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森に眠る子守唄(中編)

かつて白(ハク)を見つけた帝国軍の秘密研究施設…廃墟と化したその場所を訪れた紅華(ホンファ)達の前には、うっそうとした森が存在していました。

生き残りの実験体が存在するかもしれないということで、その人喰いの森に足を踏み入れた彼女達はその森には似つかわしくない歌声を耳にします、果たしてこの歌の主は誰なのか?人喰いの森の秘密とは?

今回はその謎に迫ります。

私の名前は老鉄(ラオティエ)、旧式のドロイドです。

人喰いの森と呼ばれる森の奥まで足を踏み入れた私達の目の前には大きな大木がそびえていました。

ライザ「ふむ?ざっと20メートルくらいかな?」

帝国軍の親衛隊隊長であるライザさんが見上げながら言いました。

紅華「ほんの数年前には単なる荒れ地だったはずなのに…こんな大木が存在するなんて…」

お嬢様は大木に圧倒されています、無理もありません…白(ハク)と出会った数年前とは景色がまるで違うのですから。

白「あそこ…廃墟がある…!」

白が指を指した方には、爆撃を受けて破壊された研究施設の跡が草木に埋もれていました。

ヌマル「まるで何百年も経った遺跡みたいだニャ?」

最新AIを搭載した、ぬいぐるみ型端末のヌマルが驚きの声を上げます。

廃墟にはツタが絡みつき、色鮮やかな花や見たこともない実がそこかしこに実っていました。

アリス「アタシがここを出た時にはまだ爆撃も受けてなかったんだよ!」

老鉄「そうですか…アリスさんが居なくなってからネビュラ軍が爆撃したのですね?」

ライザ「元々この研究施設は帝国軍の中でも極秘プロジェクトだったんだ…一応の成果を皇帝陛下にお見せする為にアリスは連れ出されたようだな?」

アリス「うん!それでママに会ってから、ずっとママと一緒なんだよ!」

アリスさんは実験体No.007だったはずですが、そんな事を微塵も感じさせない明るい子です、やはりママと呼ばれる皇帝陛下のおかげなのでしょうか?

ライザ「中に入れるか見てくる…お前達はここで待機してくれ。」

紅華「一人で大丈夫?」

ライザ「エルシュタイン・リゾートの時とは違って、今は武器もある!心配無用だ。」

ライザさんは銃を構えてそう言いました。

紅華「さすがは皇帝の親衛隊隊長ね?」

ライザ「まぁ並の人間なら素手でもOKだがな。」

ライザさんはそう言って廃墟の方に向かいました。

老鉄「今のところ生命反応はありません!赤外線センサーにも反応無しです。」

しかしこれだけの森なのに…何故か小鳥の声すら聞こえません、時折聞こえるのは虫の羽音とあの子守唄だけ、ですが今は子守唄も聞こえず森全体が息を潜め、私達を見つめているような気配すら感じました。

紅華「静か過ぎるわね?」

お嬢様も異変に気がついたようです…こういった場合、大抵は敵襲があります。

銃を取り出して私達は奇襲に備えますが、その時!

女の声「あなた達、帝国軍なの?」

何処からか女性の声が響きました、しかし姿は見えません。

アリス「違うよ〜!」

老鉄「私達は帝国軍などではありません、ただ…この施設の生き残りがいないかと思って探しに来たのです。」

女の声「…子供連れの帝国軍なんて居るわけないわね?今から出ていきます、撃たないでください。」

紅華「わかったわ!」

お嬢様は銃を下ろしました、私のセンサーにはまだ人間の反応がありません。

すると大木の陰から一人の女性が音も無く現れました、まるで木の中から出てきた妖精のようです。

紅華「歳は三十代前半くらいかしら?」

挿絵(By みてみん)

こんな森に住んでいるにしては綺麗な身だしなみの女性です…しかし白とアリスの二人は固まっていました。

白「…リリー…」

アリス「おばちゃん…なの?」

紅華「まさか?リリー・フランケンシュタイン博士なの?」

酒場で聞いた情報のように優しそうな、そして緑色の瞳をした彼女は穏やかに微笑みました。

リリー「あなた達…003と007ね?すぐにわかったわ、大きくなったわね?」

紅華「ちょっと待って!アナタは死んだはずじゃないの?」

リリー「確かに…あの爆撃で私は大怪我をして生死の境を彷徨ったわ…」

そう言って彼女は自分の腕をさすります、よく見ると腕の一部に樹皮のような物が着いていました。

白「…!あの時、リリーも居た?」

リリー「私は…カールを、001を助けようとして…爆撃に巻き込まれたのよ…」

アリス「へー?001はカールって名前なんだ?アタシはアリスだよ!」

白「ワタシは白!」

リリー「白とアリス?二人共名前を貰ったのね?良かった…」

リリー博士は感動して涙を浮かべています、研究施設でも白達を単なる実験体としては扱っていなかったのでしょう、その事が見て取れます。

白「カール…001は生きて…いるの?」

リリー「…そうね…生きていると言えば生きているわ!」

どういう意味でしょうか?曖昧な表現です、私には理解不能でした。

紅華「なんだか含みのある言い方ね?もしかして具合が悪いの?だったら早く病院に…」

リリー「医者には治せないわ…それに…」

その時、ライザさんが戻って来ました。

ライザ「おーい、中は何も無かったぞ!ん?そいつは誰だ?」

老鉄「彼女はリリー博士です、どうやら生きていたようなのです。」

ライザ「なんだって?」

ライザさんはリリー博士に銃を向け睨みつけます、無理もありません…帝国軍の記録では彼女は死亡した事になってしまっているのです。

ライザ「私は帝国皇帝陛下の親衛隊隊長、ライザ・レオンフィールドだ!お前が本当にリリー博士ならば逃亡罪で逮捕する。」

アリス「ライザ、ちょっと待ってよ!」

紅華「銃を下ろして!彼女は抵抗する気は無いわ!」

ライザ「…ふん、わかった…」

ライザさんは銃をしまいこちらに近づいて来ました。

リリー「抵抗はしないわ…私は九死に一生を得て、ここで回復するのを待っていたの。」

ライザ「なるほど?しかしこの森は一体どういう事なんだ?」

リリー「それは…全て私のせいなの…」

老鉄「どういう事ですか?人間一人の力でこんな森を数年で作れるとは思えないのですが…?」

リリー博士は自分の胸に手を当て、しばらく俯いて居ましたが、深呼吸をすると続けました。

リリー 「こんな話、誰も信じないでしょうけど……本当なの。」

老鉄「信じます、アナタの音声は嘘をついてる人間のそれとは違うと判断します。」

リリー「爆撃で瀕死の重症を負った…私を…カールは、001は助けてくれた…でもそれは…」

ライザ「それは?」

リリー「それは私の身体と融合する事で欠損した部位や内蔵を補う事だったのよ!」

白「…!」

アリス「…?どういう事〜?」

老鉄「融合とは…にわかには信じられない話しですが…続けて下さい。」

リリー「カールと融合しても、私の意識はすぐには戻らなかった、そこでカールは私の身体を地中に埋めて復活する時を待ったの!」

ライザ「調査隊が着た時には生存者がいなかったのはその為か?」

リリー「おそらくは…そして地中にいる間に、カールは根をはりこの大木になった…この一帯を森に変えたのも彼よ…!」

リリー博士の言う事は、信じ難いですが…本当に植物と人間が融合するような事が可能なのでしょうか?

紅華「凄いわね?瀕死のアナタを助けて、こんな森まで作れるなんて…」

リリー「私の意識が戻った時にはこんな森が出来ていたわ、まるで何百年もの間…眠っていたのかと思ったくらいよ…!」

紅華「…!ちょっと待って、それじゃこの森そのものがカールって事なの?」

老鉄「リリー博士の言う事が、事実ならばそういう事になりますね?」

ライザ「だいたいの事情はわかった!だが地元民はこの森を人喰いの森なんて呼んでいるんだ。」

老鉄「そうです、この森に入った人々は皆さん何処に行ったのですか?」

リリー「…それは…」

リリー博士が言い淀んでいると、風も無いのに森の木々がザワザワと騒ぎ始めました。

幹が軋む音が森中から響き。 葉が一斉にこちらを向いたような感じがしました。

そして再び、私は微弱な電気信号を感知したのです。

リリー「いけない!カールこの人達は…」

リリー博士がそう言った次の瞬間、お嬢様達の体に異変が起こりました。

ライザ「うっ…身体が…」

ライザさんは体を震わせて膝をつきました。

紅華「こ…これは…身体が痺れて…」

お嬢様と白も同様にその場にうずくまります。

白「こ…呼吸が…」

白は喉元を押さえて苦しそうです。

アリス「みんなどうしたの?何がいったい…?」

アリスさんは何故か平気な様子です、強化人間という体質のおかげかもしれません。

リリー「カール、やめるのよ!この人達は敵じゃない…アナタの兄妹だっているのよ!」

彼女がそう云うと、森のざわめきが収まりましたが…お嬢様達はまだ身体が痺れているようです…

ヌマル「植物は敵を追い払うために毒や痺れ成分を出す種類もいるニャ!この森は、その能力が桁違いなのニャ!」

リリー「カールは私と、自分自身を守る為にこの森に入る人達をこうやって捕らえて…そして自分の養分にしているのよ!」

老鉄「なんですと?つまり人喰いの森というのは間違いではないのですね?」

リリー博士は悲しそうな顔をしています…彼女としてもそれは本望ではないのでしょう、カールと彼女が生きる為に仕方なく選択した事なのです。

リリー「私は…カールを人殺しの兵器にするつもりなんて無かった…他の動物を殺す必要も無く、光と水と二酸化炭素があれば生きられる人間が増えれば劣悪な環境の惑星を開拓する事だって出来る!」

挿絵(By みてみん)

老鉄「その為にカールを研究施設で育てていたのですね?」

彼女は頷きました、そして大木を見上げながら続けます。

リリー「植物の特性と人間の知恵を持った生物…それがカールだった…だけどあの爆撃が全てを変えたの、私を助ける為にカールは…」

彼女の声はとても悲しそうでした…カールはおそらく彼女を助ける為に他の動物や人間を補食する事を選んだのでしょう?

老鉄「人間だって他の生物を食べて生きています、それは罪なのでしょうか?」

リリー「…!そうね…だけどそれは私の望んだ結果とは違う…」

アリス「アタシは難しい事は分からないけど…おばちゃんが生きていてくれて嬉しいよ!」

アリスさんの言葉にリリーさんは振り向きました、その目には涙が浮かんでいました。

リリー「アリスは…いい子に育ったのね?私は…嬉しいわ…」

するとまた森の木々がざわめき出したのです、どうしたのでしょうか?

カールだったはずの大木が、枝を揺らしてまるで何かを訴えようとしているかのようです。

リリー「カール?どうしたの?大丈夫よ、ママは悲しいんじゃなくて嬉しいの。」

どうやらカールはリリー博士の涙に反応していたようです、彼女の感情や言葉を理解出来る知能があるようですね?

老鉄「リリー博士、とにかくこの森を出ましょう。」

リリー「いいえ…私はここを離れられないわ…!」

アリス「どうして?せっかく生きていたんだから、ライザだったらアタシが何とかするから!」

リリー「ありがとう…でも私はカールと融合して、この森から出る事が出来ない身体になってしまったのよ…」

老鉄「なんて事でしょう…まさかこの森が無くなれば、アナタも死ぬという事ですか?」

リリー博士は静かに頷きました、その瞳にはこの森で生きて行くという彼女の覚悟が伺えます。

…人喰いの森は確かに問題ですが…カールやリリー博士にだって生きる権利は有るはずです。


しばらくして、お嬢様やライザさん、それに白の痺れは無くなったので一旦街に戻って休息を取る事になりました。

そして今後の対策を練る事にしたのです。


再び街の酒場に行って食事を済ませて相談をしていると、マスターが声をかけて来ました。

マスター「アンタ達、よく無事に戻って来たな?」

ライザ「まあな!私はそこいらの連中とは鍛え方が違うからな!」

アリス「ライザだって痺れて立てなくなっていたじゃん?」

アリスさんが手厳しい一言を放ちます、リリーさんに銃を向けた事を怒っているのでしょう…

ライザ「う…うるさい!」

紅華「まあまあ二人共…それよりもリリーさんをどうするのかが問題よ!」

白「このまま…でも良い…と思う!」

アリス「そうだよ!カールと一緒に過ごすのが一番だよ!」

老鉄「私もそれが一番だと思いますが…あの森は危険なので立ち入り禁止区域にするべきかと?」

ライザ「だが、ココは中立宙域の惑星だ!帝国領ではない、口を出す権利は無いんだ…」

確かにそうです、それぞれの惑星の政府に権限が有るので帝国軍が勝手な事をすれば外交問題です、既に一度賠償問題を起こしていますし、これは難しい話しです。

マスター「アンタ達、明日はあの森には行っちゃダメだぜ!」

ライザ「ん?何故だ?」

紅華「危険は無くなったから大丈夫なはずよ。」

マスター「知らないんだろうけど…明日からあの森は焼き払って更地にするんだよ!」

老鉄「なんですと?」

皆さんも驚きましたが…

紅華「ちょっと待ってよ!あそこには人が住んでいるのよ!誰がそんな事…」

マスター「政府の依頼を受けた開発企業だよ!」

ライザ「開発はわかるが…強引過ぎないか?あの女はどうなる?」

マスター「住民票も無い人間なんて不法入国者だからどうなろうと構わないらしいよ!」

紅華「そんな…」

マスター「全く酷い話しだが、人喰いの森なんて噂が残っちまえば土地の価値も下がる。開発会社はその前に全部焼いて更地にしたいんだろうさ。」

私達は戦慄しました。

確かにリリーさんは戸籍も住民登録も存在しないまま何年も眠り続けていたのです。この惑星の政府から見れば、不法入国者として扱われても不思議ではありません。ですが仮にも人間です!あまりにも理不尽な決定と言わざるを得ません。

老鉄「何とか止める方法はありませんか?」

マスター「政府の決定だし、何十人も行方不明で捜索不可能じゃ…仕方ないよ!」

ライザ「単に立ち入り禁止区域にすればいいだけだろう?」

マスター「この街の住人は政府の決定に逆らえないよ!中央に居るセレブと俺たちは違うんだ…」

そう言って彼は肩をすくめるとカウンターの向こうに戻って行きました。

経済格差は何処にでもありますが…銀河の縮図をこんな所で見せつけられるとは…

ライザ「彼女は森を離れる事は出来ないと言っていたな?」

紅華「どうするの?このままじゃ…」

アリス「おばちゃんが…危ないよ…」

白「ヌマル、何か良い考えは無い?」

ヌマル「ネットワークで調べたら、委託された業者はほとんどドロイドを使っているみたいだニャ?」

紅華「それならハッキングして、動けなくすれば…」

ヌマル「使っているドロイドが旧式過ぎて無理ニャ、ネットワークにすら繋がっていないモデルなのニャ!」

老鉄「単純作業用のドロイドですね?安価で危険な作業もこなせるから、こういう仕事にはもってこいです。」

アリス「だったらそんなの壊しちゃえば…?」

老鉄「壊すのは簡単ですが…それは政府を敵に回す事になります。」

ライザ「…気が進まないが政府に働きかけるとするか?」

老鉄「賠償金を着服して、帝国軍のせいにするような連中が信用出来るでしょうか?」

ライザ「確かにそうだな…?」

老鉄「それにここの政府はネビュラ軍からも勝手に爆撃した事で賠償金をもらってます!」

ライザ「なんだと?…なんて連中だ…許せん!私が天誅を下してやる!」

紅華「いいの?また外交問題になるわよ?」

ライザ「…くっ!ではどうする?リリー博士とカールを見殺しにするのか?」

老鉄「…しかし私にはリリー博士を見捨てる選択肢の演算ができません。」

アリス「見捨てるの嫌!アタシ一人でも助けるもん!」

白「アリス…ワタシも…助けたいよ…!」

アリス「うん!白も一緒に行こ!」

二人の決意は硬いようです!

明日、私達は森を守るために戦います。

ですが相手は怪物ではありません。

法律と利益でした。


つづく…





自然保護と開発は常に付きまとう問題です。それはこの銀河でも同じ事のようですね?


法律、利益、そして命。


森を守るべきなのか、それとも人々の安全を優先すべきなのか。


それぞれが「正しい」と信じる選択が、ついにぶつかります。


完結編で物語は結末を迎えます。

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