森に眠る子守唄(前編)
帝国軍の生体兵器として開発された実験体、それが白やアリスさんです。
しかし彼女達は今は人間として、お嬢様や皇帝陛下の元で暮らしています…
そしてアリスさんは白の事をお姉ちゃんと思っています!
そんな彼女達には他にも兄弟がいたはずなのですが…
施設は爆撃され、証拠隠滅の為に処分されたはずでした。
…でも…本当にそうなのでしょうか?
今回はそんなお話です。
私の名前は老鉄、旧式のドロイドです。
破壊されたボディをヴォルテック合金製のものに総取り替えして復活できました!
帝国皇帝であるマリアさんのおかげですね?
そして復活した私は、お嬢様と白と共に中立宙域の惑星へ向かっています。現地では帝国軍のライザさん、そしてアリスさんと合流する予定なのです。
老鉄「お嬢様、もうすぐで合流地点に到着します。」
紅華「わかったわ、しかし今になってあそこに行ったって…何も無いと思うけど…」
私達が向かっているのは、かつて白を保護した帝国の秘密研究施設跡です。
白とアリスさんが他にも生きている子がいるかもしれないと言っているので、合同で調査することになったのです。
老鉄「お嬢様のおっしゃる通り、もう何年も経っているので…可能性は低いと思います、ですが白は敏感な子です…何かを感じているのかもしれません。」
ライザさん達と合流して、そのまま私達は研究施設の跡地に向かいました、上空の宇宙船から見ると…その場所に存在しているのは廃墟ではなく、鬱蒼とした森だったのです。
紅華「何よアレ?ほんの数年ぶりであんなになるの?」
私の記録では、ここは岩肌が露出した荒野でした。しかし今、私のカメラに映るのは空を覆う巨大樹と深い森。わずか数年で自然がここまで変化することは、通常では考えられません。
森はあまりにも深く廃墟と化した施設も何処にあるのかも上空からは分からない状態で、手掛かりもないためにまずは近くの街で情報を集めることにしました。
無線でライザさんが少し離れたところに街があると言うので私達は街の酒場に向かう事にしました、街の周囲はやはり荒れ地で森の異様さをさらに感じさせます。
街の近くに宇宙船を着陸させて、私達は街の中に向かいました、目指すは酒場です。
街の酒場には、色々な人がやって来ます。さらにお酒が入る事で口が軽くなるので情報収集にはもってこいなのです!
私とお嬢様、そして白とアリスにライザさんを加えた五人、もとい4人と一台は酒場の入口をくぐりました。
ライザ「マスター、あそこの森は前からあったかい?」
マスター「いや…数年前には帝国軍の秘密研究施設があったんだよ!」
ライザ「そうだよな?前に来た事あるから…」
マスター「アンタ、帝国軍の人だろう?」
ライザ「そうだ、よくわかったな?」
マスターは小声でライザさんに耳打ちします。
マスター「この星の人間は帝国の人が嫌いだから気をつけてください、特に軍人さんは何かされてもおかしくないからさ…!」
ライザ「フン!一般人が私に何か出来るとは思えないけどな?」
紅華「ねぇ?なんで帝国の人を嫌うのかしら?」
マスター「あの研究施設は極秘だったんだ、だけどネビュラ軍に爆撃されて…」
紅華「もしかして一般の人が巻き込まれたの?」
マスター「いや!そんな事は一切なかったんですけど…」
ライザ「それに対して帝国は賠償金を払ったんだ。」
マスター「よくごぞんじですね?…その対応は評価させて頂きますが…」
ライザ「なんだ?含みのある言い方だな?」
マスター「大きな声じゃ言えないんですけど…その賠償金は当時の政府がインフラ整備など別の用途に使って復興予算には組み込まれなかったんですよ、それで地元民は帝国に対して不満を持っているんです。」
紅華「それは帝国側の問題じゃなくて政府の問題じゃない?」
マスター「本来はそうなのですが…」
ライザ「ふぅ…それで帝国に対して悪いイメージしかないのか?」
マスター「そうなんです…本来なら政府に対する不満になるはずですが…政府側も帝国側のせいにしているので…」
ライザ「…ったく、だから政治家は嫌いなんだ!私が親衛隊の隊長になったのも軍内部の派閥争いを嫌っての事だ…」
紅華「ライザって親衛隊の隊長だったの?」
ライザ「あぁ…かつての将軍の地位を捨てたのさ!」
かつて「砂漠の雌獅子」と呼ばれた将軍は、軍内部の派閥争いを避けて皇帝陛下の親衛隊隊長になっていたとは…人間関係とは複雑なのですね?
さらに他のお客さんにも伺いましたが、地元の人々はあの森を人喰いの森と呼んでいるそうです、なんでも入った人はみんな二度と帰って来なかったらしく…
紅華「あの森には何か危険な動物でもいるの?」
男性「それはわからんが…何故か一人だけあの森に暮らしている女がいるんだよ。」
紅華「女が一人で…?どんな感じの人?」
男性「遠目だったから顔はよく見えなかったが、子供がいてもおかしくないくらいの年齢の女性だったよ。」
紅華「まさかその女が人々を…殺してる?」
男性「うーん…だけど彼女がそんな事をするようには見えないんだよ、なんか優しそうな感じだったし…」
紅華「そうなの?」
男性「アンタ程、派手な美人じゃ無かったからよく覚えてないけどね…」
紅華「あら?お上手ね!」
お嬢様はこういう時、素直に喜びます…ですが決してチョロイ訳ではありません。
男性「あと、俺は聞いてないけど…なんか歌声を聞いたってヤツもいるんだよ。」
紅華「歌声…その女の人が歌っていたの?」
男性「それは聞いた話だから…わからんね?」
ライザ「フム?…もしかしたら研究員の生き残りかもな?爆撃の時には施設にいなかったとか…?」
紅華「でも何故、廃墟になった施設に残っているの?」
ライザ「そうだな…?」
紅華「それに、数年であんなジャングルになる理由も説明がつかないわ!」
ライザ「それはある程度の予想は出来る!」
老鉄「それはどのような理由からでしょうか?」
ライザ「あの研究施設は元々生体兵器を研究してたのさ、もちろん兵器と言っても白みたいな電子戦特化型もいればアリスのような潜入作戦用といった具合に多岐にわたる。」
白「アリス…潜入作戦用なの?」
アリス「えへへ…凄いでしょう?」
私から見て、アリスさんが潜入作戦用とはとても思えませんが…どういう事でしょう?
紅華「…つまりその中には植物を使った…例えば食人植物とかもあったって事?」
ライザ「記録にはそんな物は存在しないが…動物と植物の細胞を併せ持った生物で研究してる学者もいたらしい…」
紅華「そんな物…禁忌の研究じゃない?」
ライザ「そうだな?…だが連中はそんな非人道的な研究をしていたんだよ!」
この銀河には植物から進化した人類も存在しますが、彼らは皆さん原始的な生活をしていたようです。
もしかすると、そうした人々の遺伝子を利用していたのでしょうか?
白「No.001…」
突然、白が呟くように言いました。
紅華「えっ?今なんて…?」
白「001という子がいた…話した事…なかった…けど…」
アリス「アタシも覚えてるよ!白よりも無口だって覚えてる!」
白「それは余計!」
白は少し、不機嫌そうな目つきでアリスさんを見つめます。
アリス「あ ゴメン〜!」
紅華「白、その001はどんな子だったか思い出して。」
白「…なんだか…緑色の…目をしてた…凄い大人しくて…でも、どんな能力か…知らない…」
アリス「なんかねぇ…いつも女の博士が一緒にいたよ。」
ライザ「女の博士…記録にあるが…彼女は死亡が確認されている。」
紅華「その博士の名前は?」
ライザさんは端末の資料を見ながら話します。
ライザ「ええと…リリー・フランケンシュタイン博士…だな!」
紅華「フランケンシュタイン…?エルシュタインとか帝国は〇〇シュタインが多いわね?」
ライザ「そうだな?だがそれは由緒正しき一族の証でもあるんだよ!」
紅華「アタクシの李家も由緒正しき一族なのよ!」
ライザ「フッ!その李家のお嬢様がこんなにお転婆とはな?」
紅華「なによぉ?アタクシは銀河で一番イイ女なんだから!」
お嬢様は少しむくれながら反論します、お転婆なのは間違いないかと思いますが…ここは黙っていましょう。
ライザ「はいはい…」
老鉄「その目撃されている女性はその、リリー博士と関係のある人物という事はありませんか?」
ライザ「…なら目撃された女性は別人か、あるいは遺族かもしれないな」
紅華「なるほど?それならそんなところに居る理由もわかるわ!」
ライザ「…そうかもしれんな?故人を弔っている可能性はある…」
紅華「人喰いの森なんて…ちょっとホラーだけど…行くしか無さそうね?」
ライザ「そうだな!行くか!」
こうして、私達はその人喰いの森に向かう事にしました。
ライザさんの宇宙船に搭載されていた軍用の電動トラックに乗り込み、私達はその森に向かいます。
森の近くにトラックを停めると、白が真っ先に降りました、白にしては珍しい行動力です…やはりこの森に何かを感じているのでしょうか?
アリス「なんか…凄い空気が綺麗な気がするよ!」
私のセンサーが酸素の濃度が少し高いのを検知しています、人間にはそれが空気が綺麗という感覚になるのでしょう。
カメラで森の奥まで撮影していますが、動物らしきものは見当たりません…しかし何か小さな飛行物体がチラホラと写ります、コレは…昆虫でしょうか?
紅華「どう?何か反応はある?」
老鉄「お嬢様、虫以外の反応はありません…しかし、危険な昆虫もいるかもしれません!」
ライザ「そうだな?毒虫が居る可能性もある、念の為にみんな虫除けスプレーを使うんだ。」
アリス「アタシも?」
ライザ「当然だ!どんな毒性生物がいるか分からないからな?」
紅華「そうね!生物兵器の中には猛毒を持たせたヤツも存在したかもしれないし…」
白「001は…毒なんか持っていなかった…」
紅華「…いるのが001とは限らないんだから、白もちゃんとつけるのよ!」
白「わかった…」
ヌマル「このジャングルは普通とは違うニャ!みんな気をつけるのニャ!」
白が抱いているぬいぐるみ型AIのヌマルが声をかけます、ヌマルの言う通り数年前には荒れ地だったはずの土地で…しかもこの一角だけがこのような変貌を遂げているのは異常なのです。
注意深く観察すると、森の中に向かう通路のようなところがありますね?
老鉄「あそこから入れそうです、皆さん注意して進みましょう。」
ライザ「けもの道かもしれないが…例の女が使ってる道かもな?行こう!」
ライザさんを先頭に、私達は森の中に入って行きました。
どうやら人が通って出来た道のようです…とはいえ草が足元に茂っているのでガサガサと音を立ててしまいます、こんなところでスナイパーに狙われたらあっという間に全滅です。
老鉄「ライザさん、私が先頭を歩きましょう!敵に奇襲されても私のボディはヴォルテック合金製に変わっています、少しくらいの銃撃ならば問題ありません。」
ライザ「確かにそうだな?よし老鉄、頼んだぞ!」
老鉄「お任せ下さい。」
森の中を進むと、何か微弱な電気信号を検知しました…植物が出しているものでしょうか?
老鉄「……?」
周囲の植物から発せられているようですが、自然発生とは思えない規則性があります。
植物や菌類は微弱な電気信号を利用して情報を伝達しているという研究報告があります。もっとも、私が検知した信号がそれと同じものなのかは判断できません。
紅華「しかし、人喰いの森なんて言うから…もっとおどろおどろしいかと思ったけど…入ってみたら結構綺麗な森じゃない?」
ライザ「確かにそうだな?空気がうまいぞ!すう〜はぁ〜!」
ライザさんは深呼吸しています。
私は先頭に立って歩き始めました、すると森の奥から何か声が聞こえて来ました。
老鉄「コレは…人の声のようですね?」
アリス「アタシも聞こえるよ!…なんか歌みたい…?」
白「…!この歌…聞いた事ある…昔…」
ゆっくりとしたリズムの歌声は何処か優しく、そして悲しげでもありました。
しかし不思議な事に…声は反響しているのか森全体から聞こえるような感じです。
紅華「こんなところで、…子守唄かしら?気味が悪いわね?」
ライザ「これは…聞いた事があるぞ!帝国領内のあちこちで伝わる民謡だ!」
さらに奥に進むと、歌の歌詞がハッキリして来ました。
さぁ眠りなさい
まどろみの夜に
静かに静かに
憩えよ我が子
朝日が登る時まで
楽しき夢を見ながら
お眠りなさい
静かに静かに
愛しき我が子
確かにそう聞こえました。歌詞だけ聞けば優しい子守唄…しかし、この人喰いの森で誰が歌っているのでしょうか。
その答えを知るため、私達は歌声のする森の奥へと歩き始めました――。
つづく…
森に響く帝国の民謡…
子守唄として帝国領内の各地で歌われるその歌は、一体誰が歌って居るのでしょうか?
そして、人喰いの森の真実とは? 紅華達を待っているものは何なのでしょうか?
次回、森に眠る秘密と、子守唄を歌う女性の正体が明らかになります。




