「エモーショナルに」
「あれは…一体…!?」
黒い瞳を空に向けたキサキは呟く。彼は現在、囚われの身でありながら警察隊に働かされていた。というのも、各地で魔物の暴動があったからだ。それに駆り出されたのは彼だけではない。
「ドラゴン…のようだな。」
隣にいたモルス・フォン・ディランドもまた眼鏡を指の腹で押し上げ空を見上げる。真剣な眼差しの2人と違い、背中を大胆に見せつける青年トリルは腰に手を当てあっけからんと言った。
「あんな骨ばっかの奴なんか見たことないね。まぁ、魔術師とかいう奴らの仕業でしょ。」
「トリルさん。……なんだか楽しそうですね。」
キサキはトリルの物言いに、責め立てるとまではいかないが、如何せん理解できないという感情を含んだ視線を投げる。
「まぁね。丁度鬱憤たまってたところだし。ずっと警察隊にこき使われててうんざりしてたんだよ。発散できそうな所を見つければ楽しくもなると思うけど。よっと。」
背を向けながら魔法で氷の足場を作り、そこへ飛び移る。
「あっ!トリルさん!?どこへ行くんです!?」
「どこって、憂さ晴らしをしに。警察隊も魔物の対応で俺のことなんて追えないでしょ。」
「ちょ、ちょっと!」
キサキの静止も聞かず、トリルは氷の足場でドラゴンを目指していった。あくまで囚われの身である為、彼を引き止めようとするが、静観していたモルスが肩に触れる。
「止める必要はない。」
「モルスさん。どうしてですか?トリルさん、暴れに行くかもしれないんですよ。」
「だとしても、魔術師に返り討ちにでもされるだろう。あれぐらいの若造は痛い目を見るぐらいが丁度いい。」
「……そういうものなんですかね…。」
「そうだとも。それより、私達は魔物の掃討へ向かおうではないか。」
「は、はい!」
冷静なモルスの言葉でキサキはとりあえず納得をして、魔物の討伐へと駆り出すのだった。
***
空飛ぶドラゴンに無事到達したセイジ達。浮かせた岩石から太く骨ばったドラゴンの身体へとうまく飛び移りつつ、待ち構えているであろう魔術師を探す。
周囲は刺々しく白い骨が隆起していた。全体は人間の肋のようにアーチ状の形をしており、丁度セイジらの頭上に位置している。
「警戒して行こ、」
セイジが注意を促しかけた瞬間。彼の脇腹を何かが掠める。
「!セイジ!!」
真っ先に気付いたケイヤが荒々しく声を発するが遅い。セイジの腹を抉ったモノ。黒々とした羽根の生えた小さな生き物はセイジのみならず、ケイヤ達さえも襲撃する。
「これは…『ブラッドバッド』だ!」
クロは足場から落ちないようにしながらも言う。『ブラッドバッド』。それは以前、クロとセイジが対峙したことのある魔物。コウモリのような生態をしており、特筆すべきは異様なほどの血への執着だった。
「にゃっ!?」
「!ホーリーさん!!」
『ブラッドバッド』を避けようとしたホーリーがよろける。彼女の猫耳が揺れ、空へと投げ出される。ハクエは名を呼び手を伸ばすが届かない。
「みーは大丈夫ですにゃ!それより、みにゃさん、気をつけてくださいにゃ!きっと、これも魔術師の仕業ですにゃ!!みーはお先に下で待ってますにゃ!必ず、魔術師を止めて下さいにゃ!」
「……………はい!必ず、止めます!」
ホーリーは微笑み、手にしていた蔓を強く握る。上空からの着地は伸縮自在のこの蔓さえあれば問題ない。故に、彼女が残すのはハクエ達へのエールだ。必ず魔術師を倒すという、誓いだ。
他の3人はなんとか無事にドラゴンの背へ飛び移る。襲いかかる『ブラッドバッド』はセイジとケイヤの前で一刀両断された。
セイジは斧を振るい、ふっと息をつく。
「魔術師を探そう。きっと、このドラゴンの何処かにいるはずだ。」
ケイヤも頷く。
「だな。…………早速お出ましみてぇだぞ。」
そう言った彼の視線の先には伸ばしきった黒髪を引きずる青年、即ちトリルがいた。
「お出まし、ねぇ。言っとくけど俺は魔術師の仲間じゃないよ。まぁ、お前らの味方でもないけど、ねっ!!」
トリルは言い切る前に地面へと手をかざす。それを皮切りにドラゴンの体から血のように赤い壁や氷柱が突き出る。
セイジらを軽く追い越す壁達は皆を分断してしまった。
「俺を倒しでもしないと、この壁は壊せないから。」
トリルは不敵に笑う。
そんな彼の前には深紅の髪を揺らすケイヤの姿があった。
「なんだおめぇ。わざわざ俺と2人きりになるなんてな。話でもあんのか?」
動揺をする様子もなく剣を構える。
「話…ね。あるといえばあるし、ないと言えばないよ。ただ、今はあの時の仕返しをしたいだけ。」
「あの時…?」
「そう。お前は覚えていないだろうけど、金雲街でいっぱい食わされたからさ。オマケに殴られた。………やられっぱなしってのは癪だからね。」
「はぁ。ガキみてぇな言い分だな。今はそんな状況じゃねえってのに…。」
頭をかく。どうやら目前の相手は理性などよりも感情を優先する人間のようだ。でなければ、ここは魔術師討伐のために手を組むのが常だろう。
なんて言ってもキリがない。ケイヤは切り替える。
「まっ、いいぜ。さっさとおめぇをぶっ倒してセイジ達と合流してやる。」
どくどくと脈打つかのような赤い壁。四方を囲まれながらもケイヤには敗北の二文字はなかった。




