「空への道」
汽車から出て家へ戻る途中。セイジとクロは街の異様な様子に気付いた。
「街中に…魔物が…!」
セイジの言葉通り、レンガ造りの街並みの中にはそれに見合わぬ魔物が跋扈していた。それに対処すべく、警察隊の人間やギルドの人間が武器を振るっている。
2人は顔を見合わせ、状況に混乱する。生命の魔術師は一度倒したというのに、どうして魔物が暴れているのか。そんな思案の最中、2人を呼ぶ声があった。
「セイジ!クロ!戻ったんですね!」
それは2人のパーティメンバー、ハクエのものだ。隣には大きな刀を持つケイヤもいた。セイジは無事な2人の姿を見て安堵した後、何があったのか問いただす。
「一体焼きの街に何があったんだ…?」
ケイヤはその問いにただ上を差し、言う。
「アレだ。あのドラゴンが現れてから、ここら一帯の魔物が暴れ出したんだ。1回は収まったっつぅのに…。」
彼の指す頭上を見ると藍色の空の下、暗い影が落ちているのが分かった。それはケイヤの言うとおり羽の生えたドラゴンである。しかし、肉らしい肉はなく骨でできた体だった。
セイジはドラゴンをこの目で見たことはない。そのうえ、魔物の知識が豊富というわけでもない。なので、己の持ってる知識でどうにか予想を立てる。
「あのドラゴンが原因なのか…。だが、魔物を暴走させるドラゴンなんているのか…。」
ハクエはセイジの問いに対して緩やかに首を振る。
「いえ。そんなドラゴン聞いたことがありません。原因はドラゴンというより…そのドラゴンを操る人間、でしょう。」
「その人間を見たのか。」
「……………はい。3人の姿がドラゴンの体の上に。ひとりは幸福の魔術師。もうひとりは幼い少女。そしてフードを被った男。」
「!!」
セイジとクロは驚く。ハクエの言う幼い少女とフードの男は彼ら2人が先の依頼で出会ったからだ。クロは咄嗟に声を発する。
「小さい女の子は、多分生命の魔術師だよ。僕たち、戦ったんだ。……フードの男の正体は分からないけど…。多分、魔術師だね。」
「だな。正体は分かったが…。どうしたものか…。」
指を唇の前に持ってきて、頭を捻る。だが、彼の頭では碌な案も出ない。何か名案があるかと仲間へ視線を配る。
そして瞳があったのはケイヤだった。彼は真剣に、だが挑発的に言う。
「飛んでくしかねぇな。」
「飛ぶ…!?だが、そんなこと…。」
「出来んだろ。オメェの魔法で、な。」
ケイヤに肩を叩かれる。そうして思い出す。セイジの使える魔法『リキッド・フラー』を。あれは範囲内の対象を浮遊させられるもの。しかし、範囲は限られており、とてもじゃないが遥か上空のドラゴンまでは届きそうも無かった。
それに加えて、『リキッド・フラー』は限定魔法。他の魔法よりもエネルギーの消費量が多いのだ。すぐに周囲のエネルギーが尽き、運悪ければそのまま空中落下、なんてこともあり得る。
「………俺の力だけでは無理だ。『リキッド・フラー』はあれ程高くまでは飛べない。それに、エネルギーも足りなくなるだろう…。」
もし、兄であれば。そんなことが再び頭によぎる。だが、セイジの悔しさを断ち切るように後方から声がした。
「高さとエネルギーね。なら、僕たちで何とかなるでしょ。」
「ご主人様の言うとおりですにゃ!みーたちにお任せですにゃ!」
「!レアン!ホーリー!?何故ここに…!?」
やって来たのは金髪の少年レアン・フォン・ディランドと猫耳をつけた少女ホーリー。驚くセイジにレアンは鼻を鳴らす。
「まっ。散歩だよ散歩。夜風に当たりたかったからね。」
「ご主人様、セイジさん達の住む街の異変に気付いて心配で来たんですにゃ。」
「ホーリー!無駄なことは言わなくていいよ!僕がなんだってこいつらの心配を…。」
「女々しいご主人様は置いといて、ドラゴンまでの行き方を話し合いましょうにゃ!」
「おい!!」
ホーリーが手を叩き話を戻す。それまで清聴していたハクエが咳払いをしながら整理する。
「手助け感謝します。それで、おふたりはどのようにして協力して下さるつもりですか?」
「まずドラゴンのいる高さまで行くのはみーの蔓とセイジさんの魔法でにゃんとかします!セイジさんが魔法で小石とか岩を浮かせてみーがそれを蔓で上に押し上げたりして移動させますにゃ。それを繰り返してドラゴンまで行きますにゃ!」
彼女の提案を聞いたハクエはそれに乗ることにした。というか、それぐらいしか行く術が思い浮かばない。街、しいては他の領土でも混乱が起きているのなら国も動くはずだが如何せん初動が遅い。時間帯が夜というのも相まって、対応はさらに後となってしまうだろう。
「で、エネルギーは僕がなんとかする。ディランド領には『旅乗り』があるからね。そこで集めたエネルギーをここに引っ張ってくるさ。」
『旅乗り』というのはテーマパークのような施設だ。だが、他とは違い魔法の制限がされている。つまり、『旅乗り』では制限した分の魔法に使うはずのエネルギーが貯蓄されているのだ。レアンはそれをセイジの魔法に使おうとしていた。
「へっ。それじゃあ、善は急げだ。さっさとあのドラゴンのとこ行くぞ!」
「あ、あぁ。」
ケイヤの啖呵に乗せられてセイジは頷く。だが、心のうちは未だ不安が渦巻いていた。




