楽園の誘惑(3)
南海の孤島に広がる楽園――エルシュタイン・リゾート。
透き通る海、輝く太陽、美味しい料理。
誰もが心から羽を伸ばせるはずの場所で、奇妙な出来事が起こり始めていました。
夜ごと白に聞こえる謎の声。
原住民の村で不思議な行動を取ったミーナ。
そして帝国皇室に連なる人物までもが姿を消しているという噂――。
さらに浮かび上がる、古代銀河文明の影。
「シャザイン」
意味不明なその言葉は、いったい何を意味するのでしょうか?
楽園の奥深くに眠る秘密と、失われた者たちの行方。
そして老鉄が辿り着いた一つの仮説とは――?
『楽園の誘惑』第三話、どうぞお楽しみください。
私の名前は老鉄旧式のドロイドです。
孤島の高級リゾート、エルシュタイン・リゾートに来ている私達の周りで奇妙な事が起こり始めました。
行方不明になったかと思われたミーナさんは原住民の村で酔っ払いながら踊っていたり、白ハクは夜に奇妙な声に悩まされて寝不足になってしまい今も昼寝しています…!
私は白が昼寝をしている脇のテーブルの上のヌマルを抱き上げました。
ヌマル「どうしたんだニャ?」
私はヌマルに短距離通信を使って話しかけました、これならば音声が必要無く白を起こす心配もありません。ちなみにネットワークを介して話す事も可能ですが、その場合は誰かに聞かれる可能性があります。
老鉄(白は確かにその"シャザイン"という声を聞いたのですか?)
ヌマル(白はそう言っているけど…アタシには何も聞こえなかったのニャ!)
老鉄(ヌマルには聞こえないレベルの声だった可能性は?)
ヌマル(ありえないニャ、アタシの聴音センサーは本物の猫並なのニャ!)
確かに猫は高周波数の音を聞き取ることができ、人間の3〜4倍(またはそれ以上)とされる聴力を持ちます。
それならば白には聞こえてヌマルには聞こえないはずはありません。
老鉄(となると…音で無く、テレパシーのようなものですかね?)
ヌマル(白は電子戦特化型の強化人間ニャ!テレパシー能力が有るなんて聞いて無いニャ!)
老鉄(私も聞いた事はありませんが…可能性があるのはそれくらいかと?)
ヌマル(動物の行動を超音波である程度コントロールする技術は存在するニャ!だけど超音波ならアタシが聞こえないはずは無いのニャ!)
老鉄(そうですね?だけどテレパシーは、まだよくわかっていません…しかしミーナさんが一人で村に行ったのも、テレパシーで呼ばれたのだと考えれば納得がいきます。)
アリス「老鉄さん、こんにちは!可愛いぬいぐるみだね?」
不意にアリスさんが声を掛けて来ました。
老鉄「アリスさん!こんにちは!このぬいぐるみはヌマルと言うんですよ!」
ヌマル「こんにちは、アタシはヌマルだニャ!」
アリス「わぁ!このぬいぐるみ喋るんだ?イイなぁ〜!」
老鉄「喋るぬいぐるみなんて珍しく無いですよ。」
おもちゃ売り場に行けば、簡単な会話が出来るぬいぐるみや人形が販売してますが、ヌマル程のスペックを持っているぬいぐるみは皆無でしょう!
アリス「だけどこの子可愛いよ!もらってイイ?」
老鉄「ヌマルは白の友達ですので…すみませんが…」
アリス「そうなんだ…?残念…」
ヌマル「可愛いって言ってくれてありがとうニャ!アリス!」
アリス「えへへ…ハクって?そこのお姉ちゃんの事?」
そう言ってアリスさんは白の寝顔を覗きこみました。
老鉄「そうです、今はお昼寝中なので静かにしてくださいね!」
アリス「はーい!」
女の声「アリス、勝手に行くんじゃない!」
軍人らしいワンピースの水着を着た女性がやって来てアリスさんを注意します、アリスさんは不満そうな顔で…
アリス「ライザって心配性なんだから…こんなところで危険なんてあるわけ無いじゃない?」
ライザ「…ったく!このリゾートでは行方不明になった人が何人もいるんだ、何が起きるかわからないだろう?」
私は驚きました!行方不明になった人が何人もいるなんて…聞いていなかったのです。
老鉄「失礼ながら…行方不明になった人がいるというのは本当なのですか?」
ライザ「ああそうだ!それも…1人や2人じゃない…帝国皇帝の従兄弟にあたるお方までも…」
アリス「それって言ってイイの?」
ライザ「あ…い 今のは忘れてくれ…」
老鉄「帝国にとってはスキャンダルですから…秘密にしておきます。」
ライザ「かたじけない…GDR-04?そうか…おまえが奥様がおっしゃっていた老鉄というドロイドか?」
老鉄「どうやらそのようです…」
ライザ「私はライザだ、奥様達のボディガードだ!」
アリス「ライザはスッゴイ強いんだよ!」
アリスさんの言うように、ライザさんは隙が無い感じでかなりの実力者である事が伺えます。
その後、私はこの違和感をリントハイム様に報告しようと思い、リントハイム様のところへ向かいました。
木陰で読書かと思いきや、昼間から一杯やったりしています。
老鉄「リントハイム様、少々気になる事がございます!」
リントハイム「なんだ?せっかくのリゾートなのに…もう少しゆっくりしたらどうなんだ?」
そう言って琥珀色のグラスを口に運びます。
老鉄「皆さんがゆっくりしてくだされば私は構いません!しかし、何かおかしな事が起きているのです。」
リントハイム「…なんだそれは?」
リントハイム様の目の色が変わりました。
老鉄「はい、実は…」
私は昨夜からの異変について話しました、白が聞いていた"シャザイン"の声、ミーナさんの行動など…
リントハイム「…ふむ?確かに奇妙だ…私には何も聞こえなかったが…」
老鉄「それに…これは内密の話しなのですが…」
リントハイム「なに?皇帝の従兄弟までもが行方不明とは…これは何かあるな?」
老鉄「リントハイム様でも知らない情報ですか?」
リントハイム「そうだな!おそらくは帝国軍も秘密裏に捜索してるはずだが…?」
老鉄「情報通のリントハイム様でも知らないのではお手上げですね…?」
リントハイム「だが…行方不明の皇帝の従兄弟の心当たりはあるぞ!」
老鉄「えっ?そんな重要な人物をご存知なのですか?」
リントハイム「行方不明になってもニュースにすらならないような人物はただ一人!…スタンレー公だ!」
老鉄「スタンレー公?はて?聞いた事がありませんが…」
リントハイム「それはそうさ!スタンレー公は政治には無関心で考古学に熱中していて古代銀河文明の発掘現場ばかりをウロウロしている人物だからな…」
老鉄「…つまり…皇室の放蕩息子という事ですかな?」
リントハイム「まぁそんな感じだ!…だから常に帝国内でも見かけないので行方不明になっても誰も気がつかないのさ!」
老鉄「……そんなに影が薄い人だとは…データベースにも載ってなかった訳です。」
リントハイム「この惑星にも古代銀河文明の遺跡がいくつか発見されているし…ここの原住民は古代銀河文明の末裔だという噂もあるが…そんな彼らが何故原始的な生活をしているのかは不明なんだ!」
老鉄「それではスタンレー公はこの惑星の遺跡調査をしていて行方不明になったという事でしょうか?」
リントハイム「おそらくな?…もうとっくにお亡くなりになっているかもしれないが…帝国側としてもほって置く訳にも行かないのだろう…」
私はなんとなく腑に落ちました!マリアさんはスタンレー公の奥様か関係者…そしてそのスタンレー公の行方を探しに来たのだと。
リントハイム「しかし、そのシャザインという意味不明の言葉だが…もしかしたら古代銀河文明の言葉なのかもしれないな?」
老鉄「ありがとうございました、とにかくリントハイム様もお気を付けて…!」
リントハイム「テレパシーとかだと老鉄には感じ取れないだろうからな…何かあったらすぐに呼ぶよ!」
老鉄「そうしてください!では、私は失礼致します。」
少し情報が増えましたが…以前として"シャザイン"の言葉の意味も白に聞こえる理由も分からないままでした…
ドロイドである私や、AIであるヌマルには聞こえない声…逆に言えば小雨さんやロゼッタさんにも聞こえている可能性はあります。
そこで私は、小雨さんとロゼッタさんを探しました…
ビーチを散策していると、小雨さんが丁度海から上がってきたところでした。
小雨「老鉄さん、何やってるんですか?」
彼女は普段からは想像出来ない大胆な水着を着ていました。
こういう解放的な場所は女性を大胆にするものなのでしょう!
老鉄「丁度良かった、実は奇妙な事に気がついたので探していたのですよ。」
小雨「奇妙な事?」
老鉄「ええ、実は……」
私はミーナさんや、白の異変について説明し小雨さんにも何か変わった事がなかったか伺いました。
小雨「うーん…そうですねぇ…?変な声が聞こえるとかは無いんですけど…」
老鉄「けど?何か?」
小雨「ここのレストランの人に料理のレシピを教えてもらったんですけど…その時に…原住民の人が作ってるジュースっていうのが原因で幻覚を見る事があるそうなんです…」
老鉄「幻覚?」
私は一つ目の像の前で踊っていたミーナさんの姿を連想しました、アレがジュースのせいで幻覚を見ていたのだとしたら納得がいきます。
老鉄「そのジュースの成分は分かりますか?」
小雨「いいえ、原住民の人達しか知らない製法らしくて…私も飲まない方が良いって聞いただけなんです。」
老鉄「そうですか?…しかしそれが本当ならばミーナさんの様子がおかしいのも説明が着きます!」
小雨「あ!そう言えば…」
老鉄「まだ何か?」
小雨「別に変な事じゃないんですけど…ロゼッタがゲームコーナーの射的で景品をいっぱい取って来たんですよ!」
老鉄「射的?このリゾートに銃なんてあるのですか?」
小雨「銃と言っても、おもちゃの銃ですよ!でもロゼッタって本当に上手で…お店の景品が無くなるからって追い出されたくらいなんです。」
ロゼッタは兄の復讐の為にスナイパーになってしまった過去があるので、射的が上手いのは納得ですが…なんだか複雑な感じです…
老鉄「そうですか…それでロゼッタは?」
小雨「景品でもらったスパのマッサージ券を使うのでスパに行きましたよ!私も後で行こうかな?」
老鉄「わかりました!ありがとうございます。」
私はビーチを離れ、ホテルの別館にあるスパに向かいました。
ホテルの北側にある別館は、円形の建物で中にはスパやマッサージコーナー、バーなどがあります。
この別館だけはこのリゾートの中で唯一別に料金がかかるのですが、そのせいかとても空いているそうです。
なのでロゼッタさんを探すのに苦労はしませんでした。
老鉄「ロゼッタさん、どうでしたかマッサージは?」
ロゼッタ「老鉄さん?最初はちょっとくすぐったい感じだったんですけど…すぐに気持ち良くなって…寝ちゃったんです…えへへ…!」
老鉄「マッサージで気持ち良くなったからですね?リラックス出来て良かったです。」
ロゼッタ「ありがとう…なんだか今はとても幸せで…本当に良いのかな?なんて考えちゃうんですけど…」
老鉄「幸せなのが一番ですよ!ロゼッタさんにも色々と辛い事があったでしょうが…」
ロゼッタ「…うん…でも今はメイド隊の紅棘にも入れて…お姉ちゃん(夜影)が出来て…本当に良かったんだ!」
老鉄「そうですか…それは良かった!」
ロゼッタさんはお兄ちゃんを殺され復讐に心を支配され、さらに彼女を利用した者達によって暗殺者に仕立てあげられたのです、そんな過去を乗り越えて今が幸せと言う彼女がとても眩しく感じました。
老鉄「そういえばロゼッタさん、変な声が聞こえて来たりはしませんか?」
ロゼッタ「変な声ですか?うーん…そういえば…」
老鉄「何かありましたか?」
ロゼッタ「マッサージ中に寝てたから…夢を見ちゃったんですけど…なんだか裁判所みたいなところで…"罪を数えよ!"と誰かに言われたんです。」
老鉄「罪を…数えよ?」
ロゼッタ「変な夢ですよね?」
老鉄「私は夢を見る事が出来ないのでよく分かりませんが…」
ロゼッタ「でも…なんだかそう言われたら心が軽くなったんです。」
老鉄「心が軽く…?ならばそれは良い夢なのではないですか?」
ロゼッタ「そうですね?…なんだか全部見透かされてる気がして…隠さなくて良いんだって思えたんです。夢の中で懺悔したからかな?」
老鉄「心に隠し事があると、ストレスを感じるそうですよ!」
ロゼッタ「そうなんですかね?私ってマインドコントロールをされていたからその影響かな?とも思っているんですけど。」
老鉄「なるほど?そうかもしれませんね?退院しても影響があるのかも…?」
私はドロイドなので夢を見る事がありません、なので本当のところは分からないのですが、ロゼッタさんの心が軽くなったのは良かったのだろうと思います。
そうこうしてる間に、日が傾いて来ました…
夜の海は危険なので、暗くなる前に海から上がってくださいというアナウンスが流れています。
夜行性の魚が猛スピードで泳いでいて、人にぶつかって刺さる事故が発生するかららしいです…魚には悪気は無いのでしょうが…?
…待てよ?
悪気は無い…
もしかしたら…
そうなのかもしれません!
私は1つの仮説に辿り着きました。
つづく…
楽園のリゾートで起きる不可解な出来事。
「シャザイン」という祈りの言葉。
原住民に伝わる不思議なジュース。
そして密かに失踪していた帝国皇室のスタンレー公。
一見すると無関係に見える出来事ですが、少しずつ一本の線で繋がり始めています。
今回は初めてロゼッタの挿絵が挿入されましたが……
復讐に囚われ、暗殺者として利用されてしまった少女が「今は幸せ」と語る姿は、彼女が長い苦しみを乗り越えつつある証なのかもしれません。
しかし、そんな彼女が夢の中で聞いた言葉…
「罪を数えよ!」
この言葉は単なる夢なのでしょうか?
それともシャザインと何か関係があるのでしょうか?
そして老鉄が最後に辿り着いた一つの仮説とは何なのか?
楽園に隠された古代文明の秘密が、少しずつ姿を現し始めます。
次回『楽園の誘惑』第四話もお楽しみに!




