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狂弾のマエストロ 第三楽章

最強の敵、そして宿命の敵とも呼ぶべきガリウス。

再開発予定地ニャオロン——通称「鳥籠」——での決闘を自ら申し込んだ紅華(ホンファ)は、遠距離狙撃を封じるため近接戦に持ち込もうとした。

しかし、20年前の“ガリウス無双”の記録映像を見て、紅華は衝撃を受けることになる……

そしてとうとう対決の日を迎えるのだった。



挿絵(By みてみん)

私の名前は老鉄(ラオティエ)、旧式のドロイドです。

とうとう紅華(ホンファ)お嬢様と狂弾のマエストロ、ガリウスとの決闘当日の朝がやって来ました。

ゲンサンはほぼ徹夜で作業を続けて、対ガリウス用の索敵システムがようやく完成しました!

……ですが、まるで私自身が索敵専用機になったようです。

しかし、ここまでやっても演算結果は楽観的な数値を示してくれませんでした。

嗅覚センサー以外は内蔵スペースが確保出来ない為にやむなくバックパックに他のセンサーを搭載する形になったのですが…

老鉄「ゲンサン…傍から見ると何かランドセルを背負ったような感じに見えますね?」

源蔵「いざって時にはパージする事も可能だからな!…まぁその時は多分最悪な状況だ!」

老鉄「最悪なんて最悪ですよ!」

源蔵「そうならないようにこっちだって頑張ってんだよ!」

老鉄「そうですね?ありがとうございます!」

源蔵「しかし、全部のセンサーを同時には使えないみたいだからな?状況に応じて切り替えるんだぜ!」

老鉄「わかっていますよ、これにシールドもあれば万全です!」

そうは言っても、私の演算回路の勝率は50%を下回っていました。

白「爺爺(イエィエ)……」

突然工房に(ハク)がやって来ました…どうしたのでしょうか?凄く眠そうです。

ヌマル「ほとんど徹夜でガリウスの弱点を探していたニャ!寝不足なのニャ!」

ネコのぬいぐるみ形の端末であるヌマルが説明してくれます。

ヌマル「老鉄、ランドセルを背負って何処に行くニャ?」

老鉄「これは新しく追加したセンサー類が搭載されているんですよ。」

ヌマル「どうせならビームサーベルも付けるニャ!かっこいいニャ!」

老鉄「それはアニメの見すぎかと?それにミノフスキー粒子はこの銀河にはありませんよ!」

白「ガリウスの義眼…電波…ムニャムニャ…」

おや?どうやら白は本当に寝てしまったようです…?

ヌマル「おっと、こんな事を言ってる場合じゃないニャ!アタシが説明するニャ!ガリウスの義眼と電子式のスコープは短距離用の電波で繋がっているニャ!つまりスコープを覗かなくてもスコープが捉えた映像をリアルタイムで送信しているのニャ!」

老鉄「そうでしたか…ありがとうございます!白、ヌマル。という事はガリウスの目が銃に付いているようなものなんですね?」

ヌマル「そうニャ!白がこれだけ頑張ってるんだニャ!オマエも頑張って来るニャ!」

老鉄「そうですね?お嬢様を必ずお守りしますよ!」

私は白を工房の仮眠室に運び寝かせました。

ヌマル「アタシもしばらくスリープモードに入るニャ!」

老鉄「お疲れ様でした、おやすみなさいませ!」

ヌマル「おやすみニャ……」

ヌマルもスリープモードに入りました、それにしてもガリウスのスコープにそんな秘密があったとは……

これで対策を立てやすくなりました。

ですが、それでも私の演算回路は楽観的な数値を示してくれません。

数時間後には、あの怪物との決闘が始まるのですから……


そして、出発前にお嬢様はリントハイム様にあるお願いをしました。

紅華「もしもワタクシが負けたら…」

リントハイム「そんな仮の話しは聞きたくない!」

紅華「聞いて!…もしも負けたら…ニャオロンを爆撃して!リントハイム様には手出しさせない!」

リントハイム「……わかった!」

リントハイム様はお嬢様の覚悟を感じ取ったのでしょう、そのあと軍の司令官に電話をかけて爆撃の依頼をしていたようです……


決戦の地ニャオロンに到着したのは正午からしばらく過ぎた頃でした……

河口近くの中洲にあるニャオロンは廃墟が並ぶ再開発予定地で人影は見えません。

老鉄「お嬢様、ガリウスがいきなり撃って来るかもしれません、私の後ろに隠れてください。」

紅華「多分だけど…ヤツはそんな事はしないわ!卑怯な手を使って私の師匠玄鉄を殺したって言われた以上、アイツは正々堂々とアタクシを倒そうとするはずよ!」

老鉄「なるほど?そういう心理が人にはあるのですね?」

紅華「……ほら!」

前方を見ると人影が…ガリウスです。

老鉄「お嬢様、ガリウスが現れました!」

見るとガリウスはアサルトライフルを持っています、そして狙撃用のスコープが装着されていました。

老鉄「あのスコープと連動しているんですね?」

紅華「そうね?白たちが調べてくれた情報どおりなら…今は空が見えているのかもね?」

ガリウス「遅かったな?もしかして俺をイラつかせて判断を狂わせる作戦か?だが俺はスナイパーだ!影に潜んで獲物を待つのは得意なのさ!」

紅華「あら?女の身支度は時間がかかるモノなのよ!そんな事も分からないなんて、アナタ…モテないわよ!」

老鉄「いえ、ミーナさんが香水選びで手間取ったのがそもそもの…」

紅華「余計な事は言わなくてイイのよ!」

老鉄「失礼しました…」

ガリウス「フン!随分と余裕だな?戦いの場に香水の匂いをプンプンさせやがって…」

そこまで言ってガリウスはいきなり上空に向かってアサルトライフルを打ちました!

上空から撃ち落とされたドローンが落ちて来ました…知らないドローンです。

ガリウス「おおかた野次馬どもが見物しようと飛ばしたもんだろう?だが俺の演奏は見世物ではなくて俺自身の芸術だ!」

そう言うとガリウスの姿が見えなくなりました、光学迷彩です。

金属探知機と超音波ソナーを使って索敵します。

老鉄「瓦礫の裏で停止!距離32メートル!」

紅華「いたわね!」

老鉄「牽制射撃を行います!」

私は右手前方の瓦礫に向かって牽制射撃を開始しました、右手に握られた拳銃はフルオート射撃が可能なので機関銃のように銃弾を発射出来ます!

瓦礫の破片が飛び散り、土煙がもうもうと上がりましたが……

紅華「どうしたの反撃してこないじゃない?」

老鉄「…移動しています。距離が開いています。」

センサーはガリウスが遠ざかって行くのを感知してます、どうしたのでしょうか?

ガリウスは光学迷彩を解除すると、こちらを一瞥してから背を向け、あえて姿を晒したまま走り去って行きました。

老鉄「コレは罠である確率80%です!」

紅華「そうは言っても、距離を取られたらこちらが不利よ!」

老鉄「そうですね?追い掛けましょう!」

私達はガリウスを追い掛けました、ヤツは何処かに誘い込むつもりなのでしょう…振り切るつもりは無いようです、その証拠につかず離れずのスピードで走っています。

紅華「あの廃ビルに入ったわ!」

廃墟群の中にそびえる三階建ての廃ビル…恐らくは商業施設だったのでしょう、看板の後が残っていますが意味不明な落書きが塗りたくられ、当時の面影は無惨に失われていました。

私はシールドを構えて恐る恐る中へと入ります、果たしてどんな罠が待ち受けているのか?

嗅覚センサーと赤外線センサー、さらに超音波ソナーを使って索敵します…すると前方から銃声が!

弾丸はシールドに弾かれました、このシールドは狩猟用の大口径マグナム弾ですら弾きます。

紅華「ゲンさんの作った盾が役に立っているわね?」

老鉄「はい!しかし油断は禁物です…」

するとガリウスの声が四方八方から聞こえて来ました。

ガリウス「ほほう?そのシールドはマグナム弾でも貫通出来ない代物らしいな?」

紅華「なにこれ?声が反響しているの?」

老鉄「金属探知機を作動して、超音波ソナーを切りました。ガリウスの声のする方向には全て金属反応があります!」

暗がりの中をカメラの暗視モードで観察すると、予告状に入っていた銀の造花があちこちに配置されています。どうやら声はここから出ていたようですね?

ガリウス「相棒が旧式のGRD-04とはな?」

紅華「何よ?バカにしているの?」

ガリウス「そうではない!奇妙な因縁を感じているのさ……」

老鉄「因縁とは?」

ガリウス「俺が新兵だった頃…GRD-04はまだ現役の機体が複数残ってた…俺の部隊にも一体配属されていたが、すでに新型と交換が決まっていたのさ!」

紅華「それで老鉄を見て懐かしいって思っているの?」

ガリウス「ああ…とっくに退役したのに、未だに戦場を離れられない俺と似ているからな…」

紅華「アンタみたいな戦闘狂と一緒にしないでよ!」

ガリウス「フハハハハ…その老鉄に敬意を払って、俺も全力でやってやる!ついてこい!」

ガリウスが階段を上る足音が響きました、どうやら二階に向かったようです。

紅華「足音を消すつもりも無いみたいね?」

老鉄「はい!二階には罠が待っていると思われます、お気を付けて。」

紅華「ええ、わかっているわ…」

私達は階段をゆっくりと注意深く登って行きました。

廃ビルの二階に上がり周囲を注意深く索敵します。赤外線センサーが前方の埃にまみれた商品ケースの向こう側にガリウスの影を感知しています、金属探知機の反応もそこにガリウスが潜んでいる事を示していました。

老鉄「このシールドがあればガリウスに接近出来るので、近距離でこの銃をフルオートで発射してガリウスをいぶりだしますから、お嬢様は離れていてください。」

紅華「わかったわ!ガリウスが出てきたらすかさず私がヤツを撃つ!」

老鉄「はい!それでは行きます…」

私はガリウスの潜伏地点にジリジリと近づいて行きます…罠が有ると思われますのでここは慎重に行かないといけません。

しかし何か違和感を感じました…さっきまであれだけ喋っていたガリウスが全く息を潜めています、何か罠があるはずですが…センサー類は前方のガリウス以外の反応を捉えていません。

すると突然、さっきまでとは明らかに違う、腹の底に響くような凄まじい銃声が廃ビル全体を震わせました。

次の瞬間、シールドに巨大な衝撃が叩きつけられ、太もも部分にも衝撃が走ったのです!私は前のめりに崩れ落ち細かい瓦礫が私のカメラに大写しになりました。さらに脚部からは火花が散り、補助回路が甲高いアラートを鳴らします。

「脚部損傷。出力20%低下!」

老鉄「私の失策です……商品ケースの反応が強すぎて、その裏に隠された対戦車ライフルを識別できませんでした……」

ガリウス「チッ!シールドのせいで着弾が逸れたか…想像以上に頑丈だな?計算が狂って仕留め損なった…」

うつ伏せに倒れた私のカメラに拳大の穴が空いたシールドが写りました。

このシールドを貫通出来る銃…それを私は知っていました。

老鉄「想定外でした…まさかガリウスがコレを使うとは…」

紅華「老鉄!」

私のメモリーにはこの銃声が記録されていました、かつて戦場で聞いたこの銃声は…

老鉄「来ないでください! これは……ミルガノフ対戦車ライフル!シールドも私の装甲も、歯が立たない代物です……」

ガリウス「よく覚えていたな?そう、コレはネビュラ軍から鹵獲した物さ!」

紅華「なんですって?」

ガリウス「かつての戦場で…俺はコイツを使って戦車中隊を壊滅させたんだ!」

ガリウスの武勇伝が蘇って来ました…ネビュラ軍のドロイド戦車中隊を壊滅させたのはこのライフルがあったからなのです!

ガリウス「老鉄、お前には敬意を表してコイツを使わせてもらった…しかし残念ながら弾はさっきので最後だ!お前にトドメを刺せないが…代わりにその女の死ぬ所を見せてやろう!」

そう言うとガリウスは長い銃身の対戦車ライフルを投げ捨てました、そして二丁の拳銃を手にします。

紅華「そう簡単にやられると思わないでよ!」

ガリウス「まだ威勢がいいな?ふむ?さすがは玄鉄の弟子と言うべきか…」

老鉄「お嬢様は銀河で一番イイ女です!アナタには負けませんよ!」

ガリウス「ほほう?ならば屋上で決着をつけようか?正真正銘の1体1だ!」

そう言うとガリウスは屋上への階段を上がって行きました。

紅華「老鉄、大丈夫?」

…駆け寄って来たお嬢様に私はシールドと銃を渡します。

老鉄「お嬢様、これを持って行って下さい…それと予備のマガジンも。」

紅華「老鉄、すぐに戻ってくるから…」

老鉄「いえ、私の事は構わずに…戦いに集中して下さい。」

紅華「……わかったわ!」

そう言うとお嬢様は屋上への階段を上がって行きました。

老鉄「お嬢様……ご無事で…」

私はようやく理解しました。

ガリウスは最初からこの瞬間のために私達を誘導していたのです。

一階ではアサルトライフル。

二階では対戦車ライフル。

そして屋上では紅華お嬢様との決闘。

私達は戦っているつもりでしたが、実際にはガリウスが作曲した楽譜の上で踊らされていただけだったのです。

そして恐らく――屋上で待つ最後の楽章こそが、ガリウス自身が最も望んだ演目なのでしょう……

ガリウスがネビュラ軍のドロイド戦車中隊を壊滅させた秘密は、「ミルガノフ対戦車ライフル」にありました!


この武器は敵軍から鹵獲した物ですが、ネビュラ軍の兵器はロシア語風の名称で統一しています。


一方、ヴォルテック星間帝国の兵器や装備はドイツ語風の名称が多く、両陣営の違いを意識して設定しています。


さて、いよいよ次回は最終楽章。


紅華は師匠・玄鉄の仇を討ち、リントハイムを守ることができるのか?


そして脚部を破壊された老鉄は、このまま戦線を離脱してしまうのか?


狂弾のマエストロ、ついに完結へ――。

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