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狂弾のマエストロ 第一楽章

ゼロス・ハイマン一一かつて帝国の至宝とまで言われた天才

その才能は戦略だけに留まらず、兵器開発、情報工学、さらには人心操作まで!


彼が銀河の平穏を願い、現在の三大勢力による均衡体制を影から築き上げていた事を知るものは

今ではほとんど存在しません。


そして今一一

彼から託された"プロメテウスコア17"の秘密が明らかにされようとしています。

私の名前は老鉄(ラオティエ)、自称「銀河で一番イイ女!」() 紅華(ホンファ)様に仕える旧式のドロイドです。

ゼロス様から託された「プロメテウスコア17(ワンセブン)」を拡張スロットに装着する時がやって来ました、(ハク)や最新AIのヌマルに調べてもらいましたが…プロメテウスコア17は完全なブラックボックスになっていて中身はまったく分かりませんでした。

お嬢様と白はこれを装着する事に警戒をしていましたが、リントハイム様の師匠、ゼロス・ハイマンが作った物という事で渋々承知した感じです。


源蔵(げんぞう)「……っと、これでよし!どうだいラオ公?スペックアップはしたかい?」

老鉄「ゲンサン…私の処理速度が2%上昇しただけですが?」

源蔵「なにぃ?たったの2%かよ?それじゃほとんど変わらないじゃねぇか!」

老鉄「…何回計算しても同じです…私には分かりません…!何故たったの2%なのか?ゼロス様の作った物がそんな程度なのか…?」

源蔵「…まさか…そのゼロスってのは酸素欠乏症で頭をやられてるとかじゃねぇのか?」

老鉄「コレはそんなに古い物ではありませんよ!」

皆さんはガッカリしていましたが、何故かお嬢様と(ハク)はホッとした様子でした……


それから数日後…

情報管理室の白から驚くべき情報がもたらされました。

紅華様が仕えるリントハイム様を狙って凄腕のスナイパーが雇われたそうなのです!

白「依頼主は…分からない…でも…雇われたのは…とても危険な人みたい…」

白はそこで一度言葉を切りました。

白「…その狙撃手の名前は……ガリウス。」

そう言って白はぬいぐるみ形の端末であるヌマルをギュッと抱き締めました。

ヌマル「ハク、そんなに締め付けると苦しいニャ!」

白「……」

紅華「ガリウス?…アイツが…とうとう…」

お嬢様は何故か体を震わせていました。

リントハイム「ガリウスか…?聞いた事がある…!確か、元は帝国軍の狙撃手で…退役後は凄腕の暗殺者として生きてきたらしいな?」

ヌマル「半年前のフリン星のギャングのボスが暗殺された事件もガリウスの仕業ニャ!」

白「…警護の子分達…50人の間を縫って…」

ヌマル「一発で仕留めたみたいニャ!常識的に考えて不可能ニャ!」

情報管理室の中は静まり返りました…

老鉄「お嬢様はガリウスをご存知なのですか?」

紅華「ええ…アイツは師匠の仇なの…でも師匠からはヤツには手を出すな!って言われていたのよ…」

リントハイム「師匠…前に聞いた、紅華に銃の扱いを教えた人物か…?」

紅華「そうよ!ガリウスは殺しを楽しんでいる狂人…わざわざ予告までして…命を奪う。」

老鉄「予告するとターゲットは逃げ隠れ出来るはずですが…それでも任務を遂行するのですか?とても非効率なやり方です。」

紅華「ガリウスは独自の美学を持っているそうなのよ…狙った相手に予告状として常に銀の造花を送って…師匠にも届いていたのに…私には黙っていて…」

お嬢様は押し殺したような声を絞り出しています。

リントハイム「悪趣味だな?」

紅華「…相手を絶望の淵に落としてから仕留めるのよ!本当に悪魔みたいなヤツなの…」

白「帝国軍時代に…ネビュラのドロイド戦車中隊を一人で壊滅させた事もあるみたい…姐姐…危ない…」

ヌマル「その時は戦闘で負傷して片目を失っていたらしいニャ!人間はそんな状態でも戦えるのかニャ?」

リントハイム「極限状態では人間は普段出せない力を発揮する事があるんだ、それを"火事場の馬鹿力"と呼ぶんだよ!」

老鉄「人間にもリミッターがついてるのですか?」

リントハイム「……そんな感じだ!」

白「…裏の世界では…「マエストロ」…とか呼ばれてるみたい…」

ヌマル「リントハイムのピンチなのニャ!逃げるのニャ!」

リントハイム「マエストロ…本当に芸術家気取りだな?ふぅ…とにかく白は依頼主を突き止めてくれ、紅華とメイド隊紅棘コウキョクのメンバーは警戒を厳重に!」

白「はい!」

ヌマル「了解ニャ!」

紅華「…わかったわ…!」

お嬢様は何かを考えている様子でしたが、そのまま部屋を後にしました。


その翌日、料理長の小雨シャオユイが小包を持って来ました。

小雨「食材と一緒に、リントハイム様宛に届いてましたよ!スキャンして危険は無いってわかっています。でも送り主は書いてませんねぇ…?」

私は小雨から荷物を受け取り、開封作業に入りました。サイズの割には軽いですが中身は何でしょう?

緩衝材に包まれた袋の中からは、銀色に輝く造花が一輪だけ入っていました。

そしてその造花と一緒に一通の楽譜が…それを、リントハイム様の元に運ぶ事になり執務室に向かいます。


執務室のデスクに向かいリントハイム様がモニターを覗いていました。

傍にはメイド隊の隊長夜影(イェイン)が警護しています。

リントハイム様はその銀の造花を手に取り、細かいところまでじっくり見て、同封の楽譜に目を通します。

楽譜には音符などは書いてありませんが、「三日後にコンサートを開催する!」と書いてありました。

その時、私のセンサーが微かな空気の振動を捉えました…次の瞬間、私がリントハイム様の前に立ちはだかると背中に衝撃が…そして振り返ると窓ガラスには弾丸の後と思われる小さな穴が空いてました!

リントハイム「これは強化ガラスなんだぞ!それをいとも簡単に…」

すると銀の造花から男性の声が聞こえてきました。

男の声「コイツはほんの挨拶代わりだ、三日間恐怖に震えて眠るがいい!」

老鉄「造花に細工がしてあると思われます!この声の人物がガリウスという人でしょう…」

ガリウスの声「面白い物を見せてやる、そのまま動くな!」

そう言った次の瞬間、2回目の衝撃が…私の胸の装甲はヴォルテック合金製の装甲に換装してあるので難なく銃弾を弾きましたが、次の瞬間リントハイム様は驚きの声を上げました。

リントハイム「どういう事だ?…ガラスには一つしか穴が空いてないぞ?」

床に転がっていた弾丸は確かに二つありました…しかしガラスの穴はひとつしか空いていません。

老鉄「つまり一発目の弾丸が開けた穴に、二発目を正確に通過させたと思われます。」

ガリウスの声「ハッハッハ!ほんの余暇だよ!では三日後を楽しみにしているぞ!」

リントハイム「バカな!人間技とは思えない…」

夜影「……ありえない……こんな事……」

老鉄「計算上は可能でも、人間にはとても不可能かと?」

紅華「……ガリウス…師匠はアイツに近づくなって…こんな化け物だったなんて.」

老鉄「…ネビュラの狙撃用ドロイドが数百発撃って1回成功するレベルだと思われます。」

リントハイム「…無駄だとは思うが…屋敷の周囲を調べろ!何か痕跡が残っているかもしれん…」

夜影「はっ!紅棘(コウキョク)戦闘班出動!」

夜影さんは部屋を飛び出して行きました。

普段は冷静沈着なリントハイム様も動揺しておられる様子です、少し手が震えています。

紅華「ガリウス…歳はとっても、腕は衰えていないようね?」

お嬢様の心拍数が上昇してるのが分かりました…怒りと恐れ…そう解析できます…!

紅華「老鉄、行くわよ!」

しかしお嬢様と紅棘のメンバー達も加わって狙撃可能地点を隈なく調査しましたが何も見つけられませんでした。


リントハイム様は滅多に使わない地下シェルターに避難したのですが、いつまでもここにいる訳にも行きません。

リントハイム「三日後には大事な商談がある…それまでにガリウスを始末しないと…」

紅華「ガリウスはアタクシが倒す!リントハイム様を守る為にも、師匠の仇を打つ為にも…」

お嬢様は決意した面持ちでそう言いましたが…

リントハイム「それしか方法はないと思うが…紅華…死ぬなよ!」

紅華「当然よ!ガリウスを倒さない限り、アタクシの心とアナタの命が平穏を得る事は無いんだもの!」

リントハイム「しかし相手はバケモノだ、万全を期して行け!既にゲンさんには頼んである…」

老鉄「何か特別な装備でも追加するのでしょうか?」

リントハイム「紅華を守る為に必要な装備を頼んである!工房に向かえ!」

紅華「わかったわ!ありがとう…」

老鉄「ありがとうございます…」

こうして私達はリントハイム邸の一角にある、ゲンサンの工房に向かいました。


ゲンサンの工房にやって来ると入口の所で彼は出迎えてくれました。

源蔵「おっ!来たな?もう準備はしてあるぜ!」

紅華「ゲンさん、ありがとう…」

源蔵「師匠の仇なんだってな?詳しい事はしらねぇが、お嬢とラオ公の為にオイラも全力で協力するぜ!」

老鉄「ありがとうございます!ゲンサン。」

源蔵「まぁ汚ねえところだがとにかく入んな!」

老鉄「衛生的とは言えませんが…工房とはこんなものでは?」

源蔵「ははっ!違いねぇ!」

紅華「それでゲンさん、新しい装備って?」

源蔵「おう!まずはコレだ!」

そう言って傍らに置いてあった金属製の板を差し出しました。

老鉄「これは…大きさの割には軽いですね?」

源蔵「おうよ!こいつは複合繊維とネビュラード合金の板を組み合わせたシールド、つまり盾だぜ!」

老鉄「これならば、かなり強力なマグナム弾でも弾き返せますね?」

源蔵「こいつを持って行けば心強いだろう?」

紅華「そうね!ありがとうゲンさん、老鉄の防御力が格段に上がるわ!」

お嬢様も嬉しそうです。

源蔵「へへっ…それからお嬢にはコイツだ!」

紅華「なぁに?もったいぶって?」

源蔵「ジャーン!お嬢の趣味じゃあねぇかも知れねぇが…キャミソールだぜ!」

紅華「…ちょっと何言ってるか分からないわよ!やめてよ恥ずかしい…」

お嬢様は顔を赤らめて顔を背けました…プレゼントが恥ずかしいのでしょうか?

老鉄「ゲンサン、お嬢様の服はいつもミーナさんが選んでいますので…これではセクハラかと?」

源蔵「馬鹿野郎!コレはそんなんじゃねえ!コイツも複合繊維で出来ていて、ある程度の防弾性能があるんだよ!下着のプレゼントなんて…する訳ねぇだろ?」

紅華「…本当に…?」

源蔵「当たり前だ!」

紅華「一瞬、本気で殴ろうかと思ったわよ…」

老鉄「お嬢様、コレはゲンサンの趣味と思いやりが詰まっているのだと思われます。」

源蔵「趣味ってなんだよっ?思いやりに決まってんじゃねぇかっ!」

お嬢様は何故か複雑な表情をしています…何故でしょう?

紅華「確かに…見た目よりも頑丈そうね?」

源蔵「お嬢は見た目も気にするからな、無骨な防弾チョッキなんざ嫌がるだろう?これなら服の下に着るから大丈夫だと思ってな?」

紅華「ありがとうゲンさん!」

老鉄「ゲンサン…セクハラなんて言ってすみませんでした。」

源蔵「わかりゃイイんだよ!…ったく…」

ゲンサンは頭を掻きながら工房の奥に戻って行きました。


私達は新しい装備を受け取りました。

確かに生存率は向上したでしょう。

ですが私の演算結果は依然として楽観的な数値を示してくれません。

相手は怪物と言っても過言ではないガリウス。

お嬢様の師匠を殺した伝説の狙撃手です。


情報管理室の白の元に向かった私達は、彼女からガリウスについての新しい情報を受け取りました。

紅華「…これが…ガリウス?」

挿絵(By みてみん)

白「集めた情報を元に…ヌマルが作った!」

ヌマル「入手した画像が不鮮明だったから顔は似ているか分からないニャ!」

紅華「ううん、頑張ってくれたんだもの…素晴らしいわ!」

老鉄「よく頑張りましたね白!偉いですよ。」

白「えへへ…」

白は顔を赤らめてニッコリと笑いました。

紅華「それにしても、この黒いマント……裾がボロボロだけど、ただの服じゃないわね?」

ヌマル「そうなのニャ!それは**『ステルスマント』といって、光の屈折や吸収を制御する光学迷彩機能**がついているのニャ!周囲の背景と同化して姿を消せる、とんでもない特殊素材ニャ!」

老鉄「なるほど……。紅棘の戦闘班が探しても何の痕跡も見つけられなかったのも納得です。 」

紅華「恐ろしいわね?もしかしたら紅棘のメンバーもやられていたかも知れないって事だもん。」

白「それだけじゃない…」

紅華「えっ?」

ヌマル「ガリウスの常識外れな能力の秘密は右眼の機械式義眼にあるのニャ。」

老鉄「彼はサイボーグなのですか?」

ヌマル「戦場で右眼を負傷しても戦い続けたらしいニャ。そのせいで完全に失明したのニャ!」

白「それで…右眼は義眼になったらしいの…」

ヌマル「ガリウスはずっと戦場に居たらしいニャ!戦闘中毒なのニャ!」

紅華「軍にいた頃からの戦闘狂って訳?ますます恐ろしいわね?」

白「あのね…その義眼を作った人…」

紅華「…ん?」

白「実は…ゼロスらしいの…」

老鉄「なんと?」

紅華「…それは…なんというか…とんでもない因縁ね?」

老鉄「あのゼロス様が作った機械式の義眼?どのようなスペックなのでしょう?」

紅華「そうね?ヌマル、どんな機能が組み込まれているの?」

ヌマル「照準機能が有るらしいニャ!それ以外は分からないのニャ…ごめんなのニャ!」

紅華「気にしないで、ヌマルもよくやってくれたわ!」

ヌマル「褒められたニャ、嬉しいのニャ~!」

新たな情報を得られました…

ですが安心するどころか、私の危険予測はさらに悪化していました。

ガリウス。

姿を消し、超長距離から標的を撃ち抜き、そしてゼロス様の技術によって生まれ変わった伝説の狙撃手。

そんな相手に対して――

この後、お嬢様は私の予想を遥かに超える行動に出るのです。



##老鉄の独り言:ログ018


【仇】


お嬢様にとって、ガリウスは師匠の仇。


ですが戦場で生き残った人はみんな誰かの仇になるはず……


そしてまた、私の兄弟も沢山…戦場で散って行きました……


お嬢様がもしもガリウスに敗れたら……


私はガリウスを"仇"と呼ぶのでしょうか?

後書き

ガリウスの義眼を作ったのはゼロスでした。

「君に新しい目をやろう」

ゼロスは負傷した彼が戦場を去るものだと思っていたのです。

ですがガリウスは再び銃を取りました。

彼はもう――

戦場でしか生きている実感を得られなくなっていたのです。

本当に恐ろしいのは…人間?それとも……

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