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戦士の受難  作者: とんぼ。
第8章 創世編

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「ちょっとした優しさ」

 「ほら!早く導いてみろよ!」


 空飛ぶドラゴンの背の上。骨ばった背に乗るハクエは幸福の魔術師ソシルによって地面へ転がされていた。そのうえで、顔を踏みつけられていた。強く力が込められ、摩擦でハクエの顔が熱くなる。


 「………っ。」

 

 彼女は今、魔術によって体を動かすことが叶わない。その為、ソシルの為すがまま、というわけだ。

 ソシルの靴が今度はハクエの腹に突き刺さる。


 「ぐっ。」


 顔よりかはマシか。体の動かせない彼女はそう思う。


 「はっ!憐れだなぁ!あんたは!でも安心しろよ!可哀想なあんたも、英雄になれる!人類救済の礎になんだ!幸せじゃねぇか!?」

 「げほっ。言った、はずです。……人を足踏みにする、幸福など、ないと…。」

 「じゃあ示してくれよセンセイ!人を導くんだろ!?優しさってやつで!」


 当てつけのようにハクエを先生と呼ぶ。そして、あろうことか師と呼んだ彼女の体を蹴飛ばす。

 ドラゴンの背は骨ばっており、そこで跳ねたハクエの体は硬い骨に打ち付けられる。


 「……っ。」


 痛みが体中を走る。しかし、彼女は己の言葉を撤回することはない。人の幸福は誰かの犠牲のうえになるものではなく、彼女の目指す教師もまたそれを許容するものではない。教師が人を導くのは、知識とちょっとした優しさだということ。ハクエの考えは曲がることなどない。


 「はぁ。まぁ、せいぜいそこで這いつくばってんだな。私(おれ)達が世界を変えるのを黙って見てろよ。」


 ソシルはそう言い、ハクエへ背を向ける。


 そのタイミングで、ハクエは起き上がり、即座に彼または彼女に接近した。


 「!?な、」


 ソシルがハクエの動きに気づく前に、彼または彼女の首元へ腕が伸びる。そして、あっという間に体を押し倒されて絞められていた。


 「ぐっ、がっ、なんでっ、」

 「簡単な、話です。……私はただ、回復魔法を使っただけですよ…!」

 「そん、なの…いつ、」

 「『ヒールレタリット』。時限式の回復魔法です。先んじて掛けておけば、後から回復魔法が勝手に作動します。……白魔導士を侮りましたね…!」


 そう。ハクエがソシルと相まみえる前に発動させた『ヒールレタリット』が魔術の効果を打ち消したのだ。

 より正確に言えば、魔術の効果による体の異常を回復した。正常な状態へと戻した、と言える。


 ソシルが後少し冷静であれば、当然気付けたであろうハクエの狙い。だが、残念ながら彼または彼女は冷静ではなかった。己の語る幸福論に執着しすぎていたのだ。


 「く、そ…。」


 絞められたソシルの体から徐々に力が抜ける。それを見て、ハクエは力を緩めた。もう魔術を行使することは出来ないだろうと察したのだ。

 その瞬間、2人を乗せたドラゴンが揺れる。


 「!?何が…!?」

 

 困惑するハクエとは別に、ソシルはいち早く状況を把握した。


 「けっ。……誰かが、ドラゴンを、止めやがったんだ…。」

 「止めた…?一体…。きゃっ。」


 不安定なドラゴンが傾く。無論、そのうえにいたハクエらもよろけた。少しの傾きではない。山の傾斜のように、かなりの傾きだ。故に、動けないソシルがそのまま滑り落ちそうになる。


 「!」


 驚きはする。だが、ソシルは悪態をつきながらも諦めの境地にいた。体は動かない。空高く飛翔していたドラゴンはふらふらと頼りない。ならば、自分がその上から落ちるのも当然だと思ったのだ。

 しかし。


 「ソシル、さん…!」

 「あ?」


 咄嗟にハクエの手がソシルへ伸びる。ハクエはドラゴンの背骨にしがみつき、もう片方の手でソシルを強く掴んだ。


 「何してんだ。あんた。俺(わたし)と敵対してんだろ?止めるために来たんだろ?」

 「そう、ですが…。止める、というのは見殺しにする、というわけではありません…!」


 その場で踏ん張りながらも、目一杯の、強がりの笑顔をつくる。


 「言ったはず、です。……教師は人を導くと。……私の目指す道は、貴方たちも導く、そんな…優しさを持った人間が進むもの、です……!」

 「………………。」


 人を導くために必要なもの。知識とちょっとした優しさ。彼女は己の掲げた理想を体現しようと、ここ一番で踏ん張る。ここでソシルの手を離してしまえば、彼女の道は潰えるような気がしたのだ。


 「誰だって、いつだって、やり直してもいいはずです…!私は、それを知っています!」


 ある青年を思い出す。どうしようもなく不出来で、どうしようもなく楽観的で。だが、そんな人物が強くなろうと励んでいたのをハクエは知っている。だからこそ、目前の魔術師でさえも変われると信じるのだ。


 「だから…貴方を、放しは、しません……!」


 勢いをつけてソシルを引き上げる。少し疲れたハクエは肩で息をしながら言う。


 「私は、必ず教師になります。……そして、貴方でさえも導いてみせます…!本当の幸福へ!」

 「……………そう、かよ。」


 ソシルは未だ身体に力が入らなかった。しかし、たとえ入ったとしてもハクエへ攻撃しようとは思わなかった。

 

 ちょっとした優しさ。その温かさが、ほんのりと、僅かにだがソシルへ伝わったのだった。

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