「信念と選択」
空飛ぶドラゴンを目指すセイジら。まずは街を少し出た平原へと移動した。そこからホーリーの鞭とセイジの浮遊魔法でドラゴンへ到達するのだ。
「はい。これ。」
金髪の少年、レアン・フォン・ディランドはセイジへ掌ほどの大きな赤い魔石を渡す。魔石は周囲のエネルギー量を判断するものでもあるが、それと同時に魔石自体がエネルギーを持っているのだ。
「これに『旅乗り』で集めたエネルギーを入れてるから。魔法を使う時の足しにしなよ。」
「…………あぁ。ありがとう。」
レアンから魔石を受け取るが、セイジは何処か上の空だった。
本当に自分がドラゴンまで皆を導けるか。導けたとて、待ち構える魔術師に勝利できるのか。
セイジは己の無力さを改めて知ってしまった。故に、この戦いについていけるのか疑念を持っていたのだ。
「考え事?随分余裕だね。」
「…………すまない。」
レアンは項垂れるセイジの様子に舌打ちし、彼に顔を近付ける。眉間には深い皺が寄っていた。
「もしかしてくだらないこと考えてるわけじゃないよね。」
「…………くだらないこと、では、ないと思う…。多分。」
「ふぅん。でも、今考えるべきことではないんじゃない。」
「今考えるべきこと…。」
「そう。お前、僕に言ったよね。正しくないと思っていることを無理にやるなって。自分が信じられない道には行くなって。」
果たして本当にそんなことを言っていたか。セイジには判別つかない。実際には、一言一句同じ文言ではないはずだ。しかし、構わずにレアンは続ける。
「お前はあのドラゴンとか、それを操る奴らを放置していいと思ってるわけ?それが、お前の思う正しさなわけ?」
「………違う。ドラゴンも、魔術師も、止めなければならない。」
「なら、信じてることに全部賭けなよ。余計なことなんか考えてないでさ。」
「……………あぁ。そうだな。お前の言うとおりだ。」
レアンの叱責を受け、セイジは思い出す。自身の頭はそれほど良くは出来ていないと。いつだって名案が脳裏に浮かぶことはないし、いつか見たことさえ思い出せずにいることもある。
だからこそ。信じたいもの、信じたい仲間の為にがむしゃらに生きるべきなのだ。そうする生き方こそが、セイジ・フォン・レアーヌの道なのだ。
「ありがとう。レアン。気持ちを切り替えられそうだ。」
「あっそう。なら良かったんじゃない。」
「もー。ご主人様ってばまた面倒くさい態度とって!」
聞き耳を立てていたホーリーがレアンをつつく。主人であるはずのレアンだったが、おちょくられて声を荒げる。
「別に面倒くさくないだろ!」
「いーや。面倒くさいですにゃ。だって、こういう時は頑張ってね♡とかにゃんとか言って送り出すところですにゃ!」
「い、言うわけないだろ。気色悪い!」
2人のやり取りを見て、改めてセイジは心する。もう、決して迷わないように。
***
「よし。それじゃあ行くよ。」
クロは杖を構える。彼の髪が暗い夜空と溶け込み、風とともに流れた。
「『サウンドゼム』!」
詠唱の瞬間、前方の地面が音を立てて崩れる。そして待ってましたとばかりにセイジは斧についたダイヤルを回す。
「『リキッド・フラー』!!」
崩れた土塊や岩が浮上する。セイジの限定魔法『リキッド・フラー』は範囲内の対象を浮遊させられるものなのだ。浮き上がった岩石らを足場にセイジらは空への一歩とする。
「よし。みんにゃ登りましたね!」
ホーリーはセイジ達が浮遊する岩へ登ったのを見ると懐から鞭を取り出す。それは植物で出来た伸縮自在の彼女の武器。
「『散華陣』!!」
そう唱え、浮き上がる足場へ鞭を絡める。四方に張り巡らされた植物は陣形をとっていた。そして、絡めた内のひとつを手元に引き寄せ振り回す。遠心力を利用して反動で上へと飛ばすのだ。
「セイジさん!!」
「あぁ。『リキッド・フラー』!!」
ホーリーの合図と共に再び浮遊魔法を使用する。上へ飛ばした岩が更に上へと自然に浮上。緩やかな動きに合わせ、セイジ達は足場から足場へと更に移動していく。
空への道は順調だった。セイジの不安など消し飛ばすように問題などなかった。
「セイジ。ゴブのこと、やっぱり後悔してる…?」
クロは移動中、セイジへそう問いかける。
2人は依頼を受け、ゴブリンのゴブと共闘した。だが、ゴブが魔物であるがゆえに彼に辛い決断、即ち人間との別れを強いてしまったのだ。それは彼自身の選択で、セイジとクロが口出しできるものでは無い。しかし、やはり他の方法、例えば共生の道があったのではないかと思えてならなかったのだ。
もし、自分が兄のようであれば。名案でも浮かんだはずだというのに。先までのセイジはそう考えていた。
「……………あぁ。だが、ゴブはゴブの選択をした。………信じる道を行ったんだ。だから、俺もそうしようと思う。」
「………そっか。そうだね。……僕も、僕の信じる道を行くよ。そのために、まずは魔術師を止めなきゃ。」
「だな。」
2人は頷き決意を新たにする。目標のドラゴンはすぐそこだ。




