表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/12

第十話 皇后・李桂麗

(私が……陛下を呪った?)

 あまりにも身に覚えがない糾弾に、桂麗は言葉を失った。

「呉妃様。失礼ですが、そちらを陛下によくお見せしたいのですが」

 武徳の腹心である遷が前に出て、花花に訊ねた。花花は「どうぞ」と言い、躊躇うことなく木像と削りカスを渡した。

 受け取った遷は、それを武徳に見せた。

「確かに、人形と削りカスは同じ木ですね……」

「……これは……皇后の筆蹟だな……」

 桂麗もおそるおそる覗き込んだ。

 その削りカスに残る筆蹟は、間違いなく自分のものだった。

 黄も、呪も。

 見覚えがあって当然だった。

(これは、このあいだ私がこっそりと詠んでいた詩の書き損じだわ!)

 一人で籠もって書いていた艶歌。

 少しでも明るいものにしたくて、悲しい言葉は削ったのだ。

 黄は、黄梅。呪は、我が身を呪う。

 そういう意味で使ったのだ。

「嘘です! 呉妃様の捏造です!」

 控えていた丹が大声をあげた。

「丹、おやめ!」

「いいえっ! この削りカスを見つけた女官とは誰なのですか? お教え下さい、呉妃様!」

 いくら皇后付きとはいえ、一介の女官が妃に向かって反論するなど、後宮ではありえないことだった。

「それは、言えないわ。だって勇気を出して告発してくれたのだもの」

 だが花花は、一笑にふした。

「誰が見つけたかは些末なこと。陛下は、この筆蹟が彼女のものだとお認めになった。さあ、李桂麗。陛下に対して申し開きはあるかしら」

 もはや、李后様とは口が裂けても呼びたくないのだろう。元々彼女は、自分に対して敵意を持っているのは知っている。

(どうしよう。草稿の木簡は処分してしまった。ここにあるのは、清書したものだけ)

 胸を押さえる。かさりと、小さな音が布越しに伝わった。

(それに、皇后が艶歌を詠んでいたことは、まだ言えない。ましてやこんな場で……)

 最初から協力してくれた丹。

 春暁麗人の詩を愛し、その正体を知って受け入れてくれた武徳。

 だけど、この場にいる人々はどうだろう。

 花花からの嫌疑は晴らせるとして、彼女はさらに追いつめてくるのではないか。

(でも、私が陛下を呪ったなんて)

 そのことだけは、はっきりと否定しなくてはならない。

 人形にしても、捏造されたものだ。

 桂麗は立ち上がることなく、座したまま、しかし背筋をしゃんと伸ばして口を開いた。

「身に覚えがありません」

 ざわつく庭園が、水を打ったように静まった。

「この国の皇后・李桂麗の名において誓います。私が、皇帝陛下を呪詛するなど──断じて、有り得ません」

次の更新は、5/5 19:00を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ