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狂弾のマエストロ 第二楽章

お嬢様の師匠、玄鉄さんを殺した男…最強のスナイパーであるガリウスが、お嬢様の雇い主であるリントハイム様の命を狙って殺害予告の銀の造花を贈って来ました。

ヤツの狙撃は驚異的な腕前で、このままではリントハイム様の命が危険です。

ですが、お嬢様は逃げるどころか、とんでもない行動に出ました。

私の演算回路は警告を鳴らし続けていますが……もう止められそうにありません。

私の名前は老鉄(ラオティエ)旧式のドロイドです。

私が仕えてる() 紅華(ホンファ)さまがとんでもない行動に出ました!なんと裏社会のネットワークを通じて、最強のスナイパーと恐れられるガリウスに決闘を申し込んでしまいました。

リントハイム邸の地下シェルターでリントハイム様はモニターを睨みつけ、呆れたようにため息をつきました。

リントハイム「…何をするかと思ったが…まさか決闘を申し込むとはな?」

情報担当の(ハク)は心配そうな顔をしています…彼女はお嬢様の事を姐姐(ジェジェ)と呼んで慕ってますので、やはり心配なのでしょう。

白「姐姐は裏社会でも結構有名…既に裏のSNSではトレンド入りしているみたい…」

紅華「フフン!当然よ!あれだけ煽ったんだもの、食いついてくれなきゃ困るわ!」

リントハイム「ガリウスを探し出す事自体が難しいから…おびき出すというのはイイ考えだと思うが…」

メイド隊の隊長、夜影(イェイン)が決闘場所の全体図をモニターに映して解説します。

夜影「現在、この中洲、通称「ニャオロン」は再開発予定地域になっており立ち入り禁止区域に指定されています!」

お嬢様が決闘場所として指定したのは入江近くの旧市街地でした。

既に住民は退去し、再開発計画も地盤沈下の影響で停滞しています。

傾いたビルや崩れた建物も多く、人の気配はありません。

リントハイム「ニャオロン…鳥籠トリカゴか…100年くらい前は売春宿が立ち並ぶ、一大歓楽街だったらしいが…」

夜影「…このように…見通しが悪い場所も多く狙撃には不向きです、ヤツにはステルスマント(光学迷彩)がありますが、瓦礫が散乱しているので足音が発生して位置が判別し易くなるので向こうのアドバンテージが大幅に制限されます!」

リントハイム「ありがとう、流石はメイド隊紅棘(コウキョク)の戦闘隊長だな?」

夜影「ハッ!これならばお嬢様が勝つ可能性は高いと思われます!」

夜影さんは直立不動で敬礼して、表情は変わりませんが彼女の瞳の奥の輝きを私のカメラは捉えていました、内心は嬉しいのだと分析します。

紅華「アタクシはずっと玄鉄師匠の仇を討つ日の為にガリウスを研究していたの!」

老鉄「師匠…お嬢様が叔父夫婦の手から逃れた後にお世話になった方ですな?」

紅華「そうよ!命からがら川を下り、街に流れ着いた…身寄りの無いアタクシに銃の扱いや生きる術を教え育ててくれた…!」

老鉄「そのおかげでお嬢様と再会出来たのですから、私も感謝しませんと…」

紅華「師匠も名の知れた殺し屋だったけど、女子供は殺さない信念を持っていたわ!」

夜影「ガリウスとは又違う美学を持っていたんですね?」

リントハイム「ある意味2人はライバルだったのか…」

紅華「そうね…だからなのかガリウスは師匠を一発では殺さなかった。両手両足を撃ち抜いて、ゆっくり失血死させたのよ……」

リントハイム「……」

紅華「……おかげで、師匠の最後をみとれたんだけどね…」

老鉄「その後、お嬢様は叔父夫婦に復讐を果たしたんですね?」

紅華「ええ……師匠は復讐の為に生きるのはやめろ!っていつも言っていたけど…」

リントハイム「時にはそういう負の感情が生きる糧になる事もあるんだ!…それにキミには老鉄が居た…復讐の後の虚無感に自暴自棄になる人もいるが……」

紅華「そうね…?だからアタクシの人生は復讐だけでは終わらずに済んだ…」

老鉄「お嬢様のお役に立てれば…私はそれで良いのです。」

リントハイム「紅華、ひとつだけ聞かせてくれ…今回の決闘は師匠の仇討ちの為か?それとも私を守る為か?」

紅華「それは…両方よ!アタクシは欲張りな女なの!フフ…」

リントハイム「フッ!…ならば何も言うまい!必ず生きて帰ってこい!」

紅華「モチのロンよ!」

お嬢様は軽くウィンクしてみせました、ですが私のセンサーはお嬢様の心拍数からその不安を捉えていました。

白「あ…来た!」

どうやらガリウスからの返信が来たようです、掲示板にはヤツからのメッセージ動画がアップされています。

動画を再生するとガリウスの義眼がアップで映し出されていました!

ガリウス「玄鉄を卑怯な手を使って殺したなどと…あからさまな挑発だが乗ってやるとしよう!玄鉄もその弟子もこの俺の芸術の糧になるのだ…明後日の正午に、ニャオロンをキサマの墓場にしてやる。そして俺の芸術で、お前の断末魔も最高の旋律にしてやろう、楽しみに待っていろ!」

紅華「ふぅ…明後日の決闘が決まったわ!…夜影、老鉄、これから特訓よ!」

老鉄「はい!お嬢様。」

夜影「お嬢様の為に!」

こうして決闘に備えて私達は夜影さんに手伝って頂き、特訓を開始したのです。


翌日、情報管理室の白から驚くべき情報が入りました、なんとお嬢様とガリウスの決闘が裏社会のブックメーカーにより、賭けの対象にされていたのです!

白「現在の賭けの比率…ガリウスがやや優勢…」

情報管理室のモニターを見ながら白が言います。

紅華「面白いじゃない?アタクシのファンも結構いるって事かしら?」

ヌマル「この決闘をネタにした動画配信者がいるニャ!不謹慎なのニャ!」

最新AIを搭載したネコ型端末のヌマルが言います、ヌマルは私よりも高性能なプロセッサを搭載しており話し方も流暢です。

紅華「?そんなヤツもいるの?ちょっと再生して!」

ヌマル「モニターに映すニャ!」

モニターを見るとラッパー風のキャップを被ったサングラスの男が映し出されました。

DJサム「イェーイ!野郎ども、世紀の対決が始まるゼ!」

紅華「ちょっと何よコイツ…」

DJサム「あの狂弾のマエストロ。ガリウスと銀河で一番イイ女。李 紅華の対決が明日の正午にニャオロン(鳥籠)で始まるゼ!イェーイ!そこで今回は有識者の中からミスターKをゲストに招いて対決の予想を聞いちゃうゼ!みんな賭けの参考にしてくれよ!フォーゥ!」

白「……」

画面にはもう一人、白髪を綺麗にオールバックにまとめた、サングラスで髭の紳士が登場しました。

ミスターK「どうも!こんにちは!今回の対決はフィールドがニャオロンという廃墟の街ですが…これはガリウスには圧倒的に不利ですね!」

DJサム「というと?」

ミスターK「ガリウスは基本的にスナイパーです、それも神技級の…ですがあの場所はそれほど高い建物は無く遮蔽物も多く狙撃には不向きです!オマケにステルスマントで接近しようにも瓦礫が足音を立ててしまうので隠密行動も出来ません!」

紅華「へぇ?わかっているじゃない?ミスターKってのは。」

お嬢様は少し嬉しそうです、おそらくは我が意を得たり!という心境だったのではと分析します。

ミスターK「それに彼女の相棒、旧式ドロイドの老鉄ですが…彼が盾になると考えられるので近接戦闘になれば紅華さんにも十分勝機はあります!」

この発言を受けて、賭けの比率はお嬢様の方が優勢になりました、画面の隅に映るオッズ表の数字が逆転していきます。

DJサム「おっと?ここで新たな資料が届いたゼ!…ん〜…20年くらい前の防犯カメラの画像らしいけど…ガリウスが裏切った依頼主のギャングのアジトに単身乗り込んで皆殺しにしたらしいゼ!コイツは驚きだっ!」

紅華「…!そんな映像が?」

画面には古い画面らしい荒い画面の映像が映し出されました。

見張り番らしい一人の男が突然倒れます…額を撃ち抜かれたようです…

次に部屋の中らしい画像に切り替わりました、二人の男が銃を構えてましたがあっという間に倒れます…

一瞬だけガリウスらしき人影が映し出されましたがすぐに消えました…まるで幽霊のようです。

次のドアが開くとドアの向こう側にいた男がサブマシンガンをすかさず撃って来ました、しかしガリウスは壁に隠れて拳銃だけを内側に向けて正確にその男の額を撃ち抜いたのです!

DJサム「ヒェ〜!コイツはミラクルだゼ!」

そしてとうとうボスの部屋まで来たガリウスは姿を現してボスと対峙します。

ボスは慌てて机の下からショットガンを取り出そうとしましたが遅すぎました。

ガリウスの二丁拳銃が火を吹きます。

額。

左目。

右目。

鼻。

口。

わずか数秒の間に五発。

その全てが顔面に命中していました。

ボスを殺害したガリウスが防犯カメラに気がついたようでカメラを見上げました。

右眼の義眼が赤く光った後…

彼の右手が動いたと思った次の瞬間に映像が切れました。

ミスターK「……こ コレは…凄まじいですね…?まるで死神だ…」

この配信の後、オッズ表の数字は大きく入れ替わり、お嬢様の比率は激減してしまいました。

最終的には…

ガリウス 1.2倍

紅華 8.8倍

という極端な数字が表示されていたのです。

白「…ガリウス…死神…なの…?」

白は声を失ってしまった様子です。

紅華「近接戦闘でも…こんな…」

お嬢様もショックを受けてる様子で心拍数を測るまでも無く青ざめた表情で声を震わせていました。

その後は誰も…一言も喋らずにいました……

無理もありません、遮蔽物が多いのは不利どころか、ガリウスにとっては『姿を消して至近距離から確実に脳幹を撃ち抜くための狩り場』でしかないという事が判明したからです。

この動画はその後、「ガリウス無双」と呼ばれて大バズりしました、配信者は大喜びでしょうが私達にとってはトラウマになる程の衝撃だったのです。


その後、ゲンサンの工房でメンテナンスを受けていた私の所に夜影さんがやって来ました。

夜影「老鉄さん…あの動画…凄いですね…?」

老鉄「夜影さんも見たのですか?あれはまさに無双と言えます!こちらも対策を練り直さないといけませんね?」

夜影「その通りです!なので相談が…」

夜影さんはゲンサンが気になる様子でチラチラと彼の方を見ています。

源蔵「ん?オイラが邪魔なら席を外すぜ。」

夜影「いえ、ゲンさんも聞いてください…お願いします!」

源蔵「お…おうよ。」

夜影さんはガリウスに対抗する為の追加装備を提案してきました。

夜影「光学迷彩を使っても、人間そのものが消える訳じゃありません!そこに存在する限り見つける方法はあるはずです。」

老鉄「やはり足音ですかね?」

夜影「それだけではダメです、私のように訓練された者はある程度の足音を消すことが出来るので…」

源蔵「確かに!お前さんはいつも足音がしないもんな?」

夜影「はい!…私は隠密行動を生業とする一族の出身なので…」

源蔵「だから忍者みたいなのか?恐れ入ったぜ!」

夜影「…それに視覚を騙せても、音や熱、金属、匂いまでは消せません。」

老鉄「確かにそうですね?」

挿絵(By みてみん)

夜影「…だから複数の感覚を組み合わせた索敵が必要なんです!」

源蔵「確かアイツの義眼は機械式だったな?」

夜影「ええ…さらにヤツには硝煙の匂いがします。」

源蔵「となると嗅覚センサーか?」

夜影「はい!犬のような動物は人間の数千倍もの嗅覚を持っています!」

源蔵「なる程?ラオ公に嗅覚センサーを付けてやるんだな?任せておけ!」

夜影「ありがとうございます!隠密行動する者にとって犬は天敵ですから…」

老鉄「私は犬になるのですか?」

源蔵「犬並みの嗅覚センサーがちょうどこの前手に入ったんだ、そいつを使うが…ラオ公が犬みたいになる訳じゃないから安心しな!」

夜影「フフ…あと*赤外線センサー* 金属探知機* 地面の振動センサーそれと 超音波ソナーも付けてください!」

源蔵「おいおい…そんな沢山は入らないぜ…?」

老鉄「ゲンサン、それよりも私の処理が追いつかない可能性がありますよ!」

夜影「…そうですか?私は五感をフルに使って戦ってます…老鉄さんにもそうあって欲しいと…」

夜影さんは少し悲しそうな表情をしました、私の事、お嬢様の事を思っての事でしょう。

源蔵「わ わかったよ!何とかしてやるから…」

ゲンサンも彼女の気持ちがわかるのでしょう…慌ててフォローします。

老鉄「ゲンサン…そうは言っても、無理は禁物ですよ?」

源蔵「バカヤロウ!オイラを舐めるんじゃねぇ!」

老鉄「私には舌がありませんよ!」

源蔵「そういう意味じゃねぇよ!」

夜影「漫才はイイですから、頼みましたよっ!」

源蔵、老鉄「はい!」

…こうして…私の追加装備が決まりました。

赤外線センサー。

金属探知機。

地面の振動センサー。

超音波ソナー。

……しかし問題が一つ。

私の旧式CPUでは全てを同時に処理することが出来ず、同時に使用できるのは三つまでだったのです。


果たして、この装備でガリウスを追い詰めることは出来るのでしょうか……?



##老鉄の独り言:ログ019


【犬】


私に犬並みの嗅覚センサーをつける事になりました、犬は人間の数千倍の嗅覚を持ってるそうです。


ですが例え美味しい料理の匂いを嗅いでも…私は食べる事が出来ません。


しかしガリウスに勝つためには……私は犬にでもなる覚悟です。


…協力してくれた皆さんの為にも…この身を投げ出す覚悟です!



遠距離狙撃で驚異的な腕前を見せるガリウスですが……実は近接戦闘でも悪魔的な強さを誇ります。

そんな怪物を相手に、紅華と老鉄のコンビはどのような知恵を巡らせて挑むのでしょうか?

次回、いよいよ決戦の火蓋が切って落とされます!

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