まえた産業スパイが隠し撮りした工場の写真に…それらしい人物が写っていたのだよ!」
老鉄「ゼロス様は防犯カメラには写らない権限を持っていますが…スパイの隠し撮りまでは防げないのですね?」
リントハイム「そこだな?…だが産業スパイの写真が流出していたら、帝国軍の情報部が動くはずだ…」
レオナルド「…実はな、私の情報網では既に数人のスパイらしき人物がこのデロリンド・シティに入ってるらしい…」
リントハイム「なるほど?それを私に伝える為にわざわざ呼び寄せたんですね?」
レオナルド「その通りだ!」
紅華「確かデロリンド・シティってこの星の最大の工業都市ですよね?様々な企業の工場が有って…治安があまり良くないらしいけど…」
レオナルド「フフ…よく知っているね?その通りだよ……産業スパイに流れ者の労働者…不法移民も多くてね…」
リントハイム「だが、身を隠すのには最適だ!」
レオナルド「さすがリントハイム君だ、その通り!ゼロスが身を隠すにはうってつけなのだよ。」
紅華「ゼロスの事だから…帝国の諜報員なんてどうって事無いかもしれないけど…」
リントハイム「とにかく…デロリンド・シティに行ってみよう!」
老鉄「それが良いと思います、ゼロス様は既に街を離れているかもしれませんが…危険が迫ってますから。」
リントハイム「うむ!せっかくお会い出来たのに申し訳ありませんが…私達はこれで…」
レオナルド「ハハッ!気にするな…こうなる事は分かっていたさ!」
夜影「しかし…この別荘のセキュリティは完璧ですね?小惑星の硬い岩盤で周りを囲まれていて…電波も遮断されている…」
レオナルド「ほう?さすがは夜影だ!見抜いていたとはね…?」
夜影「恐れ入ります。」
レオナルド「だからこの別荘で話した事はここに居る者達だけの秘密だ…気をつけて行きたまえ!」
リントハイム「ありがとうございます…!」
こうして私達は、工業都市デロリンド・シティに向かったのです。
惑星ベガIVの北半球に存在する工業都市「デロリンド・シティ」
私達は空港からレオナルド氏が用意してくれた車に乗り込みデロリンド・シティの中にあるホテルに向かいました。
運転手は夜影さん、助手席には私、お嬢様とリントハイム様は後席に座っています。
夜影「すぐに撮影された工場に向かった方が良いのでは?」
リントハイム「ゼロスがいつまでもそこに居るとは到底考えられない、それにこのデロリンド・シティは広大だ、ある程度捜索場所を絞らないと…」
紅華「だからまずは情報を集めてって事ね?」
リントハイム「そうだ!彼の事だ…何かしら目的があって工場に居たに違いない。」
老鉄「そうですね?もしかしたら新しいプロメテウスコアなんかも作成していたのかもしれません。」
リントハイム「そうだな?」
夜影「了解しました!」
デロリンド・シティに近づくと空が暗くなって来ました…日が暮れて来た訳ではありません、スモッグが空を覆っている為にデロリンド・シティは常に昼間でも薄暗いのです。
ハイウェイの高架から見ると車窓の外には巨大な工場群がどこまでも続いていました。
工場の煙突から吐き出される白煙が薄暗い灰色の空へ溶けていきます。
華やかな帝都とは違う、油と鉄の匂いが染み付いた街……それがデロリンド・シティでした。
そうこうしている間に、車はハイウェイを降りて街の中心部に向かいます。
ホテルに到着した時には、雨が降って来ました。
ここの雨は酸性雨なので、機械には大敵です。
ホテルにチェックインして、私達は部屋で作戦会議です。
テーブルの上に街の地図を広げて夜影さんが何やら印をつけていきます。
夜影「ここが撮影された工場…この辺りには作業員達の住む住居、その隣には歓楽街が存在します。」
リントハイム「情報収集にはこの歓楽街が一番だな?」
紅華「そうね?工場で働く人達は仕事の後はここで一杯やるはずだもの…あちこちの工場から人が集まってくるはずよ!」
夜影「しかしこの歓楽街の規模は凄いですね…?これだけで一つの街だと言ってもいいくらいの規模です…」
リントハイム「大勢の労働者を抱える街だ…そんな彼らの胃袋と欲望を満たす為には、このくらいの規模が必要なのさ!」
紅華「当然だけど…歓楽街で働く人達も存在するから…この中からゼロス一人を探し出すのは至難の技ね?」
リントハイム「…そうだな?だから探し出すのではなく向こうからやって来るのを待つんだ!」
一同「…?どうやって?」
リントハイム「私に考えがある!」
果たして、リントハイム様の考えとは?
いったいどうやってゼロス様を探し出すつもりなのでしょうか?
…私には見当もつきません。
つづく
デロリンド・シティの中心部に存在する巨大な歓楽街。
そこには様々な人々が集まって来ます。当然、無法者も少なくないでしょう!
そんな街を舞台に、ゼロス様を誘き寄せようとするリントハイム様。
しかし、相手はあのゼロス・ハイマンです!
果たして、天才が仕掛けた罠に、もう一人の天才はどう反応するのでしょうか?
……私には想像もつきません。
次回もお楽しみに!




