「導きに必要なもの」
突如出現した壁により仲間と逸れた白魔導士ハクエ。だが、不安になることはない。彼女は仲間たちならばきっと平気だと信頼しているのだ。
「…………警戒をしていきましょう。……念のため…『ヒールレタリット』。」
そうして唱えたのは回復魔法。ただの回復魔法ではない。時限式のものである。先んじて掛けておくことで、奇襲を食らったとしても即座に回復できるようにするのだ。
ひと呼吸おき、狭くなったドラゴンの上を歩く。
しばらくすると待ってましたとばかりに人影が現れた。
「よぉ。久しぶりじゃねぇか白魔導士。」
不敵に笑うは藍色の髪をウェーブさせた人物。ヒールを履いたその姿は男か女か判別がつかない。彼、または彼女こそ幸福の魔術師ソシルだった。
「残念ですが貴方とゆっくりお話しするつもりはありません。」
「へぇ。つれねぇなぁ。俺は待ってたんだぜ?あんたのことを。」
「それはどうも。では、退いてください。」
「おぉ。怖い怖い。」
ソシルはわざとらしく肩をさする。ハクエの表情は相変わらず。じっと、敵を見つめていた。本当に話すつもりはないらしいことを知り、ソシルは手にしていた柄の長い斧を振る。
「まぁ、話すことがねぇなら私は良いけどよ。でも、あんたは良いのか?」
「どういう意味です。」
「考えてもみろよ。あんた、白魔導士だろ?つまり回復しかできねぇ。それがどうやって俺に勝つんだ?」
「ご心配なく。私は無策で突っ込むわけではありませんから。」
「可愛げがねぇな。全く。ま、良いけどよ。私の魔術、見逃すなよ?」
頭を掻きながら斧を構える。ハクエはそのアクションに警戒心を強めた。
ソシルは魔術師。魔法とはまた違う、魔術を行使するのだ。確か、以前戦った時は攻撃を無力化する魔術を使ってきた。それに関してはタネが割れているので対処は可能だが、果たして今回はどうだろう。
そう思っていると、ソシルの口が開かれる。
「汝よ、根絶されし個の存在を覆え。我が顔を、何人たりとも拝むことは赦されない。『プラーレ・マグプト』!!」
その瞬間、明らかな異変が訪れる。ハクエは確かにそれを感じた。
まず、指先を動かそうとしたのだ。だが、意識に背く体は決して動きはしない。なんとか動く唇で、ハクエは言葉を続ける。
「こ、れが…貴方の、魔術…。」
「あぁ。そうだ。前戦った時は加減してやったんだよ。でも、俺にかかれば相手の動きを止めるなんて難しくねぇ。」
ハクエは一転してピンチに陥る。が、表情には出さない。表情筋が硬くなっている、というのもあるが、それ以上に敵に対してあくまで余裕を保つ体勢を保ちたいのだ。
「………これほど、強力なら……以前戦った時も、同様にすればよかったのでは…。」
「そーしたいのは山々だったけどよ。アイツが煩かったんだよな。セイジ・フォン…なんだったかな。とりあえず、そいつがいる時は力を抑えろってな。」
「セイジがいる時は…?………貴方の、言うアイツとは、誰なのです…?」
「フード被ったやつだよ。見かけただろ?」
ソシルの返答を受けたハクエは混乱する。何故、魔術師の仲間がセイジを気にかけているのだろう。まさか、セイジが魔術師の仲間だとでもいうのか。
いや。そんなはずはない。確かに彼は完ぺき超人でも、欠点のない人格者でもない。しかし、だこらと言って魔術師に与して人々を害するような人間ではない。それを、ハクエは知っていた。
故に。ここでその答えを突き詰めるのはよすことにした。意味のないことだ。
なので、今は目前の相手へと注意を向ける。あと少し。後少しだけ、ソシルの注意を引いていたい。
「にしても、残念だぜ。あんたはまだ、私達と敵対するつもりなのかよ。」
「あたり、まえです。……貴方たちのような人間を野放しには出来ません、から…。」
「ひでぇ言いようだな。いいか?俺達は人類を救ってやろうっていってんだよ。救う、つまり幸せにしてやるんだ。あぁ!そうだ!あんたは教師になりてぇんだよな?なら、私達と一緒じゃねぇか?人間を導いて幸せしてやる。なっ。一緒だろ?」
「……………………。」
大きく腕を振り、ソシルは己の考えを披露する。間違ってなどいないと、意気揚々と語る姿はもはや感嘆の念を覚えずにはいられなかった。
だが。それは決してソシルの考えを認めるというわけではない。ハクエは、彼または彼女の考えを到底認めるわけにはいかない。
「違い、ます。………人を導くのに、犠牲が必要だなんて…間違っています。」
「犠牲?違うな。英雄だ。人類救済でくたばる奴らはその為に命を落とす。そいつらのおかげで人類救済がされるんだから、俺は敬意を示すぜ?」
「英雄だなんて、必要ありません。人を導くのには、少しの優しさと知識さえあれば、いいんです。」
頑固なハクエへソシルはあからさまにため息をついて近寄る。そして、未だ動けずにいる彼女の腹を蹴り、倒す。
「優しさねぇ。じゃっ、それで私を導いてみろよ。え?」
倒れたハクエの顔を、足裏で強く踏みつける。
「……ぐっ。」
やられっぱなしのハクエ。だが、このままやられる彼女ではない。
今はただ耐えるため、強く歯を食いしばるのだった。




