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見えない観測者

リントハイムのかつての師匠、ゼロス・ハイマンは言った。

「アルベルト、お前はまだ『なぜ人間は醜いか』ばかりを考えているようだな?

だが本当の問いは……それでもなぜ人は美しくなれるか?なのだ!」

「AIには理解出来なくとも人間であるお前ならば…いつか理解出来るはずだ……」

リントハイム「先生……私は……」

リントハイム様の師匠、ゼロス・ハイマンは若き日のリントハイム様に最後にこう言ったそうです…

「アルベルト…人類を理解するには、美しさだけ見ても意味がない…けして醜さから目を逸らすな、闇があるからこそ光が眩しく感じるんだ!感情のフィルターを外して、ありのままを観察しろ。」

リントハイム「…そう言い残して、ゼロス・ハイマンは姿を消した…弟子の私にも行先は分からなかった。」

老鉄(ラオティエ)「それはなぜです?何か事情があるはずですが…」

リントハイム「先生が失踪したのは彼を邪魔だと考える帝国軍の一部勢力が暗殺を計画したからだと噂されていた…だが、それ以前に帝国から抜け出す計画だったんだ…!」

紅華(ホンファ)「それだけ帝国に貢献した人が?…帝国や皇帝に愛想が尽きたのかしら…?」

リントハイム「そういう憶測も飛び交ったが…だが本当はそうではなかった…先生には目的があったんだ…銀河の均衡を保ち破滅的な戦争を回避するという。」

紅華「それは今アナタがやっている事よね?」

リントハイム「そうだ!だがそれは先生の意志を私が引き継いでいるだけでしかない…」

老鉄「ゼロス様は何をしたのですか?暗殺を避けるだけなら失踪しなくても方法はあるはずです。」

リントハイム「…その通りだ、先生はあのネビュラのAIを作ってネビュラ星間連合を裏から創りあげた立役者なんだ…!」

紅華「ええっ?まさか……そんな…」

リントハイム「通商星間連合は元々は商売の為のネットワークだ、しかし宇宙海賊や帝国軍による不当な航路制限などに対抗する為の独自の武力をある程度保持していた、先生はそこに目をつけたんだ…」

老鉄「凄いですね?母体は既にあったとはいえ…それを1つの超国家的組織にまで発展させるなんて…」

リントハイム「先生は帝国の一極支配でも、人類が幸福になるとは思わなかったんだ…だから第三勢力であるネビュラを作りあげた…」

老鉄「それならば、三大勢力になって帝国の領土が減少したのも理解出来ます。ネビュラの戦略は帝国を打倒する訳では無く…帝国の勢力を抑え込む動きをしていますから。」

リントハイム「私が武器の販売をコントロールしているのも…同じ理由さ…!」

リントハイム様はグラスの中の水割りを少し苦そうに飲み干しました。

紅華「帝国軍はゼロスが裏でネビュラ星間連合を創り上げたって知っているの?」

リントハイム「それはおそらく知らないはずだ…だが帝国にとって重要な人物なのは間違いない!」

老鉄「今でも彼は帝国軍の指名手配リストに載っています、私の古いデータにも記録が残っています。」

リントハイム「だろうな?少なくとも彼が老衰で死亡している事は無いはずだ…」

紅華「100歳を過ぎても?いったいどういう事?」

リントハイム「これは本当に極秘事項なんだが…先生は先代の皇帝から特別に帝国皇帝だけに許されてる若返り法を施されているんだ!」

紅華「凄い!アタクシも歳をとったらやりたいわね?」

リントハイム「だがどんな方法なのかは私も知らない…確か先生とお会いした時には既に70歳をゆうに越えていたはずだが…見た目は40代くらいにしか見えなかった…」

老鉄「そうなると…ゼロス様は帝国にとって重要な秘密を握る人物でもありますね?」

リントハイム「そうだ……だからこそ、この秘密は誰にも言わないでおくつもりだったんだ…」

老鉄「皇帝くらいしか持っていないはずの防犯カメラに写らない特別な権限…ゼロス様ならば持っていても不思議ではありませんね?」

リントハイム「帝国軍のスパイがどこに居るか分からないが何故…今頃になって…」

紅華「ゼロスが常に追われてるのなら…アタクシ達で保護すれば良いんじゃない?」

リントハイム「……私は何度も先生を探そうとした。」

紅華「だったら…」

リントハイム「だが私が動けば、帝国軍も動く…」

紅華「あ……」

リントハイム「先生はそれを理解した上で、私にすら行先を告げなかったんだ…」

老鉄「ゼロス様は…リントハイム様をお守りしたかったんですね?」

紅華「……うん…そうね…!」


その翌日…情報管理室のハクから帝国情報部の暗号を傍受したと連絡が入りました、リントハイム様とお嬢様は私を連れて白の所へ向かったのです。

リントハイム「帝国の暗号だと?内容は解読出来たか?」

ヌマル「それくらい簡単ニャ!内容はこうニャ!」

会話が苦手な白の代わりに最新AIのヌマルが答えます。

リントハイム「なになに…対象No.0の痕跡を発見、包囲網を張るので応援を回して欲しい!」

紅華「No.0?…まさか…ゼロス?」

リントハイム「断言は出来ない!だが…」

紅華「帝国情報部は今でもゼロスの行方を追っているのよね?」

リントハイム「そうだ!」

老鉄「包囲網を敷くという事はその人物を捕えるつもりだと考えられます、ゼロス様ではないとしても危険が迫っているのは事実です!」

私はリントハイム様に進言しました。

リントハイム「…そうだな?」


暗号の解析を進めると、目標地点は海洋公園にポツンと浮かぶ、孤島…「要塞島ようさいじま」であることが判明しました。

この島には昔の戦争の時に作られた要塞跡や波の侵食で作られた洞窟などがありますが崩落の恐れがある為に現在では立ち入り禁止にされています。

リントハイム「こんなところに…?」

紅華「おかしいわ…逃げるならわざわざこんなところに隠れるよりも人の多い街中を選ぶはず…これじゃまるで…」

老鉄「罠かも知れませんね?」

リントハイム「確かにな?だが対象者0が私達を罠に嵌める理由はない…」

紅華「それじゃあ…狙いは帝国情報部?」

リントハイム「わからない…だが…0に会えば全て分かるはずだ!」

紅華「そうね!ウダウダ考えているよりも行動よ!」

私たちはすぐに現地へとリントハイム様所有の小型潜水艦で向かいました。

潜望鏡で島の様子を見てみると…島にはすでに帝国情報部の物らしき船が三隻接岸していたのです。

老鉄「見たところ全部で15名…装備は捕獲用の麻酔銃やネット砲のようです!」

リントハイム「つまりは捕獲して連れて帰るつもりって事だな?」

紅華「でも…相手が多すぎるわ、こちらは夜影イェイン率いる紅棘コウキョクのメンバーを入れても8人しかいない…」

リントハイム「相手は帝国の軍人…素人の集団ではない、かなり不利な状況だ…」

紅華「これじゃあ正面からやり合うのは無理ね……。よし、アタクシがド派手に暴れて注意を引いてあげるわ! あんたたちはその隙に対象0がいると思われる洞窟に向かいなさい!」

リントハイム「紅華、無茶だ! 相手は帝国の隠密部隊だぞ!?」

紅華「ふん、アタクシを誰だと思ってるのよ? 銀河で一番イイ女よ? ……それにあちらは後ろから攻撃されるなんて思っていないはずよ!」

リントハイム「わかった、夜影以下紅棘のメンバーは紅華を援護してやってくれ!誰一人欠ける事なく帰るんだ!」

リントハイム様のその一言で皆さん気合いを入れて作戦を開始しました。

私とリントハイム様が乗るボートが島に近づくと海岸の方で花火が上がりました。

リントハイム「そうか、今夜は海洋公園の花火大会だったか…」

花火が合図になったかのように島のあちこちで発砲音と爆発の炎が上がりました…これならば花火に紛れて見物客も気がつかないでしょう、

リントハイム「……紅華らしい…派手な幕開けだな?老鉄、行くぞ!」

老鉄「はい。リントハイム様、行きましょう!」

島の南側には満潮時には海底になってしまう岩場があります、私達はその岩場から上陸しました、前方を見ると帝国の諜報員が何やらもがいています。

それは、潮溜り――岩場にできた天然の穴へ落ちた者達でした。

その穴には、海水に特殊な物質を混ぜて作った、スライムのような粘度の高い液体が満ちていたのです。

老鉄「この中から自力で脱出するのは難しいと思われます。」

帝国の諜報員たちは必死にもがいていましたが、抜け出せる気配はありません。

リントハイム「コレは?…潮溜りを利用した落とし穴という事か?」

老鉄「巧妙な罠と言えます。金属探知機では探知不可ですし…この夜陰では、視認も困難かと思われます。」

リントハイム「こんな原始的なワナを使うなんて…ますますゼロスの可能性が高まったぞ!」

老鉄「リントハイム様、私の後を歩いてください、カメラを暗視モードに切り替えて行きます。」

リントハイム「頼んだよ!」

暗視モードの、色の無い映像の中に海水の侵食で空いたと思われる洞窟の入口が写りました。

私とリントハイム様は、迷路のように入り組んだ仄暗い洞窟へと足を踏み入れます…

老鉄「ここからはライトをつけます、足元に気をつけて下さい。」

リントハイム「うむ!老鉄、敵に遭遇したら迷わず撃つんだ!」

老鉄「かしこまりました!」

私は銃を構えて洞窟の奥に進みました。

しかし、洞窟の中で私たちが目にしたのは、奇妙な光景でした。

老鉄「……これは、帝国情報部の特殊工作員? 気絶していますね」

リントハイム「こっちもだ……おい、これを見ろ!」

最新鋭の光学迷彩を身に纏ったエリートスパイたちが、信じられないことに、ただの「落とし穴」や、ツタを編んで作られた「仕掛け弓」といった、あまりにも原始的な罠に引っかかり、無惨に戦闘不能になって転がっていたのです。最新のセンサーも、ただの泥や木片には反応しなかったのでしょう。

リントハイム「ふっ…!間違いない、この悪趣味な手口は先生…ゼロス・ハイマンに間違いない!」

リントハイム様の声は何故か嬉しそうでした…


入り組んだ洞窟の突き当たりにハシゴがありました、どうやら上に抜けられるようです。

ハシゴを登り切った瞬間、潮風が吹き付けました。 波の砕ける音だけが暗闇に響いています。 その時です。 暗闇の中で、小さな赤い火が揺れました。 ……タバコの火でした。

今では使われていない灯台を囲む錆びた手すり、そこに寄りかかる一人の男がタバコを吸っていたのです。

リントハイム「あれは…先生…!」

その男は帽子を深く被りタバコの煙をくゆらせています。

彼は私たちに気づくと、呆れたように、しかしどこか楽しげに口元を歪めました。

ゼロス「フーッ!帝国情報部員の質も落ちたな……? 機械の数値やセンサーにばかり頼っているから、あんな単純な罠にかかるんだ。やはり人間は堕落する生き物だ!……そう思わんか?アルベルト!」

タバコの煙を吐き出して、彼はリントハイム様の方を向いてそう言ったのです。

リントハイム「先生…やはりあなたでしたか…?」

ゼロス「お前ならば気がつくと思ったよ!」

リントハイム「それでは…老鉄のカメラに写っていたのは…ワザと?」

ゼロス「老鉄というのか?そのGRD-04は…」

リントハイム「はい!私達はそう呼んでいます。」

ゼロス「こいつを仲間にするとは…不思議な縁を感じるな…?」

リントハイム「縁…ですか?」

ゼロス「ふむ?…ドロイドを仲間と呼ばれても否定しないんだな?アルベルト…」

リントハイム「あ……」

ゼロス「実は昔…GRD-04の開発には私も参加したんだよ…」

リントハイム「……それは、初耳ですね…」

ゼロス「懐かしいなぁ…汎用性を追求したから、返って器用貧乏なドロイドになってしまったんだが…」

老鉄「…器用貧乏…?」

ゼロス「…しかし基本設計が優れていたので耐久性は高かったんだよ老鉄くん!」

老鉄「おかげさまでまだ動いております。」

ゼロス「フフ…キミの兄弟達は今でも銀河の辺境で働いているんだぞ!」

リントハイム「…そんな話をする為にこんな手の込んだ事をしたんですか?」

ゼロス「まさか…!実はな…お前に渡したい物があったんだ…ほら!」

ゼロス様は黒い小さな物体を差し出しました。

リントハイム「……?これは…コンピュータの部品のようですが?17と書いてありますね?」

受け取ったその物体を観察しながらリントハイム様は不思議そうな顔をしています。

ゼロス「コレはプロメテウスコア・17(ワンセブン)だ!私が苦心して作ったものだ!」

リントハイム「先生の自作ですか…?」

ゼロス「このコアを老鉄くんの拡張スロットに取り付けろ!いつか役に立つ…」

老鉄「私にですか?ありがとうございます!」

リントハイム「わかりました…で、先生はこの後どうするのです?」

ゼロス「私はまた身を隠す…心配するな、私は不死身さ!」

リントハイム「不死身…それはどういう…」

ゼロス「老鉄くん…アルベルトを頼んだよ!」

老鉄「はい!お任せください。」

ゼロス「ハッハッハ…素直だな?アルベルトよ仲間を大切にしろ、あとな…あの派手なお嬢様にもよろしく言っておいてくれ!」

リントハイム「先生まだ……」

ゼロス「さらばだ!」

挿絵(By みてみん)

そういうとゼロス様は灯台の向こう側の崖から飛び降りたのです。



私達は慌てて崖の下を覗き込みました。 しかしそこには、砕ける波と暗い海しかありません。

リントハイム様はしばらく無言のまま、ゼロス様が消えた真っ暗な水面を見つめていました。

そして私は記録します。


##老鉄の独り言:ログ017


【仲間】

人間は普段、 機械を“道具”と呼びます。


しかし稀に、 “仲間”と呼ぶ人達がいます……


そしてまた、お嬢様は私を"家族"と仰います……


そして銀河の各地には…私の兄弟が居るそうです…!

ゼロス・ハイマンは帝国にとって重要な人物であり、また最大の危険人物です!

おそらく彼が本気で帝国打倒をしようとすれば間違いなく帝国にとって最大の脅威ですから……

ゼロス・ハイマンの本当の目的は何か?

プロメテウスコア・17(ワンセブン)とはどんな力を秘めているのか?

謎は深まる一方です。

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