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戦士の受難  作者: とんぼ。
第8章 創世編

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「導きに必要なもの」

 突如出現した壁により仲間と逸れた白魔導士ハクエ。だが、不安になることはない。彼女は仲間たちならばきっと平気だと信頼しているのだ。


 「…………警戒をしていきましょう。……念のため…『ヒールレタリット』。」


 そうして唱えたのは回復魔法。ただの回復魔法ではない。時限式のものである。先んじて掛けておくことで、奇襲を食らったとしても即座に回復できるようにするのだ。

 ひと呼吸おき、狭くなったドラゴンの上を歩く。


 しばらくすると待ってましたとばかりに人影が現れた。


 「よぉ。久しぶりじゃねぇか白魔導士。」


 不敵に笑うは藍色の髪をウェーブさせた人物。ヒールを履いたその姿は男か女か判別がつかない。彼、または彼女こそ幸福の魔術師ソシルだった。


 「残念ですが貴方とゆっくりお話しするつもりはありません。」 

 「へぇ。つれねぇなぁ。俺(わたし)は待ってたんだぜ?あんたのことを。」

 「それはどうも。では、退いてください。」

 「おぉ。怖い怖い。」


 ソシルはわざとらしく肩をさする。ハクエの表情は相変わらず。じっと、敵を見つめていた。本当に話すつもりはないらしいことを知り、ソシルは手にしていた柄の長い斧を振る。


 「まぁ、話すことがねぇなら私(おれ)は良いけどよ。でも、あんたは良いのか?」

 「どういう意味です。」

 「考えてもみろよ。あんた、白魔導士だろ?つまり回復しかできねぇ。それがどうやって俺(わたし)に勝つんだ?」

 「ご心配なく。私は無策で突っ込むわけではありませんから。」

 「可愛げがねぇな。全く。ま、良いけどよ。私(おれ)の魔術、見逃すなよ?」


 頭を掻きながら斧を構える。ハクエはそのアクションに警戒心を強めた。

 ソシルは魔術師。魔法とはまた違う、魔術を行使するのだ。確か、以前戦った時は攻撃を無力化する魔術を使ってきた。それに関してはタネが割れているので対処は可能だが、果たして今回はどうだろう。


 そう思っていると、ソシルの口が開かれる。


 「汝よ、根絶されし個の存在を覆え。我が顔を、何人たりとも拝むことは赦されない。『プラーレ・マグプト』!!」


 その瞬間、明らかな異変が訪れる。ハクエは確かにそれを感じた。

 まず、指先を動かそうとしたのだ。だが、意識に背く体は決して動きはしない。なんとか動く唇で、ハクエは言葉を続ける。


 「こ、れが…貴方の、魔術…。」

 「あぁ。そうだ。前戦った時は加減してやったんだよ。でも、俺(わたし)にかかれば相手の動きを止めるなんて難しくねぇ。」


 ハクエは一転してピンチに陥る。が、表情には出さない。表情筋が硬くなっている、というのもあるが、それ以上に敵に対してあくまで余裕を保つ体勢を保ちたいのだ。


 「………これほど、強力なら……以前戦った時も、同様にすればよかったのでは…。」

 「そーしたいのは山々だったけどよ。アイツが煩かったんだよな。セイジ・フォン…なんだったかな。とりあえず、そいつがいる時は力を抑えろってな。」

 「セイジがいる時は…?………貴方の、言うアイツとは、誰なのです…?」

 「フード被ったやつだよ。見かけただろ?」


 ソシルの返答を受けたハクエは混乱する。何故、魔術師の仲間がセイジを気にかけているのだろう。まさか、セイジが魔術師の仲間だとでもいうのか。

 いや。そんなはずはない。確かに彼は完ぺき超人でも、欠点のない人格者でもない。しかし、だこらと言って魔術師に与して人々を害するような人間ではない。それを、ハクエは知っていた。


 故に。ここでその答えを突き詰めるのはよすことにした。意味のないことだ。

 なので、今は目前の相手へと注意を向ける。あと少し。後少しだけ、ソシルの注意を引いていたい。


 「にしても、残念だぜ。あんたはまだ、私(おれ)達と敵対するつもりなのかよ。」

 「あたり、まえです。……貴方たちのような人間を野放しには出来ません、から…。」

 「ひでぇ言いようだな。いいか?俺(わたし)達は人類を救ってやろうっていってんだよ。救う、つまり幸せにしてやるんだ。あぁ!そうだ!あんたは教師になりてぇんだよな?なら、私(おれ)達と一緒じゃねぇか?人間を導いて幸せしてやる。なっ。一緒だろ?」

 「……………………。」


 大きく腕を振り、ソシルは己の考えを披露する。間違ってなどいないと、意気揚々と語る姿はもはや感嘆の念を覚えずにはいられなかった。

 だが。それは決してソシルの考えを認めるというわけではない。ハクエは、彼または彼女の考えを到底認めるわけにはいかない。


 「違い、ます。………人を導くのに、犠牲が必要だなんて…間違っています。」

 「犠牲?違うな。英雄だ。人類救済でくたばる奴らはその為に命を落とす。そいつらのおかげで人類救済がされるんだから、俺(わたし)は敬意を示すぜ?」 

 「英雄だなんて、必要ありません。人を導くのには、少しの優しさと知識さえあれば、いいんです。」


 頑固なハクエへソシルはあからさまにため息をついて近寄る。そして、未だ動けずにいる彼女の腹を蹴り、倒す。


 「優しさねぇ。じゃっ、それで私(おれ)を導いてみろよ。え?」


 倒れたハクエの顔を、足裏で強く踏みつける。


 「……ぐっ。」


 やられっぱなしのハクエ。だが、このままやられる彼女ではない。

 今はただ耐えるため、強く歯を食いしばるのだった。

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