森に眠る子守唄(完結編)
守りたい命がありました。
譲れない想いがありました。
そして、一つの小さな命が未来へ託した願いがあります。
『森に眠る子守唄』、完結編です。
私の名前は老鉄、旧式のドロイドです。
人喰いの森の秘密を知ってしまったお嬢様達はなんとか森とリリー博士を守る方法を考えました…しかし朝になっても有効な手立ては思いつきません。
このままでは数時間後には森は焼き払われます。
リリー博士もカールも、炎の中で命を落としてしまうでしょう。
ライザ「クソッ!外交問題が絡むとなると…私は手が出せない…目の前で救える命があるのに、なんの為の軍なんだ…?」
帝国軍の親衛隊隊長であるライザさんにも出来る事と出来ない事があるようです。
紅華「ライザはトラックの中で待機していて、アタクシ達は元々アウトローだから、問題を起こしても大した事じゃないわ!」
ライザ「…クッ、すまない…」
アリス「アタシは?」
紅華「アリスはどう見ても帝国軍には見られないから大丈夫よ!それに、痺れにも耐性があるみたいだしね?」
確かにアリスさんは、森の中で痺れる事はありませんでした。
白「ワタシ…は…?」
白は電子戦特化型の強化人間です、基本的にバックアップの方が良いでしょう。
紅華「白は通信妨害をして警察が来るのを防いで!」
老鉄「そうです!白の気持ちも分かりますが何度もあの物質を吸い込むのは危険ですからね。」
白「うん…わかった…!」
紅華「とりあえず、作業を中止するか遅らせてもらって、その間にアリスと老鉄が森に入ってリリー博士を説得するしか無いわね?」
老鉄「しかし、博士は森を離れるのは死を意味すると言っていましたが…」
紅華「そんな事はやってみなきゃ分からないでしょ?」
お嬢様らしいと言えばそうですが…いささか強引な理論です。
とはいえ私達の役割は決まりました。
白は通信妨害。
お嬢様は工事の足止め。
ライザさんはトラックで待機して、脱出の用意。
そして私はアリスさんと共に森へ入り、リリー博士を説得します。
そして私達はトラックに乗り込み森へと向かいました。
森に到着すると、早朝にも関わらず数台のドロイドを搭載したトラックがやって来ました。
お嬢様はそのトラックに向かいます、とりあえずは交渉して、ダメな場合は…多少強引な手段に出るしかありません。
そして私とアリスさんは森に入ってリリー博士を説得する為に大木の下に向かいました。
森の中を進むと例の子守唄が聞こえて来ました…リリー博士はこの森が焼き払われる予定だと知っているのでしょうか?
大木の下に着くと、リリー博士がいました。
リリー「アリス、老鉄さん…」
老鉄「リリー博士、この森は焼き払われる予定です!私達と一緒に森から脱出しましょう!」
アリス「アタシ達と逃げようよ!」
しかしリリー博士は首を横に振ります。
リリー「カールを置いては行けないわ!それに私もすでにこの森の一部になってるもの…」
アリス「嫌だよ!おばちゃん!」
アリスさんは博士に抱きついて泣き出しました。
リリー「アリス…兵器として作られたのに…優しい子になったのね?」
リリー博士はアリスさんの頭を優しく撫でながら…
リリー「思い出すわ、まだ小さい頃のあなたを…いつも不安そうで私に抱きしめられてから眠っていた…」
アリス「……覚えてる。おばちゃんの匂いだけは……変わらない…優しい匂い…!」
リリー「グス…良かった…!」
アリス「アタシ…助けたいの!カールも…一緒に。」
老鉄「白もアリスさんも、現在では普通の人間として暮らしています、カールも助ける方法が……」
リリー「無理よ…!」
老鉄「…完全には断言できません。しかし、現在の帝国医学なら治療法を見つけられる可能性は十分あります。」
リリー「私はカールのおかげで生きてきたの。だから最後まであの子のそばにいる。それが私の責任よ。」
博士の決意は硬いようです…
このままでは説得は不可能でしょう。
その時、私のセンサーが、昨日と同じ微弱な電気信号を検知しました。
……規則性があります。
… 信号は一定の周期ではありません。まるで”言葉”を組み立てようとしているようです。
カールが私達に何か伝えようとしているのかもしれません?
これは…言語変換が可能です。
私は解析を開始しましたが、旧式の演算回路では時間がかかります。
老鉄「…この速度では間に合わない!」
その時、不思議な事が起こりました…
声「演算補助ヲ開始シマス」
私の内部で声がしました。
…以前にも聞こえたあの声です。
アリス「ヒック…うぅ…ん?なんか変な匂い…」
アリスさんがクンクンと鼻を鳴らします。
老鉄「どうしましたか?」
アリス「森の外から…煙かな?」
すると遠くから爆発音が響き、黒煙が立ち上りました。作業が始まってしまったのでしょうか?
私は森の外に向かって赤外線センサーでスキャンしました、どうやら火の手が上がっているようです、まさか…お嬢様の説得が失敗したのでしょうか?
老鉄「お嬢様!どうしました?火の手が上がってるようですが?」
私達は無線でお嬢様に連絡します。
紅華「ごめんなさい、待ってくれるって事になったんだけど…例の痺れる物質が飛んで来て…」
作業員「俺のせいじゃない!…て、手が痺れて遠隔操作用の端末を落としちまったんだよ!」
作業員の声が無線の向こうから聞こえて来ました、かなり焦っている感じです。
紅華「リモコンが破損した結果、伐採用ドロイドがコントロールできなくなって、プラズマカッターの火花が枯れ草へ引火したみたいなの。」
老鉄「なるほど?ではドロイドが暴走しているのですね?」
紅華「そう…作業員もアタクシも痺れてるから止めようが無くて…」
…このままでは火災は風に煽られて広がります。
リリー博士だけではありません。
私達も、この森から脱出できなくなるでしょう。
老鉄「リリー博士、火の手が上がっています、早く脱出しましょう!」
リリー「ありがとう、皆さんの気持ちは嬉しいわ…でも…」
その時、アリスさんが何かの気配に気がついたようです。
アリス「何か来る!」
アリスさんが向いた方向にカメラを向けると、火花を散らしながら向かって来る作業用のドロイドが二体写りました。脚の代わりに下半身はキャタピラになってるタイプです。
老鉄「暴走してるドロイドです、まっすぐこちらに向かって来てます。」
アリス「おばちゃん、逃げて!」
アリスさんは暴走ドロイドに向かって走り出しました。
リリー「アリス、無茶よ!」
アリスさんが兵器として開発されたとしても、素手ではドロイドに勝てないでしょう。
老鉄「お嬢様、緊急停止装置がドロイドには備わっているはずです!それを入れてください。」
紅華「それが…古すぎて壊れたから取り外してるらしいの…」
老鉄「つまり整備不良のドロイドだって事ですか?」
作業員「ウチみたいな下請けの会社はよくある事なんだ…そんなんでも騙し騙し使うしか無いんだよ…」
老鉄「仕方ありません、こうなればドロイドを破壊させて頂きます!」
作業員「構わないから、頼む!止めてくれ。」
無線の向こうから懇願する声が聞こえて来ました。
私は体内の出力制御リミッターを解除しました。
ヴォルテック合金へ換装して以来、安全のために制限されていた出力を、戦闘モードへ移行します。
…お嬢様に無線で伝えました。
老鉄「お嬢様!暴走ドロイドを破壊します。」
紅華「お願い!老鉄。」
今こそ全てのパワーを発揮する時です。
肩から飛び出したジェネレーターが唸りを上げます、私の両方の拳に装着された電極にエネルギーがチャージされ青白く光り輝きました。
老鉄「アリスさん、下がってください!」
アリスさんはプラズマカッターを振り回すドロイドの前に立ちはだかっていました。
アリス「老鉄さん、お願い!」
アリスさんが飛び退くと、私は今までとは比較にならないスピードで暴走ドロイドの懐に飛び込み必殺の一撃を打ち込みました。
老鉄「ーーー電磁砕拳・一式!二連ー!」
右拳は一台目を、左拳はもう一台を同時に貫き、青白い放電と共にそれぞれの動力コアを粉砕しました。
二体のドロイドは火花を散らしながら、その場で力なく停止します。
アリス「すごい…これが老鉄さんの……本当の力……。」
老鉄「出力に余裕が出来たから、両方の拳で電磁砕拳が打てるようになったんですよ!お怪我はありませんか?」
アリス「うん!あっ?老鉄さん見て…火が…」
アリスさんが指さす方を見ると、ドロイドが通って来た方から炎が迫って来ています。あまり時間がありません…このままでは炎に囲まれてしまいます。
私とアリスさんはリリー博士の元に駆け寄りました。
老鉄「リリー博士、もう時間がありません!」
アリス「老鉄さん、この木を…カールを引っこ抜いて!」
老鉄「そうしたいのは山々ですが…さすがにそれは無理かと思われます。」
リリー「私の事は構わず逃げて!」
リリー博士がそう言った時です、カールである大木がガサガサと葉を揺らして枝を軋ませました。
老鉄「カール…アナタは何を言いたいのです?」
大木から流れ込む微弱な電気信号が、今までとは比較にならないほど鮮明になってきました。
その瞬間、私の内部で機械音声が響いたのです。
声「解析完了、翻訳シマス。」
カール「ボク…大丈夫!ママ…助けテクダサイ…」
老鉄「あの電気信号は…カールの言葉だったのですね!」
リリー「えっ?アナタはカールの言葉が分かるの?」
老鉄「ずっと何かを訴えようとしていたのですが…ようやく解析が完了しました。」
カールは続けます。
カール「コレをママに…ズット一緒…」
すると大木の枝が垂れ下がってきました、先の方に拳くらいの大きさの実が付いています。
老鉄「リリー博士、その実を取ってください。」
リリー「カール…コレを持って行けっていうのね…?」
老鉄「カールはずっとあなたと一緒だと言っていますよ!」
リリー博士は震える手でその実を胸に抱き締めました。
リリー「……本当は離れたくない。でも……カールが望むなら……」
涙を流しながら彼女は振り向くと。
リリー「ええ……わかったわ…一緒に行きましょう…」
アリス「良かった!さぁ早く!」
しかし、見回すと大木の周りはどの方向を見ても火の手が上がった状態です。
老鉄「これは…一体どちらへ行けばいいのか?」
私達のいる場所からは、すでに方向が分からないくらいに炎があちこちに上がっていました。
カール「コッチ…」
カールの声がしたかと思うと森全体が大きく揺れました。
すると木々が音を立てて倒れて、一筋の道が出来たのです。
アリス「道が出来たよ!カール、ありがとう!」
老鉄「急ぎましょう!リリーさん失礼します。」
そう言うと私はリリー博士を抱きかかえて走り出しました。
リリー「…うぅ…すみません老鉄さん…」
アリス「速いね老鉄さん!アタシも負けないもん…チェンジ!」
そう言うとアリスさんの体は見る見るうちにピンクの豹のような動物に変わりました。
老鉄「アリスさんが…変身?」
リリー「アリスは元々変身能力を持たせて作られたのよ…こんな所でそれが役に立つなんて…」
老鉄「そうだったのですね?アリスさんが潜入調査用だとライザさんが言っていたのはこの能力の事ですか…」
豹に変身したアリスさんはさすがに速く、あっという間に私達を抜き去り先頭を走ります。
アリス「出口が見えたよ、老鉄さんもう少しだから頑張って!」
老鉄「今はフルパワーを出せますから、リリーさん一人くらいなら問題ありません。」
とはいえ、周りは炎でかなりの温度になっていました…ドロイドの私や生体兵器だったアリスさんと違ってリリーさんは大丈夫でしょうか?
リリー「カール…大丈夫よ!ママが守ってあげるからね…」
カールが遺した実を抱きしめながら、彼女は祈るように呟いていました。
老鉄「もう少しです、リリーさん頑張って下さい。」
出口からアリスさんが飛び出しました、私達もあと少しです。
アリス「ライザ、こっちだよ!」
人の姿に戻ったアリスさんがトラックの方に手を振っています、私もあと少しで出口…
しかしその時、出口付近の燃える木が倒れて来ました、高さはおよそ6メートル…
このままでは私達は木の下敷きです。
燃える木が、ゆっくりと私達へ倒れてきます。
もう避けられません。
その瞬間――
ライザ「させるかーっ!」
ドオオォン!
ものすごい音と共にライザさんの運転するトラックが、燃える木に体当たりして間一髪!
私達は燃え盛る森から脱出しました。
老鉄「ありがとうございました!」
ライザ「フン!少しくらいは私も活躍しないとな?」
ライザさんはニヤリと笑って運転席から言い放ちます。
ライザ「さあ皆んな早く乗れ!面倒な事にならないうちにずらかるぞ!」
次々とトラックに乗り込む私達は作業員の人達に手を振って出発しました。
紅華「なんかライザって、私よりもアウトローって感じよね?」
ライザ「私は面倒な事が嫌いなんだよ!悪いか?」
紅華「フフ…どちらかって言えば好きかしら?」
ライザ「ならばさっさと宇宙船に向かうぞ。」
紅華「OK!帰りましょ!」
こうして私達は燃える森から帰還したのでした。
その後、リリー博士は皇帝陛下の計らいで皇帝直轄領の惑星で保護される事になりました。
もちろんそれはライザさんやアリスさんの口添えがあったからこそですが、元々は帝国軍に協力して研究していた帝国民です!国民を大切にするマリア皇帝の思いやりでもありました。
…それから数年後、私達は久しぶりにその惑星でリリーさんと再会をしました。
リリーさんが来た当時は何も無かったらしいですが、今は辺り一面がお花畑になっていてとても綺麗です。
アリス「リリーさん!久しぶり〜!」
アリスさんが手を振っています、リリーさんも手を振って答えます。
老鉄「お久しぶりです!お元気ですか?」
リリー「ええ…体調は悪くないわ、森が無くなっても 不思議と元気なの!皆んなのおかげね。」
紅華「数年でこんなに綺麗になるなんて…凄いわね?やはりカールの種のおかげかしら?」
ライザ「あの森を作ったくらいだからな?私は驚かないよ。」
白「綺麗…カールは…ここに居るの?」
リリーさんの顔が一瞬曇りました、カールの種がこの花畑になったとはいえ…彼の意思までは…
紅華「きっと居るわよ!私達には分からないだけで…」
老鉄「そうですね?」
非論理的ですが、それを口に出しては皆さん悲しむだけです…ここは黙っていましょう。
リリー「そうね?私にもカールの声はもう聞こえないけど…きっと…あの子はずっと一緒だって言っていたもの…!」
その時、私のセンサーが微弱な電気信号を検知しました。
老鉄「おや?これは…?」
カール「ママ…」
老鉄「…?リリーさん、カールの声が聞こえます!」
リリー「えっ?」
老鉄「ママって呼んでいますよ!カールの魂はココに居るのです。」
リリー「ありがとう…でも魂なんて言葉を使うなんて、アナタは本当に変わったドロイドね?」
老鉄「そうですかね?でも聞こえませんか?」
カール「ママ…アリガト…」
リリー「…!か カール…聞こえたわ…うん…うん…ええ…そうよ…」
老鉄「良かった!聞こえてるんですね?」
リリーさんは空を見上げていました、どこまでも広く蒼い空を…!
リリー「ここが、私達の新しい居場所よ!」
その後…この惑星は皇帝の花畑と呼ばれる星になったそうです。
植物は歩けません。
だからこそ種を未来へ託します。
カールもまた、自分の命ではなく未来を残したのでしょう。
森に眠る子守唄【完】
##老鉄の独り言:ログ023
【植物】
植物は不思議です。
彼らは虫に食べられ、草食動物に食べられ…人間にも食べられる存在。
しかし彼らは抵抗しません、悲鳴もあげません!
ですが植物が無くなれば、ほとんどの動物は飢えて死ぬのです…
肉食動物でも、食料になる草食動物がいなくなれば絶滅します。
人間も植物も、この星に生きる命です。
人間が自然を守れば、自然もまた人間を守ってくれるのかもしれませんね?
今回のお話には悪人はいません!
リリー博士はカールを守りたい。
カールはママを守りたい。
老鉄たちは二人を助けたい。
ライザは軍人だから動けない。
作業員は仕事をしているだけ。
政府も危険な森を放置できない。
それぞれに理由があり、それぞれに正義がある。そんな想いがぶつかり合う物語になりました。
実は最初の構想では、フランケンシュタインの名を持つリリー博士は、カールと共に森で最期を迎える予定でした。
…ですが可哀想になってしまったので…最終的には
「この二人には未来を歩んでほしい」と思うようになり、この結末になりました。
皆様には、どのように感じていただけたでしょうか?




