ゼロスハイマンの娘(2)
ゼロス・ハイマンが惑星ベガⅣ(フォー)の工業都市「デロリンド・シティ」に居るかもしれないという情報を得た私達はレオナルド氏にお礼を言うと一路デロリンド・シティに向かいました。
しかし広大で人も多すぎる街でゼロス様一人を捜すのは至難の業!
そこでリントハイム様が考えた方法とは?
というところから今回は始まります。
私の名前は老鉄、旧式のドロイドです。
リントハイム様は私達を伴って、デロリンド・シティの中心部にある巨大な歓楽街へとやって来ました。
私達が案内されたのは、その中でも「クリムゾン・5」と呼ばれる一角でした。
そして今、私達は宮殿のような大きな建物の前に立っています。
老鉄「ここは…?一見すると豪華な建物ですが、中身は普通のビルのようですね?」
建物を見上げると、上の方の階は住居になっているようで洗濯物が干してあるのが確認出来ました。
リントハイム「ここのオーナーには昔、世話になっているのさ…」
リントハイム様も見上げながら呟きました。
紅華「FIRST・Ladyって書いてあるけど…なんかキャバクラみたいよ?」
リントハイム「平たく言えばそうだ、この辺りでは一、二を争う店舗らしいぞ!」
夜影「まだ営業時間では無いようです…こんな店に何の御用が?」
リントハイム「とにかく入ろう。」
そうおっしゃるとリントハイム様は呼び鈴のボタンを押しました。
しばらく待つと扉が開き、扉の影から老婆が顔を覗かせました。
リントハイム「やぁママ、久しぶり!」
老婆「フン!あたしはアンタのママじゃないよ、アタシの事はアモーレさんって呼びな!」
長身で痩せた、グレーヘアを綺麗に編んで纏めたその老婦人はそう言って私達を店内に案内しました。
店内にはテーブルとソファがずらりと並び、奥には一段高い立派なステージがありました、さながら小劇場のようです。
紅華「立派なステージですね?あそこでショーとかやるんですか?」
アモーレ「そうだよ!そう言えばアンタが紅華だね?銀河で一番イイ女だとか言っている…?」
紅華「あら?アタクシの事はご存知だったのね?」
アモーレ「まあね!アンタは裏の世界じゃちょっとした有名人さ、ガリウスとの決闘は中継もされたからね…」
老鉄「中継用のドローンはガリウスが撃ち落としてしまったはずですが…?」
アモーレ「地上からの中継はやっていたからね…見た人間は多いはずさ!」
紅華「あら?それじゃあ目立ってしまうわね?困ったわ〜!」
お嬢様はそう仰っていますが、その顔はなんだか嬉しそうです。
アモーレ「こんな有名人がゲストで来れば、売り上げアップは間違い無いね?」
アモーレさんは嬉しそうに言っていますが……はて?
ゲストとはどういう意味でしょう?
夜影「ちょっと待ってください!ゲストってどういう意味でしょうか?」
リントハイム「この店で働くのさ!もちろんゲストだから接客はしなくていい!」
夜影「ええっ?ど、どういう事ですか?」
アモーレ「紅華と老鉄がゲストで出演するって宣伝しておいたからね、ゼロスも聞きつけてこの店にやって来るはずさ!」
自信満々でそう言ってるアモーレさんですが、ゼロス様をご存知なのでしょうか?
紅華「ちょっと!いつの間にそんな話をしたのよ?」
リントハイム「デロリンド・シティに到着する前さ!こんな広大な街から先生一人を捜すのは砂漠の中から一本の針を捜すのに等しいからな。」
老鉄「それはそうですが…何故ドロイドの私まで…?」
リントハイム「老鉄も居るとなれば、先生は様子を伺いに来るはずだ…もちろんまだこのデロリンド・シティに居るという前提だがな。」
老鉄「私にそれほど関心があるとは思えませんが?」
リントハイム「正確に言えば老鉄の中にあるプロメテウスコア17に関心があるのさ、あれからどんな成長をしたのか直に確かめたいはずだ!」
老鉄「確かに!プロメテウスコアが成長するって事をゼロス様はご存じのはずですからね?」
アモーレ「成長って言えば、リンちゃんはまだ未成年の頃からゼロスに連れられてアタシの店に来ていたねぇ?」
紅華「り、リンちゃん?」
銀河でも指折りの大富豪、リントハイム様の事をリンちゃん呼ばわりする人物を私は初めて見ました。
リントハイム「アモーレさん、あれは先生に無理やり連れて来られて…」
アモーレ「それくらいわかっているさ!アイツは社会勉強なんて言っていたけどね…」
紅華「リントハイム様は飲んだの?」
リントハイム「アルコールは飲まないさ、未成年にアルコールは有害だからな。」
紅華「社会勉強が有害じゃ無ければイイけどね?」
リントハイム「変な想像はするなよ…」
なんだか空気が変な感じになっているようです。
アモーレ「アタシだって、あの頃は帝国領内では三本の指に入る美女と呼ばれていたんだよ!」
老鉄「…時の流れは残酷なのですね?」
夜影「老鉄さん、失礼ですよっ!」
紅華「ご、ごめんなさい!アモーレさん。」
アモーレ「あはは!ラオ公は正直だね?いいさ、変におべんちゃら言って来るヤツらよりもよっぽど信用出来るからね!」
私の事をラオ公と呼ぶのはゲンサンだけかと思っていましたが…アモーレさんまでもがそう呼ぶとは想像していませんでした。
リントハイム「アモーレさんの言う通り、老鉄は信頼出来る仲間ですよ。」
アモーレ「!…フフン、リンちゃんも成長したね?昔のアンタはドロイドを仲間なんて絶対に言わなかった!」
リントハイム「そ、そうですか…?」
なんだかリントハイム様は照れくさそうにしていました、しかし同時に私の回路の温度も少しだけ上昇したのを感じます。
アモーレ「しかし…ゼロスってばアタシよりも年上のくせに今でも若いまんまらしいじゃないか?癪に障るねぇ…!」
紅華「お気持ち、わかりますわ!やっぱり女はいつまでも若く美しくありたいですよね?」
アモーレ「さすがは銀河で一番イイ女だ!わかっているねぇ〜?」
お嬢様とアモーレさんは意気投合した様子です、協力してくださるのですから良好な関係は大切です。
アモーレ「それじゃアンタ達の衣装を選ぼうかね?」
そう言うとアモーレさんは私達を店のバックヤードに案内してくださいました。
お店のバックヤードには従業員の休憩室やメイクアップルームなどがありました。
衣装部屋に入ったアモーレさんがしばらくすると何着かの衣装を持って出て来ましたが…
アモーレ「紅華はこれなんかどうだい?スタイルの良いアンタなら凄い映えると思うよ!」
老鉄「随分と布面積が少ないのではないですか?」
アモーレ「それはそうさ、コレはダンサーの衣装だからね!これを着て腰を振ったら大抵の男は悩殺さ!」
老鉄「こんなハレンチな衣装は却下します。」
リントハイム「そうだな…セクシーなのは良いが露出が多すぎるのは私の秘書としては相応しくない!」
アモーレ「ダメかい?…似合うと思うんだけどねぇ…」
老鉄「似合ってもダメです!」
こんなやり取りを何回かするうちにようやくお嬢様の衣装が決まりました、白いチャイナドレスです。
紅華「どうかしら?白いチャイナドレスは初めてだけど…」
老鉄「良くお似合いです!」
リントハイム「フム!そうだな?色気と気品があって私の秘書としても相応しい。」
紅華「フフ、ありがとう!」
お嬢様の次は夜影さんですが…アモーレさんが持ってきたのは白と黒のモフモフの衣装でした。
夜影「…あの…コレは…?」
アモーレ「見ての通りの着ぐるみだよ!アンタはこいつで店内を周りな!」
老鉄「見たところコレはクラウド星系の"白黒猫熊"の着ぐるみですね?可愛いとは思いますが…」
アモーレ「アタシの見立てじゃ、この子には接客は無理だからね。」
夜影「バカにしないでください!それくらい私だって…」
アモーレ「バカになんかしてないさ!だけどね…アンタは愛想が無いのさ!ここのお客さんはみんな癒しを求めて来てるんだ、そんな殺気に満ちた目じゃ客が逃げちまうよ!」
夜影「……くっ!」
老鉄「夜影さんはかなりの美人だと思いますが…?」
アモーレ「男ってのは、美人なだけじゃダメなんだよ!女は愛嬌って昔から言うだろう?」
夜影「……うぅ…」
アモーレ「落ち込む事は無いよ、適材適所ってヤツさ!…アンタに相応しいのはコイツだからね!」
そう言ってアモーレさんは黒いナイフのような尖ったモノを夜影さんに渡しました。
夜影「これは…ナイク?…しかもダマスクセ鋼製の本物じゃないですか!」
アモーレ「アンタはコレを使う一族の出身だろう?身のこなしと目つきでわかったよ!」
老鉄「ナイク?ナイフとは違うのですか?」
リントハイム「ナイクとは銀河戦国時代末期に活躍したフーマー一族が好んで使った小型の武器だな?」
老鉄「それにダマスクセ鋼というのは現代ではその製法が失われて幻の合金と呼ばれる物ですよ、博物館入りの代物ではありませんか?」
夜影「ナイクは…私の一族が使っていた物ですが…コレは武器でもあり地面を掘る道具でもあり…とにかく重宝するモノなんです!」
ひし形の刃と柄の末端に輪を備えたそれは、長い年月を経たとは思えないほど美しく、漆黒の刀身には独特の波紋が浮かんでいました。
アモーレ「旅の商人が飲み代が足りなくて置いていった物さ、アタシが持っていてもつまみのチーズを切るくらいしか役に立たないからね…これも適材適所さ!」
夜影「あ、ありがとうございます……」
夜影さんは両手でナイクを受け取ると、しばらくその漆黒の刀身を見つめていました。
さらに握ってみたり刃先を慎重に指で触って刃の状態を確認してみると柄の末端にある輪に指を入れました。
それからクルクルとナイクを回したりして感触を確かめている様子です。
夜影「…これが…本物のナイク……」
その声は、わずかに震えていました。
いつも冷静沈着な夜影さんが、これほど感情を表に出すとは……私にとっても驚きです。
アモーレ「アンタらの手伝いはするけど、店に悪影響が出るような事はごめんだからね…」
紅華「もちろんよ!夜影、怪しい人は見逃さないでね!」
夜影「はい!お任せください。」
どうやらすっかりやる気になっている様子です。
リントハイム「さすがだな…?」
老鉄「どういう事でしょう?」
リントハイム「アモーレさんだよ…なかなか心を開かない夜影の心をしっかりと掴んでしまった…彼女の人心掌握術があればこそ、こんな大きな店を繁盛させていられるんだよ!」
老鉄「なるほど!確かにそうですね?」
リントハイム「紅華は自然にやっているが、私は緻密な計算の上でやっているからな…恐れ入るよ…!」
そう仰っているリントハイム様の表情は、何故か嬉しそうでした。
老鉄「リントハイム様…なんだか嬉しそうですね?」
リントハイム「フフ…昔、先生に言われた事を思い出してたのさ。」
老鉄「ゼロス様に?」
リントハイム「あぁ…損得勘定で動く人間はいつか裏切る!だから理念や信念で繋がった仲間を作れ!…そう言われたのさ。」
老鉄「ゼロス様がそんな事を…?」
リントハイム「だが当時の私は理解出来なかった…有能な部下さえ居ればイイとすら思っていたんだ…」
老鉄「そうなんですね?」
リントハイム「だが今は先生の言っていた事がわかる…アモーレさんの所に連れて行ったのもそれを教える為だったんだろうな?」
老鉄「…それにしても、ちょっと見ただけで夜影さんの出身を見抜くとは…アモーレさんの眼力には敬服いたします。」
リントハイム「そうだな?私もまだまだ勉強しないといけないな…」
そんな事を話しているとアモーレさんがこちらに向き直りました。
アモーレ「さてと、あとはリンちゃんだね?」
リントハイム「え?…わ、私は…」
アモーレ「アンタに接客はさせないけど、店の中にいる以上は怪しくない格好でいないとね!」
そう言って奥の衣装部屋に向かいます。
アモーレ「ゼロスはアンタの顔を見ればすぐにわかってしまうだろうから…コレにしようかね?」
そう言って彼女が差し出したのは白地に大きな水玉が何色にも描かれた衣装でした。
広げて見ると袖口にはフリフリが着いています。
老鉄「…コレは…まるでサーカスのピエロの衣装のようですね?」
アモーレ「よう、じゃなくて本当にピエロの衣装さ!これでメイクをして帽子も被ってしまえばゼロスのヤツだってリンちゃんだとは気が付かないよ!」
紅華「ぷっ」
お嬢様は何故か吹き出してしまいました…よく見ると夜影さんも肩を震わせて笑いを堪えているようです。
そしてリントハイム様は何故か顔を引きつらせて笑っていました。
何がそんなにおかしいのでしょうか?
リントハイム「アモーレさん…これは流石に…」
アモーレ「あいにくだけど、男物の衣装はコレしか無いんだよ!ごちゃごちゃ言わずに着な!」
リントハイム「…は、はい…」
どうやらリントハイム様もアモーレさんには頭が上がらないようです…
その後、お嬢様はショーで二胡の演奏を披露する事と射撃の腕前を披露する事に決定しました。
アシスタントにはピエロ姿のリントハイム様です。お二人の息はピッタリのはずですから、問題は無いでしょう!
…店内で実銃を使うのは危険なので訓練用の空気銃を使うそうです、もちろんお嬢様の腕前ならば造作も無い事だと思います!
そして私はと言うと…お店の女の子とのコントを披露する事になりました。
老鉄「ところで…コントとはいったい何をするのでしょうか?」
アモーレ「なあに!アンタはいつも通りにしていればいいのさ!」
老鉄「はて?それでお客さんに喜んでいただけるのでしょうか…?」
アモーレ「大丈夫だよ!アンタならきっと大ウケさ!」
そう言って彼女はニコニコしながらキセルをふかしていました。
……何故でしょう?アモーレさんの笑顔を見ていると、私は少々不安になってきてしまいました。
つづく
驚くべき人心掌握術で紅華、夜影の心を掴むアモーレさん!
彼女にはリントハイム様も頭が上がらずピエロの扮装でお嬢様のアシスタントをするようですね?
そして老鉄はキャバ嬢達とのコント…果たしていったいどんなショーになるのでしょうか?
…そして、ゼロス・ハイマンは現れるのでしょうか?
次回に続きます。




