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三日月のレクイエム(前編)

李 紅華は、リントハイムの財力を用いて戦災孤児を保護する施設「アステリアの家」を運営している。

住む場所を失った子供達に衣食住を与え、学問や技術を教え、自立できるよう支援するための施設だ。

その中でも特に優れた才能を持つ少女達は、紅華直属のメイド隊「紅棘」の一員として迎えられる。

だが、紅棘に入れるのはほんの一握り。

選ばれなかった子供達もまた、それぞれの道へ進み、一般社会で懸命に生きていた。

――そして今、一人の少女が運命の分岐点に立っていた。

私の名前は老鉄(ラオティエ)、旧式のドロイドです。

狂弾のマエストロと呼ばれた最強スナイパー、ガリウスとの対決から1週間程が過ぎ…

私の破壊された右脚がようやく治りました!

必要なパーツが不足していた為にこんなにも時間がかかってしまったのです。

今はゲンサンの工房で最終調整をしてもらっています。

源蔵「どうだいラオ公?右脚の調子は?」

老鉄「問題ありません!パーツが新しくなったので以前よりも5%程軽くなった感じです。」

源蔵「少しだけ軽量化されてるからな…問題無いなら良かったぜ!」

老鉄「パーツにも相性がありますからね?」

源蔵「そうだよな?同じ規格で作っていてもなんだか合わねえってヤツがあるからな!」

老鉄「はい!逆に大量生産される工業製品は稀にものすごい精度のパーツが出来る事があります、ガリウスが使っていたライフルはそういうパーツを厳選して組み立てた物だったらしく…彼の神技的な狙撃を可能にしていた要因の1つですね!」

源蔵「そのライフルは今は何処にあるんだ?」

老鉄「夜影(イェイン)さんが回収して保管しているようです、狙撃は彼女の得意とする分野ではありませんが…いつか役に立つかもしれないと仰っていました。」

源蔵「なるほどねぇ〜?…まあ紅棘のメンバーの中にもスナイパーが居た方が戦術の幅が広がるからな…?」

老鉄「そうですね…」

私はガリウスの事を思い出していました、戦場に取り憑かれ戦いの中で死んだ彼を…

紅華(ホンファ)「ゲンさん、老鉄の調子はどう?」

お嬢様が工房にやって来ました、本日は護衛の仕事も無く邸宅でゆっくり過ごされてるのです。

源蔵「お嬢?…全く問題無いぜ!ラオ公の調子はすこぶるイイからな。」

紅華「老鉄の修理が終わったならちょうど良かったわ。」

老鉄「何かお仕事でしょうか?」

紅華「うん…実は惑星バルジアンの首都、フォンテーヌシティに行く事になって…」

源蔵「結構歴史があるところだな?…しかしあそこの連中はなんだかお高くとまってるヤツが多くてオイラはあまり好きじゃねぇんだ…!」

老鉄「あそこは長い歴史がありますが…昔から革命や民衆の蜂起が起きて治安があまり良くない所ですね?そんな所に行くなんて、私がしっかりお守りしませんと。」

源蔵「ラオ公の調子は万全だ!頑張ってこいよ。」

老鉄「はい!ありがとうございます。」

こうして私とお嬢様、そして夜影さんの三人は惑星バルジアンの首都、フォンテーヌシティに向かったのです。


フォンテーヌシティに到着すると、この街の顔役であるギャングのボス「マドレーヌ」氏が出迎えてくれました、傍にはいかにもキレ者という感じの黒いスーツの男性が立っています。

マドレーヌ「ようこそ、フォンテーヌシティへ!この前の決闘はお見事でしたな?」

彼はとても上機嫌で話して来ました、ガリウスとの対決は裏の世界では伝説になっているようです…

紅華「どうも!ボス自らわざわざ出迎えてくださるなんて光栄だわ!」

お嬢様は隣りの男性をチラリと見てから愛想良く握手を交わしました。

マドレーヌ「コイツはウチのナンバー2のジャベールです、まだ若いがとても頼りになる男でね!」

ジャベール「紅華の姐さん、ようこそいらっしゃいました!」

ジャベールはそう言って頭を下げます。

紅華「どうも〜!なかなかイイ男じゃない?よろしくね!」

夜影「メイド隊隊長の夜影です、よろしくお願いします!」

夜影さんも頭を下げました。

その後、マドレーヌ氏の用意した車で彼の事務所に向かったのですが…ドロイドの私を載せるには大型の車が必要なので私達は別のワゴン車に乗り向かいました、運転はジャベールさんです。

途中色々な話しを伺いましたが、フォンテーヌシティの歴史や観光名所になっている歴史ある建物の話を聞いて夜影さんは眠そうにしていました。

ダウンタウンに差し掛かった頃に、ジャベールさんが…

ジャベール「実は、この街で最近不穏な噂がありましてね……」

紅華「…どんな噂?」

ジャベール「どうも臓器売買の組織が子供を攫ってるらしいんです。」

紅華「…!」

夜影「お嬢様…」

紅華「しっ!…ごめんなさい続けて…!」

ジャベール「はい…昔からこの街の暗部では人身売買なんかもあったらしいんです…でも最近は臓器売買の方が儲かるのか…貧乏人や難民の子供を攫って臓器を取る方が多くなっているみたいですね?」

紅華「その組織って…」

ジャベール「俺も噂でしか知らないんですが…何とかの家の卒業生なんかも行方不明になっているとか?」

紅華「…なんて事…」

お嬢様は衝撃を受けていました、無理もありません…今回この街に来たのは「アステリアの家」の卒業生である兄妹が行方不明になっているという話しをアステリアの家の理事長から伺ったからなのです。

心拍数からお嬢様の動揺が確認出来ましたが、ジャベールさんの心拍数からも何かまだ隠している事があるという可能性があります。

紅華「歴史ある街なのに…随分と物騒なのね?」

ジャベール「言っちゃ悪いんですけど、ボスは甘いんですよ!まぁそこがイイとも言えるんですけど…」

紅華「アナタはボスのやり方に不満なの?」

ジャベール「そういう訳じゃないですが…他の組織にウチのシマ(縄張り)で好き勝手やられるのもね…」

夜影「他にもギャングの組織が有るんですか?」

ジャベール「こんだけ大きな街だから…全てを支配するのは難しいんですよ。」

紅華「なるほど?ボスが甘いから、そんな感じなのね?」

ジャベール「もうちょっとしっかりして欲しいんすよ!」

夜影「やはりトップに立っている人の器量が大切なんですね?」

ジャベール「あ!いま言った事は……」

紅華「大丈夫よ!誰にも言わないでおくから!」

ジャベール「ありがとうございます!姐さん!」

そんな事を話しているうちにマドレーヌ氏の事務所に到着しました。


マドレーヌ氏の事務所に到着すると、彼の部屋に案内されました。

今回の来訪の目的は行方不明になっている卒業生の捜索なのですが…それは秘密で、表向きは惑星バルジアンの裏社会とのネットワーク構築でした。

マドレーヌ「我々としても、リントハイム氏とコネクションを持つのは大きなビジネスに繋がりますので大歓迎ですよ!」

紅華「そうですね?そこで第一秘書のアタクシが来たって訳!」

マドレーヌ「ハッハッハ!なにとぞよろしくお願いしますぞ!」

突然、机の上の電話のベルが鳴りました、クラッシックな見た目のオシャレな受話器です。

マドレーヌ「はい!私だが…うん?…はい…あ ありがとうございます!はい、3日後ですね?」

マドレーヌ氏は、なんだか嬉しそうです…何かいい事があったのでしょうか?

マドレーヌ「…いやぁ実は近々、病気だった私の愛する息子が退院してくる予定でしてな!」

紅華「息子さんが…それは大変でしたね?」

夜影「失礼ですが、どんなご病気だったのですか?」

マドレーヌ「詳しくは分からないですが…生まれつきの病気らしく…」

夜影「そうですか…でも退院出来るならよかったですね!」

マドレーヌ「本当にそうです!母親はマリウスを産んですぐに亡くなったので…アイツを亡くしたら私はひとりぼっちなのですよ。」

紅華「それじゃあ3日後は退院祝いのパーティーですね?」

マドレーヌ「そうですな…アイツが喜ぶ顔が目に浮かびますよ!」

ドロイドの私には親子の情というものはよく分かりません。

ですが、マドレーヌ氏が息子さんを心から大切に思っている事だけは理解できました。


マドレーヌ氏との会談を終えて、私達は宿泊予定だったホテルに向かう事にしました。

ホテルにはまたジャベールさんが送ってくれる事になりました…

フォンテーヌシティの中心部にそのホテルはありますが、その中でも一流のホテルをリントハイム様が予約してくださったのです。

しかし、その道中…運転しているジャベールさんから新たな情報が…

ジャベール「…先ほどお話しした、行方不明者の件ですがね?……実はダウンタウンの地下街にある、スタンストリートという場所に、怪しい医療施設があるんですよ!」

紅華「怪しい…医療施設?」

ジャベール「ええ、違法な手術や薬の転売なんかもやってるらしくて…」

紅華「警察が捜索したりしないの?」

ジャベール「ダウンタウンの…しかも地下街なんて警察だって手は出せないんですよ!ウチらだって管理出来なくて…正直困ってますが…」

紅華「…怪しいわね?」

ジャベール「あ!危ないから絶対に近寄ったらダメですぜ!」

紅華「大丈夫よ!危ない真似はしないわ!」

夜影「今回の仕事とは関係ないですからね?」

老鉄「もしも危ない連中に遭遇しても私がお守りしますから!」

ジャベール「ハハッ!そうですよねっ?とにかく絶対に近づかないでくださいね!」

彼の心配はもっともですが……

紅華お嬢様がそのスタンストリートなる場所へ向かう決意を固めた事は、長い付き合いの私には手に取るように分かりました。

…つまり私も行く事になるのでしょう。


その夜…ホテル付近の街からは人影が消えしずまりかえっていました。

そんな真夜中でもフォンテーヌシティは大都会です、繁華街の明かりは一晩中点っています。

私達はタクシーを拾い、ダウンタウンに向かいましたが…私は何故か荷台に載せられていました。

運転手が言うには、ドロイドが座るとシートが汚れるとの事ですが…実に不本意です。

ダウンタウンに到着すると地下街の入口は目の前にありました、その地下への階段を降りて行くと昼間ですら薄暗いという陰気な感じの空間が広がっていました。

照明は天井にポツポツと有りますが…路地に入ると真っ暗で暗視モードにしなければ何も写りません。

紅華「ここがスタンストリート?怪しい匂いがプンプンするわね?」

老鉄「はい!お二人は私の後を歩いてください…いきなり撃たれる事はないと思いますが、用心に越したことはありません。」

夜影「老鉄さんの言う通りですね?路地からは人の気配はしませんが…ここは無法地帯ですから…」

薄暗い通路を歩いて行くと、病院らしきものが見えました。

老鉄「暗視モードで確認しましたが、中に人はいないようです。」

紅華「普通の病院ならそうよね?」

老鉄「熱源反応なし、生命反応なしオマケに防犯カメラも無いようです。」

夜影「ジャベールが言う、怪しい医療施設がここなら…地下室とかもあるかと思います。」

紅華「そうね?…夜影、中を探ってくれる?」

夜影「お任せください!」

そういうと夜影さんは建物の周りを回って入れる所を探します、しばらくすると入口の鍵を手持ちの道具を使って簡単に開けてしまいました!

老鉄「夜影さん、お見事です。」

夜影「こんな鍵は無いも同然ですよ、軍事施設のセキュリティに比べたらね…!」

紅華「入るわよ!」

私達は病院内に侵入しました…まるで泥棒みたいですが、行方不明の子達の手掛かりを探す為です!

お嬢様と夜影さんはカルテを探し出して確認していました、私はコンピューターにアクセスしてデータを解析しています、天才ハッカーの(ハク)程ではありませんが、私にもこれくらいは出来るのです。

夜影「カルテの方には怪しい所はありませんね?」

紅華「老鉄…そっちはどうかしら?」

老鉄「ロックがされているファイルが有ります、コピーして後で解析しましょう。」

紅華「そうね?こんな所に長居は無用よ!」

夜影「撤収します。」

私達は病院を後にしました、データを調べたついでにこの地下街のマップを入手しておきました、後で役に立つかもしれません。

ロックされているファイルを解析すると…裏カルテとも言える情報が分かりました。

老鉄「お嬢様、コレは…なんと言うか…カルテと言うよりも納品伝票みたいですね?」

紅華「どういう事?ただの伝票をロックかけておくなんて…」

老鉄「えー…心臓〇〇様、肝臓△△様、納品とか書いてありましたね。」

お嬢様達の反応がありません…どうしたのでしょうか?

老鉄「……お嬢様?」

紅華「……それ、人の名前じゃないわ。」

夜影「……臓器です。」

老鉄「…という事は…コレは…?」

挿絵(By みてみん)

なんという事でしょう、ジャベールさんが言っていた怪しい医療施設では…本当に臓器売買が行われていたようです!



##老鉄の独り言:ログ021



【命】



私のようなドロイドは壊れたパーツを交換すれば直ります。


しかし、人間や動物はそうは行きません、


クローン技術で作った臓器を移植する方法もあるそうですが。


病気によっては他人の臓器を移植するしか方法が無いケースもあるのです。


…そして、そんな病気を抱えた人は…ドナーを待ち続けるのです…


でも…ドナーが現れるという事はその方は死んだという事です。


それでも生きる人は…果たして罪でしょうか?

今回のお話は、いつも以上に重たいテーマを扱う事になりました。

臓器移植や難病というのは、物語の中だけの話ではありません。

健康で文化的な最低限度の生活を送っている私達にも、いつか降りかかるかもしれない問題です。

そんな事を少しだけ考えていただけたら嬉しいです。

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